「まだだ! 戦え! ヘルマンのために!」
「うるさい! さっさと出ていけ侵略者!」
がきんがきんどかんどかんわーわー!
「飽きない連中だ……」「言っちゃ悪いけどほんとだよね……」
中庭では相変わらず激しい戦闘が続いていた。
本当に体力があるな……なんというか、あたしたちがリーザス城を出てどっかでレベル上げとかして宿屋にも何泊かしてどうでもいいイベントをこなし終えて戻ってきてもまだ戦ってそうな気すらする。
それはともかく、中庭を見渡せばどかんどかーんと聞き慣れた景気のいい爆発音が聞こえてきた。
「ランス、あれ……」
「ああ、マリアのチューリップだな。とりあえず合流するか」
「マリア殿! 次は8五金にてお願い致す!」
「だから将棋でたとえないでー?」
マリアさんはバレスさんと一緒に砲兵として働いていたようだ。
文句を言いつつも放たれた砲撃がヘルマン兵を吹き飛ばす。
見ればヘルマン兵が固まったり解放軍の兵を包囲しようとしてるところに的確に砲弾を打ち込んでいる。
中庭はヘルマン兵が多いみたいだけど、少数の兵でここを支えられたのは二人の活躍が大きかったのかもね。
「おう、無事だったか」
「おお! リア様! ご無事で!」「ええ、ご苦労様バレス」
「ランス!? もしかしてその剣が……」
「そう、儂が魔剣カオス! よろしくね、メガネのお嬢ちゃん」
「わっ!? 剣がしゃべった!?」
「そいつのことはいい、状況は? 志津香はどうした」
興味津々と言う感じのマリアさんを引き剥がして尋ねるお兄ちゃん。
志津香さんはマリアさんと一緒に砲兵役をしていたが、少し前に崩れそうな前線を支えるために突っ込んでいったそうだ。
「相変わらず無茶するなあ……」「止めたけど……」
「あいつが止まるわけあるまい。とっとと追いかけるぞ!」
東西の塔からも解放軍兵士が押し寄せ始めている。もう援護がなくても大丈夫そうだ。あたしたちはバレスさんとマリアさんを連れて中庭の奥に向かった。
「うりゃー! ALスラッシュ!」「「ぎゃああ!」」
もはや半分やけくそ気味にかかってくる兵士をまとめてぶっとばす。
結構来たけど志津香さんは見当たらないなあ……どこ行ったんだろ?
「むぅ……志津香のやつはどこまで行きやがったんだ」
お兄ちゃんが辺りを見回していると、カオスが急に声を出した。
「む……心の友。魔人の気配がするぞ」
「魔人だと? どっちだ?」この剣そんなことも出来るのか……
「あっちだ。あの茂みの向こう……」
あたしたちがこっそり茂みの向こうに進むと、人影が二つ見えてきた。
片方は志津香さんだ。そしてもう片方は……
「アイゼル……?」
「ほう、あの色男まだ生きとったのか」カオスが小声で言う。
「知ってるの?」
「儂がガイに使われてたときに少しな」
カオスはアイゼルと志津香に目をやる。
「しかしあのお嬢ちゃんは洗脳されとる様子はないが……どういうことだ?」
確かに志津香さんの様子はいつも通り……かな? でもアイゼルの様子は……なんというか……
アイゼルがなにか言って、志津香さんは首を降り、決意を込めて見返す。アイゼルはその視線から眩しそうに目をそらし……
「なーにをやっとる顔だけ野郎が!」
お兄ちゃんが空気を読まずに乱入した、
カオスが鋭く振り下ろされるが、アイゼルはとっさに躱した……いや。
「っ……ランスに、カオス……」
「ぐひょひょひょひょ! 久しぶりだのうアイゼル! お前の面は気に食わんが、血はなかなかいけるじゃないか」
振り下ろされたカオスがアイゼルの肩口を少しだが掠めていた。腕を血が伝っていく。
「カオス……ですか。相変わらず下品な……そして……」
「よーし斬れるな! 俺様の女にコナかけた罪は重いぞ! ブッ殺す!」
「ランス……あのジル様の重圧を浴びてなお変わりませんか……」
「かかかかか! 本調子ならこんなもんよ! ずっと儂のターン!」
「これまで妙な結界でさんざんでかい面しやがって! こっからは俺様のターンだ!」
なんか気があってる二人に対して、アイゼルの目線はあくまでも冷徹だ。
「見つけたからには容赦できませんよ、カオス……」
「容赦せんのはこっちだ! 死ねー!」
大上段から叩きつけるようなカオスの一撃を、アイゼルは剣で打ち払い、お兄ちゃんの喉元めがけて突きを入れる。
横に弾いて懐に潜り込もうとしたお兄ちゃんの目の前に手が付きつけられ、怪しい光がともり……飛びのくように間合いをとった。
「ふん、洗脳だけのモヤシ野郎かと思ったがな」
アイゼルの首筋から血が垂れる。
お兄ちゃんの飛びのきざまの一振りはアイゼルの首筋をとらえかけ、紙一重でかわされていた。
間合いを取ったお兄ちゃんに対し、アイゼルは剣を構えなおし……その視線が、一瞬別のところに向いた。
……志津香さんを見てる……?
「だーっ!」隙ありと斬りかかったお兄ちゃんにアイゼルが視線を戻し……
「いかん! 奴の目を見るな心の友!」「ぬっ……」
お兄ちゃんが慌てて視線をそらしたその隙に、アイゼルはマントを翻して消えていた。
「ちっ、逃げられたか……」
「意外だな? 結構プライドの高い奴なんだが……」
「志津香……無事でよかった……」マリアさんが駆け寄る。
「うん……ごめんねマリア……」
「で、志津香。お前あの色男とこそこそ何をやっとったんだ」
「別に……なにもないわよ……」
お兄ちゃんがギロリと睨むと、志津香さんは少しだけ気まずそうに話し始めた。
なんでも志津香さんはホッホ峡でアイゼルに出会ってしまい、負けて気絶したが目覚めるとアイゼルに介抱されていたらしい。
アイゼルは志津香さんを使徒にならないかと誘ったが、志津香さんは断ってジオに戻った。
それで、さっき再び会って……ジルの復活と、これから人類が辿るであろう悲惨な運命について語ったアイゼルは、志津香さんを再び使徒に誘った。
それでも志津香さんは断った……ところでお兄ちゃんが乱入した。そういうことらしい。
なるほどね。さっきのアイゼルの様子……まるでフラれるとわかってて告白する男みたいだった。そうかあ……魔人にもいろいろあるんだね……
あたし達がちょっとしんみりしていたところに。
「は~~~~~ん? つまりお前はあの顔だけ野郎に甘ったるいこと囁かれてその気になっとったんだな?」
「アイゼルは妖術の達人じゃからなぁー? そうとは感じさせずに誑かすのもお手の物じゃし~?」
まるで空気を読まない声が響いた。しかもダブルで。
「…………っ!」志津香さんがすごい顔で二人をにらみつける。こわっ。
「いい加減にして! 違うって言ってるでしょ!」
「だが、奴はお前に惚れとるぞ。間違いない」
「そんなこと私に関係ないわよ!」
「ほう、ちょっとも情は移ったりしてないんだな?」
「してないわ! 全然!」
あ~……志津香さんヒートアップしてる……今まさに口車に乗せられようとしてる……
マリアさんは口を挟めず、シィルさんとかなみさんは同情の視線で見ているだけだ。
「じゃあ、奴をぶっ殺す作戦のためならなんでもするな?」
「しつこい! なんでもするわよ!」
あー……言っちゃった……何をさせるつもりなんだろ……
お兄ちゃんはニヤ──ッと笑って言った。
「うむうむ、よーし! では裸になって奴に迫れ」
「「「は!?」」」志津香さんとあたしたちの声が重なった。
「何よそれ!?」
「隙を誘うんだ。惚れとる女に裸で迫られて気を取られない男はいない。そこを後ろからぐさーとやれば一発だ」
(((((く……腐れ外道……)))))
女性陣一同の心の声が重なった。
「だ、だからって……それは……」
「はぁー? ふーん? 何でもやるって言ったのになぁ? やっぱりちょーっと気が引けるか? 愛しのカレにだまし討ちなんてー とか」
「まぁアイゼルの奴は昔から女にモッテモテじゃったからのー! 多少は仕方ないかもしれんなぁ!」
ドン引きするあたしたちを尻目に鬼畜コンビが言い募る。志津香さんは握った拳を震わせ……
「……っ! いいわよ! やってやるわよ!」
やるの!!!!!????? マジで!?
「ちょ、志津香……さすがにそんな……」マリアさんが止めようとする。
「そうですよ、引っ込みがつかないのはわかりますけど……」
あたしも口を挟むが、志津香さんに乱暴に押しのけられた。
「それで終わりよ。二度とふざけたこと言わせないから」
「ぐふふふ……いいぞいいぞ。よし、では作戦開始だ」
我が兄ながら本当に悪魔の才能があるなあ……