爆弾魔の問題児二人の呼び方名前呼びから苗字呼びに
「悟」→「五条」
「傑」→「夏油」
ここからぱっぱとストーリー進めます。
2006年。
私が呪術高専に入学してから一年ほどが経った頃。東京都立呪術高等専門学校二年生、17歳になった私は準1級術師として活動していた。呪術師としての仕事も責任も問題なく果たしている。いるのだが、何故か担任の夜蛾正道からは永らく問題児扱いされている。解せない……彼とは如何にも分かり合える未来が見えない。また準1級術師になってからは相対する呪霊が明らかに強くなって私としては退屈しない気持ちのいい日々を送らせてもらっていた。夜蛾先生は私が書いた報告書を読む度に「また事前情報より呪霊が多かったか…」「上層部め…」とか何とか言っていたが私としては敵は多ければ多いほど爆発を起こせるからいいのだけれど。
家入硝子。夏油傑。五条悟。
同級生である三人との仲はあくまでも主観ではあるが良好だ。硝子とは相変わらず気安い仲で、夏油傑からはよく覚えのない内容で説教?を受けはするが任務などでの連携には何の支障もなく、五条悟には日常的に爆弾魔と讃えてもらっている……何故かそれに対し礼を言うと「褒めてねぇよ!!」と照れ隠しの声が飛んでくるが。
総評すれば、今の所、私は呪術師になったことに対して何の後悔もしていない。私は今日もまた呪いを祓う。
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「た、助けて」
「起爆術式」
人を散々害しておきながら自分に死が迫るとなるとその呪霊は許しを乞うように攻撃を止め、まるで人のように助けを求め始めた。だが私としてはそれに応えて「呪霊を見逃す」よりも「呪霊を爆発させる」ことの方が気持ちいい。そう断定して呪霊の最初に遭遇した時と比べて酷く削れ切った呪力を爆発させた。我ながら無駄のない素早い爆発だ……音も匂いもいい。惜しむべくは周囲の被害を考慮して威力を抑えてしまったことぐらいだろうか。
目標の呪霊を倒し終え、辺りを見渡し何か爆発できるものかないかと探し「ないか…」と落胆した私は夜空に出ている月を一瞥。それから補助監督が待機している地点まで向かおうと踵を返そうとして、
「あっ、朝木君! 無事1級呪霊を祓えたんですね!」
現場に姿を現した補助監督の男を確認した。私の無事と勝利を我が事のように喜んでいるところ悪いが何故ここに?と聞きたかった。だが聞くより先に補助監督は「流石です」と言葉を続ける。
「これで朝木君も晴れて1級術師ですね」
1級術師?私は準1級術師なのだが……とまで考えてから思い出した。今回の単独任務は確か1級術師に成るか否かが決まる重要なものだと夜蛾先生が言っていたような気がする。そうか任務は成功に終わったのだからそうなるのか。まぁ成ったところで私のやることは何ら変わらない気がする、そう思っていたその時だった。
「!」
補助監督の後方から何かが飛んできた。それは左右から私を挟むようにして飛んで来る二枚の刃だった。夜闇の中に紛れ目を凝らさなければ見えないぐらいに薄いそれだが一瞬刃がギラリと光ったおかげで位置とおおよその軌道を把握できた。咄嗟に補助監督の襟元を掴んだ私は「うわっ」と驚く補助監督を後ろに投げ飛ばし、呪力強化した両腕で飛んできた刃を弾き飛ばし宙に舞った刃を二枚同時に爆発させる。その爆発によって夜闇に溶け込んだ何者かの姿が一瞬見えた私はそちらを向き、夜闇の中に立つ者を睨む。
「……何者だ?」
「今のを防ぐとは、お見事」
私の言葉が聞こえていないのか?それとも無視か?はたまた大半の呪霊と同じく話が通じないタイプの人間なのか?と思いながら臨戦態勢に入って拳を構える。見たところ呪霊ではなさそうだ。なら呪詛師だろうか?だとしたら何故こんなところに?目的は?
「朝木綱で間違いないな?」
「あぁそうだ」
「そうか。なら死んで貰おう」
と思っていたが相手の目的はすぐに分かった。どうやら私の命らしい。言葉は不要とばかりに呪具らしき薙刀を持って飛び掛かってくる呪詛師。他人に恨まれたようなことをした覚えはないが……一体どういうことなのだろう?疑問は尽きないがとりあえず今は目の前の相手を殺さない程度の爆発で無力化することに集中するとしよう。
(ストレスが溜まるな……)
加減しなければならないことにうんざりしつつ、1級呪霊を祓った後で多少消耗した呪力であと何回の爆発が起こせるか考えながら私は向かってくる呪詛師に拳を振るった。本当は加減したくないが呪詛師に襲われた際は極力生け捕りにしろ、無理なら殺害しても構わん、と夜蛾には言われている。生け捕りに出来そうだから加減するしかないのだ……
(まぁ、腕や脚の一本や二本なくとも生きていれば構わないか)
「──起爆術式」
そう思いながら私は拳に乗せた呪力を爆発させ、呪詛師が薙刀を持っていた右手ごと吹き飛ばした。生きて喋れさえすれば生け捕りと言えるだろうと思いながら。
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「──この中に『"帳"は自分で降ろすから』と補助監督を置きざりにした奴がいるな。名乗り出ろ」
任務を終えて高専に戻った私が教室の引き戸を開こうとしたところで中から夜蛾正道のものであろう声が聞こえた。何の話をしているのだろうか?と少々気になりつつさっと開いて教室に入ると丁度そのタイミングで両隣にいる二人から指差された五条が手を挙げて叫んだ。
「先生!! 犯人探しはやめませんか!?」
「悟だな……む、帰ってきたか綱」
懸命な物言いも空しく犯人と断定された五条は夜蛾からの拳骨を受け、拳骨をした彼は私の帰りに気が付いてこちらを見た。
「今戻った」
「おかえり綱〜、はい土産ちょうだい」
「硝子、がめついにも程があるよ……それに少し遠出しての任務だったからと言って綱がお土産を買ってきてるとは──」
「──受け取れ、仙台土産だ」
「買ってきてるのか……」
仙台にあった和菓子屋で買った土産の袋を硝子に預けた私は正座を崩して頭を抑える五条に目を向ける。あと夏油、遠出してきたのだから土産の一つや二つ買ってくるのは当然だろう。何を呆然としているんだ?それと土産は全員分あるから安心するといい。
「痛っつぅ……あっ爆弾魔じゃん。ぷっ、ダッサ! また髪煤けてやんの」
「気にするな。それにしてもまた大きなたんこぶができているな。よく似合っているぞ五条」
「うるせぇー! お前の方こそ気にすんな呪詛師予備軍がよぉ!!」
既に見慣れたものだが五条の頭に出来た立派なたんこぶへの感想を思ったままに伝え、次に私は夜蛾へと報告書を手渡した。私は至極真面目な呪術師なので報告書も事細かく書いている。倒した呪霊の等級や数は勿論、起こした爆発の規模や気持ちよさ、記憶している限りで何回爆発を起こしたか……まぁ正確な数はその時の快感の影響でよく覚えていないことが大半ではあるが。
「ふむ、確認しよう…………………綱」
「何だ」
「また爆発を起こしたのか?」
「それが生き甲斐だからな」
受け取った報告書に目を通した彼は何故か数度目を擦って何度も報告書に目を通し、私におかしなことを聞いてきた。そんな凝視するほど重要な内容でもなければ特筆したことは書いていない筈だ。私の術式は呪力を爆発させるものなのだから爆発を起こすのは当然のことだろう。まぁ2級以下の呪霊相手なら呪力強化した暴力(殴る蹴る)で十分祓えはするがそれだと些か面白みに欠ける。もとい心地良さに欠ける。せっかく呪霊を祓うならやはり自分の
「呪霊を祓う際に周囲に及んだ被害に関しては全面的に許容しよう。しかし前回言った通りだが、任務完了後に必要のない爆発で周囲に被害を及ぼすのはやめろ。こうして注意するのは今月で16回目だ」
……だから何だと言うのだろうか?爆発なんて起こせば起こすだけ楽しいものなのだからいいではないかと思わずにはいられない。それに以前に私の起こした爆発による被害を爆発事故として隠蔽するとか、15件の爆発事故は隠蔽するのには限度が如何とか言っていたが、何なら私は一々隠蔽しないでもいいのでは?とさえ思っていた。爆発事故のニュースなんて私は見たらテンションが上がるし他の皆もそうだろう?それに帳の中だけでいつも爆発を起こしているおかげで非術師には私が犯人だと気付かれる心配もないのだし。好き勝手考察させておけばいいと思っていた。それを以前ぽろっと口に出すと夏油は「呪霊の発生を抑制するため」「弱者生存のため」なんて授業で聞いたような話を始め、
『呪術は非術師を守るためにある』
最後にはそんな言葉で締め括られて、まるで昔の呪霊が見えない人のために呪霊を祓うことを使命にしていた馬鹿な己を見ている気分になった。
『それは「夏油傑」の自論だろう? 私には私の自論がある。呪術という力に理由も責任も必要ない。私の
ついついそんなことを言うと何故かその発言が彼の気に障ったらしく「少し表に出て話そうか」と言われ気付いたら私達は外で殴り合いをしていた。途中で私が術式を使い出すと益々不機嫌になった彼は呪霊なんかを出してきたっけ……私としては呪霊が増える=爆発が許される回数が増えるという図式が成り立つので呪霊が増える分には一向に構わないと思っていた。そんなことを思い出しながら夜蛾に叱られた理由に納得できずにいると彼はこう続けた。
「……だが、前回の廃墟の全壊に比べれば今回の被害は廃ビルの半壊。まだマシだ。これからもこの調子で被害を抑えていくように」
「! 善処する」
何だかよくわからないが褒められた?ようなのでとりあえず私は返事をした。
「それと、よくやったな綱」
「……相変わらず爆弾魔に甘すぎね? あの教師」
「いや君にも十分甘いと思うよ? 悟」
「はぁ? どこがだよ? さっき拳骨されたの見てたろ?」
「それだけで済んでんだから激甘でしょ」
「……私はこの報告書を上に提出してくる。お前たちはここで待機していろ」
同級生三人のコソコソ話にしては声量の大きな話を耳にして夜蛾は何とも言えない渋い顔をして教室を後にし、それから私たちは自然と自分の席についた。硝子は悟からとったサングラスをかけながら早速私が買ってきた土産の開封を始め、五条は見るからに不貞腐れた様子でさらっと私のサングラスを取ってかけ出し、夏油は私に「任務お疲れ様」と軽く労って声を掛けてくる。
「綱、仙台での任務はどうだった?」
「どうともない。いつも通りだ」
「いつも通り、か。ということは今回も事前情報とは色々異なる点があったのかい?」
夏油の言葉に私はあぁと頷く。いつからだったかは明確に思い出せないが確か私が2級術師になった辺りからだっただろうか?単独での任務で現場に行ってみると事前情報からは予期できないアクシデントが起こる回数が爆発的に増えた。例を挙げるとすれば「2級呪霊を祓う」という簡単な内容だった筈の任務が現場に行ってみると2級呪霊など居らず1級呪霊が出てきたり。またある任務では事前情報と全く異なる呪霊が現れたり。私としては嬉しいサプライズのようなもので楽しませてもらっているのだが……そう思いつつ私はさっと任務での出来事を話した。
「上層部のジジイ共からめっちゃ嫌われてるよなぁお前。何でも爆発させる呪詛師予備軍の爆弾魔なんだから当然っちゃ当然だけど」
「気に食わない術師を騙し、危険な任務に向かわせ排除する。一年の時から分かっていたつもりではあったけどやっぱり上層部は腐っているな。まさか秘密裏に呪詛師まで雇うとはね」
「術師は年中人手不足なのになー」
「嫌われるようなことをした覚えはないのだが…不思議だ」
「「「……うわぁ……」」」
心底から思ったことを口に出すと何故か三人からは引かれた。解せぬ。
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「ふむ……」
俺は廊下を歩きながら綱から受け取った報告書に改めて目を通し考えていた。綱は無事任務から帰ってきたがどうやら今回もまた事前情報にはない内容の任務だったようだ。彼が今回こなした任務は彼が上層部から指名されて受けた単独での1級任務。結果によって朝木綱が正式に1級術師に成るか否かが決まる任務だ。場所は仙台。当初の内容は「廃ビル内に潜む1級呪霊を祓うこと」だった。だが実際はそれだけじゃなかった。
報告書によれば「無事1級呪霊を祓った後、何故か現場に呪詛師が現れた。その呪詛師を当初は半殺しにして生け捕りにする予定だったが補助監督に危害が加わりそうだったために止む無く爆殺した」らしい。またその報告の信憑性を補強するものとしてこの任務で綱を現場に送り届け、綱に助けられた補助監督からも連絡があり「現場に現れた呪詛師は朝木君が1級呪霊を祓った直後、タイミングを見計らったように現れた」とのことだ。
「上層部は何が何でも綱を始末したいのか……それとも──」
もしもこれが上層部による仕業ならあまりに度が過ぎている。術師を騙してその術師では対処できない等級の呪霊を当てて殺害する、というのは上層部の常套手段ではあるが呪詛師まで雇うのは明らかに異常だった。それに今回のような事前情報と異なる任務に綱は以前から騙されている……それも2級術師になってから何度も何度も。綱の術式が及ぼす被害を考慮し危険因子と判断したからといって上層部がここまで執拗に朝木綱という一術師の排除に拘るのか?俺はそう思いながらもう一つの可能性について考える。
「──別の思惑か?」
2級術師になった頃からだったか。綱の報告書の最後にはいつも同じ一文が書かれていた。今回提出された報告書にもまたその一文はあった。
『任務中、常に視線を感じた』
それが綱の思い違いかは定かではない。だがその一文に似た言葉を俺は過去に聞いた覚えがあった。過去に聞いたその言葉が誰のものだったか……俺はすぐに思い出せた。
『なんか最近さ、任務中にずーっと視線感じるんだよなぁ。
その言葉は朝木綱の父であり、俺にとっては今は亡き友のものだった。
・爆弾魔の変化
同級生三人の呼び方は高専で一年間共に過ごした結果フルネーム呼びから硝子以外は苗字呼びに。担任に関しては死んだ父の友人ということもあり叱られている理由は分からずとも従う程度には尊敬している。
その他の変化としては起爆術式の制御や呪力操作などの技術面は中学時代に比べて格段に成長しているが爆発に対するスタンスは何ら変わらず、何なら周囲に及ぼしている被害の数・規模という面では任務で色々な場所に行き戦う都合上悪化さえしている。しかし準1級術師になっているところから1級術師二名からの推薦を貰うぐらいには他の術師とも上手く付き合えている様子。無論上層部からは物凄く嫌われている。