「そこの茶色のおじょーさん!良かったら寄ってってください!」
先日看板を付け替えていた店の前でぽやぽやカップルが客引きをしていて、新しい看板には…『レストラン かぶとむし』とある。
変な名前…というかなに料理屋なのかさっぱりわからないし、茶色のお嬢さんってなんやねん…。
とは思ったが、呼び止められたあたしは仕方なくそちらに向き直った。
「…えーと、どんな料理があるんですか?JAPANの?」
ピンクの女の子はともかく、男の子の方は明らかにJAPAN系だしね。
「あっはい、日本風の…いえ、JAPANの料理ですよ。いろいろあります」
「健太郎くんは料理が上手なんですよー。」
「えへへ、それほどでもないよ…照れるなあ美樹ちゃん」
健太郎とかいう男の店員が手をバタバタさせて説明したかと思ったら美樹っていうらしいピンクの女の子とイチャイチャし始めた。
客の前ってこと分かってんのかな…と言うか、それほどでもなかったらダメでしょ。料理の腕。
突っ込みどころは多いし、いろいろじゃわからないけど…まあいいか。
悪い人たちじゃなさそうだしね。
「まぁ、それじゃあ…お願いします」
「わーい。やったね、美樹ちゃん!」
「やったね、健太郎くん!はじめてのお客さんだよ!」
「それじゃあ1名様ごあんなーい!」
「さあさあどうぞどうぞー。」「わわっ」
健太郎さんと美樹ちゃんは手をパチンと合わせ、あたしは店に引っ張まれたのだった。
店内はまぁ…なんというかもともと事務所だったのを無理やり飲食店に改造した、という感じで、調度品古道具屋でかき集めたのかちぐはぐ。
木製のテーブルに金属製の椅子が置かれたりしてるし、壁にはスコップとか刀が掛かっている。
まぁこの際いいか。それよりメニューだよね。見れば一番表に日替わり定食10Gとでっかく書いてあった。
「…今日の日替わり定食って何ですか?」
「ええっと、なんだっけ?」
「お好み焼き定食だよ、健太郎くん」
「ああっ、そうだったね美樹ちゃん」
(お好み焼きってポルトガル料理じゃなかったかな…?うーん?)
なんか雲行きが怪しくなってきた。他にはえーっと…
『たこ焼き』…たこやき…?モンスターの?
『ビーフカレー』…ビーフってなに?おっと、コロッケカレーもある。
『猿チャーハン』…猿か…猿?
『牛丼』…牛ってなんて読むんだろ?
『目玉焼き』…『鍋焼きうどん』…
どれも耳慣れない料理ばっかりだなぁ…和食ならお寿司とかジンギスカンとかあるかと思ったのに…仕方ないな。
「日替わり一つください。あと…えーっと…たこやき一つ。」
「はーい!日替わり一つ、タコ焼き一つ!」「おーっ!」
二人は奥にあるキッチンに引っ込んでガチャガチャ料理をし始めた。
「よーしお好み焼きを作るぞー。まずはこれかな?」
「だめよ健太郎くん、それを取るとぱらんぱらんになるわ。」
「そうだった。気を付けていくぞー」
不安だ…とりあえず定食と、知らない料理を一つ頼んでみたけどどうなることやら…
「あ、水…どっかにないかな?」
ちょっと喉が渇いたので水をもらおうと立ち上がろうとした瞬間。
「…どうぞ」「…っ!?」
あたしの机にことりと水のグラスが置かれた。見ればすぐそばに着物姿の女性が立っている。
(い…いつの間に!?)
全く気配を感じなかった。というかさっきまでこの部屋にはあたし以外誰もいなかったのに?
「…」女性はぺこりと頭を下げると壁際に下がって控えた。
それだけの所作でわかる。この人かなり強いな…
たぶん刀かな…何かしら体術の心得もありそう…
「…何か?」「いえ、なんでも…」
おっと、じろじろ見るのは失礼か。
とはいえ、これだけの人がいるならこの店、思ったよりまともなのかもしれないな…
「お待たせしましたー!お好み焼き定食でーす!」
がちゃ、とあたしの前にお盆が置かれたのだった。
「むぐむぐむぐ…ごくん」
運ばれてきた料理をパクつく。
お好み焼きは見たことなかったけど、野菜と肉を混ぜて焼いたパンにソースをかけたようなものだった。
正直ご飯に合うとは思えなかったけど、食べてみたらわりかしイケ…ん?
「…わくわく」「…どきどき」
視線を感じて顔をあげると、キッチンから健太郎さんと美樹ちゃんが目をキラキラさせて覗いている…
「…おいしいですよ」「やったね健太郎くん!」「よかったね美樹ちゃん!」
この人たちいちいちお互いの名前を呼ばないと会話できんのかな…
着物の女性が特に何も言ってないあたり、いつもこんな感じなのかな?
定食を食べ終わった後『たこやき』が出てきたが、なんというか野菜が入っていないお好み焼きをボール状に丸めたみたいな代物だった。
けど外はカリカリで中はトロトロで結構おいしい…モンスターのたこやきと何か関係あるのかな?
確かに見た目と丸いところは似てるけど…
「…というわけで、ここなら安全…いや、落ち着けるかなって思って店を開くことにしたんです」
「はふはふ…なるほどねー。」
たこ焼きを食べながら勝手にしゃべりだした健太郎さんの話を聞いたのだが、なんでか美樹ちゃんは魔物に狙われてるらしく、着物の女性…日光さんと二人で美樹ちゃんを守りながらあちこちを旅してきたのだそうだ。
よくよく見れば健太郎さんは体は結構鍛えられている。身のこなしは…あんまり強くは見えないけど。
25レベルくらいはあるかな?
「リーザスはこの間ヘルマンやら魔人やらで大変だったけど、あの時は大丈夫だったの?」
「うん、私たちその時は自由都市の…どこだっけ?」
「ハンナだよ、美樹ちゃん」
「そうそう、ハンナの街に居たの」
「へー、ハンナにはヘルマン軍来なかったの?」
「うーん、それが…」
なんでも、ハンナにもヘルマン軍1万くらいが攻めてきていたらしい。
ハンナの防衛隊はせいぜい2000、全くかなわないと思われたのだが…
都市長のべスポというおっさんが急に謎の男を連れてきて、
「こいつに全軍の指揮をとらせる、責任は俺が持つ」と言ったそうだ。
『ザ・マスカット』と名乗るアメフトのヘルメットとプロテクターを付けた謎の小太り男は、めんどくさそうにいろいろと指図を始めた。
防衛隊や冒険者から比較的高レベルの人物を選抜して突撃隊を作り、残りの軍でハンナの前に布陣して、門の前に分厚く陣幕を張って自分はその中に陣取る。
そして襲ってくるヘルマン軍を地形を利用したり奇襲したり罠にかけたりだまし討ちしたり火にかけたり水攻めにしたり…
陣幕の中から指揮を執って、ありとあらゆる計略でもってヘルマン軍を撃退し続け、その間に突撃隊に命じてヘルマン軍を攻撃した。
健太郎さんは突撃隊に加わっていたらしいのだが、本陣からの合図の通りに前進すると、ほぼ抵抗を受けずにヘルマン軍の指令所とか食料備蓄とか武器庫とか、とにかく急所を突くことができたそうだ。
で、10000対2000が6000対1800くらいまで縮まったくらいで、ヘルマン軍が精鋭の騎士だけ500くらいを選別して中央突破をかけてきた。
強国ヘルマンの精鋭、騎士たちの乾坤一擲の突撃だ。都市防衛隊程度では防げず、罠や柵も踏み越えられ突破され、陣幕に騎士たちがなだれ込み…
本陣に仕掛けられていた大量のぷちハニー爆弾で吹き飛んだ。
前日夜にそろそろかな、と爆弾を仕掛けてから兵士たちと一緒に陣幕をこっそり抜け出して、市壁の上から突撃隊と一緒に爆発を眺めていたザ・マスカットは、
「僕の仕事はこれで終わりですね…ふぁぁ…徹夜したから眠い…べスポさんに約束のものはお願いしますよ、と伝えてください。それじゃ…まったくもう…顔を隠したいとは言ったけどこんなの被せるなんて…ぶつぶつ…」
と、あくび交じりののんびりとした口調で告げて、ぼやきながらどっかに行ってしまったのだという。
その後、精鋭を丸ごと失ったヘルマン軍はすごすご撤退し、帰り際に白軍に遭遇して全滅したそうだ。
「はえーーーー…すごい人がいたもんだなぁ…」
ザ・マスカット…一体何者なんだろう?
「…私もそれなりに長く生きていますが、あれほどの軍師はそういるものではありません。きっと名のある人物でしょう…おそらくはJAPAN系でしたが…」
着物の女性…日光さんは、冷静な口調でそういった。
それなりに長く…って、若く見えるけど何歳なんだろ?
「そういうわけで、ここに腰を落ち着けたいから、このレストランはぜひ成功させたいんだ。」
「うん、今度はのんびりできるといいね。健太郎くん。」
「そうだね、頑張ろう、美樹ちゃん。というわけでエールさん!よろしければまた来てくださいね!」
「お友達にも教えてね!」
結構厚かましいなこいつら…
まぁいいか。魔物に追われるなんて気の毒だし、料理の味も値段も悪くないしね。
「うーん。わかった。とりあえずまた来るね!」
あたしは、それだけ答えたのだった。
以下、妄想です。
ザ・マスカット
レベル28/35
軍師2
ハンナの都市長が、貰い物のサッカー試合のラレラレ石(激レア)とラブレターの添削をエサにどこかからつれてきた天才軍師。
アメフトの防具とヘルメットに身を包んだその正体は不明。
ポルトガル在住の在野の軍師、篠田源五郎氏とは一切関係がないらしい。(本人談)
この世界のお好み焼きは自由都市ポルトガルの郷土料理で、我々の世界のお好み焼きとは全然違う料理です
エールちゃんは名前だけ聞いて実物は知らなかったので気にせず食べましたがコパンドンが見たら首をかしげるでしょう。
うしはいますが牛はいないので牛丼と言われてもなんだかわかりません。
評価が1300を突破しました。ありがとうございます。
3か月でここまで来れるなんて思っていませんでした。
これからも頑張りますので、よろしくお願いします。
読みたい話や妄想ネタはいつでも歓迎ですので、感想欄にいただけると助かります。