御伽学園戦闘病   作:はんペソ。

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第五十三話

御伽学園戦闘病

第五十三話「メルシー」

 

紫苑はまずリアトリスに触れさせ平衡感覚を狂わせようと同時に前に出た。躑躅は霊に任せて後ろに下がる。紫苑は躑躅の霊を、リアトリスは躑躅と対面する事になる。

紫苑は足にほんの少しの霊力を込めて霊を蹴った、確かに感覚があったはずなのだが今までそこにいたはずの霊の姿が無い。

どこに行ったのかと周囲を見渡すが何処にもいない。まさかと思い振り返った瞬間後頭部に強烈な痛みが走る。唸り声を上げながらもそのまま振り向く。だが既にそこには霊の姿は無かった。

 

「どういう事だ」

 

「紫苑君に僕は倒せないよ」

 

躑躅はどうにも楽そうな声色だ。紫苑は躑躅の方を向く、すると躑躅はただ立ち尽くして紫苑と相棒が戦っているのを眺めていた。何故リアトリスの攻撃を受けていないのだろう、リアトリスが何をしているかを確認してみるとリアトリスは懸命に躑躅を攻撃しているが躑躅は何事もないようにピンピンと立っている。

 

「は!?」

 

「紫苑君は僕と戦った事も僕が戦っている様子を見た事もないですもんね。僕の勝ちは確定事項なので言っちゃいますね、僕は特異体質『無霊子(むれいご)』なんですよ」

 

「無霊子?…あぁあれか。一応薫に聞いた事はあるな。噂程度にしか思っていなかったが本当にいたのか」

 

「はい。無霊子とは霊を持っているのに霊力が無い人間の事を言います。その体質上見つかる事はほぼ無いのですが僕の霊は自発的に動きます。

それ故制御は出来ないですが霊力が少しでも籠っている攻撃はくらわないんですよ。勿論霊力の塊とも称される霊の攻撃も、ですね」

 

紫苑は舌打ちをしてから次の作戦を考える。だが作戦など立てても意味はない、自分は躑躅を攻撃し、リアトリスに霊を攻撃させる。それだけの話だ。すぐにリアトリスを引き寄せ役割を交代した。

紫苑が躑躅を殴ろうとすると躑躅は足払いを行った。紫苑は回避できずにすっ転ぶ。だがすぐに立ちあがろうと体を起こす。すると背中にジンジンとする鋭い痛みを感じた、間髪ない攻撃に怯んだ時点で敗北はすぐそこなのだ。

痛みを感じた背中に手を当てるとどうやら生暖かい、手を確認するとべっとりと血が付着している。手を見ている紫苑の正面には動く影があった。そして顔を蹴られる。吹き飛んで燃えている七輪に体をぶつけた。

七輪にはまだ火がついている。学ランの紫苑がぶつかったらどうなるかなど分かり切った事だ。紫苑はたちまち火の車になった。どうにか消火を試みるが躑躅が距離を詰めてくる、消火している暇などないと気付いた紫苑は一度逃げの体勢に入ろうとした。すると唐突に背中の炎から声が聞こえる。

 

 

勝てるのかい?今の君はエスケープチームの中で"一番"弱いよ?そんな情けないとまたあの時みたいになっちゃうよ?

 

 

その煽っている様な口調の言葉を受けた紫苑は呟く。

 

「うるせぇよ、俺は強くない。だが決めたんだ、強くなるってよ…と言うとでも思ったか?」

 

顔を上げた紫苑は何故か笑っていた。躑躅は何か策があるのだろうと思い一旦下がろうとしたがもう遅かったのだ。躑躅は口の中に何かが入ってきている事に気付くと共に目の前に佇むリアトリスが目に入った。

これが霊だと言う事は理解できるが何故見えているのかは分からない。紫苑の方を向くと紫苑はチョコを出して嬉々として説明する。

 

「これは霊力を増幅させるチョコだ。その小さな小さな破片をお前に飲ませた。霊の攻撃ってのは少しでも霊力を持っている奴には効くんだよな?じゃあこのチョコを食ったお前は今リアトリスが見えているはずだ。どうだ?初めて霊を見た感覚は」

 

躑躅が口を開こうとした瞬間紫苑は「黙ってろ」と言ってリアトリスに殴らせた。そして追撃を入れる為自信の足を突き出す。すると主を護ろうと霊が紫苑の背後に移動して来た。だが紫苑は攻撃を止めなかった。

 

「ずっと背中に攻撃をしてる所から見て背後に移動するって能力なんだろう。でも残念俺は霊力の操作が人より上手いんだ。だから自分じゃない物にも霊力を流せる。俺は炎に霊力を流した、今俺を燃料にして燃えている炎は霊力を帯びているから霊にとっては滅茶苦茶痛えだろ?」

 

思惑通り霊は炎を受け紫苑の背中から身を引いた。だが躑躅はそれを許さず初めて指示を出す。

 

「やれ!ダメージを横流しにしてもいい!だからやれ!」

 

炎がなんだ、霊力がなんだ、作戦がなんだ、主に必要とされた、それだけでも有り余る程力が湧いてくるじゃないか。

霊は再び紫苑の背中へ移動する。どうせ炎が痛くて再び撤退すると思っていたが甘かった。相棒は炎に飲まれながらも動じずに紫苑の背中に爪を突き立て切り裂く。攻撃してくる霊に驚きながらも今更止まる事は出来ないと距離を詰め続けた。

だが相棒が炎に揉まれ続けるのは無理がある。躑躅は戻ってくる様指示を出す、相棒はすぐさま躑躅の背後に移動した。躑躅は残り少ない霊力を振り絞る相棒の姿を見ようとしたが相棒はずっと躑躅の背中に貼り付いて姿を見せない。

その内躑躅の霊力はなくなった。だが相棒が常に背中に付いている事は分かる。

 

「君は僕のために頑張ってくれていた。今までのお礼も込めて名をあげるよ。行くよ[メルシー]」

 

そうして相棒にメルシーという名が授けられた、少年とメルシーは触れたり姿を見る事が出来なくても心で通じ合っているのだ。その信頼関係が力を生む。

 

 

第五十三話「メルシー」

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