ランスお兄ちゃんのケツを二人がかりでいたわったあと、あたしたちは買い物を済ませて司令部へ向かった。
都市長が手配した司令部の建物は、今までの村役場の会議室みたいなのよりだいぶ豪華。趣味は悪いが金がかかってそうだ。
「おい、シィル。そこの燭台は銀だろう。パクっておけ」
「司令官がそんなさもしいことするんじゃないわよ」
「そうそう、お茶菓子をタッパーで持ち帰るくらいにしようよ」
「それも十分さもしいですよ……?」
「えーこほん。いいかしら?」レイラさんが口火を切った。
あたしたちもちょっとピシッとする。
「さて、現状の説明から入らせてもらうわね……」
ジオを捨てたヘルマン軍は、ジオの北にあるリーザス領内のオクという町に向かった。
これにより、ヘルマン軍は自由都市地帯から完全に撤退したことになる。
オクはリーザス国境の町だが、流通拠点という感じの小さな古い町らしく、防衛には不向き。
しかもオクでは物資が不足しているらしい。
これに関してはなにやら都市長のおっさんが何かやったらしいが……まぁいいや。
そこで、せっかく勢いがいいのでオクのヘルマン軍もガッシボカッ! とやってしまおう。ここでお別れってのも心配だし、ノリかかったバルチック焼きそばということで自由都市軍もヘルマンを追い出すまで付き合う。解放後はリーザスの謝礼も期待できるしね。
ということになったのだが……
「というわけでマリア、戦車はどうした? 使えるのか?」
「……」マリアさんは上の空だった。
「……おい、マリア」「え、わ、な、なに? ランス?」ミリさんが小突くとマリアさんはわたわたした。
「何をぼーっとしとる。戦車はどうなんだ、戦車は」
「あ、うん……」
マリアさんによると、戦車は大きな被害を受けて自走はできるけど戦闘は難しいらしい。修理は出来なくはないが時間がかかるそうだ。
「なるほど、それでふさぎ込んどったのか。まぁ急いで修理しとけ」
「あ……う、うん……」マリアさんは何か言いたげだったが引き下がった。
あ、そうだ。あたし聞きたいことあったんだった。
「ねぇマリアさん、志津香さん知らない? ちょっと魔法について聞きたいことが……」
「そういえばここんところ見とらんな。どっかでサボっとるのか」
「……っ」マリアさんは一瞬躊躇して「……いないの」声を絞り出した。
「ホッホ峡の戦いで、敵の魔法を止めに行く、って前線に向かって……」
「何?」「え? 高台下では見かけなかったよ?」
「私もみんなと合流したものだとばかり……でもあの後姿が見えなくて……もしかしたら……」
「ふん、あいつがそう簡単に死ぬタマか。どうせその辺で迷子になっとるんだろ」
「う、うん……」マリアさんはちょっと安心したみたい。
お兄ちゃんの根拠のない自信もたまには役に立つね……
「……ったく、仕方ない。探しに行くぞ。志津香とはまだやり足らんしな」
「待って! 今はヘルマン軍を追撃しないと……」
「そんなことはいつでもできる」「できるかなぁ……」「できるのだ」
うーん、これはダメだ。テコでも動かないわ‥と思ったとき。
「じゃじゃーん! そこで私の登場だよ!」とミルちゃんが入ってきた。
ミリさんの妹のミルちゃんは、カスタムの復興もだいぶ進んでお店も暇なのでここまで追いかけてきたらしい。
ミルちゃんが志津香さんの捜索を請け負う、ということでお兄ちゃんも納得してミリさんも許可した。
「よし、何人か手伝いもつけてやる」
「ありがとー。お礼は体がいい?」ちらっとスカートをめくるミルちゃんの頭をぽかりとはたくお兄ちゃん。
「ガキが戯けたことぬかすな! よし、俺様達は明朝、オクに進軍する! 準備にかかれ!」
「「おー!」」そういうことになった。
ジオの街の門から出て、解放軍はオクを目指して進んでいく。
「がはははは、進め進めー!」お兄ちゃんはゆっくり進むうし車の上で仁王立ちしてやたら上機嫌だった。
「何かあったのお兄ちゃん? やたらご機嫌じゃない」
「む? ああ、ゲスの都市長にクンロク入れて天満橋ありすちゃんを助けてやったのだ」
「へぇー……」ありすちゃんと見送りに来た都市長のおっさんの顔がボコボコだったのはそのせいか。
ありすちゃん、ニコニコしてお兄ちゃんに抱き着いたりしてたけど、半分くらい商売抜きだったのかな?
「おう、あといろいろ物資を分捕ってきた。マリアの欲しがってたなんとか鉱石もあったから……シィル、あとで渡しとけ」「はい、ランス様」
お兄ちゃん、半分以上はやりたかったからだろうけど。こうやっていろんな女の子を助けてきたのかもね。
考えつつ進んでいると、ミリさんがこっちにやってきた。
「……かしーなぁ……」あたりを見回しながらぶつぶつつぶやいている。
「どうしたんです?」「ああ、エール。実はうちの部隊の奴が一人見当たらないんだよ……ったく。真面目そうなやつだし、逃げるとかはないと思うが」
「あー。もしかしてアリオスさんですか?」あ、ミリさんに伝えるの忘れてた。
「そうだけど……なんだ、知り合いなのかエール?」
「はい、ちょっといろいろあって。アリオスさん、お友達が攫われたから助けに行くとか言ってました」
「へぇ、そういう事情があったのか……ま、そういう事なら仕方がないな……とはいえ一言くらい言ってけよな……」「あはは……」ミリさんは去っていった。
「……おいエール。そのアリオスってのは誰だ。男か?」お兄ちゃんが微妙な表情で聞いてきた。
「うん。わりかしイケメンで強い男の人だよ。……あ」やばい。
言ってから気づいた。許さーん! とか言い出すかも……
恐る恐るお兄ちゃんの顔を見ると、何やら複雑な顔をしていた。
「あの、どうしたんですランス様?」シィルさんが尋ねる。
「いや、俺様が手を出せない女に近寄るなど許せん! ぶっ殺す! と思ったんだがな……」
お兄ちゃんがあたしの顔をじろじろ見る。
「こんな手の付けられないじゃじゃ馬、嫁の貰い手があるのかと心配になってきてな……」は?
「はぁ────────ー!? こんな世紀の超天才美少女神官戦士捕まえてなーにを言ってんの! 失礼な!」
「だってお前……家事もできんし、やかましいし、歯もギザギザじゃないか」
「歯がギザギザなのはお互い様でしょ!? それに料理は始めたばっかだけど結構うまくいってるもん!」
「うーむ……エール。ここは兄としてはっきり言うがな……」お兄ちゃんがあたしの両肩をつかんで真剣な顔をした。
「えっ何?」
お兄ちゃんは息を吸い込み、言った。
「お前の料理は……とてつもなく、まずいぞ」「えっ……えーっ!?」
「正確にはまずいとかそういう問題ではなく……こう、刻が……見える……感じ……?」
「そ、そんな……嘘ですよねシィルさん!」あたしはお兄ちゃんの外付け良心のシィルさんを見た。
「……えっと、あの……その……すみません……」目をそらされた。あまりの事実にあたしは膝をついた。
「……アリオスさんはおいしいおいしいって言って全部食べてくれたのに……」
「え?」「は?」二人が絶句した。
「おい……そのアリオスってやつは、お前のあのへんでろぱを完食したのか?」
「う、うん……何回か食べてもらったけど鍋一杯全部食べてくれたの」
「う────────────────む……むむむむむ……」お兄ちゃんが長くうなっている。
「……ラ、ランス様……そんな人はめったに……」
「むむむ……確かにそんな悪食は……しかし……いや……うーん……よし。とりあえず今度会ったら連れてこい」結論が出たらしい。
「えー……乱暴なことしないでよ?」
「むかつくやつだったら殺す。とはいえお前の料理を食えるような奴は貴重だからな……ま、その時どうするか決めてやろう。がはははは!」
「連れて来たくないなぁ……」ていうか殺せるのかな……アリオスさん強いし……っていうか勇者だし……
うし車はいろいろなことにかまわず進んでいき、そろそろオクが見えてきたのだった。