【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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9.エールちゃんは大人げない

「え?剣術教室の手伝い?」

あたしはビーフカレーをかっ込む手を止めて聞き返した。

「うん、そうなんだ」

メナドがたこ焼きをつつきながら答える。

 

健太郎さんたちの料理屋は、日を追うごとに客足が増え、そこそこ繁盛するようになっていた。

健太郎さんは厨房でどんどん料理し、美樹ちゃんや日光さんが配膳したり皿を下げたり忙しそうにしている。でもなんか楽しそうだな。

とはいえ、ランチタイムを外せば待たずに座れる程度ではあるから、こうして仕事が終わったメナドを誘ってご飯を食べに来たのだけれども。

 

なんでも、都市守備隊が子供たち向けに簡単な武器の使い方や護身術についてレクチャーする定例の催しが明日あるらしい。

けれども、すぐそこまで迫っているリア様の戴冠式の準備のため人手が足りていないらしく、手伝ってくれそうな人を探しているそうだ。

「あんなことがあった後でしょ?参加希望者も結構いてさー…忙しくなりそうなんだよね。お願いできないかなぁ?」

「うーん…年下の子の面倒を見るのは慣れてるんだけど…」

正直あたしの剣は人に教えられるようなもんじゃないと思う。もともと我流、それも常道から外れた二刀だし、ヒーリングかけ放題前提の無茶が多いからなぁ…

あたしが悩んでいると、メナドが顔を寄せてきた。

「あのさ、エールは戴冠式のパレード、どこから見るつもり?」

「え?その辺の道端からのつもりだけど…」

戴冠式は城の中で儀式をやった後、リア新女王をお披露目するためのパレードをやるらしい。

城の中の儀式は当然ながら一般開放されないので、パンピーが見れるのはそのパレードだけになる。

「甘いよエール。もうとっくにめぼしい場所は取り合いになってるし、当日は横入りとかしないよう軍が出て警備するんだ。

このままだと、きっと路地の奥からなんか遠くが盛り上がってるのを見るだけになるよ」

「えー…それはつまらないなぁ…」

そんな騒ぎになるのか…まぁ数十年ぶりの戴冠式だからね…

困惑するあたしに、メナドが声を低くしてささやく。

「で、もし手伝ってくれるなら、いい場所を紹介できるんだけど…」

「…どこ?」

「都市守備隊の詰所の屋上。表通りがよく見えるし、城の中にあるから当日は関係者しか入れないから人もいないよ。」

「でもそんなところにあたしを入れちゃっていいの?」

「僕と一緒なら大丈夫。でも、剣術大会の件をちゃんとこなせないと、戴冠式の当日休暇を取れそうになくって…」

「あー…なるほどね…」

そういう事ならまぁかまわないだろう。どうせ見るならいい席から見たいしね。

リア様に言えば席くらい用意してくれるだろうけど…もしかしたらパレードを見る側でなくて見られる側にされる可能性もある。

「うん。わかった。あたしでよければ手伝うよ」

「ありがとう!それじゃあ明日、中央公園ね!」

 

というわけで翌日出向いてみると、たくさんの子供たちが公園に集まっていてがやがやとやかましかった。剣をぶら下げてる子もちらほらいるな…

都市守備隊の人たちは何人かいるが、子供たちの数に対してどう見ても足りてない。

今回は参加者が多いってのは本当みたいね。

「あ、エール!おはよう!」

「おはようメナド。やっぱり人数多いねぇ…」

「うん、そうなんだ…あ、先輩に引き合わせるからこっち来てくれる?」「はーい」

引っ張っていかれた先には、都市守備隊の鎧に身を包んだごつい男が居た。

「ハリーさーん!手伝ってくれる友達を連れてきました!」

「おお、ご苦労さま。君が剣が達者なメナドの友達の…」

「エールです。エール・クリア。今日はよろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ。この場の責任者を任されているハリー・スチュワートと言います」

ハリーさんはぺこりと頭を下げた。腰の低い良い人だね。

「じゃあ、エールさんはあっちの女の子たちをメナドと一緒に面倒を見てもらえますか?やはり女同士の方がいろいろとやりやすいでしょうし…」

「はーい。わかりました。」

では、と去っていくハリーさん。うーん。それなりに戦い慣れては居そうだけど…そんなに強くはないかなぁ?たぶんメナドの方が強い。

「じゃ、始めようか。女の子たちはこっちに集まってくださーい!」

メナドの号令で、参加者の女の子がぞろぞろと集まってきた。

 

女子のグループはだいたい30人くらいかな?

「剣を持ってこなかった子はこっちに来て、剣を借りてくださーい」

「小さい子はこっちの短剣ねー!」

用意されていた訓練用の剣を配って、適当に素振りさせる。

「えーとね、剣の握り方はこう。うん、小指を端っこにかけるように…そう、上手だよ」

メナドは小さい子にも丁寧に教えている。こういうの得意なんだろな。

あたしはどうしようか、とあたりを見回す。

ものすごいへっぴり腰な子、もう飽きてきた子、刃物にビビってる子が大半だなあ…まあそりゃそうだよね、と思っていると。

「…ふっ!やぁ!」

なんだかやたら鋭い振りをしている子がいた。大きな白いリボンをつけた小さい女の子だ。

身長からして10歳くらいかな?

「そこのあなた、まだ小さいのにすごいね。どこかで習ったの?」

声をかけると、その子はこちらをじろっと見返し、素振りを続ける。

「…ええ。家庭教師から少々。いくつかの大会にも出てますのよ」

家庭教師…言葉遣いも上品だし、どっかの貴族かなぁ…

「へぇー…道理で。あ、将来は親衛隊に入りたいとか?」

「ええ、現在のところ候補の一つではありますわね。」

「親衛隊かー…ちょっと鎧が変だからあたしはいいかなぁ…」

「典雅、と言ってくださいまし。それにそう簡単に入れるものではありませんわよ」

「そうなの?あたしこの間レイラさんにスカウトされたけど…」

「…え?」その子の手が止まった。こちらを驚いた眼で見ている。

「…スカウトされたんですの?それも団長直々に?」

「あ、うん。断ったけどね。リックさんからも誘われたんだけど、どっちも。悪いと思ったけど…」

「赤の軍からも!?………そうですか…」

まぁどっちも神魔法込みでの勧誘だったとは思うけどね…親衛隊はリア様の意向もあるだろうし…

少し黙って何か考えていたその子は、こちらに向き直って話しかけてきた。

「あの、わたくしチルディ・シャープと申します。お名前を聞かせて頂いても?」

「エールだよ。エール・クリア」

「では、エール様。少々お手合わせをしていただいてもよろしいでしょうか?」

「え?あー…」そういう事していいのだろうか?

メナドの方に目をやれば、木の剣を持ったメナドと小さい女の子がかつんかつんと軽い打ち合いをしていた。

「あーうん、いいみたいだね。んじゃやろうか?」用意されている木剣を2本持ってきて、1本チルディちゃんに渡した。

「ありがとうございます、ではあちらで…」

そういうことになった。

 

そして5分後。

「…っ」「わたくしの勝ち、ですわね」「…はい…」

あたしの首元にチルディの木剣が突き付けられていたのだった。

いや、マジか。あたしもちょっと油断していたけども…

体の小ささを生かして潜り込まれ、素早い剣裁きで畳みかけられた。

あたしも背の高い方ではないので下からの攻めには不慣れで、慌てて薙ぎ払ったのを見切られて…うん。

メナドが心配そうに駆け寄ってくる。

「エール、大丈夫?」「あ、うん…平気…」

チルディは一歩引き優雅に礼をするが…その口元は笑っている。

くっそー…でもすごい才能だなぁ…さすがはリーザス、人材豊富だ…

悔しいけど認めよう、と思って顔を挙げ…

「でも、ちょっとがっかりですわ。親衛隊や赤軍からスカウトされるような方がこの程度なんて…誰か親密な方でも上層部にいらっしゃいますの?」

「…………………………チルディちゃん。もう1本やらない?」あたしは笑顔で提案した。年上の大人にふさわしい笑顔で。

「いいですわよ?今のは奇襲がうまく入った形ですし…」

「うん、ありがとう。あ、メナド。剣貸して」「え?」

メナドが持ってた木の剣を借りて、二刀を構えた。

「…二刀。バジバハル流でしたの?」

「バジバ…?何それ?」

「あら、失礼。我流でしたか」

くすくす笑って剣を構えるチルディ。…その通りだけど!

「…行くよ。でりゃあ!」「っ…ふっ!たあ!」「わっ!」

ためしに切りつけてみるが、あっさり流され、反撃で首筋を狙われたのを無理やり身を捻って躱した。

追撃されたらまずかったが、チルディは余裕そうだ。

くっそー…やっぱ対人剣術を学んでるんだろうなぁ…

でも、あたしは騎士じゃなくて冒険者だ。相手が強いからとはいそうですかと負けるわけにはいかないよね。

お兄ちゃんの自信にあふれたバカ笑いを思い出し、気合を入れなおす。

「すーはー…どりゃあああ!」「きゃっ!?」

あたしは片手の剣をチルディめがけて思い切り叩きつけた!チルディは驚きながらも軽くかわし、反撃しようとするが、

「ずりゃああ!」「くっ!」もう片方の剣を力任せに振り回して強引に阻止。

「どりゃどりゃどりゃどりゃどりゃー!」そのままひたすらに両手の剣を振り回して叩きつける。

「ちょっ!?きゃっ!なんて品のない!」

「そういう事は勝ってから気にすればいいのよ!」「くっ…はっ!」

叫びながら振り下ろした剣がチルディに綺麗に受け流された。

「貰った!」踏み込んでくる小さな影に、あたしは…

「っ…ぷち雷の矢!」「きゃん!」魔法をぶち込んだ。

手が止まったチルディの剣を弾き、両手の剣を首筋に突き付ける。

危ない…思わずカウンターぎみのエールキックをお腹にかますところだった…

流石に年下の子にそれはやりたくないよね。美少女で許されることも限度がある。

あたしはひとつ息をついてチルディに顔を向けた。

「ふぅ…よっし!あたしの勝ち!」

「っ!魔法!魔法なんて卑怯ですわよ!」

「えー?手合わせとは聞いたけど魔法はなしなんてルールあったっけー?」

「剣術教室なんですから当たり前でしょう!」

「へーそうなんだー。知らなかったー。次からそうしたら?ひとまずこれで2勝1敗ね!」

「なんでそうなるんですの!1勝1敗でしょう!」

「あたしは2本だから2勝なの。あ、ちなみにもうやんないからね」

「大人気ないですわよ!」

「あたしまだ17歳だもーん」「むきーっ!」

あたしとチルディは騒ぎを聞きつけてやってきたハリーさんに注意されるまでギャーギャーと騒ぎ続けた。

 

その後、結局チルディはあたしが剣と治癒魔法と攻撃魔法が使えることを知って、それだけ多才ならスカウトされるのも当然ですわねと納得して帰っていった。

なんでも女剣士として最強になりたいので、女性には誰にも負けたくないらしい。立派だなぁ…生意気だけど。

あたしはその後は反省してまじめに指導し、どうにか戴冠室当日に詰所に入ることを許可してもらえたのだった。




チルディはこの時12歳、身長は130cmくらいですね。
エールちゃんは146cmとあんまり大きくはありません。

都市守備隊の詰所の屋上の件はメナドが「友達」から提案されたそうです。

ハリーさんは才能限界18の戦闘技能なしだそうで
これくらいでランカー張れるリーザスコロシアムってそんなにレベル高くなさそうなんですよね
まあ、死んだり上位が軍にスカウトされたりして減ってくんでしょうが
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