【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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63.エールちゃんは服を着る

 熱いくらいの光の中をひたすら進んでいく。

 最初は恥ずかしかったがまぶしすぎて正直ぼんやりした影しか見えない。

 とはいえ先頭を進む影の足の間でブランブラしてるものはめっちゃ目立つな……でかいし……

 気にしても仕方がないので別の……どうでもいいことを考えよう。

 どうでもいいことどうでもいいこと……コルドバさんの部下のチョビヒゲのことにしよう。

 あの人、たぶんちょっと剣も使うよね……

 そんなことを考えつつ歩いていくと、突然光がはじけて視界が開けた。

 光の向こうには石造りの部屋があり、部屋の真ん中にはいくつもの鎖で縛り付けられた一本の剣があった。

「あれが……カオス? 剣なんだ……」

「おそらくは。伝承では、選ばれしものでなければ手にするだけで狂うと……」

「ぐふふふ……なかなかいい眺めだ……」

 あたしたちは固唾を飲む。だが若干一名はあたしたちの後ろに回り込んでしゃがみ、鑑賞していた。

「なにやってんの!」後ろエールキックを繰り出すがあっさり躱される。

「がはははは! あんまり動くと丸見えだぞ!」「ううう……」やっぱ恥ずかしい……

 腕でどうにかあちこちを隠そうとしていると、ズズンと来た方向から何かが崩れるような音がした。

 そして何かが向かってくる足音。

「何の音?」「魔人でも来たのかもしれんな……さっさと抜くか……」

 お兄ちゃんはカオスに手をかける。

「キャー! やっちゃえダーリン!」

「その、カオスは災いも運んでくるとか聞いたこともあるけど……」リア様は騒いでかなみさんは心配そうだ。

「災いなら今来とるだろうが。ほれ、抜くぞ」お兄ちゃんが腕に力を籠めると、するっと鎖はほどけてカオスは手に収まった。

 人の顔みたいな装飾が付いた見事な両手剣だ。

「お兄ちゃん……大丈夫?」「ふん、なんともないわ」

 ほっと一息をついたそのとき。

「……カオス。千年ぶりか」

 入り口から、背の高いローブ姿の男が姿を現した。

「誰!?」「魔人……ノス」かなみさんの誰何に応えて名乗る。

(ノス……? あの闘神と何年も戦い続けたっていう……っ!?)

 ノスがいきなり軽く腕を振り、うなじの毛が逆立つような気配を感じて飛びのいた。

「きゃああああああああ?!」

 強烈な衝撃波が部屋を突き抜け、あたしも避けきれず、まとめて吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

「……げほっ……けほ……」咳き込み倒れこむあたしたち。

「ええい! 死ねコラー!」どうやってかかわしていたお兄ちゃんがカオスで襲い掛かる。

 お兄ちゃんが振り下ろしたカオスをノスは手をかざして受けた。

 ざくりと音がして、ノスの手から軽く血が噴き出す。

「魔人を斬れた……?」

「……なるほどな、やはり斬れるか……奴の忌まわしき剣めが……」

「ふん、やたら固いジジイだが斬れるというなら……ん?」

「お……おお……おおおおお……」

 ノスは突然跪き、感嘆の声を漏らした。その視線は部屋の中央に向いて……

 その先に、一人の女が浮かんでいた。

 

 一糸まとわぬ姿で、髪は地面につきそうなほど長い。体格はあたしと同じくらいだろうか……

 どこを見ているのか、後ろからだと確認できないが……

(……やばい……これ……無理……)

 例えるなら、トーマと相対した時に吹き付けられた絶望。自分の死を確信できる感覚。

 アレをもっと、もっと……何百倍何千倍に濃くしたものが、深く深く、魂の底から湧き出してくるような……

 息が詰まる。汗が噴き出す。膝が震えて、立ち上がろうとする気さえ塗りつぶされるようだ。

「……ジル様……おお……ジル様……! この時をいくら待ったことか!」

 ノスが感慨に震える声を漏らす。

「……ジ、ジル……?」

「くはっ……はっははははは! そう! この方こそが先代の……そして真の魔王! ジル様だ!」

「千年前の……魔王……?」

「ガイめの施したカオスの封印……このジル様の城があった地に、恐れ多くも国など建てたリーザスとやらの奇妙に強い血の封印……結局わしの力では解けなんだ……正当な手続きを踏ませるしかなかった……!」

「で、ではまさか……」マリスさんが声を漏らす。

「その通り。わざわざ魔人がおると喧伝し、貴様らを追い詰め……カオスに縋らせた」

「……」ジルが何か、息を漏らした。

 聞き取れないほどわずかな音だったが、その一息が部屋の中の空気を澱ませ、周囲に広がっていく。

「う……」「リア様……!」「おえ……」その空気だけでリア様は口を押さえて伏せた。

 本当にやばい。必死になって息を吸って吐くだけで精いっぱいだ。

「しかしジル様……そのお姿……本調子ではあられぬ様子……。さぁ、このノスめにご命令を!」

 ジルは床に降り立ち、ゆっくりとあたりを見回して……

 あたしに一瞬目を止めた。心臓が跳ね、油汗が流れる。あたしは全身を震わせ……それ以外の事は出来なかった。

「……臭いな。ここは……神の……においもする……」

 ふっとあたしから視線を外し、ペタペタと歩きはじめる。あたしたちはそれを見送り……

「待て待て待てーい!」お兄ちゃんが前に回り込んだ。

「お……兄ちゃん……? やめ……」何度目だかわからないが……本当に信じられないことをする人だ。

「カオスでもう一回封印してお仕置きエッチ! これだ! いくぞー!」

 お兄ちゃんがカオスでジルに斬りかかった。

「ダメ……ランス様……」「お兄ちゃん……っ」あたしとシィルさんが声を漏らすが、指一本動かせない。

「下郎が!」ノスが割り込んで、カオスの刃を握って止めた。

「がっ……こ……こいつ……!」「カオスであれど、貴様ごときがジル様に……」

 ノスは手から血を流しながらも片手て刃を完全に固定してしまった。

「…………………………カオス」

 ジルが、わずかに声を漏らした。

「はっ……心得ましてございます」

 ノスが手に力を籠め始めた。カオスの刃にひびが入り、ピキピキと音がする。

「くそっ、放せ……」

「魔を傷つけ……ジル様を封じていた忌まわしき力……奴の剣……! 砕けよ!」

「あっ……ああっ!?」

 ぱきん、と音を立ててカオスが折れた。

「なっ、なにー!?」

 驚くお兄ちゃんにペタペタとジルが迫り……肩が、軽く触れた。

「ぐっ……があっ!」それだけでお兄ちゃんが吹き飛ばされて転がり、壁に叩きつけられた。

「ランス様!」「お兄ちゃん!」「ダーリン!?」悲鳴を漏らすあたしたち。

 ジルはあたしたちを一顧だにせず、ぺたぺたと歩いていく。

「他のものたちは……はっ、捨ておきます。ククク……」

 ジルとノスは歩き去っていった。

 

 それからしばらく。あたしたちは指一本動かせなかった。

 ジルたちが戻ってくる様子はない。それでも、立ち上がろうという気力がわいてこなかったのだ。

 どうにかしないと、とは思うがそれでも体は動いてくれない……

「ぐっ……」お兄ちゃんが苦し気にうめく。

「……っ! ランス様……ぁ!」シィルさんが立ち上がってお兄ちゃんに駆け寄った。

 それで呪縛が解けたようにあたしたちもどうにか身を起こす。

 リア様もどうにか無事みたいだ。

「シィルさん、お兄ちゃんは……?」

「……息はされてますけど……だいぶダメージが……」

 全裸で叩きつけられたのだ。無理もない……というか今までずっとあたしたち全員全裸だったんだよね……それどころではなかったんだけど……。

「……とりあえず、お兄ちゃんをさっきの部屋に運んで手当しようか……たぶん……あいつらはもういないだろうし……」

 あたしの提案で、とりあえずみんな動き出した。あたしとかなみさんでお兄ちゃんを抱え、マリスさんがリア様を背負い、部屋を後にする。

『そのあとはどうする』とは誰も聞かなかった。あるいは、みんな分かっていたのかもしれない。

 どうしようもない、ということは。

 

 先ほどの客間のような部屋に戻り、お兄ちゃんをベッドに寝かせて交代でヒーリングをかけ続けた。

 意識が戻るまで結構時間はかかったが……空気は重く、誰も口を聞こうとしない。

 最低限の会話だけして、時間が流れていき……

「う……うむ……」お兄ちゃんが目を覚ました。

「ランス様……よかった……」「よく生きてたね……」「あんた、魔王にやられてずっと気絶してたのよ」

 お兄ちゃんはあたしたちが口々にしゃべるのをうるさそうに見やり、

「……む、お前ら服を着なおしているのか……もったいない」相変わらずのことを言った。

「そんなこと言ってる場合? 魔人を倒すどころか、魔王が復活して! カオスも……!」

「そうだったな……ったく。あっさり折られやがって。耳かきより役に立たんなまくらだ」

「そんなことないわーい!」

「「「「「え?」」」」」

 剣がしゃべった。




ジルは大っ嫌いな神の匂いをエールちゃんからわずかに感じましたが
起き抜けでだるかったので今はいいやと見過ごしました

今回の話、めちゃめちゃシリアスなのにジル含めて全員全裸なの本当にシュールなんですよね
ノスも全裸だったらどうしよう
ノスやジルにハイパー兵器をキンケードさせながら斬りかかるランスを想像するとシリアスが吹っ飛ぶので困ります
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