ミリシアル最終聖戦記 作:NO SIGNAL…
戦後に向けての前進
1686年2月28日
オルクス
地下総司令部
「ラヴァーナルの戦力は歩兵450万、機甲師団55個、航空戦力20000機、艦隊戦力1800隻、空中戦艦200隻となります。一方で我がミリシアル軍の戦力は歩兵260万、機甲師団31個、航空戦力12000機、艦隊戦力1300隻、空中艦100隻となります」
ミリシアル側の空中艦は地上部隊に対する燃料や弾薬などの補給物質を輸送する兵站支援艦で占めており、それらを護衛する護衛艦は艦対空誘導魔光弾などが主武装である。
ラヴァーナルの空中戦艦やパル・キマイラのような重武装の空中戦艦は保有しておらず、先の統一戦争で空中戦艦やそれに準ずる兵器が誘導魔光弾などで呆気なく破壊され事と、ミリシアルの誘導魔光弾技術が大幅に発展したため保有する必要性がなくなったからである。
「数的不利はあるものの奇襲による全面侵攻で大陸生存圏にあるルーンポリス帝国管理管区を瞬時に確保し我が軍の補給状況を整えます。そこから部隊を3つに分けルーンポリスの奪還を試みるエモールのラヴァーナル軍に備え、北東部の部隊はミルキーに進軍し敵の資源供給の断絶と南下する敵艦隊に備え沿岸砲部隊や誘導魔光弾部隊を配置、北西部の部隊はトルキアに進軍し中央大島からの侵攻を阻止します。一方海軍は西から海上を北上し艦隊はパゼントラ帝国管理管区がある中央大島を確保し海上補給拠点を整備、東は防衛艦隊と潜水艦を展開し海上から南下する敵艦隊の侵攻に備えます。これらの第1段階が完了した後に第2段階に移行。ルーンポリス中央・トルキア東部・ミルキー西部からエモールを挟撃、海軍もラヴァーナルに対する打撃作戦を開始します。エモール攻略後アガルタ・ギリスエイラに進軍し第3段階に移行。ミリシエント大陸とヴィナタル管区が接するリビズエラに一斉侵攻し帝都ヴァラシナに向けて全面侵攻を開始します。これらの作戦が完遂した後にラヴァーナルは地上から消え去る事になるでしょう」
スクリーンに映し出された地図にあるラヴァーナル本土を示す光翼旗がガラスのように砕け散った。
「なお、段階分けされた3段階の内達成が困難と判断された場合、最終聖戦の完全な勝利を掴むべくコア魔法の積極的使用に方針を切り替えます。以上が大審判作戦の概要です。既に前線付近では兵員・武器・弾薬・燃料の補給を終えた大部隊が待機しており、国土の奪還戦争そして大祖国戦争の復讐の実行が可能です。ドミスト閣下、ご命令を」
「作戦の説明感謝するクレイハム司令官。遂に我々はラヴァーナルに対する復讐を、大審判を実行する日が来たのだな」
作戦内容の説明を聞いていたドミストは運命の日が来た事に安堵のような表情を見せていた。
「あまり顔色が優れないようですがどうされましたか?」
クレイハムはドミストが浮かべている安堵は作っているのだと見抜き彼の体調を心配していた。
「…私はこの日のために戦って来たはずだ。はずなのだが、ミリシアルを統一する前から感じていた拭い切れない不気味な生命のような恐怖感が遂に足元から込み上げて心を締め上げている」
彼はその蠢く物体がある方に目を向けていた。
そこには国家再生委員長が立っていた。
彼女の小さな背中の遥か向こうにいる数百万の侵攻部隊と言う巨象達も。
「君とメリマキサ君があの人口増加政策に参画してから尚更強まっているのだ」
「その恐怖は何故生まれるのか閣下は原因をご存知なのでしょうか?」
「数年間、ずっと分からなかったのだが昨日ようやく推測が立った」
ドミストは感じていた物の正体を言う。
「この感情は“正気”から生まれるのではないのかと…」
「正気、ですか」
「そうだ、結局のところ私はシュミールパオ閣下と言う死者の意思の代弁者に過ぎないが本当に私は代弁をできているのだろうか?シュミールパオ閣下はこのような事を望んでいたのか?」
彼はミリシアル国家再生政府の前身となる神聖ミリシアル連盟創設者である亡きシュミールパオを思い出す。
「ここ最近、我々は狂気に支配されたまま今日を迎えて来たように思うのだ。我々は今まで正気を保っていたのか、寧ろ正気を狂気で押し潰していたのではないか」
「我々の運命は母なるミリシアルが握っているのみであり、示された道筋を歩いているに過ぎません。ミリシアルがここに導いたのであれば人類の命を代償にラヴァーナルに復讐する事も、大祖国戦争の時に定められた運命であったと言えるでしょう」
ドミストの自問自答にクレイハムが答える。
「閣下が思う正気は大祖国戦争前の温かい記憶だと思います。ラヴァーナルが侵略する前の神聖ミリシアル帝国は決して素晴らしい国家とは言えません」
かつての祖国はラヴァーナルが遺した遺跡を頼りに発展した世界最強の国家として君臨した。
しかし、日本やグラ・バルカスと言った自分達より強力な国家が召喚され世界最強の座から転落、遺跡に頼りすぎた結果歪な技術体系である事が判明するなど素晴らしいと言えなかった。
「ですが、そこには日常がありました。1659年から始まったラヴァーナルとの大陸間戦争で我々は失い過ぎたのです」
「平和を、日常を、家族を、そして尊厳を失いました」
クレイハムは家族団欒で過ごした幼少期や今は無き故郷の風景を思い出す。
「長い年月をかけて復活した侵略者との絶滅戦争の末、7000万人の死を通して勝利を得られなかった我々に残ったのは侵されたミリシアルの大地とラヴァーナルで大量に従事され物のように扱われるミリシアル人奴隷。ミリシアルの心はあの時に壊れたままです」
彼女の心もあの時に壊れた1人に過ぎなかった。
あの戦争がなければ幸せな家庭を築けてたのではないかと感じていた。
「戦前の感情を正気と言うのであれば我々はそれを失った者達でしょう。取り戻す事ができない者達でしょう。もはや懐かしむことしかできない絶滅戦争前の日常は、我々を大義から目を背ける欺瞞でしかなく、それ以外に意味を持ちません」
絶滅戦争で全てを失い心を壊された彼女にとって感傷に浸る事は無駄である事だと切り捨てた。
「我々の空虚な心を埋めるのは復讐と勝利のみです」
「そうか、我々の心は大祖国戦争の時にのまま止まっているのだ」
「あの戦争を終結させなければなりません。我々の手で今日まで30年以上も続いた大陸間戦争に勝利と言う終止符を打つのです」
「時を戻す事はできません。しかし前に進む事はできます」
「失ったミリシアルを取り戻しましょう」
「ラヴァーナルとの戦争を開始しましょう」
「ヴァラシナまで前進しましょう」
彼女の声は大きくなり声は部屋の中を響かせるには十分だった。
「第2次大陸間戦争、いや長く続いた大祖国戦争戦争に勝利する事で我々は初めてあの戦争から解放され“戦後”を歩む事ができるのです」
「復讐と勝利、ミリシアルに必要な二つを手に入れるべく、聖戦を開始しましょう!」