あべこべ世界で襲われたくないのでフルアーマーで暮らしてます。   作:ダイコンハム・レンコーン

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評価とお気に入りが類を見ないほど増えてて人生で初めて数字に恐怖を覚えました。


探しものはなんですか?

 明くる日の朝、私は歩いてある場所に向かっていた。

 

 向かう先はこの街の歓楽街。夜は華やかに煌めく街も、朝方ともなれば祭りの後の静けさにも似てしんとしている。

 

 イルシュがこの前にインキュバスの娼館がどうこう言っていたが、街の中でどこに情報が集まるかと言えば、当然人の集まる酒場か歓楽街だ。手探りしらみ潰しで探すよりはずっとマシだろう。

 

 特にインキュバスは種族全員誘い受けの気質で相手を乗せるのが上手い奴が多い。ついつい口を軽くした女が吐いた言葉を記憶して次の商機へ繋げる。非常に強かだ。

 

「……久しぶりだな、ここも」

 

 私は、見覚えのある看板の下で立ち止まる。このインキュバス娼館の軒先に飾られた青い肌のインキュバスが寝そべる姿が描かれた看板。見る者は立ち止まり、絵に起こされた艶やかさに見惚れてしまう……と言う話だ。私は両刀でもないので一生分からない感覚なのかもしれない。

 

 ふう、と息を吐き、意を決して閉じられたドアを叩く。朝っぱらから娼館を訪ねる姿など、他人にはあまり見られたくはない。

 

「──んん? 誰っすか朝っぱらから……」

 

 すると、僅かに開いたドアの隙間から出て来たのは、寝ぼけ眼を擦る少年の姿。腰に掛かる程の長い髪に隠された背中には悪魔らしい羽があり、臀部からは槍の様な尻尾が飛び出している。そしてチューブトップの様な服とショートパンツだけの彼をそこらのエルフや竜人が見れば即行で誘拐を企むに違いない。

 

「っ……て」

 

 そんな彼は、私を見て目を見開く。私も彼を知っている。

 

「り、リリーの姉御!?」

 

 腰に下げた得物を見て私である事を確信した様子の彼に、頭を下げる。インキュバスは夜行性、つまりは彼らにとっての深夜帯に私は訪問したのだ。迷惑極まりない。

 

「朝早くにすまない。メルク、君に少し聞いてみたい事があったんだが」

「大丈夫っす! あ、お茶出しますから、中で話しましょうよ!」

「そこまでして貰う訳には──」

 

 だが彼は快く引き受けてくれた、その上お茶まで出してくれる気持ちはありがたいが、既に申し訳なさで一杯になりつつある私には受け入れ難い提案だ。彼の背中でご機嫌に揺れる尻尾から目を逸らす。

 

「っ、ダメっすか?」

 

 ……上目遣いはやめてくれ、居た堪れなくなる。インキュバスは肌色を変え、羽や尻尾を隠せばただの人間の少年にしか見えない。口には出さないが、真っ向から誘われると断りにくくて仕方がない。子供でないと分かっていてもだ。

 

「──分かった、その厚意に甘んじよう」

「っやったぁ! 久しぶりに姉御と一緒っすよ!」

 

 メルク。彼は誘い受け気質のインキュバスには珍しく攻めっ気の強いインキュバスだった。だが当時のトレンドは総受け体質の男の子、トレンドに合わない彼の気質は女子受けが悪く、伸び悩んでいた。

 

 自分を曲げて流行りに迎合するか否か悩んでいたそんな時に私とは出会い、色々あって今では自分の娼館を持てる様になるまで成長して──っと、思い出に浸るのはまた今度で良いだろう。

 

 連れられた客間。私にお茶を出してくれたメルクは向かい側に置かれた椅子には座らず、私の側のソファー、それも私の隣に座る。

 

 私の腕に絡みつく彼は、こちらを見上げる。

 

「で、姉御の話ってなんなんすか? オレで良ければ力になるっすよ!」

 

 男らしい事を言ってくれるのはいいが、獲物を狙う女の様な目をしている事は突っ込むべきか否か。

 

「久しぶりの姉御の匂い……すぅぅっ」

 

 この世界で攻めっ気があるとは、この世界の女の様になると言う事である。

 

 つまり、攻めっ気のある娼夫の人気が低いのはシンプルに同族嫌悪だ。それでもまだこの程度なら猫みたいに可愛いものだ……他はキメラかドラゴンみたいな化け物だからな。女の側で見ていると尚のことそう思う。

 

「私の匂いでトリップしないでくれ、メルク」

「……っは! し、失礼したっす」

 

 そろそろ話に入ろう。私は彼に例の娼夫について聞いていく。

 

「君は最近、奇妙な娼夫の噂を聞かなかったか?」

「……う〜んと、あ! 確か手と口しか使わない子って噂の?」

「そう、私はその娼夫の情報を聞きたいんだが。情報料はもちろん払う」

「ふ〜ん。姉御が他の男に興味を持つなんて珍しいっすね。その子が少し羨ましいっすよ」

「そんなつもりで聞いた訳じゃないのは分かるだろう」

「勿論っすよ。でもその上でってコトっす」

 

 噂についてはここでも流れてはいたらしい。ある意味で商売敵という事もあり、もしかするとより深い話を聞けるかもしれない。

 

 相変わらず金はあまり気味、情報料を払うに困る事もないだろう。

 

「っ、ならオレと一晩……」

「金は払おう」

 

 ──寧ろ、払えるものはそれしかない。

 

 彼が私の初めてを……と思っているのは流石に察しているが、やはりどうやっても無理なものは無理と言う他ない。

 

「だからオレと一緒にベッドで……」

「金は払おう」

 

 すまない。私は心の中で謝るしかない。

 

「そ、そんな嫌っすかオレのことっ!?」

「いや……違うんだ。君という個人は好ましいが、性的には、まあ、その、アレだ」

「配慮が痛いっすよ! 滅多刺しっす!」

 

 涙目になる彼だが、これも何度目か分からない位に繰り返したやり取りである。何も柵がなければ、彼とは男として友人になれていたかも知れないが、そんなもしもは所詮もしもである。考えるだけ虚しい。

 

「はぁ、姉御も変わんないっすね」

「そっちも変わらないな」

「じゃ、久しぶりの再会っすから()()大サービスでタダで教えるっすよ」

 

 彼は指をピンと立て、私の兜のスリットをツーっとなぞり、淫美にその指を舐め上げる。彼らしからぬ受身なアピールだが、涙ぐましい努力に対して私の身体は悲しいほどに反応しない。フリでも出来たらマシだろうに。

 

「……突っ込まないぞ私は」

「いやいや、突っ込むのはオレっすよ? なんて冗談は置いておいて──その娼夫、結構前から噂には聞いてたんすよね」

「ほう」

 

 落ち着きを取り戻した彼は語る。噂の娼夫について。

 

「その娼夫は冒険者をメインの客層にしてたんすよね」

「まあ、冒険者には色々と持て余した奴が多いからな」

「確かに金払いは悪くないっすね。でも、冒険者相手のお仕事ってすっごく疲れるんすよ。大道芸みたいな事やったり、色々と拗らせたせいで変なプレイに走ったり」

 

 彼はため息を吐きながらも、どこか乾いた笑みを浮かべて話を続けていく。……どこの世も大変だな。

 

「だから、それをずっと前からやり続けられるって時点で相当な理由がある筈っす」

「理由、か」

「オレも考えた事があるんすけど、その娼夫は金が兎に角欲しいって感じに思ったっすね」

「……金」

 

 相手を騙す程の理由。金が欲しいのは誰だってそうだが、あんな子供がそこまでして金を求める理由。

 もし身寄りが居ないと言うのなら、孤児院に行けばある程度は面倒を見て貰えるはずだ。私やイルシュだってそうだった。

 

 それでも金が必要な理由があるとすれば、シンプルな話だ。

 

「そこまでして何を欲しがってたのか──気になんないっすか?」

 

 彼の顔には、私が求めているものを知っているという自信があった。もしかしなくとも、彼は知っているのだろう、その娼夫の所在を。

 

「インキュバスはこの街の影の支配者。これくらいチョチョイのチョイっす」

 

 彼が私の手に一枚のメモを握らせる。そのメモにはスラム街を示すランドマークの名前と、簡易な地図と星マークが描かれていた。これは恐らく、かの娼夫の居住を示すものだろう。

 

「ま、本当の所はどこぞの馬鹿なエルフが、その娼夫を分からせようとストーキングしてたらしいんすけど、どう言う訳か完全に戦意喪失してオレにくれたんすよ」

 

 ──今までの情報源、まさかあの阿呆エルフ2人組からなのか。とすればまた因果な。いや、今はありがたく受け取っておこう。

 

「メルク、ありがとう」

「礼なんていいっすよ。オレと姉御の仲じゃないっすか! だから今度は客として──」

「ああ、行けたら行こう」

「それ行かない人の常套句じゃないっすか!」

 

 もし、この地図を頼りにしてあの少年が見つかれば、噂の娼夫は少年という事になる。その上で性別の件の真偽を問い、偽っていたと分かればイルシュに金を返させる。後は相手の出方次第だ。

 

 

 


 

 

 

 所変わって、街のスラムにやって来た。どんなに輝く代物にも影がある様に、どんな国や街にもこうした場所は存在する。

 

 元々は傭兵達や軍関係者が集まる地区だったこの場所は、昔の戦争で多くの人が帰らぬ人となった結果土地の権利関係が宙ぶらりんとなって、いつしかそこに家を失くした人や身寄りがない人が集まった事で構築された。一応近くには教会と孤児院があるようで、情報を集めるならそこに寄るのもまた手だろう。

 

「……あれは」

 

 掘建小屋や朽ちた家屋が並び立つ茶色の街並みを進んでいると、1人の鎧姿の女が山の様な袋を背負ってこちらに歩いているのが見えた。

 輝く様な白銀の甲冑を身に纏う姿は、どこかで吟遊詩人が唄に歌いそうな風格がある。私の身に付けているやや古めかしい意匠の鎧に比べて随分と華やかなものだ。

 

「おや、こんな時間に人が来るとは珍しいですね」

「……私の事か?」

「ええ、貴女は見たところ冒険者、でしょうか?」

 

 私とは違い兜は外している彼女は、三角の耳が頭頂部から飛び出しており、それを除けば白銀の髪に紫紺の瞳の美女である。が、この世界は第一印象に対して中身が伴わない事もままある為、参考資料程度にしかならない。

 

「ああ、そうだ」

「ああやはり! 私も同業者なんです!」

 

 彼女は朗らかに笑う。明らかに良いところのお嬢様という様な雰囲気だが、もしかしたら孤児院のや教会の関係者だろうか。

 

「私はこう見えてもSランク冒険者でして」

「──ほう」

 

 Sランク冒険者。

 

 それはどんな功績を積もうとも到達する事の出来ないランクである。

 

 かつてこの大陸に広がった戦火の中、多くの国々が争い血を流し屍の山を築いた事があった。

 その戦いが終わった時、冒険者ギルドという独立した組織は誕生したのだが、その際に各国の戦力を削り、かつどこかの国が争いの火種を寄越した時に即鎮火出来る様に中立組織だった冒険者ギルドに力を集める流れが生まれた。

 結果、かつての戦いの中で別格の戦果を上げた各国の兵士が集まり最高ランクの冒険者として専属契約したのだが──それがSランク冒険者である。

 

 と言う訳で、Sランク冒険者はそれ以降増えていない。有限会社的なモノだろう。

 

 ……で、なぜそんな奴がこんな場所に居るのかだが。

 

「そうか、それはまた随分な肩書きだな」

「ははは……私もそう思ってるんですが」

「因みに、ここで何をしていたんだ? その荷物は?」

「ええ、私は教会と孤児院に食料を寄付してるんです。この区域のパトロールも兼ねて毎日やってて」

「そうか、善い仕事だな」

 

 どうやら、彼女はこのスラムを見回っているらしい。もしかすると、彼女はここの事情に詳しいかも知れない。

 

「……実は今、人を探していてな」

 

 ──私はメモを見せようとして、止めた。

 

『ま、本当の所はどこぞの馬鹿なエルフが、その娼夫を分からせようとストーキングしてたらしいんすけど、どう言う訳か完全に()()()()してオレにくれたんすよ』

 

 私の頭の中にはさっきメルクが言っていた言葉が頭を駆けていた。そのエルフが戦意を喪失した理由について、私はまだ知らない。

 

 それは個人的な理由かも知れない、別の要因かも知れない。

 

 だが、もし今朗らかに笑みを浮かべる彼女がその要因だったとすれば。彼女は下手をすればその娼夫と知り合い、いや、身内という事もあり得る。下手に彼女を刺激してリスクを背負うくらいなら、自分の足で調べた方がいいだろう。

 

「……だから暫くはここを歩き回っていると思うが、騒ぎは起こさないと約束する」

「ああ、なるほど。分かりました! 私もここでパトロールをしてますから、何か困った事があれば聞いてくださいね!」

 

 そう言って彼女は通り過ぎて行った。私の額には知らぬ間に汗が滲んでいる。まさかたかが娼夫探しでSランク冒険者と遭遇するとは。

 

 Sランク冒険者は元々が兵士や傭兵の類いである為、マトモな奴とイカれた奴の差が酷いと聞く。彼女はどうやらマトモな側だったらしい。

 

「あ! そう言えばお名前を言ってませんでしたね! 私はクラウベルって言います!」

 

 と、後ろから大きな声が聞こえてきて、私はそれにこう応じた。

 

「私の名はリリーだ! 感謝する、クラウベル!」

 

 そうして今度こそ、この邂逅は終わりを告げた。

 

 

 


 

「う〜ん、でも、何ででしょうか。あの人から妙に頭がクラクラする濃いオスの匂いがした気が……ああ見えて実は毎夜男を取っ替え引っ替えする遊び人だったりして……」

 


 

 

 

 私はメモを頼りにスラムをどんどんと進んでいた。特に誰かに絡まれるでもなく、ただただ歩くだけ。Sランク冒険者がパトロールしてるだけはある治安だ。

 

 そうしてやって来たのは、割れた石畳の広がる広場。

 地図に描かれていたランドマークというのは、この広場の中心にある救国の英雄を模った像……の残骸の事らしい。かつての栄華を彷彿とさせるそれが却って寂寥感を強めている。

 

 観光はこのくらいにして地図が示す場所へ向かうと、そこには地下の下水道に繋がる縦穴があった。

 

 私は躊躇いもなくそこに掛けられた梯子を降りていく。

 

「ここがその場所か。確かに隠れ家としては最適だな」

 

 薄暗い下水道の中には、幾らかの灯りが灯っている。それは空気中の魔力を溜め込み自然発光する炎石(ほむらいし)によるものだろう。何年働き続けているか分からないが、随分丈夫なものだ。

 

 道なりに進んでいくと、やがて広い空間にたどり着いた。幾つかの下水道が合流する地点らしい。

 

 更に、周りを見れば椅子や机、衣服などが干されているこの空間には生活感と直近に人が居た気配を感じる。まだ近くに誰か居るかも知れない。

 

 と、後方に気配。私は振り向きながら、得物を構える。

 

「──誰、ですか」

「君は……」

 

 そこに居たのは、昨日の少年にそっくりな、それでいて幾らか小さい誰かだった。

 

「まさか、泥棒……」

「いや、違う。こんな音の出る格好で盗みに来る奴は居ないだろう」

 

 怪しい者を見る目をした少年に、得物をしまってから少し苦しい言い訳をする。盗人だろうと違おうとどちらにせよ不審者である事に間違いはないからだ。

 

「確かに、それもそうですね」

 

 しかし、彼は手を叩きこの言葉を受け入れてしまった。

 

「……信じるのか」

「はい、納得しましたから」

「全くもって釈然としないが……」

 

 確かに目の前の少年は昨日の少年に似ているが、会話すれば自ずと別人だと分かる。明らかな天然キャラかゆるキャラの類だ。

 

「なら、どうしてここに来たんですか? 何も無いですよ、ここ」

「少し、身内のお礼をしたくてな」

「へぇ……へぇ? どういう事ですか?」

 

 ……不思議系も混ざってるな、彼には。

 

 だが、ここに居たという事は、噂の人物の関係者かも知れない。私が来た理由を悟られるのは少し困るので察しが悪いのは助かる。正直な所、その噂への純粋な興味も湧いて来た所なのだ。

 

「あ、もしかしてお姉ちゃんのお知り合いですか?」

 

 と、まだこんな物騒な身なりをした私に対してのんびりとした態度を崩さない少年には大物の風格すら感じつつある。

 

 話を合わせるべきだろうか。

 いや、ボロが出そうだ。止めておこう。

 

「残念ながら違うな。そのお姉ちゃんと言うのは、君の姉なのか?」

「うん、そうだよ。しっかり者のお姉ちゃんなんだ」

「ああ、そうか。だが他人に身内の事を話すのは程々にした方がいい。色々と苦労するぞ」

 

 他の女に身内(特に男)の話は控えた方が良いと言うのは冒険者の間では常識だ。

 

 彼氏自慢などしようものなら明日にはその彼氏の消息が途絶えるだろうし、父親の事を話そうものなら自分の母とその女はもれなく殺し合う羽目になるだろう。中には知り合いの結婚を他人にバラす攻撃方法なども存在するが、これは罪に問われるレベルの所業である。

 

 ……誇張はあるが、それ位注意するに越した事はないという事だ。力が中途半端にある奴ほど何をしでかすか分からない。

 

 また、身内の男の話をしたら実質その男と婚姻の契りを交わした事になるなんてふざけた文化圏もある。……主にエルフという奴らのだが。

 なぜ現在エルフの迫害が起きていないのか不思議でならない。冒険者ギルドのトップがエルフであるからだろうか。

 

 などと悲しみしかない話をこんな少年にする訳にもいかず、やんわりとした注意に留めておいた。将来嫌でも知ることになるだろう。社会の怖さを。

 

「……うん、分かった」

「よし、良い子だ」

「お姉さん、手大きいね」

 

 頭に置かれた手に綿菓子めいてふわふわとした笑みを浮かべる少年。

 

 余りにも無防備過ぎる。あって間もないが既に将来が心配になっている私が居るぞ。

 

「そうか、だが皆こんなものだろう」

「ううん、それに優しい」

「……私はそれ程優しくもない。自分と他人に甘いだけだ」

「もう、素直に褒められてよ」

 

 少年の顔はほんのり赤い。この環境を見るに、親が居るとも思いにくい。甘え上手に見えるが、こんな世界で男が他人に甘えるとは即ち()()()()事だ。だからこそ相応に愛情に飢えていたのではないか。

 

「私が言うのもなんだが、他人に気を許し過ぎじゃあないか?」

「ん……でも、お姉さんからは嫌な感じはしないし」

「それでもだ。こんな世の中だ、疑う事は覚えて損じゃない」

 

 少年は不思議なものを見る目で言った。

 

「……お姉さん、お母さんみたい」

「口煩いという意味なら、そうだろうな」

 

 子育ての経験なんて一度も無かった筈なんだが──。

 

 ──カツン、カツン。

 

 そしてこんなやり取りをしている内に時間は過ぎていた様で、ここへ来た道の方から足音が近付いてきた。

 

 恐らく噂の人物か、彼の姉だろう。だが敢えて断言するなら、きっと来るのは噂の人物の筈だ。

 

 メモを頼りにここまで来て、目の前にそっくりな少年がいた。そして彼の言う姉についても繋がりがあるのなら。

 

 多分当たりだろう、そんな予感がした。

 

 足音はすぐそこにある。

 

 そんな私の予想は──

 

「なん、で」

「お帰り、お姉ちゃん!」

 

 

 

「また、会ったな」

 ──大当たりだった。




見ていて混乱するでしょうが、作者も混乱しながら書いてるので大丈夫です。
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