ミリシアル最終聖戦記 作:NO SIGNAL…
神聖ミリシアル連盟
複数に分裂したミリシアル抵抗軍の軍閥の一つ。
軍閥の中でも、大陸間戦争に参加した軍人が多く在軍しており、有数の航空戦力と軍閥を維持する施設が一通り揃っているので、他の軍閥より恵まれている。
軍閥の指揮するのは、シュミールパオ最高司令官。
今は亡き神聖ミリシアル帝国で軍務大臣を務めていた人物で、数少ないミリシアル首脳部の生き残りである。
神聖ミリシアル帝国の都市だったオルクスの地下に、神聖ミリシアル連盟の司令部が点在している。
ここはかつて800万人の臣民が住んでいた地方都市で、重工業で栄えていた。
地上はその繁栄ぶりは見る影もなく、ラウンドマークであったオルクス工業地帯は廃墟と化していた。
ミリシエント大陸は、時々飛来する大ラヴァーナル帝国空軍の空中戦艦パル・キマイラや戦略爆撃型天の浮舟ガルダンⅣにより、潜伏している抵抗組織を炙り出すため爆撃や魔光弾が吹き荒れる地とか化していた。
抵抗組織は地上の爆撃や魔光弾の嵐から逃れるため、司令部をはじめ工場や住民が住む居住区が建設され、それぞれの地下施設を繋ぐ地下通路を人々は行き来しながら生活していた。
ここオルクスも例外ではない。
オルクス
神聖ミリシアル連盟地下司令部
ノックの後にドアを開ける音がした。
「失礼します」
入ってきたのは、尖った耳を持つ若いエルフ青年だ。
彼の名はスリシア。
高い情報収集能力を買われ情報部に所属し情報部局長を務める青年軍人で、年齢は146歳だ。
「スリシア君か。今日は何の用かな?」
スリシアに聞くのはクレイハム。
神聖ミリシアル連盟において参謀総長を務める軍人だ。
ミリシアル臣民の中では珍しい黒髪茶目の女性軍人で、僅か18歳で参謀総長にまで上り詰めたエリート軍人。
クレイハムの横にはもう1人いた。
彼女の名はメリマキサ。
神聖ミリシアル連盟において、内務指導官を務める文官だ。
クレイハムとは腐れ縁で、彼女も僅か18歳で内務指導官にまで上り詰めたエリート官僚。
「ヒノマワリ王国経由で魔信を傍受した世界情勢について報告に来ました」
「そうか、世界は今どうなってるのだ?」
「まず1つは、国家独立維持連合の日本とグラ・バルカスとの間に起きた“リーム危機”についてですが、コア魔法…いえ核戦争による軍事衝突を回避したとの事です」
時は遡り中央暦1671年
グラ・バルカスがフィルアデス大陸のリーム共和国に弾道ミサイル発射基地の建設が事の発端であった。
グラ・バルカスは日本との冷戦に耐え抜き、連合の主導権を握ろうと画策していた。
しかしグラ・バルカスの弾道ミサイルの射程では日本にまではまだ届かない上、弾道ミサイルの性能に疑問視していた。
そこで、グラ・バルカスはラニアケア共栄圏に加盟しているリーム共和国と極秘裏に軍事協定を結び、リームに核搭載の弾道ミサイル発射基地を含む軍事施設の建設を開始。
基地は完成し見事に隠蔽されていたが、日本の戦略宇宙軍の監視衛星が基地を発見し、この事が連合内に知れ渡る。
これに対し、日本は海軍と空軍をリームとグラ・バルカスに出動し、海軍による海上封鎖と空軍による戦略パトロールを、ムーはグラ・バルカスと近い事もあり空軍の最新鋭爆撃機“ヴァルカン”による戦略パトロールを実施し、リームと国境を接している大東洋条約機構加盟国は国境沿いに陸軍や空軍が集結するなど、両陣営は衝突寸前の状況だった。
この危機的状況を回避するため、中立を掲げるアルタラス王国の王都ル・ブリアスで日本とグラ・バルカスの首脳部による首脳会談を開催した。
1672年4月1日
日本国首都東京
首相官邸閣議室
「総理、何とかやりましたね」
「ああ、グラ・バルカスが大きく譲歩してくれて助かったよ」
首脳会談に挑み、つい先程日本に帰国した伊野喜次郎総理大臣は安堵していた。
いや、この場に居る大臣や長官達も伊野と同じ感情だった。
「最初は、日本も譲歩しろとムーから我が軍の戦略核打撃部隊の撤退もあり、交渉決裂しかけてましたからな」
同じく首脳会談に挑んだ、近衛義哉外務大臣は首脳会談であったことを語る。
「成り行きを見守っていた皇帝が、介入してくれて助かったよ」
スシリアは日グ首脳会談の顛末を話し続ける。
「グラ・バルカス側は、日本のリールからの弾道ミサイル発射基地の撤退する要求を呑むことを条件に、対ラヴァーナル戦の最前線の1つであるムーから、日本軍の戦略核打撃部隊の撤退を要求し交渉決裂寸前でした。そんな状況の中、首脳会談の行き先を見守っていた、グラルークス皇帝が介入。グラ・バルカスのエルチルゴ執政大臣らを説得し、今回は大きくグラ・バルカスが譲歩することになりました」
「バ カ な の か な ?」
クレイハムは満面の笑みで思わず声を出す。
「えっ、ちょっと待って。グラ・バルカスの連中は何を考えてるの?ラヴァーナルに対抗できる日本にそんな事要求して譲歩させようとしてたの?」
日本にとってこの要求は受け入れない物だ。
ムーは地形上、ラヴァーナルに近い上最前線であり、現状ラヴァーナルと互角の日本の戦略核打撃部隊を撤退させて有事の際の対応遅れ、日本とムーは今日に至るまで一心同体の関係を理由に、この要求は受け入れなかった。
グラ・バルカスは、リームから弾道ミサイルを撤退するなら、ムーに弾道ミサイルの再配置を考えていたが、ムーは大東洋条約機構加盟国でありラニアケア共栄圏加盟国では無いの無理難題である。
グラ・バルカスの執政大臣は、最悪ムーを武力で脅すか裏工作でラニアケアに加盟させれば良い、と考え要求していた。
対立さえしなければ、ムーにグラ・バルカスの弾道ミサイル発射基地を置く可能性もあっただろう。
「グラ・バルカス首脳部の対応は、帝国議会にて皇帝の顔に泥を塗ったと糾弾し、エルチルゴ政権は総辞職しました。今は次の執政大臣を決めるため選挙期間中です」
「とりあえず日本とグラ・バルカスによる全面核戦争は避けられたって事か?」
「そうなります」
「それは良かった。全面核戦争でもして日本やグラ・バルカスが滅亡でもしたら、ラヴァーナルが侵略戦争を再開して、今度こそこの神聖なる大地は終わりだからな」
メリマキサは安堵の表情を浮かべる。
「次に、大ラヴァーナル帝国についてですが...」
大ラヴァーナル帝国
帝都ヴァラシナ
皇帝居城
「やっと...か。やっとなのだな」
大ラヴァーナル帝国の皇帝ラフマ・ラヴァーナルは、よろめきながら自室にある新世界地図を見て喜びに満ちていた。
13年前の国家独立維持連合と言うイレギュラーにより中止した侵略戦争。
その際に獲得できたミリシエント大陸の帝国管理官区の安定維持、復活時の2倍にまで増強した精強な帝国軍。
今度こそ、あの屈辱を奴らに味合わせる時が来たのだ。
「だが、余の命もあと僅か。その頃には余はパスヴァルグに居るだろう」
パスヴァルグ...日本で言う黄泉の国のラヴァーナル版だ。
ラヴァーナルでは光翼人が死ねばパスヴァルグに行けると信じられている。
「その前に、この国を正しき方向へ導く者を決めなければならない」
ラフマはラヴァーナルの先進的な医療技術では完治できない病を患い、自室に伏してから日に日に魔力が弱まっていき光り輝く翼は実体化しかけていた。
「兄上、失礼します」
ラフマの自室に入って来るのは、弟であるラファ・ラヴァーナルだ。
「ラファか…いつも見舞いに来てすまないな」
「いえ、私が自発的に来てるだけです。気にしないでください」
ラファはほぼ毎日、ラフマの元に訪れていた。
「ラファよ…」
「なんでしょうか、兄上」
ラフマの弱々しい声を聞きラファは近寄る。
「我が帝国はあと1か月で全ての準備を終える。その時には余が命令さえすれば世界征服を実行に移せる」
「だが、余の命はそう長くない。その頃にはもういないだろう」
「兄上、そのような事は言わないでください」
ラフマの縁起のない言葉にラファは悲しそうな顔をする。
「次期皇帝で息子のシヴァは、臆病風に吹かれている。シヴァが皇帝に即位し劣等種共と寄り添う融和路線に切り替えるかもしれん」
「我が帝国は、世界を制する権利がある。それを実行できる強い者を皇帝にしたい」
「余はお前にこの帝国を託したい。次期皇帝になってくれまいか?」
ラフマからの次期皇帝指名にラファは驚いていた。
ラヴァーナルは世襲君主制を採用しており、第一位は息子のシヴァ、第二位は弟のラファの順で帝位継承制度で定められている。
シヴァが死亡若しくは帝室降下などをしない限り、ラファに帝位継承が回らないようになっており、今回の指名は前代未聞だ。
「兄上、それでは帝室の慣習に反します。どうか、考え直してくれませんか?」
ラファは考え直すように説得する。
「ラファよ…お前も臆病風に吹かれたのか?」
「い、いえ、そう言うわけではありません。私を即位させるならシヴァ殿を暗殺するか帝室から降ろすように工作してからでないと…」
ラファは、ラフマと同じくラヴァーナルは世界を支配する権利があると言う考えを掲げている。
彼としては、シヴァを皇帝としてそのまま即位させるか、帝位継承順位が上がるように工作して、帝室の慣習を守るべきとしている。
「余には時間が残されてない。実行した頃にはシヴァは皇帝に即位している」
「ラファよ…余の最後の我儘を聞いてくれぬだろうか?」
ラフマの願いにラファは、しばらく考え込む。
覚悟を決めたのか、目の色が変わっていた。
「兄上は今日に至るまで私の我儘を聞いてくれました。今度はこの私が兄上の我儘を聞く番に回ってきた事ですね」
「兄上の最初にして最後の我儘しかと受け取りました。私がこの帝国を率いり世界を手中に納めましょう!」
「頼んだぞ。パスヴァルグで見守っている」
それから、ラフマは次期皇帝にラファを指名する正式な書簡を渡した。
ラフマはしばらく1人にしてくれとに言い残し、ラファは静かに部屋を出た。
ラフマは懐からシヴァと一緒に写った魔写を取り出し、指をなぞりながら懐かしんでいた。
「息子を殺せもしない追い出せない余も、臆病風に吹かれたのだろうな」
2時間後に大ラヴァーナル帝国ラフマ・ラヴァーナル皇帝は崩御した。
その3日後に、ラフマによって直接指名されたラファ・ラヴァーナルが皇帝に即位した。
「この即位に対して、帝位継承第一位だったシヴァ・ラヴァーナルは帝国の慣習に反してるとし、ラファ・ラヴァーナルの即位は無効と主張しています。シヴァ派を支持する元老議員と軍人をはじめラフマ派の一部も加わり大規模な抗議活動を展開。この抗議活動は帝国全土に波及し内戦一本手前にまで近づいています」
「ちなみに、皇帝に即位したラファと対立しているシヴァはどう言った人物なんだ?」
スシリアの報告を聞き終えメリマキサは質問する。
「はい、ラファは前皇帝と同じラヴァーナルによる世界支配を掲げ、一方のシヴァは世界支配や侵略行為を辞め世界と融和路線を掲げています」
「皇帝が息子ではなく弟を即位させた経緯は察せたよ。慣習に反してまで世界を支配したいのか」
クレイハムは異常に拘るラヴァーナルの世界支配に狂気を覚えていた。
「私としては、融和派のシヴァの主張が認められ本来通りの帝位継承で皇帝に即位して欲しいですが、今の軍閥では介入不可能なのが痛い所です」
「…そうだね」
「報告は以上になります。それと連絡ですが、シュミールパオ司令官がクレイハム総長をお呼びです」
「了解だよ。すぐに司令官の方に向かう」
クレイハムはスシリアの伝言を聞き、そそくさとシュミールパオの元へ向かった。
「早く復讐の準備を進めなければ、融和派が皇帝に就こうが関係ない」
「ミリシアルが完全に消えてしまう前に…」