「えっ? あたしがカイズに留学?」
「ええ、そうです」
びっくりしてお茶のカップをがちゃんと言わせたあたしに対して、セルさんはあくまでニコニコ笑いながら答えた。
「えー……あたしなんかが……いいんですか?」
「無論ですよ。貴女の才能は素晴らしいですからね。神によほど愛されているのでしょう。性格も問題ありませんし……」
セルさんが説明してくれたことには、AL教では定期的に各地の教会で見つけた有望な神魔法の使い手をAL教の総本山、宗教都市カイズに招待しているらしい。
招待者の中にはそのままカイズに留まり、神官やテンプルナイトになる子もいるのだとか。
「神魔法や剣術などについて専門的な指導も受けられますし、運が良ければ法王様のお姿も見られるかもしれませんよ?」
「へー……」
正直法王様にはあんまり……興味がない。テュランとかいうおじいちゃんらしいが……嫌いなわけではないけどね。
でも剣と魔法の指導に惹かれる。どっちも今は我流だし、一度正式な指導を受けてみるのも悪くないよね。
「せっかくなので行きたいです!」
「そうですか、では手続きをしておきますね。では……」
つらつらと説明してくれたことによると、あたしはカイズまで自分で行くことになるようだ。
その途中の旅費としてある程度のお金はくれるそうだ。帰るときも同じ。
これが神官一人とかだと護衛も手配しないといけないから大変らしいけど、あたしは戦えるからね。
到着後はいくつかのグループに分けられて、担当のテンプルナイトや神官に色々と指導されるらしい。
期間は三ヶ月くらい、終わったあともカイズに残るか帰るかは自由とのことで、けっこう太っ腹だなあと思う。人材集めってのもあるだろうけどね。
だいたいの旅程を考えるとすぐに出発した方がいいかな。
途中の街もいろいろ見て回りたいしね。
あたしはセルさんが出してきたいくつかの書類にサインして、ギルドに向かった。
「マスター! あたしセルさんに……」
「ああ、カイズに行くのか。そんな時期だしなあ」
「なんだ、話し聞いてたの?」
「いや、お前くらいの年であれだけ魔法が使えるやつをAL教が見逃すわけはないしなあ。悪い話じゃないし……」
どうやら恒例の行事なのでマスターも詳しいみたいだ。
「いつ出発するんだ?」
「明日くらいには出ようかと思ってます」
「そうか、じゃあすまんがちょっと頼まれてくれるか? これ。アイスの町への届け物なんだが」
マスターは片手で持てるくらいの包みを渡してきた。そんなに重くないけど……
「届け物……いいですけど、誰宛ですか?」
「キースって脂ぎったハゲ親父だよ。昔世話になってな……」
なんでもアイスの町のギルドの長らしい。
「そういえば、カイズに行くのにアイスって通るのかなあ?」
「そうだな、カイズへの船が出るジフテリアに行くには、ラジールから南下してカスタムから西に行くか、ラジールから西に向かってカンラ、アイス。そこから南に下ってコーを通っていくルートだな。距離も大差ないぞ」
「へー。それじゃあ、カスタムを通るのは帰りにしようかな」
「引き受けてくれるか、じゃあこれ。少ないが」
「はーい、引き受けました!」
マスターから礼金と荷物を受け取り、あたしは旅立ちの準備をすることにした。
「え~と旅に出るなら……着替えと……冒険セットと……あとご飯とか? ……うーん。ワヨソさんのお店で聞いてみようかなあ……あ、シスターに手紙書かないと!」
翌日。あたしはレッドの門から出発した。
振り向くと総レンガ造りのごつい城門が見える。
「始めてみたときはびっくりしたけどすっかり見慣れたわねー……」
門の上には警備兵も居るがあくびを噛み殺していたり、実に平和。いつも通りの光景だ。
「よーし! いってきます!」
こうして、あたしはレッドの町をあとにしたのだが。
当然、数ヵ月後にあんなことが起こるなんてこのときには知るよしもなかったのだ。
AL教
この世界最大の宗教。女神ALICEを崇めている。
教義はまともで信者も多く、慈善事業とかもやっている大方まともな組織。
カイズに総本山がある。
カイズ
大陸南側を二分するシナ海に浮かぶ川中島に存在する宗教都市。
自由都市から向かうには港町ジフテリアから船に乗らねばならない。
レッドの町
エールちゃんの本拠地。
大陸南東部、都市国家の集合体である自由都市地帯の真ん中あたりに存在する。
赤レンガで作られた町並みが有名で、巨大なオレリィ大聖堂がある。
名産品はしゃもじと赤栗、アカメフルト。
アイスの町
自由都市地帯の西側にある、特色のあまりない都市国家。
世界最大の製薬会社のハピネス製薬などがありそこそこ栄えている。
北に烈火鉱山、リスの洞窟、南には廃棄都市コー、東にカンラ、西には港町ジフテリア、犯罪都市ロックアースがある交通の要所。
原作主人公ランスくんのホームタウン。