【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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57.エールちゃんは見届ける

「があああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 目の前の状況を言葉で説明するのは簡単だ。二人の戦士が向かい合って戦っているだけ。

 しかし、その内容はというと。

 

 振り下ろされた巨大鉄球をわずかに弾き信じられない反射速度でかいくぐって胴を切り払うが少しだけ角度を変えた鎧で受け流されカウンターの膝が突き出されそれを蹴り飛ばして追撃で振るわれた鉄球をかわし再び襲い掛かり拳の迎撃を身を捻ってかわして肩口を切り裂くが横薙ぎに襲ってきた鉄球を避け切れず右の肩当てがひしゃげて飛び、一度離れた。

 

 先ほどの5秒弱の切り結びで起きたことを並べると以上になる。

 お兄ちゃんは直撃こそ回避しているがカス当たりや余波でどんどん傷ついている、対してトーマはまるで効いていないんじゃないか? 

「い、いたいのいたいのとんでけー!」シィルさんのヒーリングで力なく垂れていたお兄ちゃんの右肩が元に戻った。

 あ、いけない。思わず見入ってしまったが、あたしも戦わないと。でも、あれに? 混じる? 無理だ。おそらく2秒も持たない。

「が──ー!」「おおおおおお!」

 お兄ちゃんが再び突っ込み、トーマが応えてハンマーを振りかぶる! 

「ファイヤーレーザー!」志津香さんの魔法がトーマに直撃した。

「何やってるのアンタたち! アイツがやられたら全員死ぬ! 魔法が使える人は攻撃して! ヒーリングも!」

 志津香さんの声ではっとして、あたしも杖を構える。

「デビルビーム!」「雷の矢!」「炎の矢!」

 どがんどがんとトーマに魔法が叩き込まれるが小揺るぎもしない。

「その程度か魔法使いども! ハンティの雷の百分の一にも及ばぬわ!」

 言いながらこっちに突っ込んでくる! 

「俺様の女どもに手を出すんじゃね──────ー!」横合いからお兄ちゃんが突っ込んで再び渡り合う! 

「だったら百回撃つまでよ……! こいつは魔人じゃない! 人間ならいつかは必ず倒せる! ファイヤーレーザー!」

「いたいのいたいのとんでけー!」

 あたしたちは呪文の援護を再開した。

「しょ、将軍を守れー! 魔法使いを排除するんだ!」

 あたしたちと同じように見入っていた騎士たちが動きだした。

「志津香たちに近寄らせるなー!」ミリさんがスーちゃんと解放軍兵士を率いて応戦する! 

 

「があっ!」「ぐっ!」お兄ちゃんが弾かれて間合いを取られた! トーマの視線がぎろりと志津香さんの方を向く! 

「まずは貴様だ!」トーマが鎧の重さを感じさせぬ速度で突っ込んできた! 

「……白色……破壊光線!」真正面から志津香さんは強力な魔法をぶちかます! 

 しかし「がっ……ぐ……ぐおおおおおおお!」体のあちこちから煙を出しながらもトーマの突撃は止まらない! 

「志津香さん!」あたしはとっさに割って入ろうとしたが、志津香さんがあたしを目で制した。

「死ねぇ!」振り下ろされる鉄球を、志津香さんはまともに受け……る直前。

「帰り木!」

 手に持っていた帰り木をへし折り、志津香さんの姿は一瞬で掻き消えた。

 むなしく鉄球は地面を砕く! 「何ぃ!?」

「そこよ! チューリップ隊! 一斉発射!」「弓もだ! とにかく撃ちまくれ!」

 動きが止まったトーマに、あらかじめ志津香さんのいた場所に狙いを定めていたマリアさんたち砲兵隊と傭兵隊が攻撃を集中した! 

「炎の矢!」「ダイアンコク!」「雷の矢ー!」あたしたちも必死で魔法を打ち込む! 

「ぐ……はぁ……ふははははははは! まだまだぁ!」

 トーマの動きもさすがに鈍ってきたか……? でもまだまだ動きそうだ! 再び鉄球を構えて突撃の構えを見せたところに、お兄ちゃんが襲い掛かった! 

「だああああああああああ!」「があああああああああああああ!」

 唸りをあげて振り回された鉄球が、受けたお兄ちゃんの剣をへし折った。

 が、本人は紙一重で鉄球をかいくぐった! 迎撃の膝が飛んでくるが折れた剣を足に突き刺す! 

「ぐっ……」かすかに揺らいだトーマ。

 その隙を逃さず、突き刺した剣の柄を足場に飛び上がったお兄ちゃんは腰の後ろから剣を抜いた! よく見たら折れたのはいつもの剣じゃない! いつの間にか剣を拾っていた!? 

「く、た、ば、れぇえええええええええええええ!」「がああああああああああ!」

 剣と拳が交錯する。

 無理やり身をよじって拳を躱し、突き出されたお兄ちゃんの剣が、これまでの戦いでヒビの入っていた分厚い鎧を貫き、トーマの左胸に突き刺さっていた。

 

「……」「……」「……」「……」その場にいるもの皆が、声を出せずにいた。

「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」「ぐ……ふ……ふはは……見事……」二人の息遣いと声だけがやたら大きく聞こえる。トーマの手から鉄球が落ち……その手がお兄ちゃんの首を掴んだ! 

「がっ……ぐ……おぇっ……」「があああああああああ!」口から血を垂らしながらも締め上げるトーマ! 

「……が……いい加減……死ね!」「ご……はっ……」

 剣がひねられ、トーマの口から血が噴き出す。

 トーマの厳めしい顔に、わずかに笑みが浮かんだ。

 その手から力が抜け、お兄ちゃんがふらふらと後ずさり……

 ドォン……と音と地響きを立てて、トーマ・リプトンは地に崩れ落ちた。

「ぜぇ……ぜぇ……はぁ…… 俺様の! 勝ちだ! 鉄球親父!」

「ランス様……ご無事でよかった……」

 それだけ言ってお兄ちゃんはバターンと大の字になって倒れる。

 シィルさんが駆け寄ってヒーリングをかけはじめた。

 鉄球がかすめていたのか、こめかみの辺りから少し血が垂れている。

「お……」「おお……」「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」

 戦場に解放軍兵士たちの声が響く。

「くっ……将軍……」

「今更惜しむ命か! 将軍のあの世への道程にお供するぞ!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 げっ。生き残った騎士たちが突っ込んできてる。

「お兄ちゃん! まだ騎士がくるよ!」

「が────────────! ちっとは休ませろゴミ共が──────────ー!」

 お兄ちゃんが跳ね起きて剣を構え、手近な騎士に斬りかかっていく。

 あたしも剣を抜いて乱戦に突っ込んでいった。

 

 そして、とにかくついに戦闘は終わった。日は既に傾いて黄色く……いや、これ疲れて黄色く見えてるのかな……

「ぜぇ……ぜぇ……しんどかった……」「誰も引こうとしないんだもんな……」

 あたしはミリさんと背中合わせに座り込んでへばっている。

 お兄ちゃんはまだ立っているけど辛そうだ……

 戦場には黒騎士全員の死体と、それの倍近くの解放軍兵士の死体が転がっている。

 生き残った兵士もさすがにふらふらのボロボロだ。

 

 うし車がぱかぱかと走ってきて、志津香さんが飛び降りた。帰り木でオクに戻ってたんだな……

「……終わったみたいね」

「くそー……志津香貴様楽をしおって……」

「仕方ないでしょ。作戦よ作戦」 

 あ、ちょっと得意げな顔してる。

「ああ……3号がぁ……」マリアさんが戦車の前でうなだれていた。

 戦車はあちこちがゆがんでへこみ、特に主砲がぐにゃりと派手に曲がっている。一応走りはするみたいだけど……もうこりゃダメじゃないかな……? 

 

「あーそうだ……この後ノースを占領しなきゃならんのだったな……」

「マジで……? あたしもうシャワー浴びて寝る以外何もしたくないんだけど……」

「ワガママ言うな! 俺様もセックスして寝る以外したくないが……いくぞ!」

 お兄ちゃんの号令であたしはしぶしぶと立ち上がったが、ミリさんは座ったままだ。

「……あれ? どうしたんですかミリさん? みんな行っちゃいますよ?」

「……いや、ちょっとめまいがしてね。さすがに疲れたぜ……」

 軽く頭を押さえるミリさん。

「大丈夫ですか? ヒーリングしましょうか」

「いや、いいよ……大丈夫……」「でも……あっ」踏み出した足が滑った。

「どすこい!?」「がはっ!」そしてミリさんのおなかに思い切り頭突きをかましてしまった! 

「わー!? ミリさん大丈夫ですか!?」

「い、いや、エール……平気だから離れ……げぼっ!」ミリさんはものすごい量の血を吐いた! ギャ────ー! 

「あ、あ────! いたいのいたいのとんでけー! いたいのいたいのとんでけー!」

「げほっ! げほっ! がふっ……」必死にヒーリングをかけるがミリさんの吐血は止まらない! 

 やばい! このままじゃ頭突きでミリさんを殺しちゃったってミルちゃんやお兄ちゃんに言わなきゃいけなくなる! 

 なにより頭突きで人を殺した女として生きていくのは嫌! 

(お願い治って! 健康になって! なんでもいいから! 女神ALICE様! GOD様! ウィリスさん! 誰でもいいから────────!)

「いたいのいたいのとんでけー! いたいのいたいのとんでけー! いたいのいたいの……とんでけ──────ー! ……ん?」全身全霊の気合を込めてヒーリングをかますと、なんか変な手ごたえがあった。

「げほっ! げほっげほっ……こほっ……ん? あれ?」ミリさんの吐血も止まったみたいだ。よくわからないがよかった。

「はぁー……ミリさん大丈夫ですか?」

「あ、ああ……エール……お前……」ミリさんはこちらを怪訝な顔で見ている。あたしは必死に頭を下げた。

「あの! 今あったこと(頭突きの件)! 絶対絶対内緒にしてくださいね! お願いします! ばれたら大変なことに……」

「……わかった。なんでかわからんが、誰にも言わないでおくよ。恩に着るぜ」ぽん、とミリさんの手があたしの頭を撫でた。

 よくわかんないけど黙ってくれてるみたいだ。よかったよかった。

「こら! お前ら何しとる! とっとと来い!」

 遠くでお兄ちゃんが呼んでいる。

「おっと、そろそろ行かないとな」「はい! 急ぎましょう!」

 あたしとミリさんはノースに向かって駆けだしたのだった。




トーマ戦MVPの前列ヘルマン騎士君の役目をランス君にやってもらいました。

以下、妄想です。

LV72 トーマ 所属・ヘルマン
突撃・零
全力突撃・零(累積なしAP1・2倍)
☆40時AP4500 HP5500

LV52 アリストレス 所属・ヘルマン
遠距離・零
側面射撃2
☆40時AP2500 HP3800

LV36 レリューコフ 所属・ヘルマン
作戦2
防御力
☆40時AP2200 HP3500

LV26 コンドラチェンコ 所属・ヘルマン
逃亡
作戦実施
☆40時AP2000 HP3000
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