【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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15.エールちゃんは北に行く

「うん、いいよー。ね、健太郎くん!」「うん、よろしくねー」

と、あたしの同行はあっさり認められた。

「それではマウネスから山脈を越え、ログBの街を目指しましょう。」

日光さんの指が地図の上を滑り、王都リーザスからノース、マウネスを経てヘルマンの国境の町を指した。

「ヘルマンとリーザスはこの間まで戦争してたけど入国できるのかな?」

「戦闘中でもなければ民間人の出入りはそれほど制限されませんよ。あからさまに怪しければ別ですが…商人や冒険者は頻繁に行き来しています」

「へぇー…そんなものなんだ…」

 

そんなわけで翌日、あたしは健太郎くん達と一緒に王都リーザスを出発した。

日光さんは刀の姿で健太郎くんの腰で揺れている。

長旅になるし、健太郎くんはともかく美樹ちゃんは平気なのかな、と思ったのだが…

「おーひさまぽっかぽかー。くーもさんふっわふわー」

「違うよ健太郎くん、そこはふわわふわーだよ」

「えーそうかなぁ?」「そうなの。」

「「おーひさまぽっかぽかー。くーもさんふわわふわー」」

めちゃめちゃのんきそうだった。

「…魔物に追い出されることになったのに、その、元気そうと言うかなんというか…」

「ええ。強い子たちです。本当に…」

正直こうしてみていると悲惨な境遇とは思えないな…

 

そんな調子の二人だが、旅慣れしているのは間違いないようで、特に問題もなくマウネスに到着した。

…のだが、マウネスの街には続々と商人たちがヘルマン側から戻ってきていて、聞けばマウネスから山脈を越えるルートの出口、ログBの街が封鎖されていて入れないらしい。

「どうしてなんです?」

「さぁ…説明もしてもらえなかった。封鎖してる警備隊もよくわかってないようだったなあ」

説明してくれた商人の背を見送り、あたし達は顔を突き合わせた。

「うーん。どうします?この辺に山脈越えのルートはないし…」

「ゼスの方から回るのも遠回り過ぎるしねぇ」

「しかたないよ。北上してスケールの街からログAに回ろう」

「ログAとかBとかややこしいなぁ」

「ヘルマンの都市はたいてい計画都市なので、こういった名前になるのですよ」

あたし達はバラオ山脈沿いに北に向かい、スケールから国境越えの山道に入った。

険しい山肌を削ってどうにか通れるようにしました、という崖沿いの道が延々と続いている。

「うへぇー…ずーっとこんな道が続くねぇ…」

「ひえー…」

「うわー。風もすごい。健太郎くん、落ちないように気を付けてね」

「うん、美樹ちゃんもね」

途中にある山小屋で休息をとりつつ進み、ログB…A? 北にあるからAだな。ログAにたどり着いた。

「…ふむ、怪しいものではなさそうだな。よし!次!」

街の門はリーザス解放戦で見慣れた格好のヘルマン兵が門番をしている。

さんざん戦った相手だし、なんかちょっと緊張するな…

その兵士はあたしたちをじろじろと眺めまわした。

「ふむ…女2人に男1人か…お前たち、入国の目的は?」

「ヒラミレモンを買いに行くんです。ねー健太郎くん」

「そうだね、美樹ちゃん。たくさん買おうね」

「…まぁいいか。通ってよし!ヒラミレモンならウォークランドか?遠いが気を付けろよ」

案外親切な人だったな…ちょっと新鮮だ。そうだ、ついでに聞いてみよう。

「そういえばログBが封鎖されてるそうなんですけど、理由って知ってます?」

「あー。なんか評議委員のお偉いさんが強権で封鎖しているんだよ。なんか病気が流行りはじめたー、とかで。」

「えー?病気?」

「ああ、なんか黒…なんとか病だったか。全く大げさだよなぁ。ちょっとひどい風邪くらいなもんだろうに…」

兵士のおっさんはストレスが溜まっているのか、うんざりした顔で愚痴をこぼし続ける。

「封鎖をしてるのはシタックとスーバって評議委員らしいんだが、全く現場の迷惑も考えてほしいね。なんでもあの死んだバカ皇子とも近しかったらしい。まったく、死んでも迷惑をかけるなあ、あのバカ皇子は!」

「へ、へぇー…」

あのアホ皇子、国元でも評価は最低なのか。まぁしょうがないよね。

「ま、宰相のステッセル様が二人の罷免に動いてるらしい。そうなれば封鎖も解けるさ。その時まで我慢するんだな」

「はーい」

あたしが兵士との話を切り上げて皆のところに戻ると、日光さんが神妙な顔をしていた。

「あれ?どうしたんです?」

「…念のためですが、帰りもログBの街には近寄らないようにしましょう。…もし、黒死病だったら取り返しがつきません」

よくわかんないけど、その方がよさそうだ。まぁルートからも外れてるしね。

 

ログAの町で一泊することになったのだが、寝床が固くて荷物から野営用の毛布を出して敷く羽目になった。

そして朝食のパンまで固い。

「はぐぐぐぐ…か、噛めない…」

「わー。このパンかっちかちだよ健太郎くん…」

「へルマンのパンは固いんだ。がんばろう美樹ちゃん」

歯が折れるかと思った。

へルマン人はこんなもん食ってあんなところで寝てるからでかく固くなるのかもしんないな。

ダイコン入りのスープを追加で頼んで浸して柔らかくしてどうにか食べた。

 

「さて、出発だー」

「次はゴーラクの街かあ…結構遠いよ」

「へルマンの街道は殺風景だから退屈だねえ」

「やあ、そこの坊っちゃんお嬢ちゃんたち。ゴーラクに行くのかい?」

あたしたちががやがやしながら門を出ようとしていると、フード姿の小男がニコニコと話しかけてきた。

「そうだけど、おじさん誰?」

「なに、ただの商人だよ。ここで荷物を下ろしてゴーラクのほうに帰るところなんだけど…良かったらうし車に乗っていくかい?」

「えー?いいんですか?」

「帰りに積んでいくはずの荷物が封鎖のせいで届かなくてねぇ…まあ、あと3人くらいどうにかなるさ」

男が振り向いた方を見れば頑丈そうなうし車が止まっていて、女の子が数人乗っているのが見えた。

「あたしはいいと思うけど…どうする?」

「そーだね。せっかくだから乗せてもらおうよ、健太郎くん。」

「うん、そうしようか。日光さんもいいよね?」

「…まあ、構わないかと」

そういうことになった。

 

うし車はガタゴトと揺れながら進むが、さすがに歩くよりも断然楽だ。代わり映えのない景色にも少しづつ変化が出てくる。

「わー。美樹ちゃん。湖があるよ」

「ほんとだー。お魚はいるかな?」

このカップルはいつもこうだな…

「ねぇ、ちょっといい?」

「えっ?なにか?」

二人を眺めていると、隣に座っていた女の子から声をかけられた。

内側に丸まった茶髪にぱっちりした目の結構かわいい子だ。ピンク色の服で割とおしゃれしているのはへルマンでは珍しいかもしれない。

「あなた、あの二人の護衛かなにか?」

「いや、あたしは二人の旅に付き合ってるだけの…うーん、友達…かな?」

友達といっていいのだろうか?

あたしが首をかしげていると美樹ちゃんたちが振り向いた。

「エールちゃんは友達だよー。ね、健太郎くん。」

「うんうん、色々親切にしてもらったし」

「そ、そうなの…」

ちょっと照れるな…えへへ。

「ふーん。じゃああの男の子がお金持ちとかそういう訳じゃないのね。立派な刀持ってるし、もしかしたらと思ったんだけど…」

茶髪の女の子はつまんなそうにため息をついて座り込んだ。

少し不機嫌そうに髪の毛をいじりながらぶつぶつと続ける。

「私、ついこの間まで軍でお茶汲みやってて、そこの偉いオッサンに割と気に入られてて結構いい目見てたんだー。」

「は、はぇー…」

「でも、なんか新しく来たサル顔の男にハッパかけられて偉いオッサンが妙にやる気だしちゃってさー。お茶飲んでる場合じゃねぇってクビになっちゃったの」

「そうなんですか…」生臭い話だなあ…でもへルマンではよくあることなのかも…

「あーあ。また再就職かあ…ってことでまた羽振りの良さそうな男を探してるの。あ、私ソルニア。よろしくね」

「エールです。冒険者やってます」

道中暇なのでソルニアと色々話をしたが、へルマンは男社会で、女の子は苦労が多いそうだ。

まず仕事がない。まず義務教育がないので商売も難しい。軍にでも入ろうにも女の子は大抵体力テストで落とされる。

どこかの学校の出とか、魔法が使えるとかでないと、軍にはとても入れないそうだ。

冒険者とか傭兵になろうにもへルマンの武器はどれもこれも分厚くて重いし、農家になっても稼ぎは悪く、教育がないので商売もできない。

そんなわけで、へルマンの女の子が幸せになろうと思ったらいい男を捕まえるのが一番手っ取り早いのだという。

「あーあ。せっかく将軍だーとかいうオッサン捕まえて安泰だと思ったのに」

がっくりと肩を落とすソルニア。

玉の輿狙いとか生々しくてちょっとなあと思ってたけど、厳しいへルマンでは仕方ないのかもね。

「あたしは孤児院出ですけど、自由都市も孤児には結構厳しいところがありましたよ」

「そう?結構いい服着て冒険者やれてるじゃない。」

「あたしは強いので。…魔法も使えますし」

「さらっと言うわね…でも魔法使えるんだ。いーなー…私も使えたらなあ…ねぇ、メイク教えてあげるから魔法教えてよ」

「魔法は子供の頃からの基礎教育がないと…」

「えー?じゃああなた孤児院で教えられたの?」

「一応聖句くらいは…」

「あれ?」

外を見ていた健太郎くんが不思議そうな声をあげた。

「どうしたの?健太郎くん。」

「なんだか街道を外れて…山に入っているような…」

確かに外を見るといつの間にか山あいに入っている。

うし車は徐々に減速して止まった。

「おじさーん。道間違えた?」

「いーや、ここでいいのさ、ここでね…ひひっ!」

小男はうし車から飛び降りて走り去った。

「うーん、これは…」なるほど、騙されたみたいね。

あたしは腰の剣を確かめた。

「…ええ。健太郎、警戒を。美樹は奥に。エール、すみませんが」

「あ、はい…」「うん、了解。」

健太郎くんと一緒にうし車から降りると、回りの森から次々と思い思いの武装をしたむさい男たちが現れ始めた。

「え?何?なんなの?」

ソルニアが取り乱してキョロキョロしている。

もしかしたら、と思ったが巻き込まれただけか…

下がってるように手振りして、あたしと健太郎くんが前に出ると、それを見たヒゲモジャの男が舌なめずりしながら近寄ってきた。

「…男一人とそれなりに上玉の女が…何人か。ゲッヘへ…大漁大漁。さて、おとなしくしてもらおうか」

「ヒヒヒヒヒ…」

ボロい斧やら粗末な槍やら弓やらをこちらに向けてゲラゲラ笑う男たち。

どうみても山賊です。本当にありがとうございました。




ソルニアのあまあま口調は再現できる自信がなかったので10準拠ということで。

スーバとシタックはR9でヒューバートに助けられた元評議委員ですね。
別段高潔とかすごい有能とかではありませんがヘルマンの事はちゃんと想っていたので当然のように失脚して幽閉されていました
ババロフスク送りじゃなくてよかったですね
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