【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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55.エールちゃんは居眠りをする

「さて。今回は迷惑をかけたね。これだけ借りを作っといて兵は出せない、なんて言えやしない。ジオと同じく、デンも力を貸させてもらうよ」

 にこにこ笑いながら話すのはデンの元締め、大娼婦ヘクトミリバール・千津さん。外見はただの女学生にしか見えないが、年齢不祥な上にお兄ちゃんもかなわない性豪だ。

「ぐ……ぐぐ……ミリ以上の変態がこんなところにいたとは……」

 先ほど個人的に礼を寄越せと詰めよったお兄ちゃんに対して、千津さんはじゃあスペシャルプレイで相手してあげるよと奥の部屋に案内して……

 そこでは相当の相当なことがあったらしく、シィルさんに腰をさすってもらってヒーリングをかけさせている。

 お兄ちゃんが腰砕けになってるのなんて初めて見たが、やがてどっこいしょと立ち上がった。

「はぁ。まあいい、兵を出させたなら用はない。とっととオクに戻るか」

「あれ? もういくのかい? 今日くらい、あんたら全員ロハで遊んでいっても構わないよ? そっちのお嬢ちゃんたちもね」

「わ、私はいいです……」

「私もいいかな……」

「不潔です!」

 皆が口々に断るが、あたしは一歩進み出た。

「あの、男の人同士で絡んでもらって、あたしはそれを見てるだけみたいなのってできます?」

「あーいいよ。うちはそっち系の男娼もそろえて……」

「がー! 要らんと言っとるだろ! 仕舞いにゃここに置いてくぞバカ妹!」「ぐぇーっ!」

 お兄ちゃんに襟首捕まれて持ち上げられた。

「あー。うちは人材買取りもやってるよ。そのお嬢ちゃんを売っていくかい?」

「がはははは、そうだな、売ってしまうか。いくらだ?」

 からから笑う千津さんにお兄ちゃんが悪ノリをしだした! 

「そうさな、これくらいで……」「1000G? 流石にもうちょっと……」

「うわーっあたしの値段が勝手に決められてる! せめてもっと高く売ってー!」

「ランスさん!?」セルさんがガチでピキっている。

「がはははは……ふん、冗談だ」「わぷ」

 手を離されてあたしは床に落っこちた。

「ランス様……流石に……」「言っていい冗談と悪い冗談があるわ」

「そーだよそーだよ! お兄ちゃんなんか自分を売ってガメオベアしちゃえばいいんだ」

「えーいやかましい! とっとと帰るぞ!」

「あ、その前にトイレ借りていいですか?」

「通常用のはそこをでて左。右のはプレイ用だから使わないように」

「はーい」

 プレイ用のトイレとはなんだろうと思ったがあたしは考えるのをやめた。タグとか面倒だからね。

「ところでさっき男娼もと言っていたが男も……?」

「ああ、買取りしてる……」

 お兄ちゃんと千津さんがなにやらひそひそ話していたが、あたしは気にせずお花を摘みに行った。

 

 トイレを借りてからみんなと合流してモンスーンの館をあとにして、兵を引き連れジオに向かう。

 そういえばモンスーンの館の中でバーニングさんが突っ立っていたけど、あの人も遊びに来たのかな? 

 ストイックに見えて以外と遊んでるのかもしれない。

 なんかやたらひきつった顔でこっちを見ていたような気もするけど……まあいいか。

 

 ジオで都市長のおっさんが用意していた義勇兵と合流し、そのままオクに向かった。

「おお! ランス殿! この短期間でこれほどの兵士を……」

「がはははは、俺様にとってはるろんたを捻るようなもんだ」

 感服ジジイが感服している。兵士の世話についてはリーザスの皆さんに任せて休もうか……と思ったところで。

「ランスー!」ミルちゃんが走ってきた。後ろには緑のローブと帽子。志津香さんだ! 

「志津香──ー!」マリアさんが走りよっていき抱きついた。

「もう……大袈裟よ……」

「ったく、生きとったか。香典もらい損ねた」

「なんであんたが喪主なのよ」

「どこをほっつき歩いとったんだ。ヘルマン兵に取っ捕まって三日三晩回されでもしとったのか」

「下衆。そんなわけないでしょ。……はぁ……これから攻めるんでしょ。準備するから」

 志津香さんは行ってしまった。

 うーん……魔法について聞きたかったんだけどな。そういう感じじゃなさそうだ。

 ミルちゃんはお兄ちゃんとギャーギャー騒いでいる。

「よくやったな、褒美に飴ちゃんをやろう」

「ぶーぶー! もっと大人なご褒美がいい!」

「大人ねぇ……はい。じゃあこれ」あたしはミルちゃんに鹿せんべいを差し出した。

「そういう方向じゃなーい!」

 あたしたちはミルちゃんをなだめてから司令部に向かったのだった。

 

 司令部の建物がぼろいので大半の兵士はテントで野営しているが、さすがに司令官のお兄ちゃんは宿が手配されていた。

 まぁ普通の宿ではあるけど文句はないよね。シャワーを浴びてから外を散歩していると、テントの前で火を焚いているアテンさんとツアーガイドさんをみかけた。

「キャンプだキャンプだー! 楽しいねぇ!」

「これは野営よ! 楽しかないわよ!」

「あれ? アテンさんとガイドさん? なんでこんなところにいるんですか?」

「あんたは……ああ。解放軍のリーダーの妹とかいう……」

「えーっと……お名前なんだっけ?」「エールです」

 

 アテンさんに話を聞くと、なんかお兄ちゃんの勢いとガイドさんの変なノリでなんでか解放軍に組み込まれてしまったそうだ。

 観光に来たはずなのに……大変だなぁ。ガイドさんは「リーザス奪還ツアーだよ!」などと旗を振っている。

 ……その旗、めちゃめちゃホワイトで修正された跡があるけど何回ツアー内容変更したのかな……

「ああめんどくさい……なんでこんなことに……デンで変な触手に触られてそのままだし……せめてシャワーくらい浴びたい……」

 アテンさんは本格的にブツブツ言いだした。だいぶストレスたまってそうだな……そうだ。

「あ、じゃあうちの宿来ます?」「いいの?」

「女の子ならお兄ちゃんも悪くは言わないと思います。部屋もたぶんあるんじゃないかな?」

「はぁ。ありがとう。助かるわ……」アテンさんはお礼を言って荷物をまとめ始めた。

「えーキャンプー……」「カレーもないのにキャンプも何もないでしょ! さっさと行くわよ!」「はーい……」

 渋るガイドさんを引っ張って宿に向かった。

 

 シャワーを浴びた後、適当な部屋に案内してから魔法の使い方についてアテンさんに聞いてみた。

「……めんどくさいけど、まぁいいわ。アンタ、これまでに魔法について学んだことはまるでないわけね?」「はい……」

「まず魔法とは、術者の体内で生成される肉体や精神のエネルギー、いわゆる魔力を特殊な術法で変換して、様々な効果を発生させる技術の事を指すの。基本的に、神や精霊などの力を借りる類のものもあるけど、それぞれ神魔法や召喚魔法とか呼ばれて別に分類されているわ……聞いてる?」

 

「あ、はい……」急にすごい勢いでしゃべりだしたな……なんとかついて行けているが。ガイドさんは寝た。

「続けるわ。攻撃魔法、幻覚魔法、補助魔法、情報魔法……いろいろあるけど。まずはここでは基本の攻撃魔法について話すわね。

 攻撃魔法はいろいろあるけど、基本的には体の中で魔力を炎・氷・雷・光・闇の五系統のうちのどれかの属性に変換し、それを収束させたり増幅させたりしてから敵にぶつけるものなの。

 相手の精神に作用してダメージを与えるものだから、狙って放たれたなら回避はできない。ただ、食らった方も精神力でダメージを軽減することはできるわ」

 

「……うう……」だんだん早口になってくる……いい感じのリズムで瞼が重い……

「……で、攻撃魔法の中でも最も単純な矢系統の呪文だけど、これは魔力を収束させたりせず直接ぶつける魔法、と考えていい。魔力の属性変換が問題なく行われて、あと発射台になる杖があれば特に修練しなくても使えるわ。

 魔力の属性変換というのは個人ごとに火は得意だけどほかはダメとか、各属性で向き不向きがあるの。これがほぼそのまま各属性魔法の才能になるわね。

 あの不良品の雷の杖は属性変換の増幅回路がポンコツで、もともと魔力を雷属性に変換できる人以外はちっちゃい雷の矢しか打てなくなっていたのよ。

 それであれだけの矢が出るんだから、アンタの雷への属性変換力、つまり雷魔法の才能はかなり高いと推測されるわ。で、今後の勉強の仕方だけど……」

 

 そのへんであたしの意識は途切れてしまった。

 翌朝目を覚ますと、あたしはガイドさんと絡まり合いながら毛布にくるまっていて、額にメモが張り付いていたので見てみると、

『もう講義はしないから。この辺の本で勝手に勉強しなさい』という一文と、いくつかの本のタイトルが書かれていた。

 うーむ、悪いことしちゃったなぁ。でもいい人だ……

 

 いよいよノースに侵攻だ。

 バレスさんリックさんレイラさんが率いる5000ほどが大部隊のいるサウスの攻略に向かい、こっちは1000くらいでノースに向かっている。

 ノースのヘルマン兵は少数で、なぜか市壁にこもらずに門の前で固まっている。こちらとしては楽でいい。

 解放軍はヘルマンを包囲するように左右に広がって布陣した。

「よーし! お前ら! 準備はいいな!」

 ずらっと並んだ解放軍の兵士たち。お兄ちゃんの号令で士気も上がっている。

 あたしも特に何もないけど調子はいい。剣を握る手にも力が入る。

「敵は少数! カースAも倒した俺様の敵ではない! 突撃だ!」

「「「うおおおおー「「「「オオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」」」」

「うわっ!?」「きゃっ!?」

 解放軍が鬨の声を上げようとした瞬間、それを押し返すような雄叫びがヘルマン軍から響いた。

 そして、なんとヘルマンの部隊が勢いよくこちらに突撃してきた! 

「うわっ! ランス! 連中まっすぐここに向けて突っ込んでくるぜ!」

「なんだと!? えーい! あんな少数囲んですり潰せ!」

「なんだか負けそうなダメ武将みたいなこと言ってない?」

「やかましいわ! 俺様達も行くぞ!」お兄ちゃんは剣を抜き、前線に向けて走り出し、あたしたちもそれに続いたのだった。




というわけで次トーマ戦です。
前の騎士を倒さずにチクチク斧メランや砲撃手裏剣で削ってやるぜ!というわけにはいかないのでどうするか
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