1996年 7月。
謎の爆発事故に巻き込まれ死の淵を彷徨った私は「呪い」が見えるようになった。またこの爆発事故によって唯一の肉親である父を亡くした私は天涯孤独の身となった。
1996年 8月。
親戚の家に預けられ、転校先の学校にて「呪い」に襲われた私は初めて自分の手で「呪い」を祓った。
その日から私は「他の人には見えない呪いを祓う」それを自分が生き残った意味だと、存在意義だと、果たすべき使命だと認識した。
1998年 8月。
「呪い」と戦い始めて二年が経ち、ある日の呪いとの戦いで死にかけた私は偶然に術式の発動に成功。「呪い」を爆発させたことに今まで感じたことのなかった気持ちよさを感じた。その時から私は今まで自分が何の疑いもなく信じてきた存在意義は、果たすべき使命は誤りだったと確信した。
私が呪いを祓う理由はその日を境に大きく変化した。
他者の為ではない。自分自身の為に。再び私は呪いを祓い始めた。
──そして2004年の現在──。
──中学三年生 十五歳の私は──。
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芸術は爆発だ。
この言葉を知っているだろうか?
これはとある有名な芸術家の言葉だが、当時の私はこの言葉にそれはもう強く心を震わせたものだ。
爆発自体は勿論、そこに至るまでに起こる閃光、至ってからの衝撃に爆風に爆煙、最後に先程あったものが跡形もなくなり目の前に広がるすっきりとした光景。沢山の爽快感を一気に感じられる光景を一瞬にして作り上げる爆発……これは芸術といっても全く持って差し支えないだろう。
そう思ってかつての私は強く感動していたのだが、よくよく話を聞いてみると「芸術は爆発だ」の本来の意味は「作家の心の中で何らかの爆発が起こることによって芸術は生まれる」というものらしく、それを知った私は中々にショックを受けた。
有名な芸術家が爆発に対して自分と同じ認識を持っていると勝手に誤解したのは私なのだが………少し悲しかったのを今でも覚えている。
「……………」
なんて世間話もとい無駄話は置いておこう。
中学三年生になり「呪い」との戦いを続けて八年近く経った私は今も尚「呪い」を爆発させる日々を送っていた。
理由はシンプルに呪いを爆発させるのが楽しいから。どういう風に爆発させるか考えるのが楽しいから。段々爆発の威力を調整するコツのようなものを掴めてきて楽しいから。
まぁ他にも色々あるが一言で言ってしまえば「気持ちいい」からだ。
(ここ辺りか)
そんな快感を求めた私は深夜、呪い目当てでいつも周回している廃校を訪れていた。
この廃校は親戚の家に預けられ、周りの土地なんて一切把握していなかった頃に迷子になった私が見つけ、呪い相手に死にかけた私が初めて術式を発動した場所だった。十年ほど前に廃校になったらしいが私が何度も呪いを爆発させている影響でどんどん校舎部分は削れていき、教室があった場所は瓦礫が落ちて色々な箇所が埋まっていたり潰れている。
「見つけた」
そんな校舎の中、一階の「1年1組」と書かれた表札のある教室前で足を止めた私は引き戸をガラガラと開け、目的の存在を見つけた。
「「? せン、せえ……せン、せぇー……?」」
暗い教室で幾つかある席にちょこんと座っていた存在は此方を向くとか細い声を重ねて聞いてくる。声だけ聞けば小学校低学年の女の子といったところだろうか。あくまで声だけを聞けばだが。二十はある席は空席が殆どだが八席は埋まっていた。
席に座る八人の存在は皆小学生ぐらいの大きさだが、その目は暗い教室で猫の目以上に怪しく光っていた。更に光る目は四つあり、暗い中で目を凝らしてみればその手からは人間の爪よりも遥かに長いだろう鉤爪が伸びている。以上の情報から一般の小学生でないのは明らかだろう。
「悪いが違う。私は学生だ」
私はそんな異形の問いに対して率直に返事をしてから教室に入り、教卓まで移動する。
流石に八年近く対峙してきたこともあってか私は「呪い」という存在に対して結構慣れていて、今ではそれを前にしても行動・言動ともに乱れることなく落ち着けていた。まだ幼かった時は呪い相手に緊張していたものだが、今となっては緊張しないどころか楽しいとすら感じている。我が事ながら慣れとは凄まじいものがある。
「せンせえ! せンせぇー!」
「あそぼッあそぼッあそぼッ!!」
教卓の前まで行くと席に座っていた八人の異形は勢いよく席から立ち上がると嬉しそうに体を震わせて声に似合わない鉤爪を向けてくる。毎度のことでもう慣れっ子だが呪いというのはどの個体もまともに話が通じない場合が殆どだ。まぁ話が通じたところで爆発させることに変わりはないので一向に構わないが。
「何度も言わせるな」
教卓に手を掛けた私は呪いの言葉を再度否定し、呪いが飛び掛かってくるよりも速く呪力を込めた教卓を片手で投げ飛ばし、
「私は学生だ」
さっと広げた右手を勢いよく握り締めた。
「──起爆術式」
瞬間、投げた教卓は教室の真ん中で爆発した。
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同時刻。
「はぁ〜、まじでしくった」
深夜のとある廃校で私──家入硝子は私史上最大のため息を吐きながら校内を歩いていた。
「なんでよりによってここに落とすかなぁ……いや落とした覚え自体ないんだけど」
なんで私が一人でこんなとこを彷徨いてるかといえば、それはある「落とし物」を探しているからだ。落とし物をしたと気付いてから今日一日の自分の行動を振り返って自宅、帰路、コンビニと転々としながらざっと探していたのだが一向に見つからず……
(深夜の学校、それも廃校ってなると結構雰囲気あるな……しかもさっきから何かそこかしこから気配するし)
最終的に今日私が最後に行った場所である
ちなみに今日私がここを訪れたのは仕事というか見学で現役の呪術師の任務に同行することになって、この廃校がその見学場所だったからだ。
(昼に来た時よりなんか呪霊増えてる気がするし……さっさと取るもん取って帰るかー)
あっちこっちから感じる気配を見て見ぬフリした私は階段を上って二階に。それからすぐに廊下を歩き出す。月は雲で隠れてるし深夜だから校内は真っ暗だしで歩き辛いったらないがケータイのやや心許ないライトを頼りに私は落とし物を探して足元に目を走らせる。
「………おー、あったあった」
それから数分ちょっとして割と簡単に私は落とし物を見つけた。
「一本も吸わずに一箱なくすとかショックすぎ」
私の落とし物、それは煙草一箱だ。
呪術師の任務を見学しに行く前にコンビニで買ったものなのだが、流石に初対面の呪術師を前に喫煙するのはまずいか?と見学が終わるまでは我慢していたのだが何かの拍子に落としたらしい。
「………ふぅ〜」
半日振りの一服うま〜、と落とし物を見つけた私は早速箱から取り出した煙草を口に咥えてライターで火をつけた。ここが今もやってる学校なら私も喫煙は自重したがここは廃校な上に今は深夜で周囲には人っ子一人いないため自重などする気にはならなかった。
その場でしゃがんだまま暫く煙草を吸った私はゆっくり立ちあがって
(んじゃ、落とし物も見つけたしさっさと帰って──)
──ドカン!!と普通なら廃校にいて聞くことになる筈のない大きな音が下の階から響き、同時に強い衝撃に床が揺れて私は少しよろめいた。
「! ………爆発?」
聞こえた音は私が今までの人生で聞いてきた音の中でトップレベルに大きかった。知っている音で例えるなら祭りでやってた花火の音に近いものがあったが……そんな音が自然になる訳はない。
(そういえば昼に来た時も思ったけど、ここ廃校って考えてもちょっとボロボロすぎたな……)
昼に見た廃校の外観は廃校だからボロいのはわかるがそれにしても酷かった。何故か当然のように教室があったであろう場所は瓦礫に埋もれていたし、あちこちが黒く焦げていたり、不自然な点は多々見られた。
そこから考えられる発想として、この廃校にやばい呪霊か何かが潜んでいる可能性が考えられた。そうじゃなかったとしても嫌な予感しかしなかった。
「ま、どうでもいっか」
面倒に巻き込まれる前にさっさと帰ろう。
そう思い立って踵を返そうとした私は何かにぶつかった。
「は?」
壁にしては柔らかい何かにぶつかった私は不思議に思いつつ、ケータイのライトで前を照らして、
「………あはは、何か用?」
それを見て私は思わず真顔になったがすぐに笑って平静を装い聞いた。
「ろ、うかを、はしるなッ!」
それは人間のように二足で立っていたが肌色は黄緑でその目は人の目というよりは爬虫類みたいにぎょろっとしていて。体はでっぷりと肥えていて。手の指はカエルみたいに四本だった。
カエルを人間サイズにしたらこうなるんだろうな、そんなことを遂呑気に考えてしまってから私は目の前で仁王立ちしている呪霊に思わず口走ってから──駆け出した。
「走ってねー! 今から走るところだよ!」
・起爆術式
呪力を持ったモノを爆発させる朝木綱の生得術式。純粋な破壊力という点に限れば随一。
術式の発動条件として、爆発できる呪力は「視界に捉えているモノ」のみ。視界に捉えられないほど遠距離の物や高速で動く物を爆発させることはできない。またよく理解している呪力(術者自身の呪力など)が対象の場合はイメージ通りに爆発させやすい。
直に爆発できる呪力には「術者と同等か以下の呪力量」という条件があり、術者以上の呪力量を持った存在を爆発させることは不可能。そのため爆発させたい対象によっては事前に呪力を消費させる、弱らせる必要がある。また呪力操作に秀でた者であれば呪力の爆発に対して抵抗が可能。
術式自体の威力調整は極めて難しく、呪術師が使う場合は常に周囲の被害を念頭に置かなければならない上に威力を誤れば自爆する恐れがあるので精密な呪力操作が必須。
更に付け足せば呪力の爆発を加減するのは非常に疲れ、術者にはかなりのストレスがかかる。逆に加減なしの呪力の爆発は術者にとっていいストレス発散になる。
……どう考えても呪詛師向きの術式であることは否めない。