二階の廊下にて呪いを目撃した私はその呪いの腕に突き立てられていた呪力の込もったナイフを爆発。次に此方に飛び掛かってきた呪いの太っ腹に拳を叩き込み、ボンタンのポケットから廃校に来る道中で拾った手頃な石ころを一つ倒れた呪いの傍目掛けて呪力を込めて放り爆発させた。
我ながら素早く火力調節も良い爆発だったが呪いは最後の爆発を際どいタイミングで回避。窓ガラスを割って外に逃げていった。
「無事か?」
それから私は爆煙が晴れ、窓から差した月光……それが照らす先の廊下の壁にもたれかかって倒れている少女に声を掛けた。ついさっき一階で遭遇した異形の少女とは違ってその少女は目が四つある訳でも手から鋭利な鉤爪が生えている訳でもない。
見たところ私と歳はさして変わらない様に見える少女の姿は短い髪に泣きぼくろが特徴的で服装はパーカーと随分ラフな格好をしている。この廃校に来た目的は定かではないが呪いではなさそうだった。
「……ははは、無事に見える?」
その証拠に少女は此方の問いに返事をした。これが呪いであればまともに答えなど返ってこなかった筈だ。というか、
(あの呪いに襲われていたのか? ならあの呪いの腕に刺さっていたナイフも彼女の物か)
私は少女の存在に全く気付いていなかった。偶然残りの呪力量を考慮し爆発の威力を加減してナイフも石ころも爆発させていたのだが……どうやら加減して正解だったらしい。後少しナイフの爆発を強めていたら少女の頭は吹き飛んでいただろう。石ころを誤った方向に放っていたら少女を爆発に巻き込んでいただろう。
「無事でよかった」
最高の爆発の実現の為、意図して人を爆殺することならまだ許容できるが不慮の事故で人を爆殺するのは申し訳なさと不甲斐なさが勝るので流石に許容できない。無駄な爆発は極力避けたいと常日頃から思っている私としては少女の無事は喜ばしいものだった。
……まぁこんなことを思っていながら私はまだ人を爆発させたことが一度もない。だから未だ不明だが、もしも人を爆発させるのが呪いや建物を爆発させるよりも気持ちのいい、快感のあるものだとしたら私はきっと「人間の爆発」という行為を迷いなく実行し始めるだろう。
人間の爆発。
それをする時が私は怖くもあり、だがそれ以上に楽しみにでもあった。
「今の私見て無事って……見た目通りおかしなやつ」
私の言葉を聞いた少女は呆れたような顔をした後、首を摩っていた手を離しポケットに突っ込み何かを取り出そうとする。見た目通りおかしな、とはどういうことか。私のどこが少女の目にはおかしく映ったのか疑問に思いつつ私は暫し少女の行動を見守ることにした。
「はぁ……」
右手でポケットから取り出した煙草の箱、それをサッと振って煙草を一本出し、口に咥えて左手を別のポケットに突っ込みライターを出して火をつけようとする。以上の少女の手慣れた動作を見て「おかしなのはそっちでは?」と思った。
「っ、痛ぁ……」
そして、そんな思いで見守っているとライターの火を咥えた煙草に近付けようとしたところで少女は小声を発して咥えていた煙草を落とす。少しして左手に持っていたライターも手放し、空いた左手でまた首を摩り始めた。どうやら呪いに襲われた際に首を負傷したらしい。
「…………」
僅かに思考してから私は此方に転がってきた煙草を見て少女のもとに歩き出す。その途中で転がっている煙草を拾い上げ、私は少女の傍で膝を折って、
「? 何あんた──っ」
困惑する少女に煙草を咥えさせ、少女が落としたライターを拾い上げ煙草に火をつけた。
「……ふぅ……」
少女は左手で首を抑えたまま、煙草を一口吸ってから右手で煙草を持ち口から離し煙をゆっくり吐き出した。私と同い歳くらいだろうに少女のその所作はやはりどこか手慣れていて、一体いつ頃から煙草を吸っていたのかとか、何故煙草を吸い始めたのか、そもそもその煙草はどこから調達しているのかなんて無駄なことをふと考えてしまう。
だがそれがいけなかった。私は少女の目前にいて少女の吐いた煙は此方に来る。一口目は弱めに吐かれていた煙だったが二口目は先程よりやや強めに吐かれていた。
「! ごほっごほっ…!」
寸前まで思考していた私は咄嗟に顔を背けて煙を避けようとしたが惜しくも間に合わず、煙を受けて当然私は咳き込んだ。そんな私の醜態を見て少女はというと、
「あはは! だっさ……! ちょっとかっこいいことしたくせにだっさ!」
それはそれは楽しそうに爆笑していた。いや確かに今の私が格好悪かったのは認める。認めるが私は少女の為に親切心で煙草を吸わせたのだからそこは空気を読んで見て見ぬふりをするとか、笑いを堪えるべきところではないだろうか?
「はははは、ほんと変なヤツ……痛っ……!」
もう二度と親切心で人に煙草なんて吸わせないようにしよう。爆笑したせいでまた首が痛んできたらしい少女を見てそう決めた私は立ち上がる。そうだ。こんなことをしている場合じゃない。私の本来の目的を忘れるところだった。まだ
「煙草は、程々にな」
別に赤の他人が、未成年が、煙草を吸っていようがそれは私の知ったことではない。どう生きてどう死ぬか。それは当人の自由意志でのみ選択されるべきだ。
だが、私の口は自然とそんな台詞を口にしていた。
「……?」
私はそんな自分自身のした発言を不思議に思いつつ、先程の呪いの気配を追って窓から外にさっさと飛び降りて、
(あぁ、そういえば、父も煙草を吸っていたか)
移動しながらそんなどうでもいいことを私は思い出していた。
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そいつは見た目に違わず、やっぱり変なヤツだった。2m近くある巨体にサングラスを掛けていてその上に仏頂面。何を考えているのか全く分からないし表情も読めない。無事でよかった、なんて第一声を発した割に顔は無表情のままだし。本心からの台詞なのか全くわからない。
「今の私見て無事って……見た目通りおかしなやつ」
私は男の言葉を聞いて「どこ見て無事だと思ったんだよ」とツッコミを入れたい気持ちを抑えて、全身と特に首にある痛みを堪えつつ反転術式を使おうとした。しかし、ヤバそうな見た目の男が目の前に居たせいで緊張していたのか、さっきの呪霊の攻撃のせいで頭でもやったのか、はたまたその両方からか頭が上手く回らずいつも通りに反転術式が使えなかった。
(まっず……私、今日スランプだったりする?)
または厄日か。落とし物をして呪霊に襲われて反転術式は使えない。ここまで悪い出来事が連続して起こることがあるだろうか?反転術式が使えないことに焦りを覚えた私は一旦落ち着く為に煙草を吸おうとした。
だが不運は続き、火をつけようとしたところで私は痛みで咥えていた煙草と左手に持っていたライターを落としてしまう。
そんな時、爆弾魔は動いた。
「? 何あんた──っ」
私は突然こちらに向かって歩み寄ってきた男に僅かに身構え、次に私が落とした煙草とライターを拾う男に痛む首を思わず傾げて、最後に私の前で片膝を折った男を見て一瞬困惑した。だけどその行動の意図は男が私の口にそっと煙草を咥えさせようとしたことですぐに分かった。
「……ふぅ……」
男の優しさか気まぐれかわからない行為に私は首の痛みのせいもあったのか、単純に煙草を吸いたかったのか、一切迷わずに甘えて煙草を咥えてライターで手早く火をつけられたそれを右手で持って煙を吐いた。
(うま……)
煙草の美味さを感じながら私は目を閉じて目の前の男について考える。さっきまではガタイのいいヤバい変人だと思っていたが、割と親切な変人なのかもしれない。我ながら煙草を吸わせてもらっただけでちょろい気もするがまぁ助けられたのは事実だ。
(……お礼ぐらい言っとこうかな、ん?)
そんなことを思いながら目を開けてもう一度煙草を吸って煙を吐き出した時、
「! ごほっごほっ…!」
私の二口目に吐き出した煙を思い切り食らって咳き込む男を見た。それを見て私は爆笑しながら男の認識を改めた。男は親切な変人ではなく、ただの親切で「間抜け」な変人だと。
「………………」
それから爆笑する私を見てサングラス越しにも分かる非難の視線を無言で飛ばしてくるのを見て、更に私は爆笑してまた首が痛くなってきた。制服の上から見てもわかるムキムキ具合に2m近くありそうな身長、威圧感を感じさせる外見から全然気付かなかったがこうして目の前で顔を見てみると顔立ちはまだ幼くて、今みたいに無言で文句ありげにしていたりともしかして歳は私とそう変わらないのかもしれない。
「……はぁ」
暫し無言だった男は一呼吸してから立ち上がると私の前にライターを置いて背を向けて歩き出す。次に足を止めて肩越しに振り返ってこう言った。
「煙草は、程々にな」
それを捨て台詞にして男は先程のカエル野郎が割って逃げ出した窓から飛び降りていく。多分あの呪霊を追いかけていったのだろう。
「……なぁにが煙草は程々にだ」
人に親切に煙草吸わせたやつが吐く言葉か?と内心思いつつ、私はもう一度だけ煙草を吸い煙を吐いて目を閉じる。そのまま集中して冷静に頭を回す。
(落ち着け私……いつも通りやればいいだけだ)
ひゅーひょいっ。ひゅーひょいっ。
いつもやってる反転術式のイメージを思い浮かべて、左手を首に当てて頭を回す。その途中でさっき見た目の前で片膝を折って煙草を咥えさせてきた男の姿が頭にチラついたせいで変に手間取ったが反転術式は問題なく発動した。
「ふぃー……さてと」
治癒した首をゆっくり回して体を起こした私は男が飛び降りていった窓を見てからこれからどうするか考えた。面倒事に巻き込まれるのはごめんだしさっさと帰ろう。普段の私ならそう思ってすぐに廃校を後にしようとしただろう。だけど、
「一言お礼ぐらい言ってからにするか」
命を助けてくれて煙草も吸わせてくれた恩人だ。お礼も言い損ねたし。常識的にも私の気分的にも。……こんな柄にもないことを考えてしまう今日の私は私らしくないというか、やっぱり今日は厄日なのかもしれない。
(それと恩人の名前も聞き忘れてたし)
そうして私は男の後を追って歩き出し始めて、すぐにドカンと大きな爆音がして男がどこにいるかはすぐに分かった。
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逃げていった呪い。その気配を追い外に出た私はすぐに呪いを見つけた。
「アァ……アァア……」
呪いは廃校の校庭で月光に照らされるようにして佇んでいた。先制攻撃のナイフ爆発によって左腕を失っていて、右手で左腕であった部分を押さえていて。痛みからか口からは呻き声を発している。
暗い廊下では不明瞭だったが月光のおかげで今ならその呪いの姿は明瞭だ。アマガエルのように鮮やかな黄緑色の肌、ある種の貫禄を感じさせるほどに肥えた体、カエルというよりはトカゲに近いぎょろりとした縦型の目、カエル同様に四本ある手の指に五本ある足の指。
一見して力で押してくる重量級の呪いという印象を受ける。だが先程の廊下で見せた私の爆発に対する回避行動を見るにどうやら力だけではなく素早さに反射神経も備えているようだ。
「見つけた」
三秒にも満たない観察を終え、私は佇む呪いに聞こえるように声を出す。これは油断でも慢心でもない。この呪いの反射神経なら不意打ちは通用しない。なら私の術式と戦闘方法を考慮すれば真正面から挑む他ないだろう。また相手は今現在直接爆発できるほど呪力量が少なくない。
「! あぶないから、はしるなッ!」
私の声で此方の存在に気付いた呪いはそんな言葉と共に突進してくる。まるで撃ち出された砲弾かのような尋常じゃない速度。それに私は咄嗟に腕に呪力を集中して纏わせ交差させることで防御態勢をとった。
「っっう………!!」
それを受けた私の体は大きく後ろに吹き飛んで宙を浮く。想像以上の威力に腕はビリビリと痺れ、私はすぐにこの呪いの攻撃に対して防御したのは愚策だったと把握しつつ宙返りで態勢を整え着地する。あの威力ならば防御し続けていればジリ貧になるのは目に見えていた。
「はしるな! はしるな!」
呪いは私が着地して直ぐに再度突進してくる。当然予測していた私はその攻撃を防御するのではなく横に回避する。初手の突進は予期できず見てから防御するのが精一杯だったが予測できれば回避するのが得策だ。回避した直後、呪いの背後に急接近した私は右拳を振り抜く。
「はしった、なァ!!」
突進した直後で隙ができたと思って仕掛けた一撃だったが呪いは爆発を避けた時のような反射神経で私の攻撃と同時に此方を振り返った。そして、私の拳を避けた……訳ではなくその肥えた腹で拳を受け止めることで衝撃を吸収した。どうやらあの肥えた体は攻撃だけでなく防御にも活用できるらしい。
「っ、ふん!!」
私は呪いの反撃を予測しその場で跳躍。予期通りに足元で呪いの腕がブンと勢いよく振るわれ、私は呪いの頭を蹴り付けて足場にし呪いの後方に着地した。
(効果なし、か)
肥えた体ではなく頭に蹴りを入れたが此方を振り返る姿を見るに僅かに怯みはしたが呪いはダメージ自体は受けていないらしかった。肥えた体以外なら損傷を与えられるかと思ったがそう簡単な相手ではないようだ。
「とまれ!」
(体と頭ともにダメージなし、か)
呪いの放つ力士のような突っ張りを体を横に最小限動かすことで躱しながら私は思考する。殴りに蹴りと物理的攻撃は効果的ではない。なら私の持ち得る力でこの呪いに対抗できるものは何か?
廊下でナイフを爆発させた時、呪いは右腕を失っていた。
攻撃の際に石ころを爆発させた時、呪いは回避行動をとった。
物理による攻撃を仕掛けた時、二度とも呪いは回避行動をとることなく受け止めた。
以上の情報から私が導き出せる答えは一つ。起爆術式だ。
(やはり爆発。爆発は全てを解決する)
そんな既知の真理に再び辿り着いた私は脳内で戦法を考え、ある確認の為の行動に出る。
「危ないっ、止まれッ! 止まれッ!」
呪いの目にも止まらぬ連続突っ張りを後ろに飛び退くことで躱わす。更に一息入れる間も無く仕掛けてくる突進を片手でいなす。それからは最初と同じように呪力を纏わせた拳を呪いの背に向けて振るう。それを呪いはやはり直ぐに振り返って腹で受け止めてから反撃。ここまでは私も敵の動きも先程と全く同じだ。
「起爆術式」
ここで私はボンタンのポケットに収めていた石ころを取り出し、バックステップと同時に呪力を込めて呪いに投擲。直後に最小限の威力で爆発させた。
「ッ!!」
それに対して呪いは腹で受け止める……ことはせずに身の丈に合わない素早さを発揮し横に飛び退く。防御ではなく回避した。
(やはり、爆発だけは避けている?)
物理攻撃に大しては防御。起爆術式に大しては回避。呪いはこちらの攻撃を食らう寸前に持ち前の反射神経で防御・回避を選択している。人間なら爆発に対して防御したところで無駄なので距離を取ることで回避するのは普通だが……
(ナイフの爆発を受けて左腕を失った影響?)
あの爆発がトラウマにでもなったことで私の起爆術式が危険と判断。爆発は回避しようという考えに至ったのか。あれだけの防御力ならあんな小規模の爆発、ダメージを無視して突進でもしてきそうなものだが回避した理由はそれか?
(物理攻撃なら防御。回避はしない)
必ずしもそうと決まった訳ではない。確信を得るには更なる検証が必要だ。しかし、更なる検証は私の残り呪力量から考えて難しい。だから一度そう想定することで考えていた戦法を仕掛けようと私は動き出す。想定通りなら勝負は一発で決する。
「──来い」
「はしるなァあ!」
起爆術式による爆発。残りの呪力量から私がそれを発動できるのは威力を最小限にしたとして残り三発。その残った呪力を全て一発の爆発に込める。
爆煙から突進して飛び出してきた呪いを跳躍で回避し背後をとり、一度呪力を足に込めて勢いよく地面を蹴り上げ呪いに接近。右腕に呪力を纏わせ右拳を振り抜いた。ここまでは今までと同じ流れだ。相違点は──ここからだ。
「ッ!」
振り返った呪いは私が拳による物理攻撃をすると判断して肥えた腹を突き出して受け止めようとする。その時、呪いの顔に浮かんだ表情は「無駄だ」と言いたげにニヤついているように私の目には見えた。
「起爆術式──」
起爆術式。
呪力を爆発させるというこの術式だが爆発できるものには「視界に捉えているモノ」を絶対条件に他にも幾つかの条件がある。その一つとして直接爆発できるのは「術者と同等か以下の呪力量」に限られる。
この条件を念頭に置き、今、私がこの場において爆発できるモノは何か。がらんとした校庭には見回してみたところ物という物が全くというほどない。そこそこ離れた場所に鉄棒があるがあれを戦闘中に引き抜いて爆発させる余裕はない。目の前に立つ呪いはまだ呪力量が多く直接爆発できるラインに達していない。
こうなると現状、状況を打開するような爆発を起こせるものは何もないように思える。だが一つだけ直接爆発できるものがあるとしたら?
「ッ、ろうかを、はしるなァ!!」
呪力を大量に纏わせた私の全力の正拳突きを腹に受けた呪いは物理攻撃で初めて怯みを見せたが一歩後退るだけ。決定打には至らず瞬時に反撃の張り手を放つ呪い。
それに対し、私は呪いに打ち付けた右拳を勢いよく後ろに下げ、さっと開いた右手を力強く握り締めた。私の爆発させる
──
「──起爆拳」
瞬間、私が拳を打ち付けた呪いの肥えた腹部、正しくは私が呪力を纏わせた拳……そこから飛散した呪力が付着した部位が同時爆発した。私が爆発させたのはナイフと石ころと同様に私自身の呪力だ。
「いぎゃッ」
その爆発は私の残る呪力量を全て使った一発であり、規模は今日私が放ったどの爆発をも凌駕する。何の加減もしなかったそれを受けた呪いは頭に胴体と大量の箇所が爆発したことでまともに声を上げられずかき消える。
爆発した地点には衝撃によって隕石が落下したような……というには小規模だが本来校庭だった場所を半分潰す程度のクレーターが生まれ、呪いの次に爆発を間近で受けた私はというと、
「………終わったか」
クレーターの中、爆煙に包まれた空間で大の字に倒れていた。あれだけ至近距離で加減せずに爆発を起こしたのだ。まぁ、こうなるのは容易に想像できていた。爆発させる際に全身に呪力を流し出来る限りの防御態勢を取りはしたがそんなもの爆発に対しては焼け石に水だった。流石は爆発だ。
「…………」
サングラスは爆風で吹き飛び、制服の大部分は焼け焦げ、両腕は防御の時に使ったため酷い火傷を負い、他の部位も腕ほどでないが火傷していた。だが私の中に後悔は微塵たりともなかった。あるのは爆発によって生まれた景色を見たことによる感動と心を満たしてくれる気持ちよさ。
「月が、綺麗だな」
爆煙がゆっくりと晴れていき見えてきた夜空。そこにある月は私を見下ろすように佇んでいる。私は目を閉じて爆発によって発生した匂いに集中した。ここで死ぬつもりは毛頭なかったがこのまま死ぬならそれはそれで気持ちがいいだろうなとも思っていた。
「──何それ? 告白?」
そんな時、聞いた覚えのある声が耳に入ってきた。
「…………違う」
「はは、わかってるって。冗談じゃん冗談」
首だけをそちらに動かしてみれば、クレーター端辺りには廊下にいたあの少女が煙草を片手に立っていた。少女に私は出来るだけ声量高めで否定するとそれを聞いた少女は笑いながら「おっと」とクレーターの端から飛び降りて私の傍に寄ってくる。廊下で見た時は首を痛めていたようだったが何の手品かもう治ったらしい。
「これあんたがやったの? やば過ぎでしょ」
「………あぁ」
「それより大丈夫そ? 割と死にかけてない?」
「………あぁ」
仰向けに倒れる私の顔の横でしゃがみ込んだ少女は私の状態を一目見てそんなことをいう。何を言っているかに興味はない。今の私は気持ちよさで満たされていて、余計なことは考えたくなかった。
「治してあげよっか? いや断られても勝手に治すけど」
見ててきもいし、と適当な返事をして再び月を眺め始める私にそう言った少女は私の胸にポンと手を置いた。何をする気だ?と思わず首を傾げた私だったが……
「はい終わり」
「……何をした?」
「何って……私の得意技?」
気付けば私の全身の火傷を治癒されていて、最後に少女の手でポンと胸を叩かれた。困惑した私は思考を巡らせて少女が何者か考え予想を一つ口にする。
「……呪術師なのか?」
「今のところは違うかな」
聞きながら体を起こそうとした私の体を少女は後ろから支えてくれた。少女が呪いである心配はないこと、既に呪力が空ということ、爆発による気持ちよさで胸が一杯なことが起因してかこの時の私の警戒心は死んでいると言っても過言ではなかった。
「そういうそっちは? 呪術師?」
「いいや……父は呪術師だったらしいが私は違う」
立ち上がった私は自分の体を見回した後、少女に向き直ってお礼を伝えようとして、
「助かった、ありが──」
「──いや早い早い。それ言うなら先にお礼言うの私の方だから」
少女はそういうと手に持っていた煙草をチラっと見てから私の方を見て言った。
「さっきはありがと。助けてもらった分と煙草の分。これでチャラね」
「それと聞きそびれてたんだけど、あんた名前は? 私は家入硝子」
そう自己紹介してきた少女はこちらに手を差し出してくる。私はそれにどう答えるべきか考えようとしたが爆発による快感で上手く頭が回らない為、今の状態で考えるのは無駄だと断定し、
「……
差し出された手を取った。
今思えばだが、この日彼女と出会わなければ私はきっと呪術師になっていなかったように思える。
・起爆拳
起爆術式の応用技能。
自分の拳に纏わせた呪力を付着・飛散させて同時に爆発させる。呪力を付着・飛散させる方法としては
1.呪力を纏わせた攻撃を当てる
2.呪力を纏わせた部位(例:拳)を勢いよく振るう
3.呪力を流した部位(例:腕)で攻撃を受ける
などがある。
起爆「拳」と命名しつつ呪力を纏わせられるのなら脚だろうが頭だろうがどこでも構わない。また前述したようによく理解している呪力ほど爆発させやすく、この技で爆発させるのは術者本人の呪力なので威力調整は極めてし易い。
イメージはパイルバンカー 。