オクに帰ってみたらサウスに向かった解放軍は負けていた。
「面目次第もございませぬ……」土下座みたいな勢いで頭を下げるバレスさん。
「すみませんで済むか! 腹を切れ! 腹を!」
「やめてよ……こんなとこでおじいさんの内臓なんて見たくないよ……」
「申し訳……ございません……」「うわっ」
リックさんもボロボロだ。右の肩当たりの鎧が破損して包帯が見えている。
こりゃ斧かなんかで鎖骨を叩き割られたかな。よく生きてるな……
「まぁいい。何があったんだ」「それがですな……」
バレスさんが話すところによると、山の中腹にあるサウスの街には市壁がなく、ヘルマン軍は市街戦での防御を選択したらしい。
防衛についていた騎士たちはやけに強く、戦闘域が狭いこともあり一進一退となった。
んで、リックさんは敵の大将のミネバという女武将と一騎討ちして負けた。
リックさんは私の未熟です、とは言うが敵を称賛する感じのことを言わないんで何か引っ掛けられたんだろね。
それで戦線が膠着したあたりでドカーンと爆発があって山が崩れだし、双方の兵士に大きな被害が出たところで後詰のヘルマン軍が出てきたので逃げてきた……という事のようだ。
「……はえー……」
まぁ、いくら何でもそんなことしてくるとは思わないよね。
でもバレスさんの統率、正直負けて逃げてくる時にしか役に立ってない気もするな……
「ったく、仕方のない連中だ。動ける奴をすぐにかき集めろ。リベンジに行くぞ」
「は……いや、しかし我が軍の被害は大きく……」
「黙れ。動けん奴は置いていく。そこの赤いのもな。早くせんと奴らに体勢を立て直されるだろうが」
「し、承知いたしました!」小走りで去っていくバレスさん。
「お兄ちゃん、何か考えでもあるの?」
「おー。まぁな……おーい! マリア!」
お兄ちゃんはボロボロの戦車を調べているマリアさんに声をかけたのだった。
とりあえず動ける人たち……義勇兵とリーザス軍合わせて2000ちょいといったところか。
それだけでサウスに続く山道をえっちらおっちら登っていく。
サウスは高いところにある街なので、歩いていくのも大変だ。
そして何より……後方を見れば、ぶすぶすと変な音を立てながらどうにか登ってくるチューリップ三号が見える。
「あー……またか……すいません! またお願いします!」
「うおおおーっ!」「おりゃー!」「ぜぇぜぇ……」
戦車は時折坂で引っかかっては兵士の皆さんに押されて進んでいる。
「お兄ちゃん、ほんとにあんなので役に立つの?」
「がはははは、俺様の作戦に間違いはない」
あたしも聞かされていないが、いったいどんな作戦なのやら……
町中に突入したらまた黒騎士が突撃してきた。
しかし人類最強のトーマを倒したあたしたちの敵ではない。
と言いたいところだったが普通に強いなこいつら!
「うおおおお!」「んがっ……」こっちにかかってきた騎士の剣を二刀を交差させて受け、鍔迫り合いに……と見せかけて指を一本突き出す。
「雷の矢!」「ぐっ……ぎゃっ!」
小さめの雷が直撃し、一瞬力が抜けた隙に脇の隙間から切っ先をねじ込んで肺をえぐった。
「ふん……がー!」お兄ちゃんがヘルマン騎士の剣を受け、手首を返して体勢を崩し、喉に剣を突っ込んで仕留める。
今のお兄ちゃん、その辺の騎士なら一発で切り捨てるくらいにはレベル上がってるんだけどな。
「炎の矢! 炎の矢!」
「ちっ! こいつら魔法使いだ! どうにか仕留めろ!」
炎の矢を連発していたシィルさんと一緒に目を付けられてしまい、こっちに騎士がたくさん走ってくる。
ノースにいた連中より数が多い!
「お兄ちゃん! このまま乱戦してるとまたリックさんたちみたいになるんじゃ!?」
シィルさんの方に行こうとした騎士を食い止めつつ叫ぶ。
「ふん! ああ、そろそろだな……」
お兄ちゃんが騎士を押し返しつつ答えたその時。ずずん、という音とともに山がぐらぐらと揺れ始めた。
「うわっ!? ま、またアレか?!」目の前の騎士が動揺して山を見上げる。
ごごごごごごご……
振動が足元から伝わってくる。見れば山の中腹当たりの斜面が今にも崩れそうだ!
「よし来たな! シィール!」「は、はい!」シィルさんが空に向かって炎の矢を打ち上げた。
「え? 何あれ……合図?」
少し遅れて、山の上の方でさっきよりも大きい派手な爆発が起きた。
ドガーン!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ! ドオオオオオオーッ!
そして、斜面が派手に崩れ……あたしたちとヘルマン兵の上、いや、町全体に岩や石が降り注ぎ始めた!
「ぎゃ────!」「うわーっ!」
敵味方無く降り注ぐ岩石に敵も味方も大混乱、逃げ遅れる兵士も出ている。
「お兄ちゃん何やってんの!?」
「ふん、ちとまて……アレだな。あそこの部隊を見ろ」
見れば、戦場から離れたところにいるヘルマンの一部隊が落石から大慌てで逃げまどっている。
「こんな作戦をする奴は自分は安全地帯で高みの見物を気取っているに違いない。想定外のことが起きればさぞ取り乱すだろう……
つまり一番慌てとるあそこに大将がいる! このどさくさで突っ込んでぶっ殺すぞ! がははははー!」
お兄ちゃんが岩を器用によけながら走っていく。
「全くとんでもないことさせてー! 3号、帰ったらちゃんと直してあげるからね……」
「本っ当……滅茶苦茶……」
マリアさんと志津香さんが後方から走ってきた。
どーもさっきの爆発は戦車の砲撃だったみたいだ。
何度めかわからんけど本当に信じられんことをする人だな……
あたしたちはバレスさんにこの場を頼んで、お兄ちゃんの後を追ったのだった。
「がーははははは! 見つけたぞ筋肉ババア! お前が大将だな! その見苦しい首を叩き落としてくれるわ!」
そんなに落石がない山道でお兄ちゃんに追いつくと、向こうにはどう見てもこいつがミネバだろ、という筋肉女がいた。
両手に斧持ってて全身傷だらけ。まぁ強い……な?
明らかにあたしより強いんだけど、なんかトーマを見てからこれくらいワンチャンありそうな気がしてくる。ちょっと危ないな……
「やってくれるねぇ……けど大将自らそれっぱかしの手勢で来るのは利口とは言えないね」
「ふん、ババア一人成敗するのなぞ俺一人で十分だ!」
「そいつが遺言でいいのかい? おいで坊や。可愛がってあげるよ」
「気色悪いことを抜かすんじゃない! 死ね! クソババア!」
お兄ちゃんは剣を抜いて襲い掛かった!
「さあて! いくよ!」
ミネバはいきなり地面に何かを叩きつけた! 強い光が一瞬発せられて、あたしたちの目をくらませる。
目を開けた時、ミネバは少し離れた場所にいて、こちらに背を向けて逃げ出していた。
「どりゃ────!」しかしお兄ちゃんはミネバを無視して別の騎士に斬りかかった!
「ぐっ!」その騎士は剣を抜いてお兄ちゃんの一撃を受け止め……たかと思ったら。その姿がミネバに変わった!?
「フォトショックとか言う魔法だな!? つまらん小細工をしおって!」
「チッ! 知ってたのかい! 赤い坊やみたいにはいかないみたいだねぇ!」
ミネバは両手の斧でお兄ちゃんと丁々発止とやりあい始めた。
なるほど、リックさんはアレに引っかかったのか…… お兄ちゃんはどこで知ったのかな?
「ミネバ様をお守りしろー!」おっと。ミネバの周りの兵士連中が突っ込んでくる。
「お兄ちゃんはどうしよう?」「……大丈夫じゃない? 先にこっちを片付けましょ」
志津香さんの言葉に頷いて、あたしたちはそいつらに向かい合って武器を構えた。
「えーい!」「火爆破!」「ぎゃあああ!」
逃げようとした兵士の集団が砲撃と魔法で吹っ飛ばされた。
ぶっちゃけた話、さっきの黒騎士連中よりだいぶ弱かったな……
先頭で突っ込んできたやつを斬り倒して、マリアさんと志津香さんの攻撃を食らったらさっさと逃げてしまった。
同じヘルマン軍でもいろいろあるんだなぁ……考えつつお兄ちゃんの方を見る。
「だーっ! どりゃどりゃどりゃー!」「ぐっ……くうっ!」「どりゃあ!」
お兄ちゃんが危なげなくミネバを押している。おっと、ミネバの斧が片方弾かれた。
「ちっ……なんだいこの強さは……!?」
「がははははは! ちっとは出来るがあのモヒカンジジイほどではないな!」
「なっ!? まさか……トーマを!?」
「おう! 貴様も後を追え! ランスアターック!」驚愕するミネバにすかさず必殺技をぶちこむお兄ちゃん。
「がっ……! そういう……事かい……! それは……」ミネバの斧ががっきりと剣を受け止めた。
「やかましい! とっとと死ね」お兄ちゃんの剣のオーラがさらに光を強める!
「さらにランスアタッ────ク! まだまだランスアターック! ランスアタック! ランスアタック! ランスアタックったらランスアタック! ランスランスラーンスアタタタターック!」
うわぁ……受けに手一杯なミネバにすごい勢いで必殺技をぶち込みまくっている。
「っ……く……この……」「ど────ーりゃ──────ー!」「がああああっ!?」
お兄ちゃんが剣を振りぬくと、ミネバは受けた斧ごと弾き飛ばされ……崖下に転がり落ちていった。
「うっわ、えげつな……」
「あたし、あれ死んでも食らいたくないなあ……」
「ランスアタックというより鬼畜アタックね……」あたしたちは口々に感想を述べる。
「ええいうるさいぞ女ども。勝てばいいのだ、勝てば……おっと……」お兄ちゃんがふらつく。だいぶ足に来てるなアレ……
「あ、ランス様! 大丈夫ですか!?」シィルさんが駆け寄ってヒーリングをかけ始めた。
「うむ……あ、マリア。もう崩落は止めていいぞ」
「はぁ!? 止まるわけないじゃない!?」
「なんだと!? じゃあこれどうするんだ!」
「こっちが聞きたいわよー!?」
まだ山鳴りはやまず、落石は次々とサウスの街に降り注ぐのだった。
トーマと戦ったあとだとミネバが弱く見える現象
呂布と関羽現象ですね