転生神機使いは狩り続ける   作:時杜 境

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10 蒼穹の月 -Break ver-

 ──その日は嫌ーな空気をリンドウは感じ取っていた。

 

 キナ臭い。

 

 なんかろくでもない事が起こりそうな“予感”──それはゴッドイーターとして長年にわたって、積み重ねてきた経験からくる直感だった。

 

「──どうかしたか?」

 

 首筋になにかを感じた気がして、リンドウは振り返る。

 そこには追従している新型・アリサの姿があった。

 贖罪の街の索敵は順調すぎるほどだった。風が静まり、アラガミの声一つ聞こえてこない。

 

「い、いえ、問題ありません。側面、後方、共にクリアです」

 

「……そうか。進むぞ?」

 

 アリサが頷き、再び神機を構えつつ移動を再開する。

 

(……この短期間でのレアい新型二人の配属。急に呼び戻されたアキの奴のMIA事故。まぁ、アキの方の災難はあいつ本人が踏み倒すだろうとして)

 

 読めないのはアリサの事情だ。

 彼女は精神的に不安定な状態らしく、定期的に主治医のメンタルケアを受けているとのことだ。新型として演習成績が良いとはいえ、そんな状態で最前線の極東にいきなり配属するなど、支部長はなにを企んでいるのか。

 

(……ま、なるようになるか)

 

 ひとまずは今日分の仕事を乗り越えてビールを飲む。

 そんなことを思考に留めつつ、リンドウは更に歩を進めていった。

 

 

「──お前ら?」

 

 悪い予感というのは早くも現実味を帯びてきていた。

 贖罪の街の中央区画──廃教会に繋がる道の前で、第一部隊の面々と出くわしたからだ。

 

「どうして同一区画に二つのチームが……どういうこと?」

 

 サクヤの言葉にユウが首を傾げた。

 

「……出くわすと何かマズイんでしたっけ?」

 

「一つのエリアに二つチームが別々に派遣される場合、事前に通告されるのが規則のハズだ」

 

 ソーマからの返答に、なるほどと頷く。

 

「そうなんだ……通告がなかったってことは……どういうことです? サプライズ?」

 

「ユウお前、楽観的すぎ! リンドウさんとアリサはなんでここに?」

 

 コウタのもっともな質問に、しかしリンドウは片手で制した。

 

「考えるのは後にしよう。今は仕事を終わらせて、さっさと帰るぞ。──俺たちは中を確認、お前たちは外の警戒。いいな」

 

 有無を言わさぬリンドウの命令に、ひとまず全員が従った。

 外を四人に任せ、リンドウはアリサと教会内部へと踏み込んでいく。

 アラガミの気配はない。そこにはステンドグラスと、朽ちた空間だけが広がっている。

 

 ──その時だった。

 

「ッ、下がれ!! 後方支援を頼む!」

 

 教会の高台奥に空いた穴の外から、大型種──プリティヴィ・マータが姿を現した。

 素早くリンドウは指示を出し、着地したアラガミへと斬りかかる。

 

 ──背後に下がらせた、アリサの異常に気が付かぬまま。

 

   ▼

 

 蒼穹に月が浮かぶ。

 それは、極東に不穏な知らせを告げるようだった。

 

   ▼

 

(──あー、イケるなこれ)

 

 リンドウは割と余裕だった。

 なんか知らんが後ろからアリサの援護射撃が一向に来ないが、そんなことを気にする必要もなく、

 

「ガルァアアアア!!」

 

「結合崩壊っと」

 

 プリティヴィ・マータ──極東で見るのは初めてだが、要はヴァジュラの進化系のような個体で、一応は第二接触禁忌種──近づくことすらも禁忌とされているほどの強力なアラガミだ。

 

 が。悪い予感に反してリンドウは快調だった。

 

 というか、先日の強制休暇のおかげもあってか、絶好調だった。

 

 アラガミの動きがよく見えるし、なんならこいつ顔怖いだけで、氷出すようになったヴァジュラとあんま変わんなくね?

 

 余裕だった。めちゃくちゃ余裕だった。プリティヴィ・マータを捕食(バースト)ついでに弾き飛ばし、胴体を貫く。

 ──アキから教わったコア摘出即殺法の一つだ。コアをぶち抜かれた第二接触禁忌種は、そこで完全に息絶えた。

 

「おーい、アリサ?」

 

 振り返った瞬間、咄嗟に右にかわした。

 虚ろな目のアリサが銃身形態にした神機を構えている──その照準は、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「おおっとぉ……同士討ちで殉職は縁起悪ぃから遠慮したいところだなぁ……」

 

 というか絶対にマズイだろう、と冷や汗が浮かぶ。

 

 リンドウには少なからず、アナグラを支えてきた自負がある。第一部隊の隊長が、「味方の誤射」で死んだとなれば、アリサのその後の境遇のみならず、アナグラにも小さくない影を落とすことになるだろう。

 

 主に幼馴染(サクヤ)とかの話だが。

 

「──っと、考えてる場合じゃないな。よし、アリサァ! 上だ!!」

 

「──……? 上?」

 

 瞬間、リンドウは床を蹴った。

 アラガミを捕食した時のバースト状態──一時的な強化状態はまだ持続している。その身体能力で一気にアリサとの距離を詰め、その身体を勢いよく倒した。

 

 ドガガガガ!! と上向いた彼女の神機が天井を撃ち砕く。

 崩れる音を察知し、慌ててリンドウはアリサの二の腕を掴んで外へと脱出した。

 

 

「──リンドウ!?」

 

「おっといいところに来た、アリサを──」

 

 無理に引っ張り、床に倒れ込ませてしまった衝撃でアリサは気絶していた。天井の崩れる音を聞きつけたのだろう、外にいたサクヤが駆けよって来る。

 

「ガゥウルァア!!」

 

「って、こいつら群れか!?」

 

 その時、先ほど倒したアラガミと同じ顔──プリティヴィ・マータが、通路の外から現れる。

 ズドン! とすかさず銃撃がその胴体を撃った。敵を追いかけてきたユウの射撃だった。

 ガクンと氷の女王の巨体が倒れ、ユウの目がリンドウたちの方を向く。

 

「アリサ!?」

 

 流石に倒れた幼馴染を見て動揺したのか、ユウが走り寄る。

 

「お前はアリサを頼む。ソーマァ! そっちはどうなってる!」

 

 神機を持ち直し、リンドウは外へ向かう。

 そこで見たのは、ちょうどコウタが放ったバレットがプリティヴィ・マータの肩を結合崩壊させた瞬間だった。

 

「ちょうど今終わったところだ」

 

 トドメを刺したソーマがそう報告してくる。

 周囲には、倒れて息絶えたアラガミたちが転がっていた。

 

「……つ、強くなったなぁ、お前ら……」

 

「いやー、バレット様様ってところですよ! 誰なんでしょうね、対ヴァジュラ系の結合崩壊用バレット作ってくれてたの! 一応持ち込んでおいてよかったですよ!」

 

 そんなコウタの言葉でリンドウの頭に思い浮かぶのは、真顔でダブルピースする悪魔の顔だった。世界を周回概念で侵蝕した元凶だが、こういう場面があるから侮れない。

 

「アキの野郎……」

 

 思わず口角が上がりつつも、リンドウは周囲を警戒する。

 後続の気配は──ない。リンドウが倒したのを含め、五体全ての接触禁忌種が全滅したようだった。

 

「リンドウさん! そっちで何があったんですか!?」

 

 と、アリサを背負ったユウがサクヤと共に廃教会から出てくる。気絶したままのアリサは、一向に目覚める気配がない。

 

「それは後で説明する。今はとにかく帰るぞ! ヘリが来るポイントまで──」

 

 

──グオオオォォ────ン!!──

 

 

 瞬間、その場にいた誰もが頭上を仰いだ。

 廃教会の屋根の上。そこに、老人のような人面を持った、黒い──ヴァジュラに酷似したアラガミが立っていた。

 

「あいつは……」

 

 リンドウの脳裏に、かつて訪れたロシアでの記憶が蘇る。アレとは、ある町で戦ったことがある。

 直後、その黒いアラガミが空中に稲妻を走らせた。

 

「ッ──! 総員、走れ!! B地点を通ってC、D地点まで行くぞ!」

 

 狭い場所であの雷撃と戦うのは分が悪い──!

 リンドウの命令を聞いた全員が素早く動き出す。誰もが肌で感じ取っていた。あのアラガミは()()()()。初見で戦おうとは思えないプレッシャーだ。

 

 生きることを絶対命令とする第一部隊は、全速でヘリの降下ポイントを目指して駆けだした。

 

   ▼

 

「グオオオォォォ!!」

 

「足はっや!!」

 

「止まるな! 急げ!!」

 

 ソーマを先頭、リンドウが殿となってその逃亡は始まった。

 自ら殿となったのは、この中で唯一、あのアラガミと戦闘経験のある自分が最適だとリンドウは判断したからだ。

 

 最初の待機ポイントを通り過ぎて、細道のB地点を抜ける。ひらけた広場が見えた。建物の角を曲がった瞬間、リンドウはすぐ後ろ数センチの空間をアラガミの爪が引き裂いていったのを感じた。

 

(ヘリは……まだか!)

 

 だとしても、もう要請を出して二分経っている。アナグラからここまで、ヘリなら四分ほどだ。

 ──残り五分にも満たない時間を、ここで稼げばいい。

 

「グオォォォン!!」

 

「俺それ嫌いだなぁ!!」

 

 追ってきた黒いアラガミ──先のプリティヴィ・マータが女王なら、帝王のような風格のあるその敵が、背に生えたマントから雷球を連続で射出する。

 リンドウはステップでそれを回避し、近づき様に前足を叩く。やや硬いが刃は通る。いける。

 

「っ──!」

 

 半ば本能的な反射で、リンドウはその場から飛びのく。一秒もしない内に、先ほどまでいた位置に雷撃が走っていた。

 ズガッ! とその時、後方から飛んできた射撃(レーザー)がアラガミを直撃した。──サクヤだ。振り返らなくても分かった。

 

「後ろは任せて……!」

 

「加勢する。ヘリが来るまで後少しだ」

 

 背後からサクヤの声が聞こえ、リンドウのすぐ隣ではソーマが神機を構えて立っていた。

 ──心強い。そう思って何か言葉を返そうとしたが、

 

「っっ……! 散開しろ!」

 

「グォォォ────!!」

 

 骨の芯まで揺さぶられるような咆哮と共に、大地に青白い光が奔る。

 一瞬の前兆だが、これに気が付けば稲妻の直撃は避けられる。リンドウの咄嗟の指示に、それぞれが回避した時、目の前のアラガミがリンドウ目がけて突っ込んでくる。

 

「うおっ……!」

 

 吹き飛ばされる。ぎりぎりで神機でガードしたが、アラガミの巨体でぶつかられると、それだけで人間にとっては致命的だ。

 

「野郎ッ……!」

 

 ソーマが前に出る。鋸を思わせるバスターブレードが「帝王」の頭部を叩っ斬る。

 続けてサクヤの射撃が的確に相手を撃ち抜いた。そこで体勢を立て直したリンドウも、相手の懐へと飛び込んだ。

 

「悪ぃが早めに死ぬかどっか行ってくれ……!」

 

 ロングブレードの刀身で、先ほど狙った前足に集中して攻撃を仕掛ける。

 右フックが襲い掛かるが、スレスレで回避した。あぶねー、と下がると、容赦なく援護射撃のレーザーがアラガミを捉え、着実にダメージを与えていく。

 

「グォォォアアア!!」

 

 雄たけびと共に、黒いアラガミが宙返りしながら飛びさがる。

 空間奥の高台に着地すると同時、バチバチと再びアラガミの足元に稲妻が発生し、

 

(──!? 赤い……!?)

 

 青白かったソレは、赤色へと変化していた。

 尋常ならざる気配を感じ、リンドウは次の光景を目撃する。

 

 

 ──アラガミのマントのある部分から、刃翼が飛び出す瞬間を。

 

 

「だ、第二形態て……」

 

 遂にここまで来たか極東。そんな個体まで生み出すまでに至ったのか、極東。

 あの廃教会前で見たときに感じた、「気配の違い」はこれか。

 鋭く展開された両翼は、これまでにも見たことがない凶悪さだった。当たったら死ねる。そんな殺意の塊だった。

 

「ッ、がぁ!?」

 

「ぐッ……!?」

 

 刹那、先ほどよりも更に加速したスピードで突っ込んできたソレが、リンドウたちを蹂躙した。

 振るわれる刃翼。それはこちらに攻撃する隙さえ与えず、一薙ぎでリンドウとソーマをまとめて吹き飛ばし、

 

「リンドウ……!!」

 

「サクヤさん、危ない!」

 

 振るわれる第二波。それに直撃しかけたサクヤを、飛び出したコウタが庇おうとするが、二人まとめて地面に転がされていく。

 

「サクヤ……コウタ……! クッソ、痛ぇじゃねぇか……!」

 

 立ち上がろうとしたリンドウだが、頭がぐらっとした。軽い脳震盪か。先の一撃で、一気にバイタルも削られた。

 凄まじい速さと衝撃だ。目視できなかった。

 

「グルル……」

 

 アラガミの赤い目がリンドウに向く。

 ──が、叩き込まれた射撃がそれを許さなかった。ユウだ。彼が背負っていたアリサは、神機と共に離れた安全圏に横たえられていた。

 

「──すみませんリンドウさん! 死んだらごめんなさい!!」

 

「馬ッ……」

 

 この場面でそれは洒落にならない。

 黒いアラガミが暴風そのものになってユウへと襲い掛かる。近接型のロングブレードに神機を変形させたユウは、その翼の上を跳び上がって、捕食に成功した。上手い。

 

「グオオオォ!!」

 

「正直なところ恨みしかないけど──とりあえず、お前も素材になってくれるかな……!」

 

 着地したユウと、振り向いた「帝王」が向かい合う。

 咆哮。雷光。閃光。

 瞬きの間にユウは刃翼と三合交わし、稲妻を的確に避けて、接近と同時にブレードを相手に食い込ませた。

 

 本当に新兵とは思えない動きだ。ゴッドイーターとしての才能に溢れすぎている。

 だが──()()()()()()()()()だと、リンドウは正確に事の状況を把握していた。

 

「駄目だ、下がれユウ! アリサを連れて逃げろ!!」

 

 リンドウは神機を構え、一気に敵の方へと飛び出していく。

 ブレードが相手の尾を刻む。その時。

 

「ぐあぁっ!?」

 

「ッッぎ……!!」

 

 地面から発生した雷撃が、容赦なく炸裂する。

 リンドウは衝撃を噛み殺すことで強引に耐えたが、ユウはガクンとなす術なく倒れ込んだ。

 

(……マズイ。これは……)

 

 ──全滅だ。全滅する。

 リンドウの脳裏に最悪のビジョンが見える。回復錠を飲み込んで倒れないようにするので精一杯だ。

 

 まだ立っていられているのは、刃翼をくらった瞬間、ソーマが前に出てダメージを肩代わりしてくれたおかげだ。そのソーマもバイタル危険域でリンクエイド待ちに陥っている。が、リンドウも他人に力を分け与えられるような余裕はない。

 

(どうする……どうする……どうする……!)

 

 閃光弾を使う。効かなかった場合、そのまま突っ込まれたら終わる。

 回復しつつ、倒れている全員を復活させて回る。あの翼の速さを避けながらはキツすぎる。

 

 頭がグラつく。思考が回る。

 ああ、アラガミの眼が再びこっちを見て────

 

「グォォォォ────!!」

 

「クッ……!」

 

 突進がくる。それを全力でよけて十メートルほどの距離をとり、奇しくも初めにここに辿り着いた時と同じ位置関係に戻ってきた。

 

 されど状況は一変している。

 やや遠くの周囲には生きているが動けない仲間たち。

 すぐ目の前の高台にはちょっと強すぎる強敵。

 

 退路なし(No Way Back)

 

 ブラッドサージを脇構えにして、リンドウは次の攻撃を見極めるために相手を睨む。

 再びアラガミが刃翼を広げ、赤雷をまとった時だった。

 

 

「翼持ちかよ……ハズレだな……」

 

 

 おかしな台詞が聞こえた。リンドウのすぐ右脇からだった。

 

「えっ」

 

 新しい気配に気を取られる。敵の刃翼が振りかぶられる。

 瞬間──アラガミの頭上から、三弾分のバレットが降った。

 一気に叩きつけられたダメージ量に帝王はのけぞり、刃翼の攻撃をキャンセルされる。

 

 続いて展開された、神機の捕食形態がその顔面を食い千切る。咆哮するアラガミを余所に、リンドウのすぐ目の前まで、バーストモードに入ったその人物が後退した。

 

「ア──」

 

 リンドウは見る。

 久方ぶりに見たその姿を。

 彼女を。

 

「期待できるのは帝王頭、帝王黒毛、帝王翼、帝王爪、帝王牙、か……期待値低いなー」

 

 相変わらずアラガミを素材としか認識してないらしい、幻代アキその人を。




 またMIA詐欺だった模様。

 お気に入り・評価・感想・ここすき、諸々全てモチベーションに繋がっております! 本当にありがとうございます!


Q.悪魔が帝王に出くわすとどうなる?
A.知らんのか。
 (アラガミの)No Way Backが始まる。
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