ノースに突入したが、ヘルマン軍はいなかった。
「またかよ……もう三度目だぞ」
「よかったじゃん。もう今日は戦いたくないよ……」
無精髭の傭兵隊長、確かヴィヤンさんと言ったっけ。彼が都市内の確認と掃討はあたしらがやっときますからと言うのでお言葉に甘えて、あたしたちは宿に突入して泥のように眠った。
お兄ちゃんはシィルさんと約束通りにすごくすごいプレイをしたらしいが、寝ていたのでわかんないな。
そして翌朝。
「がははははは!」お兄ちゃんはすっかり元気に朝御飯を掻き込んでいた。
あたしらはまだ結構へばってるのに……体力あるなあ……
ミリさんも元気そうでよかった。
二個目のカレーマカロロのうどんをほどいていると、「失礼します!」宿の入り口から義勇兵が駆け込んできた。
「司令官! 町の外に軍隊が来てます!」
「なんだと? ヘルマン軍か? ったく……しつこい野郎共め!」
お兄ちゃんが剣をつかんで立ち上がる。
「いや、そうじゃないわ。来たのはリーザス青軍よ」
兵士の後ろからかなみさんが現れた。後ろにはリーザスの兵士を一人連れている。でも鎧が青いな……。
「なんだ、リーザス軍か……青軍だと?」お兄ちゃんは椅子に戻ってふんぞり返った。
「はっ、青軍はヘルマンからの防衛を主任務とするリーザス第二の軍であります!」
青兵が説明してくれたところによると、いつも通りにリーザス北部に駐屯していたらいきなり首都が落ちて、これは山脈越えての侵攻もあるに違いないと警戒していたがさっぱり来ない。
そのうち首都を制圧したヘルマン兵の一部が北上してきて、反乱も発生したので防衛戦力を残してもうひとつの北部に居た軍、白の軍と合流してそれを鎮圧した。
そしたらリーザス解放軍がオクまで来てると聞いたので合流しに来たのだという。
「ほーん。じゃあ青の将軍も来とるのか。どんなやつだ?」
「はい! コルドバ・バーン将軍と申しまして、リーザスの青い巨壁と呼ばれる名将であります!」
「……なんだ男か……」お兄ちゃんの興味が一ミリもなくなった。
「既に町の外まで来ております! 将軍は是非司令官殿にご挨拶をと……」
「要らん。俺様はもう行く。お前らはここを適当に防衛しとけと伝えろ」
「は……え?」
「ランス……あんたねぇ……」かなみさんは頭を抱えている。
「男になんぞ興味はない。俺様は会わん」ハナクソをほじりながらのたまうお兄ちゃん。流石にそれはどうかと思うなあ……あ。
「じゃあお兄ちゃん、あたしが挨拶してきていい?」リックさんの同僚ならちょっと興味があるな。強いだろうし……
「別に構わん。好きにしろ」
「はーい。ということで司令官の妹のエールです。あたしが代わりにご挨拶に行きますね」
「は、はあ……では、こちらに……」
あたしは兵士に案内されて門に向かった。
「貴女が解放軍司令官の名代殿ですか! 俺は青の将、コルドバ・バーンと申します!」
体も声もでかいおっさんが勢い良く挨拶をして来た。青く塗られた鎧を内側から筋肉が持ち上げているのがわかる。ヘルマン人みたいな体格の人だ。
「司令官ランスの妹、エールです。えーとその、兄はちょっと昨日無茶をして疲れてるみたいで……」
「うむ! ランス殿の活躍は聞き及びました! かのトーマ・リプトンを討ち果たしたとか! さぞや激戦だったのでありましょう! なら仕方ありますまい!
そしてノースの防衛ですな? もちろんこちらで引き受けますとも!」
太い眉と太い唇で太い笑みを浮かべるコルドバ将軍。
悪い人じゃなさそうだけどいちいち声がでかいなあ……
顔もそんなに好みじゃないかな。こうしてしゃべっていても隙がないし、強いっちゃ強いけど、リックさんほどでもないしね。
「ところで、エール殿。貴女は剣の心得がありそうですが、もしや昨日のトーマとランス殿の一騎討ちの場に……?」
む、それくらいはわかるか。わかっちゃうかー?
「はい、居ましたよ」意味もなく剣に手をかけてかっこつけて答える。
「なんと! では是非その時のお話を聞かせて頂けませぬか!」鼻息荒く迫られる。
「あ、はい。じゃあ軽くなら……」
「……はぁ。では、兵の配置はこちらで決めておきますので……」
応じようとしたところで、チョビヒゲ中年がため息混じりに口を挟んできた。
「おお、キンケード。すまんが頼む」
「いえいえ、ではごゆっくり……」
キンケードというらしいチョビヒゲ中年はじろりとあたしを睨んでから去っていった。めんどくさい仕事を増やしやがって、みたいな感じだったな……
「エール殿?」
「あ、はい。じゃあまずは……」
まあいいか。あたしはコルドバさんにトーマとの戦いについて話した。
「……というわけなんです」
「うむむむむむむ……なんという……俺もその場に居合わせたかった……名にしおうトーマ・リプトンの豪勇……そしてランス殿の勇気と剣技……そして志津香殿をはじめとした皆さま方の覚悟と献身……うううう……うおおおーっ!」
あたしが話し終えると、おとなしく聞いていたコルドバさんはおいおいと男泣きし始めた。
お兄ちゃんの活躍にはあちこち言いにくいところがあるので、その辺をぼかして話したらなんかすごい英雄譚みたいになってしまったな……
「おーいおいおい……ぐすっ……エール殿も……我が妻と変わらぬ年頃にも関わらず! 黒騎士と渡り合い、かのトーマ・リプトンの前に立つとは! このコルドバ、感服致しましたぞ!」
「そ、そこまで言われることでは……ん?」
え、妻? この人30は越えてるよな……あたしと変わらない年? え? えー……ロリコンなのかな……いい人そうだけど……
「この感動! 表現せずに居られようか! はあっ!」気合いと共に取り出したのは青い……ハーモニカ?
コルドバさんのでかい図体には似合わん可愛い代物だが……
「届け我が思い! えもーしょなるふらーっしゅ!」
コルドバさんはぷーぷーぱーぷーとハーモニカを一心に吹き鳴らしはじめた。
えー……この人なにやってんの……えー……でも、実際上手いなこれ……へー……わ、そんな音もでるんだ……すごー……へー……
結局あたしはその場に体育座りをして、コルドバさんのハーモニカにじっと聞き入ったのだった。
何曲かやったあと、チョビヒゲ男のキンケードがコルドバさんを呼びに来てリサイタルは中断となった。
うーんつい聞き入ってしまった……リーザスを取り戻したらどっかでコンサートとかしないかな……
去っていく二人を見送ったあと、町中に入ってお兄ちゃんたちを探すと、前の歩道にハニワのマークがある変なビルからぞろぞろと出てくるお兄ちゃんたちを見つけた。
「お兄ちゃんどうしたの? そんな変なビルに入って……」
「うーむ、何かありそうな変なビルだと思って入ったんだが、中は変な連中ばかりでな……あとは魚介類とかハニワとか……」
「ずいぶん散らかってましたね……」
「メイド服の男とかいたし……なんの仕事してるのかしら」
「エロいゲームを作ってるとか言ってたな」
なるほど、変なビルだけあって変な仕事をしている変な人たちがいっぱいなんだな。
「あと……変なものも拾ったな」
「なにこれ?」お兄ちゃんが持ってるのは緑色の板に黒い四角とか金色の線とかが一杯乗ってる変な物体だ。
「メモリというらしいが……」
「あー。なんかカンラのセティナさんが欲しがってたかも」
「ほう、そうか。今度会ったら渡してやるか。代わりにぐふふ……」
わかりやすい人だなあ……まあいいか。
「もうこの町に用はないんじゃ? 早くオクに戻りましょ。今頃サウスの町をバレス様たちが陥落させて凱旋してる頃よ」
「うむ、そうだな。では戻るか!」
あたしたち解放軍ははノースの町をコルドバさんたち青軍に任せ、オクに戻ることにした。
ところで最近バーニングさんを見ないけどどこかに行ったのかなあ……
のろのろと行軍する最中にふとその辺りを見るが、姿は見えない。
あの人がカースAの触手に切りつけたときのことを思い出す。
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『はぁ! Bスラッシュ!』ズバッ
カースAの触手には二筋の浅い傷が残った。
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二筋の傷が出来てたってことは……二回斬りつけたってことだよね?
でもあの人腕をぴったり体につけて回転斬りしていた……
腕力がまるで活きないから威力が出ないんだけども、腕を動かさずに二回斬りつけたのなら、二回転したってことだよね?
あの人どんなステップ踏んでたっけ……うーん……
歩きながら試しに回ってみたりするうちに、あたしたちはオクに到着したのだった。