御伽学園戦闘病   作:はんペソ。

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第百二十九話

御伽学園戦闘病

第百二十九話「|真実(ウソ)」

 

薫は一度先に出させていた捜索班を引かせる事とした。ただ莉子と他のメンバーと共に帰らなくてはならないので同じ場所に集まらなくてはいけない。

捜索はエスケープ三人とポメに任せるとしてどうやって菊、莉子、影、漆を集めるのだろうか。指示を出しても完璧に位置を特定できていない以上時間がかかる。その分語 汐と遭遇する確率が高くなる、遭遇したら先程同様通信が途絶え面倒くさい事となるだろう。

 

「まずは漆の捜索が先か?それとも私らはもう帰った方が良いのか?」

 

菊のその一声で更に迷う。一番良いのは漆を切って三人を帰還させる事だろう、漆とは連絡も取れずモニターにも映らない。ハックも居場所が分からないようでお手上げ状態だ。

エスケープ三人は一緒に居るので何とかなっているが二人はラック以外の二人は通信が取れない状態だ。なのでここで元行った三人を引かせてエスケープ三人に霊力操作の妨害をさせて漆の位置を特定するか。非常に悩みどころなのだ。

 

「最善策は漆を捨てる事だ。すぐにでも特定作業に移りたい」

 

「漆を!?やだよ!!」

 

ファルが訴えかける。薫もそれは分かっているようでどうすれば良いのか唸り考える、その間も操縦組は連絡を取りながら位置の特定に励む。

 

「少し…待ってくれ…」

 

薫はそう言って立ち上がり部屋を出た。すぐに帰って来るだろうと思い操縦組は気にしない、ただ別部屋から覗いていた|突然変異体(アーツ・ガイル)の一人[大和田 佐伯]は薫と少し話がしたいと思い部屋を出て薫の後を付いて行く。

 

「薫さん」

 

「なんだ」

 

「提案があるんです」

 

「提案?」

 

「はい。まず僕に『広域化』をください。薫さんなら持っているでしょう」

 

「何だよ急に、なんで渡さなくちゃいけないんだよ」

 

「そしてその広域化を新宿で僕が行います。僕は霊力指数が480と非常に高いです、なのでコツを掴めば新宿を丸ごと範囲内に収める事が出来ると考えています。そしてそこからが大事です、新宿全体に『インストキラー』のような念能力を霊力の消費を極端に少なくして放ちます」

 

「はぁ?」

 

「そうしたら通信機に強制的に霊力が流し込まれるはずです。漆さんとも連絡が付きますし語 汐に対する牽制になります。

霊力が高い、所謂能力者なら広域化発生時に起こる楕円形のドームは見えて騒ぎになる可能背もあります。そして一般人にも少しの痛みが伴うかもしれません。ですがやる価値はあると思うんです…どう…ですかね?」

 

佐伯が返事を待つ。すると薫は踵を返し本室に戻ろうとする、佐伯が急いで通せんぼし返事を促す。すると薫は佐伯の心臓に手を当て能力を発動しながら言う。

 

「やるんだよ、その戦法」

 

佐伯は嬉しそうに笑い感謝の意を述べた。薫は「そんなの良い」と言って部屋の扉を開けた。皆どんな指示が飛んでくるか緊張しながら待つ、薫は席に座ってから言った。

 

「[大和田 佐伯]の提案により二名を新宿に送る!まず[大和田 佐伯]、こいつに能力『広域化』を受け渡した。そしてこいつの霊力指数は480、充分使いこなせるだろう。そして新宿全体を対象として念能力を発動する!ただ攻撃と言う意図では無く何処かにいるであろう漆の通信機に霊力を流すためのものだ!」

 

その発言に数名は反対する。まずは会長だ。

 

「ですが先生!一般時にもダメージが...」

 

「そんなこと重々承知だ。責任は俺が持つと言ってある、気にするな」

 

次は拳だ。

 

「でもそれだと漆を探してるとかバレるし何よりTISにバレるんじゃねぇか?」

 

「バレてもいい。そしてTISはこの事を知っているはずだ、元々新宿には[久留枝 紀太]と[アリス・ガーゴイル・ロッド]がいたと考えられる。となると語 汐もあの五名の霊力ぐらいじゃ気にしない筈だ、にも関わらず漆の元に現れたと言う事は元々知っていた、と考えるべきだ。

他には何か無いか」

 

すると咲が手を挙げる。

 

「念能力の人は誰なんでしょうか、この中に攻撃性のある念能力を持っている方はいらっしゃらないと思いますが?」

 

「いや、いる」

 

「誰でしょうか」

 

「お前の後ろにいるじゃん」

 

薫が咲の後方に指を差した。そこには金髪で眼鏡をかけている女教師、[幸轍 絵梨花]だ。

 

「え?私?」

 

「お前らなら手加減ぐらいできるだろ、しかも一回の発動じゃ霊力消費何てほぼ0だろ?」

 

「分かった!!!出来るだけ手加減しよう!!!」

 

「頼むぜ、じゃあ今すぐ行く。あと数時間で日が暮れちまう、出来るだけ早くしたいんだ」

 

子の基地に来たのは正午あたりだった、そこから説明や捜索等の事をしている内に三時間経っていて今は十五時なのだ。日が暮れたら影の独壇場ではあるがそれ以外の者の捜索能力が著しく下がってしまう、影も新宿なら昼でも問題なく移動出来ていたので夜には持ち込みたくないのだ。

薫は二人の傍にゲートを生成した。

 

「んじゃ、行って来る!!」

 

「それでは」

 

二人はゲートに入って行った。念の為ゲートは閉じずそのまま置いておく。

 

「ハック、紫苑と礁蔽のカメラを一旦消して絵梨花と佐伯に繋いでくれ」

 

「へいへい」

 

ハックは今まで同じ通りに中継しようとした。だが異常が発生する、ただ異常事態では無いので軽い雰囲気で説明する。

 

「あーなんか佐伯は無理だな、霊力に差があり過ぎるのかもしれん。いやでも絵梨花は付くな、よく分からんけど佐伯は無理だ。繋げることが出来ない、とりあえず一番高いビルの屋上みたいだぜ」

 

「そうか。まぁ絵梨花が見れるなら何とでもなる、とりあえず待つぞ。操縦組は漆から連絡が来ないか気を張っておけ」

 

二人が能力を発動するのを待つ、どうやら佐伯と軽く打ち合わせの様な事をしているようだ。そして二分後、絵梨花が真上を見て手を振ってサインを出した。

その後佐伯が能力を発動した。すると新宿全体が青白い楕円上のドームに包まれた、ただ通れなくなるわけでも無くただの霊力で出来たドームと言う事だ。そして絵梨花はゆっくり、慎重に指を鳴らした。と言っても手加減し過ぎてカスっていたのだが。

その瞬間新宿全体に霊力が流れた、霊力の強い一般人は多少痛みを感じたがそんな騒ぎになる程でもなかった。

 

「よし、成功っぽいな。後は漆からの連絡が...」

 

兆波が黙るようサインを出したので口をつむぐ。兆波はどうやら漆と通信しているそうだ、だが会話をしている様子は無い。そして兆波はヘッドセットを外して何があったかを話し出す。

漆から通信が来たものの会話は出来なかったらしい、だが雑音は聞こえて風の音だけは聞こえたとのことだ。

ただ他の捜索班に聞いたが風などふいていなかったと言う。なら何故通信機に音が入る程の風切音が聞こえたのだろうか、答えは単純。

 

「漆は高い所に居る!恐らく立ち並ぶビルの屋上だ!影と莉子ならいけるはずだろう!周囲のビルや建物の屋上を探し回れ!」

 

漆は何とか見つけることが出来そうだ。だがそうすると一つ問題が生まれる、どうやって漆を高い位置まで連れて行ったのかと言う事だ。

語 汐の能力は霊力操作や能力発動を妨害するサポート系かと思われていたがそれでは漆が高い所にいる説明がつかない。一番有力な線は語 汐以外にも誰かTISの仲間がいると言う事だ。

 

「帰還!!!!」

 

二人がゲートを通じて帰って来た。何が起こったかを説明すると絵梨花は一つの疑問を持った。

 

「いや、ビルの屋上には居ないぞ」

 

そう、二人は一番高いビルにいたのだ。ただそれだけなら漆を見つけ事は出来ない、単純に遠すぎて見つけれなかっただけだ。だが一つとても大きな理由があるのだ。

 

「風なんてふいてなかったぞ」

 

「…は?」

 

すぐに佐伯にも訊ねるが確かに風は無かったと言う。なら何故風切音があんなにも鮮明に聞こえたのだろうか、どう言う事なのか起きうる現象を絞って行く。

高い所にいたわけではない。何か風を発生させる装置的な物が近くにあったのか?そう聞くが兆波は「いや、換気扇等から出る風の音では無かったです。完全に風の音だけで…」と答える。

すると後方、生徒会のメンバーの一人である[目雲 蓮]が声を上げる。

 

「まさか!!」

 

「どうした、蓮!」

 

「その音って聞けますか!?」

 

「あ、あぁ。聞けるぞ」

 

蓮は兆波の視覚を一瞬奪って席に付いた。そして音を再生する、そして完璧に分かった。蓮は目が見えない、ただ『目躁術』を使って今まで生きながらえて来た。ただまだ幼く能力の扱いも年相応の頃蓮は不運が重なり相当高い崖から落ちてしまった事があるのだ。その時の音ははっきりと覚えている、そしてその音は今ヘッドセットからも流れてきている。

 

「恐らく…落下している時の風の音です」

 

「何!?」

 

薫がヘッドセットをもぎ取り音を聞く。すると確かに音が聞こえる。

 

「まさか…漆は…ビルから落下した?」

 

 

[捜索組エスケープ班]

三人は未だ皆の場所が掴めず走り回っていた。一般人と同じぐらいのスピードで走っているとある場所に人が集まっていることに気付く。まさか誰かがやられたのかと思い見に行く。

人混みを掻き分け人が群がっている正体を理解した。そして理解すると共にその者に駆け寄る。

 

「漆!!どうした!!」

 

漆がビルの付近で血だらけになって倒れているのだ。ラックは状態を確認して周囲を見渡し近くのビルから頭から飛び降りたのだと推測した。だが何故飛び降りたかは不明だ、漆も能力を大胆に使用する事は避けたいであろう。ならビル内部や非常階段から屋上に向かったのだろうか?だがその痕跡も見受けられない。本当に謎だ。

 

「なぁラック、俺思う事があるんだよ」

 

紫苑が口を開く。ラックも何か聞くと紫苑は漆の真上を見る様言った。すると数十メートル上空にリアトリスが浮遊している。

 

「おかしくねぇか。落下中ってそんな大幅には動けないだろ?しかも傷的に頭から落ちてるし、なのにその位置なの。だってリアトリス見て見ろよ、ビルから結構離れてるぜ?」

 

そう、ビルとは少し距離があるのだ。確かに落下中に移動は出来るかもしれないが紫苑が言っている通り頭から落ちているのにそんな悠長に移動している暇などないだろう。万が一自ら飛び降りたのだとしても変に動いたりはしないだろう。

 

「ちゅーことは漆は誰かに落とされたとでも言うんか!?」

 

状況が把握しき切れず混乱してくる。すると唐突に一人の少年が漆を抱きかかえ跳び出した。何が起こったのか理解できずその少年を見ると狐の面を身に着けている、すぐに事態を察し少年が向かった方へと全速力で走る。

するとある路地の中に入って行った。三人も同様に曲がって進もうとすると路地の少し奥の方で少年が立ち止まっている。

 

「[久留枝 紀太]、なんで漆を攫った」

 

「人聞きが悪いなラック。僕は助けてやろうと思っただけさ、恐らく今は情報が遮断されているだろう。だから俺が霊力を放つ、そしたらお前らの仲間が一人ぐらい来るだろ」

 

「…やれ」

 

ラックは内心半信半疑だったが紀太の言う通りにさせた。すると霊力を感じ取ってかすぐに影が現れた。そして紀太が敵だと思い戦闘体勢に入っている影を説得し通信を図るよう促した。影は怪しみながらも薫に連絡する、そして漆の状態や紀太が手を貸してくれた事、回復薬が必要な事などを全て話した。

 

「分かった。タルベを送るからこっちに連れ戻してくれ。それと影は通信機をラックに渡してから一緒に帰って来てくれ」

 

「私もですか?分かりました」

 

要件を伝えきるとエスケープと紀太の間にゲートが生成された。そこからはタルベが出て来てすぐに漆に能力を使う、完全には回復していないようだがひとまず連れ帰れる程にはなった。なのでタルベは漆をおぶってからゲートに再び戻った。

 

「それではこれを」

 

影はラックに通信機を手渡してから同じようにゲートに入って行った。そして三人が帰ったからかゲートが閉じられる。ラックは少し話をしたかったので紀太がいた場所に視線を移す。だがその場に紀太がいない。

 

「まさかあいつ!!」

 

すぐに薫に連絡しようとするが既に遅かった。

基地内にチリーンと音が響く。紀太は面を外しながら薫の顔を見て言い放つ。

 

「ちょっとだけ、交渉しようぜ。薫」

 

侵入されたのだ。一瞬の隙を突いて。そして紀太は交渉を持ち掛けて来る、内容はと言うととてもじゃないが正気とは思えない内容だった。

 

「捜索を今すぐやめろ。僕はもうTISでは無いが新宿でアリスと暮らしている、これ以上面倒毎を増やされると迷惑なんだよ。こちらも」

 

「無理だと言ったら?」

 

「語 汐に力を貸してしまうかもしれないな」

 

「…だったらお前らも島にくればいいだろ。わざわざ新宿なんかで暮らさなくても安全だし...」

 

そう言いかけた瞬間薫の喉元に刃が突き立てられる。紀太は降霊術師でもあるが自分でも戦うのだ、そして得意な武器は短刀だ。そして紀太は顔を近づけながら怒りの表情を露わにし言う。

 

「アリスが新宿で暮らしたいと言っているんだ。こんな場所で暮らしてたまるか。アリスが望んだ場所、物、動作を俺は与えるまでだ。お前に何かを指示されて従う程優しくは無いぞ」

 

「それでも俺はやめない。なんなら今ここでお前を消し去っても良いんだぞ」

 

マジのトーンだ。すると紀太は諦めたようで距離を取った、薫は大人しく帰るよう言い聞かせゲートを生成した。

紀太はとても不機嫌そうにゲートに入ろうとするが寸前で立ち止まり一言残す。

 

「気を付けろ、語 汐の前では何もかもが無力だ」

 

そうして紀太はゲートに入り帰って行った。この言葉は真実だった、だがそれと同時に嘘でもあるのだ。

 

 

第百二十九話「|嘘(しんじつ)」

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