【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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48.エールちゃんは誘われる

 高台下での戦闘に決着がついた後。敗走したヘルマン軍に対して解放軍は追撃を行ったのだが……そこに立ちふさがったのは、第三軍を率いる名将トーマ・リプトンだったそうだ。

『人類最強』なる二つ名を持つ彼は、その名にふさわしい豪勇を振るって解放軍の追撃を食い止め、ヘルマン軍は整然と撤退していったとか。

 この戦闘の結果をまとめると、解放軍の大勝ではあるが、トドメはさせなかった、という感じになるだろうか。

 

 そしてその一方であたしは。

「あうう~~~~~~~~~……頭痛い……だるい……おもに全身が痛い……」

 魔力不足からくる頭痛と全身の筋肉痛と疲労のトリプルパンチで寝込んでいた。

 戦闘が落ち着いた、ということで各所に張られた天幕のうち一つを借してもらって横になりうんうんうなっている。

「ははは、まぁ昨日はハードだったからな。しかも本格的な戦場は初めてだろ?」とミリさん。

「……初めてじゃないです~……」

「ああ、レッド前の会戦か。ありゃーまともな戦場じゃねぇよ。まぁ、こんな大会戦は俺も初めてだったけどさ」

「う~……」

「ほら、二人ともおとなしく寝ていてください……」セルさんが水を持ってきてくれた。

 

 あたしは当初は別の天幕で寝ていたのだが、赤軍の兵士がひっきりなしにお見舞いに来るわ、ザラックとかいう例の兵士が看病にかこつけて触ってくるわで落ち着かなかった。

 実力で黙らせるか……? けどこいつそこそこ強いし今の体調だとちょっと……お兄ちゃんを呼ぶか……? でも今お楽しみをおっぱじめてる最中だし来てくれないかな……

 などと困っていたところをミリさんとセルさんがこちらの傭兵隊の天幕に誘ってくれたのだ。

 ミリさんは負傷したものの、もう治療済みで特に何ともないのだが、大事を取って寝ているそうだ。たしかに鎧の胸元にちょっと血がついてるな。

 なんかセルさんが心配そうにしてるのは気になるけど……まぁいいか。ミリさんの顔色を見ても、ちょっと疲れてるくらいで大丈夫そうに見えるしね。

「ありがとうございます、こっちに来させてくれて…… 今の体調だと兵士をあしらうのもしんどくて……」

「わかりますよ。治癒魔法の使い手で女性だと……その、情熱的になる方もいらっしゃいますし」

「感謝されてるのはわかるんですけどねー……中にはしつこいのもいて……」

「ま、エールもそろそろそういうののあしらい方を覚えないといけない年だな。どうだ? 俺がちょっと今晩あたり手取り足取り腰取り指導してやろうか?」

「あー……遠慮しておきます……」「ミリさん?」「冗談だって冗談!」

 天幕の中で頭痛をこらえながら談笑していると、遠くからバカ笑いとどかどかした足音が聞こえてきた。

「がはははははは! 戦勝の英雄様が来てやったぞ!」

 思った通りにシィルさんとかなみさんを引き連れたお兄ちゃんだ。

「あ、お兄ちゃん。来てくれたの? あたしちょっと疲れちゃったみたいで……」

「ふん、ひ弱な奴め」「エールちゃん、お見舞いの品です。どうぞ」シィルさんがバナナをくれた。

「で、ミリ。セルさんに変なことせんかっただろうな」

「別に~? 普通に仲良くなっただけだぜ?」

「お前の普通はあてにならんのだ!」

「ただ軽くスキンシップをしただけだっての。軽ーくな」

「俺様もまだ手を出しとらんのだぞ!」

「う~……頭がガンガンする~……」

 二人してギャーギャー騒ぐのに耐えきれず、あたしは毛布をかぶった。

 セルさんに雷を落とされて二人が天幕から追い出されるまで騒ぎは続いたのだった。

 

 しばらく休息した後、ジオに向けて進軍するということで解放軍は天幕を畳んで出発した。

 バナナを食べて多少頭痛がましになったあたしもひーこら言いながら行軍について行く。

 出発したのが遅かったこともあり、ホッホ峡を抜けて平原に入ったあたりで野営になった。

 あたしは食事を済ませた後、戦闘で汚れたレディチャレンジャーを洗濯に出して神官服でうろつくことにした。頭痛もおさまったし、そろそろ健康と美容のために運動しとかないとねー。などと思っていると。

「……エカルちゃん、ちょっといいかな?」急に出てきたアリオスさんに声をかけられた。

「あれ、アリオスさん。どうしたんですか?」何やら深刻な顔をしている。どうかしたかな? 

「……実は、用ができてね。この軍を抜けさせてもらうことになった」

「……え? ええー!?」そんないきなり? 

「せめて理由を聞かせてもらえないですか?」

 あたしの問いに対して、アリオスさんは少し逡巡した後、口を開いた。

「……実はねエカルちゃん。俺は……勇者なんだ」

 ………………えーっと。マジか。マジかー……

「……一応聞きますけど。それは比喩的な意味での『勇者』とか、自称とか称号とかの勇者、ではなく……?」

「ああ、何度か伝説に出てくる『勇者』、それの当代が俺なんだ」

「えーっとあの……それ、誰かに言われたんですか?」この人詐欺とかにあってないだろうな……ちょっと確認しとこう。

「ああ、勇者っていうのは従者っていう特別な存在に選ばれてなるものなんだよ。俺は13歳の時に従者のコーラに出会って……勇者になった。それからもう5年近くになるかな……」

 結構長いな……詐欺だとしてもかなり本気……っていうかマジなのではこれ……? 

 あの伝説の勇者が目の前に……? 実感がないな……

「勇者ならもっと強いのでは……? ヘルマン軍を一刀で真っ二つとかできないんですか?」

「いや、そこまでのことはできないよ。それにちょっと勇者の剣をまだ手に入れてなくて……」

「う~ん……わかりました。とりあえずそれは置いときましょう。それで、軍を抜ける理由というのは……?」

「実は、さっき話した従者のコーラがさらわれたらしいんだよ。勇者の剣の情報を探すってことで別行動していたんだけど。さっき助けてほしいと魔法で連絡があったんだ」

 うーん……それは……仕方がないなぁ。まぁ勇者かどうかは別にしても、近しい人がさらわれたのならそっちを優先するだろう。

「……わかりました。残念ですけど……ミリさんにはあたしの方から言っときましょうか?」

「うん、それもお願いしたいんだけど、もう一つ」

 アリオスさんは言葉をいったん切る。

「よかったら、なんだけども……エカルちゃん。できれば……俺の旅についてきてくれないかな?」

「ほぇ?」

 あたしは思ってもみない誘いについ間抜けな声を漏らしたのだった。




もうちょっと長くてもいいか、と思ったんですがここで切るのがよさそうなんで今日はここまでです。

エールちゃんははっきり言うとランスが身近にいるので「強い人」のハードルがめちゃめちゃ上がっており、そりゃ強いは強いけどこの程度の強さで勇者を名乗るのってどうなの?とか思っています。
最初にアリオスに会ってたら状況はだいぶ違っていたでしょう。

だいぶ前にRuiCaさんの「エールちゃんの冒険」を読んでからうちのエールちゃんをあちこち冒険させる妄想をはじめ、だんだん書きたくなってきて、とうとう投稿を始めてから1月と少し。
ランスSSの総合評価順で次に並ぶまでになって、現実感がありませんが大変うれしいです。
評価、感想、お気に入りありがとうございます。こんなペースで書き続けられるなんて思っていませんでした。皆さんのおかげです。
いけるところまでは頑張ろう、最低でも03終了まではと思ってますので、これからもよろしくお願いいたします。
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