御伽学園戦闘病   作:はんペソ。

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第三十六話

御伽学園戦闘病

第三十六話「Bet」

 

この街で同時に発生した戦闘箇所の一つ、そこは工場以外何も無い工場地帯そのものと言っていい場所だった。そこには三人の男が佇んでいる。

須野昌は取れかけていたマフラーを一度外し再び首に巻く。そして完全に透明になっている状態で霊を召喚してから自分は防御の構えを取った。

蒼はポケットからカプセル錠剤を一つ取り出し「ぶっつけ本番…でもやるしかないか」と呟いてから錠剤を飲み込んだ。すると顔に少し謎のヒビが入る、少し恐怖あるがそれより霊力が増した事が分かる。

神はくるくると回転したり鼻歌を歌ったりと戦闘体勢を取ることすらせずただ陽気に跳ね回っていた。

 

「なんかよく分かんないけど…やるぞ蒼」

 

「そろそろ先輩を付けてくれると嬉しいな」

 

「はっ!?嫌だね!」

 

「んー?良いかな?じゃあ早く來花の所行きたいからー…かいしー!」

 

合図と共に蒼と霊が神に向かって突っ込む、残り2mといった所まで近づいた瞬間神は姿を消した。須野昌が何かを感じ取り空を仰ぐ。すると神が浮遊しながら何かを唱えているのが見えた。

それに気付いた須野昌は霊を直ちに呼び、その霊に掴まり宙に浮いた。浮いた須野昌を見た蒼も気付いたのか人間離れした身体能力で工場の煙突に飛び乗った。蒼が飛び乗った刹那、二人がいた場所から黒い巨体にサッカーボール程の(あか)く澄んだ目、大きすぎる口に十数本生えている煌びやかな”棘“と呼ぶに相応しい歯が生えている怪物が地面から口を大きく開けながら飛び出し、直ぐに地面に戻って行った。怪物がいた場所には何も無くただただ石で出来た簡素な道が続いていた。

なんとか避けることの出来た須野昌は見たことの無い異形の怪物に酷く恐れ空中から降りる気配が無かった。蒼は煙突を踏み台にして跳び、宙に浮いている神の首根っこを掴み取って神を下にする形で落下を始めた。

 

「おお!?下手したら自分が死ぬのによくやるね!」

 

「うるさい。黙って死んでくれ」

 

「なんでー?たのしもうよー」

 

「さっさと片付けて來花を殺す」

 

「殺す」と蒼が言った瞬間神の態度が豹変し今まで自分が衝撃を受ける立場にいたが空中で体勢を変え蒼が下、自分を上に持っていき蒼が落下時のダメージを受けるように調整した後に口を開いた。

 

「來花を殺す?そんな事させる訳ねえだろクソガキ!!」

 

蒼はあまりの豹変ぶりに驚きふと力を抜いてしまった。その隙を突いた神にガッチリと体勢を固定され地上まで10mも無くなった状態で打つ手が無くなった。ただ蒼は今の身体能力が人間を超えている事ぐらい分かっていた。その事を考えて落下の衝撃だけならなんとかなるだろうと楽観的に考えている。だが流石の神でもそれぐらいの思考回路は読むことが出来るのだ、神は直ぐに対策の手を露わにする。

 

(のろい)自心像(じしんぞう)

 

そう唱えると先ほどの黒い怪物が地面から再び大きな口を開け飛び出してきた。蒼は悪足掻きをしようと体を動かそうとしたがそれも虚しく黒い怪物に体を喰われてしまう。だが右手首から上の部分だけが残った。それを見た神は少し考えた後その手を拾い懐にそっとしまった。

蒼の手をしまい終わるとゆっくりと須野昌の方を見る。須野昌は未だ浮遊したままで蒼が喰われたのを見てまるで油を注いだ炎の様に恐怖心が燃え盛り始めた。戦意を喪失している須野昌を見た神は呆れ、”退屈“、この一言に尽きる表情を浮かべながら來花のいる中央部へと向かうため須野昌に背中を向けトコトコと歩き始めた。

須野昌はただ恐怖と絶望を味わっていた。自分より何倍も強いはずの蒼がいとも容易く敗北し、姿を消したのだ。その心境に陥るのも無理はないだろう。だが何か不自然に感じていた。その違和感は言葉では表す事が出来ない。何故表せないのだろう?思考を巡らせる。

こう緊迫した中で『知らない事』に直面しその正体が何なのかを暴こうと思考を練る時は非常に体感だが時間の流れが遅くなる、須野昌が考えていたのは実に五秒と言う所だった。

だが須野昌はその『知らない事』の正体を掴む事は出来なかった。いや実質的には掴み理解はした。だが自分自身今の状況下でそんな事が起こるとは思えずその考えを否定してしまった。しかし否定したからなんなのだ、本能には逆らう事は出来ない。

気付くと地に足をつけあの赤髪の男へと走り出していた。神は振り向き先程までの人を馬鹿にする様な笑いではない、心の底から喜んでいる様な笑いを見せ須野昌の攻撃を受け流す事などせず体を大の字にして須野昌の攻撃を堂々と待ち構える。

今須野昌の心にあるものはただ一つだった。

 

「俺は最強だ」

 

須野昌は神の顔面を掴み直後に自分の霊を呼び出し神に向かって攻撃させた。すると神は体中から血を吹き出す。そしてその攻撃をくらった後に決めた。

 

「こいつを殺す」

 

だがそれは憎しみや嫌悪、妬みから来る殺意では無い。

ただ強い奴と出会えた、面白い奴と出会えた。そんな奴を殺す、そうすれば自分が強い事が証明される。

そうすれば自分は褒めてもらえる、そう思うと湧き上がるのは殺意なんて俗に塗れた感情ではない、高揚感ただそれだけだ。

須野昌は勝ったと思っていた。だが今戦っている相手はそんな甘ったれた考えを許す様な男ではない、神は反撃で顔を本気で蹴り上げた後直ぐに唱えた。

 

『呪・自心像』

 

すると地面から口を開けた怪物が飛び出してくる。須野昌は怪物に喰われる寸前に霊に掴まり高度を上げ口が届かない位置まで撤退した。だが怪物は負けじと口から少し小さくなった怪物を出し、その少し小さな怪物から更に小さな怪物を出し、まるでマトリョーシカの様にしつこく須野昌を追いかけた。須野昌は霊に掴まってひたすら逃げ回る。ちょこまかと逃げ回る須野昌の痺れを切らした神は今までとは違う呪いを唱えた。

 

(のろい)重力(じゅうりき)

 

唱え終わるとこの街一体の重力が急激に増加した。建物はミシミシと音を立てながら少し変形し始める、須野昌も飛んでいる事が出来なくなり隙を晒しながら降下し始めた。

ただそう易々とは喰われまいと移動しながら降下しているが怪物も逃がさまいと何度も口から怪物を出してを繰り返し須野昌からの距離を最低4m以内は保っていた。

須野昌は重力による圧と継続した霊力の消費に限界が近づいていた。十数秒間飛んだ後に須野昌は急降下をする事に決めた、ただし適当に降りる訳ではなく軽い作戦は考えていた。

それは急なUターンをして怪物から少し距離を離した後に急降下しそのままの勢いで本体の神を殴り倒す、と言うあまりに簡素な物だった。だが今の須野昌は勝ちを確信していた。

覚悟を決め一気にUターンをし、怪物と少し距離が離れた瞬間に急降下を始めた。だが須野昌は降下を初めて三秒後に喰われる事を確信した。須野昌が着地するはずだった場所には神が立っていた、もう間に合わない。

 

「結構いい筋だと思ったんどなぁ…まぁいいか!いたただきまーす!!」

 

そう叫びながら空を仰ぐ神の口からは本人の口、いや全体の何倍もあり怪物が飛び出し、須野昌を捉えそのまま捕食した。その場には血の雨が降り元々赤かった髪を更に赤くした神と大量の黒い怪物だけが立っていた。

ただ神は気付いてなどいなかった、須野昌は元々自分だけで勝つ気など無かったのだ。

だが援軍を待つのは無理だ。なら何をしたか?失敗した場合は自分さえも死にかねない賭けをしたのだ。誰に賭けたか?一人しかいないだろう、この場にいて自分より強い能力者[和也 蒼]にだ。

 

 

葛木 須野昌(カツラギ スノマサ)

能力/バックラー

持ち霊の体を自由自在に透明化させる事が出来る。

強さ/生徒会中堅

 

第三十六話「Bet」

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