01 プロローグ的ななにか
転生したい世界なんていくらでもあったが流石にこれは話が違うだろ。
『ゴッドイーター』。
そういう名前のゲームがある。いや、在った。前世の世界に。
内容は──アラガミとかいう人類の敵が跋扈する末期世界で血を被りながらアクションして最終的にロリショタな姿をした人外に助けられるゲームだったハズだ。どれだけ続編が出ても救世詐欺野郎しか出てこず、まったくお先真っ暗な転生先である。
西暦2050年──アラガミが発生する年に、私は生まれた。生まれてしまった。
原作開始年の2070年代まで、まだ20年もある。
食い尽くされる都市! 争い合う人類! 希望のない毎日! アラームは絶え間ない銃声! 容赦なく襲い掛かる化物! なるほど了解、終末です。
不幸中の幸いといっちゃなんだが、転生した私は孤児で、失う両親がいなかったことか。後ろ盾がないので、大変っちゃ大変だが。
──────とか呑気に、「よーし、後は生き残るだけだー」と構えていたら拉致られた。
幼児誘拐! 違法実験場! 屋根のある生活! 怖い大人! 目が死んでるケンキュウシャーの皆さん! 日々サイレントでいなくなっていく他の子供たち! お出しされる謎の食料! 食べないと怒られるからたべる! 「君たちは人類の希望にナルンダヨ~」とか怪しい演説を開始する怪しいおっさん! 屋根はあるけど陽の光から隔絶された毎日! 日に日に様子のおかしくなっていく同胞!
2061年──拉致られてから二年後。そんな研究所での生活は唐突に終わりを迎えた。
別にヒーローが助けに来てくれたとかじゃない。──アラガミさんである。
野生のアラガミ集団が研究所を襲ったのだ。研究所は対アラガミ装甲壁で守られていた特別な場所だったらしいが、アラガミ先輩たちの進化スピードをナメてはいけない。現在進行形で現代文明を蹂躙するガチの化物集団である。壁は豆腐よりも柔く砕けて散った。アラガミの謎ビーム! 天井は吹き飛び、瓦礫に埋もれて運の悪い奴は死んだ。
サラバ、我が第二の故郷よ……
なんて精神的余裕はなく、私も一目散にその場を逃げ出した。
そして生き残った。これが結果だった。
人生、生きてりゃいいのサ。なんとかなる保証はないけど。
あっ、アラガミさんがこっちを見ている! 逃げよう! キャーッ!
▼
──既にアラガミさんたちの縄張りと化した今の極東JAPANに安息地などない。
それでも人々は生きている──僅かなコミュニティを作り上げ、住処もなんとかして構築し、秘境みたいなトコでひっそりと生きていたりする。
研究所から逃げ出したら、まずそういうところを探して……とか考えていたのだが、流石に無理ゲー。
こっちにゃ地図もスマホもねーのだ。
都市といっても、まず時代からして前世より遥か未来だし、あちこちアラガミさんの餌場になってたりして、地形ごと変わってるので、今どこにいるか見当もつかない。
見当がつかないとどうなる?
デスオアダイ。死しかねぇ。
転生特典とかで転生者補正なびっくり技能とかとんでも強運はなかったのかなー!
ちきしょう、ゴッドイーターになる前に死ぬ。こんな世界に転生したなら、まずそのプレイヤーとしてのメイン要素を満喫してから死にたかった……!
「……っ、が、ぐぅ……し、しぬ…………」
ここに行き倒れ一歩手前の幼女一人。
研究所から逃げ出して三日。基本的に息をひそめて歩かなければならない外界は、どこへ行ったってアラガミさんがうろついている。
ゲームチュートリアルの雑魚扱いされてたオウガテイルなんて、今はラスボス並の恐ろしさを感じている。アレに嬉々として突撃して素材にしか見えてないゴッドイーター(ゲーム)、やっぱおかしいよ。ほぼ前世の自分のことだが。
夜は捨て置かれた廃車の中で眠る。アラガミの気配がない時だけ移動する。細心の注意を払って、鼠のように地をはって、フィールドの瓦礫の隙間を抜け、少しずつ……少しずつ移動する。
人の痕跡を求めて。
もっといえば、フェンリル極東支部──この極東地域において、唯一、まともといえる人類の生存圏を目指して。
耳を澄ませる。アラガミの足音か人間の足音か。戦闘音はないか、人の声はしないか。
なんでこんなに人気がないんだよと考えたら、こういう場所でこそ違法研究が捗るからだと思い至った時、カス研究者どもに憎しみがわいた。もっと正々堂々と違法研究しろクズが……!
つーか、二年間監禁されていたようなもんなので体力がねぇ。
休み休みやってきたが、まともな水も食料も見つからないとあらば、もはや天命我にあらず。
私の思考は「生きること」から「どうやってカッコつけて死のうか」にシフトしてきていた。
そうして──意識が落ちる。
次に目を覚ました時は夜だった。気絶していたのだと気付くと同時に、道端で完全に行き倒れていたあんまりな現状に、絶望する。
アラガミさんたちがー。
オッ起きた、と言わんばかりにー。
周囲、十メートルもないところから、じわじわとー。
こちらに寄って来ているのですがー。
(終わった…………)
死、あるのみ。
六体のオウガテイルに囲まれたら、もう諦める他にない。
あと数秒、数十秒。
私のセカンドライフは、よくあるモブ雑魚らしく、誰も知らないところで、おわ────
「………………?」
ふと。
不意に──空気が変わる。アラガミたちの動きが、気配が変わる。
それは急に理性を取り戻したような。
餌を見るだけだった目が無機質なものに変わり、くるっと尾をこっちに向けて、どこかへと去っていく。
ここには何もいなかった、とでもいうように。
一体なにが──?
そう思ったとき、背後に気配を感じた。
「──ッ!?」
そこには白い少女がいた。
襤褸をまとい(!)、白いショートの髪を持ち(!!)、じーっとこちらを見降ろす少女(!!!!)。
知っている。彼女を知っている。
この世界のキーにして、重要人物が一人。
史上初の人型アラガミ・シオがそこにいた──!
「……っ」
──勝った。
見た瞬間、そう思った。早すぎる勝利の確信だった。ほとんど無意味の勝利の確信だった。
シナリオという試合すら始まってねぇ時点でのフライングエンカウント。
こいつは運命を信じる気にもなってしまう。転生者のサガだ。
シオ(予定)はじっとこっちを観察している。まるでこちらのアクションを待っているかのように。
なにか言わなければ──いや、待て。
(待て待て待て待て待て)
これって下手したら原作クラッシュに繋がってしまう場面なのでは?
シオという存在はゴッドイーター世界でも中核に位置するというレベルで重要だ。彼女の行動の変化によっちゃ世界が変わる。っていうか出てくるのがマジで十数年早い。
これは偶然か神の悪戯か?
…………いや、この際どちらでもいい。生き残った方が……とりあえず勝ちってことだ!
「お、……おなか、すいた……」
「オナカ……?」
転生者テンプレッ! 原作キャラの台詞をパクるッ!!
だが今はこれが最適解だと認めてほしい──原作とキャラ性をあまりズラさないためにも、第一声コミュニケーションはこれが一番だ。
コテン、とシオ、いやシオ様は可愛らしく小首を傾げている。
かわいい……可愛い以外の収穫はないが。いやコミュれたこと、遭遇できたことそのものが幸運だろう。
「人の……いる、ところに……」
「ヒト……イルトコ……?」
「お、お腹すいたから……だれか……」
「オナカスイタ……?」
ぐぅぅぅッッ絶望的コミュニケーション!!!! 可愛いからよし!
よしじゃないが。
なんてったって語彙が限られる。余計なことを学習させたくない。ただ、そう、誰か人を、人間を呼んできてくれないだろうか!? 私が彼女に都合よく願うのはそれだけである……!
「……」
ちゃんシオはこっちを黙ってみている。考えているのだろうか? なにかを学習中?
妙な緊張感に私も沈黙してしまっていると、不意に。
「えっ」
ひょいっ、と抱えられた。
思わずシオ様の顔を見る。にこりとされる。
よく分かんないけど運ぶよ!
──なんか、そういう幻聴が聞こえた気がした。
そうして──景色が激変する。
「っっぁぁあああ!?」
びゅん、と──街の景色が小さくなった。
跳んだのだ。シオが。アラガミらしい、驚異的な脚力で!
悠々、何十メートルもあるビルの上までいって、またひとっ跳び(物理)。
……ああ……世界は、こんなに小さかったのかぁー…………
数日、当てもなく彷徨っていた広大な世界を見下ろせる景色。
小さい。なんて小さい箱庭か。あちこちにアラガミが見える。大型のヴァジュラらしきものも見える。だがそれらは私たちに目を向けることなく、勝手に生きて勝手に殺している。
「……っ──」
昇り始めた黎明に目を細める。
空にほど近い場所で、初めて私は、この世界がキレイだと思った。
▼
シオが運んでくれた先は、贖罪の街だった。
ビルにでっかい穴が開いてる、ゲームでは見慣れたフィールドだ。
……来たこともない街で、既視感や懐かしさを覚えるのって、かなり変な感じだな。
ゴッドイーターたちが出撃するスタート地点で降ろされると、シオが口を開く。
「ヒト、イルトコ!」
もちろん周囲に人の気配はない──要はアレだ、「ここはよく人間がくるとこ」と彼女が認識しているのだろう。
人間=ゴッドイーター。
ベストアンサーです。シオさん、いやシオ様。やっぱ世界を救う鍵だよ君は……
「……ありがとう……」
にこにこしているシオを真似て、久しぶりに笑顔を作ってみる。
それに満足気にシオ(さん)は頷き、──どこからか、バラバラとヘリらしき羽音が聞こえてくると、タタッとあっという間に街のどこかへと走っていってしまった。
……またいつか会えるといいなぁ……
「──ッ!? おい、そこに誰か──」
聞き覚えのある声がする。
ぼんやりと狭窄していた視界は、
昔に投稿したGE二次のリメイクならぬリベンジ的なアレ。リザレクションプレイし直したら熱が燻ってきたので。
次回出てくるオリ主の名前はそのままなので当時読んでくれてた人は分かるかも?