転生神機使いは狩り続ける   作:時杜 境

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13 平常運転in極東

「「ええええぇぇぇぇ!?!?(はあああぁぁぁぁ!?!?)」」

 

 ラボ内に驚愕の声が一斉に響き渡る。

 その顔が見たかった……と私は、にこやかだった笑みを、邪悪なものに変えた。

 ガタッとサカキ博士が立ち上がる。

 

「ア──アラガミ!? うわっちょっと待っておくれアキ君、アナグラ内にはそこら中に偏食場レーダーが──!?」

 

「奥の私の私室と、このラボ内は平気ですよ。あの部屋をせがんだ時、あそこを偏食場を遮断する素材で改装してくれ、って言った私の最初のワガママ覚えてます?」

 

 慌てていた博士の動きがピタリと止まり、理性を取り戻したように、カチャッと眼鏡を上げた。

 

「────あった。確かにあった。そしてこのラボ内も、偏食場を遮断するジャマーを仕掛けておいてくれと君に──そう、まだ11歳だった君に、そう言われて仕掛けておいたんだった」

 

「じゅっ……」

 

 は? という視線が四方から突き刺さる。

 そう! 時を十年前! ひみつ研究所から一時、サカキ博士の部屋に連れて行ってもらった機会があって、その時にせがんでおいたのだ。

 

 偏食場遮断素材ッ! 偏食場探知ジャマー!!

 今の内から置いといてくれ、という“子供からのワケ分からんお願い”を装って、しっかりと! この時のために! 何かあった時のためにと早め早めに準備完了しておいたのだよ──ォ!!

 

 ま、原作のどの地点で博士が、このラボ内を「シオ専用」に改装したか分からなかったからな。当時は万が一、またシオ様と極東で再会して、アナグラに連れ帰るような事態に備えていたのだが、まさかブレイクしたシナリオ序盤で役立つとはなー。

 

 おかげで今、周りからは未来人か未来視持ちか、みたいな怪訝な目で見られているのだが。

 

「お前……いつから知って……」

 

 起き上がって来たソーマは、得体の知れないものを見る目をしている。そりゃあそう。

 努めて落ち着き払って、私は過去を思い出しながら口を開いた。

 

「初めからさ。具体的にはリンドウさんに拾われる直前。十年前、私が違法研究所から逃げ出してた途中、アラガミ先輩たちに襲われかけてね。その時、」

 

「シオ! たすけた!」

 

「「……ッ!?」」

 

 えっその話知らない!? という顔になるサカキ博士とリンドウさん。

 そーだよー。一度もシオ様については話してなかったからねー。ここで初めて誰かに告白するのだよ実は。

 

「そ。オウガテイル軍団にバクっとされそうになった、まさにその時! シオ様が舞い降りてくださって、懇願した私に応え、抱えていただき廃墟街を大ジャンプ! あの景色は一生モノだねぇ、今もはっきり覚えてる。で、その後『贖罪の街』まで連れて行ってくれて、そこで私はリンドウさんに拾われたってワケよ」

 

「──……そうだったのか……」

 

 リンドウさんが一番納得したような顔をしている。ははぁん、さてはこの人、「こんな痩せた子供がどうやってここまで?」とか思ってたな?

 

「まー、そんなことがあったから、“彼女はアラガミだったんだな”って確信してた。明らかに人の脚力じゃなかったし。で、いつかまた再会した時のために、前々からこうして準備してたわけ。まさか海の向こうでの再会になるとは思わなかったけど」

 

「アキのいるとこ、ゴハン、いっぱい……!」

 

「ああ……伝説のアラガミ周回ヤーなら、エサになるアラガミもいっぱいいたってことかぁ……」

 

 言うなぁコウタ君。でも人を転売を行うような奴みたいな語呂言いで表現しないでくれないか? それがたとえ、どうしようもない事実だったとしてもッ……!

 

「──して、どう? 博士。これが私のささやかなお土産だけど、これまで育ててくれた御恩には報えたかな?」

 

「いや……お釣りどころか臨時ボーナスを百万年単位で支払いたいレベルだよ? 人型のアラガミなんて新種どころの価値じゃない、間違いなく今後の人類とアラガミ間の関係を覆す大発見だよ」

 

「シオ、えらいかー?」

 

 ぴょん、とソーマから退いたシオ様がこちらの腰にくっついてくる。これは暗に、撫でよ、というご指令である──謹んでその命に従った。

 

「えらいー。えらすぎるー。存在しているだけでとうといー」

 

「エヘヘ」

 

「……やたらと懐かれてるな」

 

「二年ほど支部長に黙って旅してたので」

 

「おまっ」

 

 支部長に黙って、という部分でリンドウさん、それにソーマの顔つきが変わる。

 私と同じく“特務”を任されている彼らも、そこで確信しただろう──彼女こそが『特異点』、終末捕食のために支部長が欲しがっている存在であると。

 

「アキ君……やっぱり君って私の血筋だったのかい……?」

 

 口元を押さえるサカキ博士にはサムズアップを向ける。

 いいんですよ博士、娘と呼んでいただいてもッ!?

 

「……二年間、一緒にいて何も問題はなかったのか?」

 

 もっともなソーマの質問に一つ頷く。

 

「うん。一度、三十日間連続で完全無警戒状態で近くで寝てみたけど、ガブッとされたことはないよ。この子の偏食対象は人間には向けられていない。高次のアラガミばっかり食べる、立派なグルメっ子に育ってるよ」

 

「そりゃお前と一緒にいたらそうなるだろうなぁ……」

 

 言いながら、リンドウさんは席を立ってシオ様に近づき、屈んで目線を合わせた。

 

「よっ。初めまして、シオっつったっけか? 俺はリンドウ。雨宮リンドウっていうんだ。よろしくな?」

 

「リン……ドウ……リンドー! アキのじょうしって、いってたな!」

 

「お、もう話してたのか」

 

「まぁ……二人旅だと話題も限られてくるんで」

 

 よろしく、と二人が握手を交わす。すごい、なんか新鮮だ……

 

「私はサクヤ。よろしくね、シオちゃん」

 

「さくや……おぼえた!」

 

 リンドウさんに続いて、近寄ってきたサクヤさんと笑い合うシオ様。

 いいねぇ、いいねぇ、種族間の交流だねぇ。──が、浮かない顔が一人。

 

「……お前ら、分かってるのか。そんなナリをしていても“それ”はアラガミだぞ」

 

「んー、でもアキが紹介してきたんだぞ? あのアキが。あのアラガミ周回が代名詞のあのアキがだ。恩人とはいえ、アラガミなのにも関わらず、こんなレア中のレア存在と二年も旅をして仲を深めたっていう驚天動地の事態だぞ。しかも『様』なんて敬称付きだ。その上で、俺たちに紹介してきたっていうんだ──ここは仲良くしとくのが最善だと思うなぁ、俺は」

 

「うーん、説得力が凄いねぇ」

 

 博士の言葉に頷く。私もそー思う。

 支部長からしてみれば、これは異常事態だろう。アラガミキラーの私が、特異点のアラガミを主と仰ぐなんて。しかも十年前からの仕込みだ──思いつくことさえあるまい。

 

「なぁ! 俺コウタ! よろしくなー、シオ!」

 

「こうた……コウタ! おー、よろしくだぞー!」

 

 わーい、といつの間にかやってきてたコウタ君も、シオ様とハイタッチしている。

 実に微笑ましい。ずっとそうやってわちゃわちゃしてる場面を見ていたいくらいだ。

 

「……」

 

 しかしやはりソーマの顔色は曇っている。無理もない。

 ススス、とそっとその傍にサイレントで近づく。

 

「どういう見た目だろうと、化物は化物、か?」

 

「……分かるか」

 

「んにゃあ、お前の気持ちはお前だけのものだから私は分からんさ。ただまぁ、()()()はあるだろうなって想像はできる。境がちょっと見えなくなるよなー」

 

「…………、」

 

 P73偏食因子。それを保有しているソーマや私は、他のゴッドイーターよりもアラガミに近しい生物だ。

 

 まぁ、「完全適合」しているからか、私はアラガミの本能の飢えだの本能だのを感じたことはないが──というか、どこかで感じてはいても無意識に飲み干してる可能性のが高いのだが──そういった、「自分が人かアラガミか」について随分と悩んできただろうソーマにとっては、シオ様という存在はそれ自体が認めがたいものではあるだろう。

 

 今はネ!

 ふははは、転生者の余裕! マジ情緒ねー!

 

「お前は……自分のことをどう捉えてるんだ?」

 

「私? 私は私である以上、私だが……人間かそうじゃないか、なんてのは思考の外だね、正直。まぁ────()()()()()()、って意識自体は昔からあるけどね」

 

「……あったのか……」

 

「そこ、なんで感心してるの……?」

 

 日頃の行いのせいか。そうなのか。

 だってしょーがねーじゃんよー! こちとらプレイヤー時代の感覚がいつまで経っても抜けてないんだしさー!

 

「何年か前、『名前を考えろ』なんて電話してきた理由は、あいつか」

 

「お。思い出した?」

 

「ついさっきな。シオ──か。そんな名前もつけてたな……」

 

「ずっと名付け親のお前に会いたがってたんだぞ?」

 

「なんでお前がつけてやらなかったんだ」

 

「ソーマがつけるべきだと思ったからさ」

 

「……意味が分からん」

 

 でしょうな。

 だってー、原作準拠したかったんだもんー。

 

「そーま! ハジメマシテ! シオ! よろしくー!」

 

「もう名前を知ってるのか……はぁ」

 

 握手を求めるように差し出したシオ様の手を、渋々ながらもソーマは握り返した。

 

「……言っておくが、まだお前を認めたわけじゃないからな」

 

「みとめる? それ、えらいのか?」

 

「調子の狂う奴だな……」

 

「ま、上手いこと仲良くしてくれよ。私以外の人間に会わせるのは初めてなんだ、第一部隊内で存分にコミュってくれたまえー」

 

「でも……教官や支部長には報告した方がいいんじゃ……」

 

「サクヤ。流石に前線基地にアラガミをこっそり持ち帰ったなんて公になったら、いくら例外生命体のアキでも処罰は免れないぞ?」

 

 リンドウさん、例外生命体ってなんすか?

 

「俺はこの子の保護に賛成だ、慎重を尽くして第一部隊で面倒を見よう。もちろん、この件については部隊外秘とする。それでいいよな? アキ、博士」

 

「さっすが隊長、話が分かりすぎるぅー」

 

「私としても助かるねぇ。彼女は貴重なケースのサンプルだ、しっかり観察させてもらうとするよ」

 

 というワケで、話はまとまった。

 後は個人的には、さっさとユウ君とアリサちゃんにも会ってほしいところなのだが……まぁ、まずは向こうのヒロインイベントが優先か。アリサちゃんの復帰には主人公君の協力が不可欠だし。

 

「んじゃあ、シオ様のお食事は私の保管庫から出したものあげちゃって。後は頼んだよー」

 

「は? どこへ行くつもりだ」

 

私は神機さんが直ったのでこれから周回だが?

 

 場が静まり返った。

 ドン引きの静寂だった。

 

「いや、お前……お前! 無断周回(MIA)から復帰したばっかりだろ!? 多少は休めって! 疲労とかどうなってんだ! 休んで体力を回復しとけよ……!!」

 

 リンドウさんは妙なことをおっしゃる。

 はて、と私は小首を傾げた。

 

 

「ゴッドイーターって……バイタルとスタミナさえあれば休息なんて要らないだろ?」

 

 

 食糧には携行品があるし。

 今回は正式なミッションを受けまくるいつもの周回なので、装甲車も借りられるし。

 と、いうかだ。

 

「これからしばらく、ディアウス・ピターを狩り続けたいんだよ私は。一日五十体くらいガァッと出てきてほしいくらいなんだけど、レア物でな。最近の極東環境にもさっさと適応したいし、その間はシオ様のこと、皆に頼んだわ」

 

「おかしいおかしいおかしいおかしい」

 

「あ、あの……中尉? その神機も、メンテナンスが必要なんじゃないかしら……」

 

「私の神機さんは、なんか最近になって自己修復機能を構築したから大丈夫だよ。凄いんだぜ? 今までは近接攻撃と捕食の時ぐらいしか修復してなかったんだけど、今は放っておいても勝手に自己再生するし。ついでに私のバイタルも回復するから──止まる必要がないんだ」

 

 心なしか死んだ目になったコウタ君が博士の方を見た。

 

「……博士。神機って、自己再生するものでしたっけ……」

 

「……それがね。さっきまで預かってた間に軽くスキャンしたんだけど、本当に彼女の神機は全点検を終えた直後のように万全でね。いやなんかもう、武器は持ち主に似るというか何というか……うん、まぁ、彼女の神機は唯一、『自己成長する』特性をもった終末式神機になってるんだよね」

 

「なんだそれ…………」

 

「ナンダソレー?」

 

 ソーマの言葉を復唱するシオ様は可愛いなぁ。

 と、和んだところで!

 

「んじゃっ、行ってきまぁ──す! シオ様、このラボと向こうの部屋からは出ないようにね! 皆と仲良くね!」

 

「ン! なかよくするー! いってらっしゃぁーい」

 

 そんなシオ様の声援を受けて──神機さんを担いだ私は、ラボラトリを飛び出していった。

 

   ▼

 

『────ヒャッハァア──! 周回の時間だぜェェェ──!!』

 

 ──そう廊下から響いてくる悪魔の声を聞き届けたラボ内は、静かだった。

 もはやドン引きだの、呆れだのを通り越し、主にリンドウとソーマは諦観の境地にいた。

 

「あいつは……本当にゴッドイーターなんだろうか……?」

 

「やめろ。俺だってあの女が同じ偏食因子を持つ同胞だって思えなくなってきてるんだよ」

 

「アキ君はもう、オラクル細胞とか偏食因子とかとは違う、別の方向にカッ飛んでるよねぇー……」

 

 サカキ博士と呼ばれる研究者だけは、もはやそう割り切っているようだった。

 誰よりも昔から、幻代アキという生物を観察してきた第一人者だ。言葉はフランクだが重みが違った。

 

「? アキ、とってもやさしいぞ? ゴハン、いっぱいくれるー!」

 

「シオからしたら、そうなのかもしれないけどさ……やっぱなんか違うって、あの人……」

 

「あれで有能だからタチ悪いんだよな……」

 

 リンドウの呟きに、内心ソーマは同意していた。

 幼少の頃は、“成功例の同胞”として複雑な感情を持っていたが、事ここに至っては、もはや認めざるをえない。

 

 世界中の神機使いの質と生存率の向上、周回概念の確立、アラガミの詳細データをまとめあげる分析力、上げればキリがないほどに人類に貢献しているのだ、あの女は。

 

 言動とワーカホリック性が終わっているだけで、それを除外すれば、尊敬に値する人物……だと……いえるだろう……たぶん。

 

「さて……人が神になるか、神が人となるか、競争の始まりだ」

 

 ペイラー・榊が、シオと扉の向こうを見比べ、そう呟く。

 常から無駄に意味深な人物なので、その言葉には誰も反応しなかった、が。

 

 

 ────どうか人間のままであってくれ…………

 

 

 アラガミの少女を除いた一同の心は、そう合致していた。

 




悪魔の神機さん
 こいつがヤバイッ! 極東2071年ナンバーワン神機!
 自己成長するとかいう人工アラガミのチャンプの道を歩み出している。周回の恩恵を受けに受けまくった結果。まだ強化の余地があるってマジ?

橘サクヤ(21)
 同い年だし友達になれるかな? と思っていたけど、今回でなぜリンドウやツバキが彼女と自分を引き離していたのかの理由が分かった気がする。でも今度、バレットについての講義は受けてみたいなぁ、と考えている。でも周回は遠慮しておくわね!


 【悲報】帝王の地獄が始まる【狩り尽くされろ】

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