押し寄せる洗脳兵やモンスターを掻き分けて進んで塔の最上階まで登ると、ようやくトパーズの姿を見つけた。
「はぁ……やっと見つけた……」
「あら、遅かったじゃないフランチェスカ。ようこそようこそ。ふふ、うふふ……」
「いやもうそれはいいから! お兄ちゃんを返してもらうよ!」
「そうよ、ランスはともかくカオスはね!」「うう……ランス様ぁ……」
口々に言うあたしたちにトパーズはにやりと笑う。
「慌てない慌てない。ほら、主役の登場ー♪」
「ふーっ……ふーっ……」カオスをだらりと下げたお兄ちゃんがゆっくりと出てきた。
「うーん……こうなっては儂は目の保養に勤めるのみ……とはいえちっとサイズがのう……」
流石にカオスには洗脳は効かないみたい。まあ剣だけ正気でも意味はないけど……
「ダーリン! 待ってて今リアが……」「リア様!」「うがー!」「きゃっ!」
リア様が飛び出したがそれで目を覚ますわけもなく、お兄ちゃんは剣を振るってマリスさんに引っ張られて難を逃れた。
うーん。でも今のお兄ちゃんの太刀筋なー……うーん……
「きゃーはははははは! うふひひひ……仲間に襲われるなんて最悪でしょ! それにこいつの力は洗脳により限界まで引き出されてるってわけ!」
笑い転げるトパーズ。
「さぁ! こいつに剣を向けられるかしら!?」
あたしたちは一瞬視線を合わせ……
「まぁ、しょうがないよね。後でヒールするし」あたしは双剣を抜く。
「……」リックさんも無言で剣を構えた。うわー目がめっちゃキラキラしとる……
「私も一度くらいは勝っておこうかな……」「私は別に恨みがある訳じゃないんだけど……」ユランさんとレイラさんが切っ先を軽く揺らめかせた。
「これは不可抗力不可抗力……」「うん、不可抗力よね!」フェリスとかなみさんもにこやかに獲物を構える。
「うっし、手加減なしだ」ミリさんもにやりと笑った。
「え、えー……」気遣う様子がまるでないあたしたちにトパーズが戸惑う。
「うがうが──────────!」しかしお兄ちゃんはそんなことにかまわず斬りかかってきた!
「お下がりを!」一歩前に出たリックさんが力任せの斬り下ろしをキキィンと軽く弾き、返す刀で肩と腰を斬りつける。ドドッと鈍い音がしてお兄ちゃんは吹き飛んだ。
なんかあんまり切れてないな……あの赤い剣、切れ味そのものはそんなに良くないんだね。
「火丼の術!」「デビルビーム!」「あぎゃ──────ー!」吹き飛んだところをかなみさんとフェリスが追撃する。飛び上がったお兄ちゃんは振り向いてこっちに斬りかかってきた!
「あが────!」やはり力任せの振り下ろしだ。でも……
「よっと……ふん!」「ほぎゃー!」あっさりと受け流してべちこーんと剣の平でぶん殴る。
力はこもってるけど……正気の時のお兄ちゃんの剣の鋭さも、地を滑り跳ねるような体裁きもなく、ただどたどた走って切りつけるだけ。トーマの相手をしてたときのような神がかった反射神経なんかまるでない。
はっきり言えば、これならパワーゴリラの方がなんぼか強い。
なんでだろ? 洗脳されたリックさんやレイラさんはかなり強かったのに……まあいいか。
起き上がったお兄ちゃんはさらにミリさんに向けて切りつけるが、幻獣にたかられた挙げ句双剣ですぱんぱこーんと殴られて転んだ。
「今だ! やっちまえ!」「「おー!」」
あたしたちは転んだお兄ちゃんを囲んでボコボコにした。
「あんぎゃー……」お兄ちゃんは倒れた。あちこち腫れてるけど足をぴくぴくさせてるし生きてはいるな。よし!
「エ、エール……流石にやりすぎじゃ……」メナドが心配そうに言う。
「大丈夫だよ、お兄ちゃんがこれくらいで死ぬならもう百回は死んでるし」「ええー……」
顔を青くしたトパーズがわめく。
「そ、そんな……こんなに早く!? ええい! 立ちなさい!」
「うが……どりゃ────────────────!」
その言葉に応えたのか、お兄ちゃんはばね仕掛けみたいに立ち上がり、トパーズに斬りかかった!
「きゃあ!? そんな……洗脳が解けて!? くうっ!」
「うが──────────────!」「あ、ランス様!?」
逃げ出すトパーズ。ヒーリングをかける暇もなく、そのあとを追いかけるお兄ちゃん。
あーあ。ありゃ相当頭に来てるなぁ……
仕方なくあたしたちはお兄ちゃんを追いかけた。
「……うう……アイゼル様ぁ……」「んっ……ふぁぁ……」
あたしたちが追いつくと、お兄ちゃんは下半身丸出しでやり遂げた顔をしていて、青と黄色の使徒が二人、描写するとタグが面倒になる感じでボロボロになって倒れている。
「ランス様! 元に戻られたんですね!」「おお、シィル。あとお前らもか」
「お兄ちゃん……ズボンはいたほうがいいよ……」
「ん、おお」シィルさんがズボンと濡れタオルを差し出し、お兄ちゃんは後始末をしてズボンを履いた。
「さて、用は済んだことだし、さっさとこいつらにトドメと行こう」
「俺様は可愛い子は殺さん。何度言ったらわかるのだ」
物騒なことを言うカオスにいつも通りのお兄ちゃん。まあいいか……しばらくは動けないだろうし。
「これで西の塔の戦闘も収まるでしょう」
リックさんが言うとおり、先ほどから階下からの戦闘の音が途絶えている。術師が倒れて洗脳が切れたのだろう。
「ま、これで解決というわけだ! さすがは俺様! がははははは!」
「なんかランスに振り回されただけだったな……」
馬鹿笑いするお兄ちゃんを背にしたミリさんのぼやきに、あたしたちは深く頷いたのだった。
「うーん、もう一個いけるか……それならこっちにももう一個……」
「なーにをしとるかー!」「ひゃあああ!?」
裏庭に向かう前にちょいと休憩をしようと近場にあった第八厨房に足を踏み入れると、白パンを台車に山盛りにしてるメイドがいた。
見事なバランス感覚……だけど泥棒だよねこれ……
どうやら常習犯で、しかも前にお兄ちゃんに取っ捕まったことがあるらしく、しかもリア様マリスさんをはじめとしてリーザスのお偉いさんが揃っている状況に顔が真っ青になる。
結局ヘルマンに取られないように避難させていた、という言い訳をしたのと今はそれどころではないということで、とりあえずおとがめなしということにはなった。
安心した彼女に薬やら食べ物やらを出してもらっていると、棚の隅からぽろりとなにか落ちてきた。
「おっとと」受け止めてみると優美な細身の直剣だ。少し長めかな……?
「あら? それって確か……」
「宝剣クア・パッソですね。特別な力はありませんが、名工の作と伝わっています。宝物庫にあったはずですが何故ここに……」
「あ、それさっきその辺で死んでたヘルマン兵士が抱えてて……」
「ふーん、火事場泥棒されてたのね」
まあなんか高そうだし拾ってきたんだろう。
「ほう、ちょっと貸してみろ」「あ、見せて見せてー」
お兄ちゃんが抜いたクア・パッソをじっと見てみる。きれいな直刃の剣で、切れ味も結構良さそうだ。けどあたしが振るにはちょっと長いかな……
「ふむ、使えそうだ。誰に持たせるか……」「メナドがいいんじゃない?」メナド、今は剣使ってるけど獲物は都市守備隊の備品で、あんまりいい剣じゃないしね。
「え? 僕?」「まあよかろう」お兄ちゃんはメナドに剣を投げ渡した。
「あ、ありがとう! ランス! エール! 僕大事にするよ!」
クア・パッソを抱き締めてお礼を言うメナド。
リア様とマリスさんも特に問題ないみたい。
「がはははは! 俺様と思って大切にするといい……さて、そろそろ中庭に行くか!」
あたしたちはお兄ちゃんを先頭に未だに戦闘が続く中庭に向かったのだった。
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