御伽学園戦闘病   作:はんペソ。

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第百三十二話

御伽学園戦闘病

第百三十二話「八月二十九日午前八時零分」

 

目を覚ます。布団から立ち上がり顔を洗ったり朝のシャワーを浴びたりして身支度を整えてから本室に向かう。

既に翔子と兵助だけ起きていて昨日のカメラをくまなく見ている、挨拶をすると存在に気付いたようで挨拶を返してくれた。

 

「おはよう薫、ちょっと外の空気でも吸ってきたら?ある程度は空気入れ替えれるようにしてあるけどさ。やっぱ実際に外行く方が良いじゃん」

 

「んーそうだな。ちょっとだけ散歩してくるよ」

 

エレベーターに向かう。ボタンを押し到着するのを待つ、そして扉が開いたので乗り込んだ。そして扉を閉めようとしたところで翔子が口を開く。

 

「ラックが散歩行ってから帰って来てないから連れて来て」

 

「りょーかい」

 

ラックの事を任されて地上に上がる。外に出ると眩しい朝日に当てられる、数年前と全く変わっていない景色と朝特有の匂いにノスタルジックな気持ちになりながらもラックを探す。

恐らく自宅か学園、それか無くなったので菊の部屋にポメのご飯でも取りに行っているのだろうと思い先に学園と寮に向かう。

 

「ラックの家遠いから嫌なんだよなぁ。まぁゲート作ればいい話なんだけど」

 

そんな独り言を呟きながら学園へ到着した。既に生徒達が登校を始めていて挨拶をしてくる。すると薫目がけて一人の少女が走って来る、待っていると目の前で立ち止まり息を切らしながら交渉を始めようと試みる。

 

「薫…先生!私も、連れてって!」

 

「無理だ、美琴は連れて行けない」

 

「なんで」

 

「本当に死ぬぞ。今は学園の奴らがいるから狙われてないだけで無防備になったらまた佐須魔に呪を...」

 

「それでも良いから」

 

「駄目なもんは駄目だ。なによりお前は強い、万が一今の生徒会が負けたら継ぐ存在なんだ。あんまり無茶して貰っちゃ困る。それよりラックを...」

 

「連れっててよ。私は学園の為に強くなったわけじゃない、誰かを護るために呪を極めたわけじゃないの。先生を、[翔馬 來花]を殺す為に強くなったの!」

 

「良い事教えてやろう。たとえお前が本拠地に入ったとして來花と遭遇する確率はゼロに近い」

 

「どう言う事」

 

「教師も全員行くんだぞ?三獄は絶対に俺ら教師の所に来る、なんなら今まで姿を見せて来なかったボスでさえも出て来る可能性があるレベルの事態だ。そんな事態の時に弟子とのいざこざを優先するとは思わないぞ、あの男は」

 

「…もういい」

 

美琴は俯いて走り去ってしまった。

どれだけ懇願されても連れて行く事は出来ないのだ、美琴は学園に居る呪使いでは最強格だ。そして佐須魔は呪を吸っている数が少ないので確実に狙われる、今はどんなでまかせでも良いから美琴を説得するしか無いのだ。

こう言う役回りも自分の仕事だと割り切って学園内を捜索する。だが誰もいなく作戦の事を知らない一般生徒に昨日学園に居なかった理由を訊ねられたぐらいだ。

他の生徒に寮でラックを見たか聞いても首を横に振るだけだ。絶対に自宅にいると察した。

 

「出来れば九月一日までに探し出したいんだよなぁ。その日に突撃しても日数的に問題は無いけどやっぱりパフォーマンスがガクッと落ちるだろうしな。

まぁ昨日連絡が来て昨日動き始めたから実質猶予は四日だったもんな…昨日は休んでも良かったかもしれないな」

 

昨日の出来事を整理し一人反省会をする。九月一日に本拠地に入ればいいので二十八日からなら四日の猶予がある、ただ昨日は焦り過ぎて生徒に心の整理もつけさせずに行動を始めてしまった。こうなった以上もう止まる事は出来ないが直すべき箇所は多数あった。

 

「やっぱ指揮出すの苦手だなぁ…あいつも俺のせいで死んだみたいなもんだしな…」

 

薫が言ってるあいつとは四年前の大会に出たメンバーの一人だ。前大会までは一チームの参加人数が四人までだったので生徒会からは会長の薫、そして絵梨花と崎田、最後に[唯利(タダリ) 紗里奈(サリナ)]である。神話霊の[ガネーシャ]を扱っていた。

ガネーシャは破壊と再生を司る神である。紗里奈は薫にも勝てる程の実力者だった。ガネーシャと言う最強格の神を扱いあの佐須魔でさえも追い詰めていたのだ、だが薫のあるミスによって死んでしまった。薫はそのミスを今でもとても重く受け止め、せめて罪悪感を逃れたいと言う利己的な思考に陥りガネーシャを吸い取ってサリナの魂もラーに喰わせたのだ。

教師は皆その事や他の罪を知っているので深く詮索はしないがただ一人だけ不満を持っていた。

 

「…あの時のミスを取り返す事はもう出来ない。だからこそ挽回しなくちゃならないんだ…」

 

最後までやり切らなくちゃいけない。どれだけ他の罪を被り被せようが最初に負った罪、[唯利 紗里奈]の殺人を償わなくてはいけないのだ。その過程でどれだけ罪を追っても良い。そうやって目を逸らし続けないと生きていけないのだ。

薫は怪物だ、所詮怪物なのだ。神ではない。怪物にだって心はある、そして他の怪物と共鳴したがっている。その心の叫びが教師と言う仕事に現れているのだ。

 

「…ゲート使うか」

 

ゲートを生成してラックの家に移動した。すると大きなガラス窓の中からラックが見えた、セキュリティは飛行すれば無視できるので完全ノーダメージで家に侵入した。

ラックも扉が開いた音で誰かが入って来たのは理解していた。そしてすぐそばまで来て薫と言う事に気付いた。

 

「どうした?」

 

「いや散歩行こうとしたら翔子がラック連れて来いって」

 

「分かった。行こう」

 

ラックはコーヒーカップを水に浸けた。そしてそのまま基地に行くのかと思っていたが少しだけ待つよう言う、薫も今日の日付が『八月二十九日』だと言う事に気付いて待ってやることにした。

そして午前八時、ラックはある写真を前にして目を閉じた。薫も目を閉じる。そして一分間してから目を開いた。

 

「八月二十九日、能力者戦争終戦日だ。正直俺は今日作戦に参加したくない」

 

「別に良いぞ。俺はお前の事情ぐらい分かってる」

 

「いや、やるさ。それが俺の使命だ」

 

「そうか。んじゃ先行ってる、ゲートは出しとくから来いよ」

 

薫はゲートを生成した先に帰った。ラックは軽く戸締りだけ確認して一つの写真を眺める。それはモノクロの画質が悪い写真だ、シミも目立つし言ってしまえば汚らしい。

そんな写真には五人の人が写っていた。一人はその写真の年代にはあると思えない程フリフリのゴスロリの少女、一人は身長がとても高く眼鏡をしている和服のイケメン、一人はガタイが良く傷だらけのゴリラみたいな見た目をしている奴、一人は黒髪ロングの綺麗な女の子、そして一人は中央に立ち金髪で一番大人しそうな見た目をしている青年だ。

 

「絶対に終わらせるよ、後三年、それがタイムリミットだから」

 

ラックはそう言ってから写真に向かって敬礼をした。そしてゲートに入り基地へと戻って行った。この日は能力者にとても大きな転機が訪れた日だった、能力者全てが絶望し涙を流した日だった。

だが今は振り返っている暇は無い、進むべきだ。百年も経った今、能力者戦争に継ぐ転機は既に始まっているのだ。

 

 

[TIS本拠地]

 

「あの人たちは偉大だったよ。とてもとても」

 

「佐須魔さんは知ってるんですか?たしか今は二十歳でしたけど」

 

「あぁ。記録だがね、あの当時超前線に出向いてた一人の男が能力で記憶して一つの短剣にその記憶を封じ込めたんだ、自分の魂と共に。

三獄全員でそれを探し出して見たんだよ。ただ誰かに見せたくなるような物じゃないね、ただ忘れてはならないよ、原」

 

「はい。それは分かってますよ」

 

「なら良いよ。にしてもそんな日になんで僕らを攻撃してくるかねぇ」

 

「さぁ…あっちの薫さんとかだってそんな非人道的な事はしないと思うんですけどねぇ」

 

「ま、良いさ。あいつはおかしいからね、考えても分かんないさ。そんな事より今日の朝ごはんと昼ごはん何~?」

 

「何でもいいですよ。作りますから」

 

「やったー!朝は軽めで昼はハンバーグ!」

 

「良いですよ、それじゃあ食堂行きましょうか」

 

二人は食堂へと向かう。八時なので朝ご飯の時間だ、そして丁度みんな朝のトレーニングを終える頃なので一番人が多い時間帯だ。流もいるし素戔嗚もいる、ただ二人は部屋の真反対の所で食べていて本当に心の距離と物理的な距離が同じなんだなと思う。

 

「さて、それじゃあ作って来ますね」

 

「うん。よろしく~」

 

原は厨房に入って行った。佐須魔は適当な席に座って完成を待つ。待っていると周りに色々な人が座って来る。

 

「よぉ佐須魔、隣良いか?」

 

「健吾おはよう。お好きに~」

 

健吾は佐須魔の隣に座って昨日の流の話を始める。矢萩は未だ完全回復しておらず自室で横になっているらしい、佐須魔の回復術をもってしても治らない威力とは末恐ろしい子だ。

二人共流は警戒対象だと言う。ただ流本人に聞こえているが全く気にしておらず朝ご飯を食べている。その姿を見ているとなんだか馬鹿らしくなり好きにさせてあげようと言う事になった。

 

「まぁ流より手が付けられない奴とかゴロゴロいるしね、ダイジョ~ブでしょ」

 

「まぁな。それより今日の朝食何作ってるんだ」

 

「シェフ原の気まぐれ朝ご飯だよ。詳細は知らない」

 

「そりゃ楽しみだ」

 

そんな話をしていると佐須魔の向かいに別の人物が座る。

 

「良い朝じゃのう」

 

「おはよう叉儺。よく眠れたのかい?いつも昼過ぎに起きるのに」

 

「流石の妾でもこんな時に呑気にしておられんわ。何より今日は終戦日じゃろう」

 

「叉儺が覚えてるなんて意外~」

 

「あまり馬鹿にするでない。妾の九尾だってその時に生まれた霊じゃ、それの礼では無いが先人達に最低限の敬意は払っておるつもりじゃ」

 

その後はご飯の話やら流の話やらで盛り上がっていた。すると四人分の朝食を持って原がやって来た。健吾と叉儺が来た事も見ていたようで二人の分も作って来てくれたのだ。

三人は感謝してから食べ始めた。原は料理がとても上手いので何を作ってもハズレは無い。ただ素材の味を生かす系シェフなので元の味が苦手な食材はあまり克服出来ない。

 

「野菜は嫌いじゃ、健吾が食え」

 

そう言ってサラダを健吾に押し付けた。健吾は嫌な顔一つせず受け入れるが原は自分で食べろと言い聞かせる、だが叉儺は生意気に言い返す。

 

「野菜は食べた方が良いですよ。美味しいですし」

 

「妾は嫌いじゃ、全部健吾が食えば良いんじゃ」

 

「肌荒れますよ」

 

「…」

 

黙りこくってしまう。佐須魔は眺めているだけだがどことなく楽しそうだ、そんなこんなで朝食を済ませ原は食器を持って行き他の者の食器とまとめて皿を洗い始めようとしたその時食堂に上の一人[コールディング・シャンプラー]が駆け込んで来た。

その慌てように佐須魔が違和感を覚えすぐに駆け寄り話すよう伝える。

 

「大変です!語 汐との連絡が途絶えました!!」

 

佐須魔はすぐに動き出した。他の者もすぐにでも戦闘が出来る様に準備をしておく、流は九月一日に来ると言ったものの今日来てもおかしくはない。

なので最大限注意をはらうのだ。佐須魔はすぐに來花の部屋に行く、そして來花に事情を説明して他の重要幹部にも伝える様言ってから重要幹部を全員集め今日やる事を手短に説明し始めた。

 

 

[新宿]

 

「よお汐、久しぶりだな」

 

「[久留枝 紀太]、貴方は今私達の味方ではない筈です。殺しますよ」

 

「そんな怒んなって。僕はアリスが連れて来てって言ったから連行したんだ。まぁアリスだってお前の命なんか興味ないだろうから安心しろ。ちょっと話したいことがあるぐらいだろ」

 

噂をしているとアリスが部屋に入って来た。アリスは語 汐の目の前まで歩いてからニコッと笑いかけた。直後顔面を思い切り殴った。紀太も急に殴ったので少し驚き語 汐に関しては何が起こっているかも処理できていなかった。

だがアリスは一発殴ると満足した様で部屋を出て行く。扉を閉じながら言い残す。

 

「私はニアちゃんの味方です。ニアちゃんの敵であるあなた方は私の敵です。あまり街中で目立たないようにお願いしますね。何かあったら殺しますからね」

 

アリスは最後までニコニコしていた。語 汐はあの笑顔から溢れ出る殺意を久々に感じて恐怖を覚えた、アリスがTISに居た時も皆感じていた。ただ中身は良い子なので皆仲良くしていたのだ。

だが敵に回したくない、絶対に。

 

「ほらよ、帰れ」

 

縛り付けていた縄をほどいた。語 汐はすぐに部屋を出て街中へと飛び出していく、その様子を見て紀太は言葉を零した。

 

「ホントにきもちわるい」

 

それは誰かに対する言葉でもあり自分に対する言葉でもあった。だが紀太には自分を責めている時間などなかった、アリスに言われた事があった。やらなくてはならない事だ。その為に御伽学園の生徒を探す。

その目的とは『TIS本拠地に乗り込む』事だ。その為に一時的に学園の奴らと手を組もうと思ったのだ。ただそれは叶う事が無いだろう、何故なら紀太には既に意識が無かったのだから。

 

「一酸化炭素中毒、私の為に死んでください。紀太さん」

 

[霧島 伽耶]、天才研究者であり最悪の能力者。ただ彼女が表に出た時には一人の男が付随する。その男の名は[霧島 透]、突然変異体(アーツ・ガイル)の天才能力研究者だ。

 

「何してんだよ。まぁいい、とりあえず話そうぜ、クソ姉貴」

 

 

第百三十二話「八月二十九日午前八時零分」

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