1.エールちゃんは孤児
あたしはエール。このシマイコム孤児院で世話になっている孤児の一人だ。
なんでも昔孤児院の前で、女の人が赤ん坊のあたしを抱いたまま行き倒れていたんだとか。
その人が母親なのかというとどうもそうではないらしいんだけど……ともかくその女性は赤子のあたしの名前だけをシスターに言い残した後手当ての甲斐無く死んでしまい、あたしはこの孤児院で育てられることになった……らしい。
そんな環境だったが、なにせ回りも似たような状況の子ばかりだ。それなりに健全な孤児院であたしはそれなりにすくすくと成長した。
小さいときから本を読むのは嫌いじゃなかったが、あたしはそれよりも木の枝を振り回すチャンバラが好きで、そのうち年上の男の子も苦もなくボコボコに出来るようになり、シスターによく説教をされていた。
そのあたりで、あたしは将来は冒険者になろうとなんとなく自分で決めていたように思う。
なにせ厳しい世の中だ。それも孤児なので出ていった後の就職先もなかなかない。シスターも伝を頼って商家の丁稚だの道具屋の跡継ぎの嫁だのと行き先を用意していたみたいだけど到底足りない。毎年のように冒険者だの傭兵だのになる年上の子を見送っていたっけ。
そのうちの何人かはたまに帰ってきてはもそもそクッキーだのわらびもちだのと駄菓子のお土産をくれるので皆楽しみにしていた。
とはいえ、冒険者や傭兵になった兄さん姉さんたちのほとんどは二度と顔を見せることはなかったし、
それが単に忘れているだけなのか、それとも見せることが出来なくなったのかどちらかで、どっちが多いのかは子供心にもなんとなく解っていた。
けど、あたしはどうも才能があるらしい。剣については冒険者をやっている兄貴分にも太鼓判を押されたし、シスターの説法を聞いてるうちにいつのまにかヒーリングも使えるようになってた。
シスターはとてもびっくりしていたっけ。
それに、あたしの卒業の年の女の子向けの「まともな就職先」はどっかの町の道具屋のおっさんの後家の一件だけ。
同じ年のちょっととろ目の幼馴染みの女の子(胸がでかい・年上趣味)とどっちが向いているかは考えるまでもなかった。
というわけで年号が変わったこの年に15歳(誕生日がわからないから推定だが)を迎えたあたしは、先ほど孤児院を皆に見送られて出発し、近くのレッドの町を目指しているのだった。
腰にはシスターがくれたちょっと小ぶりの剣……神官ソードが揺れている。なんでもテンプルナイトをやっていた前の前の院長の遺品で、シスターがこの間の大掃除で見つけたんだそう。
まあちょっとカビ臭いけどありがたい。厳重に包まれていたお陰でサビも浮いていないし、これ一本あるだけでぐっと冒険者らしくなる。なによりその重みは頼もしい。
そうこう考えているうちにレッドの街に着いた。
自由都市地帯の中でもそこそこの規模の街だが、何度かお使いや奉仕活動で来ているので迷うことはない。
名物の真っ赤なレンガ造りの町並みを歩いてまっすぐ冒険者ギルドに向かう。まずはこの街で活動できる身分が必要だからだ。
「こんにちはー! 冒険者登録に来ました!」
大きな声で挨拶しながらギルドにずかずかと入り込む。
「お世話になります、これ、シスターからの手紙です!」
受付のおっさんに手紙を渡すと、おっさんははぁとため息を付いてあたしの格好を上から下まで見回した。
茶髪のロングヘアに黒い帽子をかぶり、首からゴーグル(中古品)を下げる。
白いブラウスにチェックのスカートを合わせ、その上から羽織るのは薄手のダスターコート。
足元は長めのブーツで固め、腰には小ぶりの剣。
あたしがコツコツ古着やお下がりを集めて整えた、立派な冒険者⋯いや、スーパー美少女駆け出し冒険者の格好だ。
おっさんはそれを見て小さく頷き、登録用紙を出してくれた。
「ありがとうございます!」
早速用紙をすらすらと埋めていき、名前を書くところで、あたしは出発前夜のシスターの話を思い出した。
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「いいですかエール。貴女に大切なことを伝えます。貴女を抱いていた女性が言い残したことです」
「ひどい熱で息も絶え絶えでしたが、あなたが無事なことを伝えると安心したようで、私にいくつかのことを伝えました」
「両親はおそらく既に死んでいると。そして貴女には兄がいて、その子は片腕の年老いた騎士が連れて逃げたと……」
「そこまで言って彼女は咳き込み、血を吐きました。もはや長くないことは分かりました」
「私は最後に、赤子の名前を尋ねました」
「彼女はもはやしゃべることが出来ず、吐いた血を指に付け、シーツに文字を綴り、そのまま事切れました」
シスターは棚からボロボロの布を取り出した。黄ばんだ布切れに変色した血で文字が書かれている。
「それが、貴女の名前です」
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あたしに名字があったことは初めて知った。そして兄がいるということも……生きているなら今頃17.8だろうか? 探してみるのもいいかもしれない……
ともかく、あたしは用紙に向き直り、丁寧に名前を書いた。
『EL・CLEAR』
エール・クリア。それがあたしの名前だ。登録用紙に判子がペタンと押され、晴れてあたしは冒険者になった。
さて、これからどんな冒険が待っているのだろうか?
表に出ない設定で、ランス君の本名はランス・クリアというのがあります。 結局一度も表に出ることはありませんでしたし、ヌヌハラさんも名字はなーし!と断言していましたので没設定でしょうが
この作品では、その設定でいかせていただきます。
(ランス君本人も忘れかけています)
一話時点のステータス
エール・クリア
LV8/???
剣戦闘Lv1(専業剣士として十分な腕前になれる程度の才能)
神魔法Lv2(人類有数の神魔法の使い手になれる程度の才能/司教級神魔法の習得及び単独での行使が可能)
魔法Lv1(専業魔法使いとして十分な腕前になれる程度の才能/雷系)
※いずれも訓練すればの話です
スキル1
エール斬り
我流の剣で適当に繰り出す斬撃
スキル2
ヒーリング
基本的な回復魔法
修行不足で効率悪し