転生神機使いは狩り続ける   作:時杜 境

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15 GOD EATER

「ヨハンを欧州に飛ばしたよ!」

 

 ──そういう事になったらしい。

 ラボラトリに着くと、サカキマイファーザーがそう報告してきたのだ。原作よろしく、特異点の存在を海外にチラつかせて、出張イベントを起こしたのだろう。

 

 さっきすれ違った黒幕、これから出張だったのかよ!

 

「仕事が早いっすダディ」

 

「ダディじゃないからね? あぁ、シオ君はちゃんと奥でおとなしくしてもらっていたから、ヨハンは気付いてないよ」

 

 それを聞いて安心した。

 赤い扉を開けて中に入ると、そこには待ち望んだ姿と、

 

「アキ! そーま!」

 

「あ、こんにちはー」

 

 ──怪異・レン様。ベッドに座ってにこやかに手を振っている。

 貴方、さっきまでエントランスにいませんでしたっけェ!? 瞬間移動カナ!?

 

「いや、だって僕って精神体的な存在ですし。実体がありませんから。空間的座標なんて無視して単独顕現できるに決まってるじゃないですか。医務室に住み着いてる怪奇現象をやってるだけじゃないんですよ」

 

「怪奇現象て……」

 

「は?」

 

 思わず繰り返してしまった単語に、後ろのソーマから怪訝な声がする。

 私の腰には嬉しそうなシオ様がくっついてきており、実に光栄の極みである。

 

 ……いや、待て。なんで私の心の内を読みとったかのような発言をしてるんだよ、レン様?

 

「おや、感応現象をご存じでない? まぁ、貴方は僕の因子を多少は取り込んでしまっていますからね、ハッキングのようなものですよ。表層上のものを読み取るくらいならできます」

 

 こわいって。レン様じゃなきゃこわいって。

 

「アキ! ともだち、できたー!」

 

 そう言って──レン君を指さすシオ様。

 あれれれおややや。

 幻覚者が一人増えてしまったようだな……

 

「友達……? そこの落書きか?」

 

 ソーマが目を向けたのは、壁に描かれたシオ様の芸術的作品だった。

 クレヨンで色とりどりに彩色されており、実に画伯である。

 

「ちがうぞ? レン、だってー。そこにいるぞー?」

 

 にこやかなレン様。

 ソーマからすれば、虚空を指さすシオ様。

 全ての状況を理解している私とレン様くん。

 

「……おい、人型のアラガミってのは、霊でも見える能力でも持ってるのか?」

 

「ほほーう、興味深いね。そこの空間に、『彼女にしか見えないもの』がいるのかな?」

 

 話を聞きつけたサカキ博士もにゅっと顔を出す。

 はっはっは。まったくもう、仕方ないなー。

 

「──何を言ってるんだ二人とも。そこに黒髪で中性的な美少年がにこやかに座っているじゃないか。リンドウさんの相棒だよ、知らないの?」

 

「……遂に精神に異常をきたし始めたか……見ていられないから俺は戻るぞ。お遊びに付き合ってやる心がけは評価するが、お前、普段からの奇行を少しは省みろよ?」

 

 シンプルに傷つく正論を残して、ソーマは背を向けて部屋を出て行く。

 またなー! とシオ様が声をかけると、フードを被ってそそくさとラボを後にしていった。それは流石に分かりやすすぎないか?

 

 だがここに、ポンと後ろから私の肩に手を置く、話の分かるお方が一人。

 

「──アキ君。ちょっと詳しく事情を説明してもらおうかな?」

 

 幻覚を冗談だと片付けない、ロマンチストな科学者を後見人に持てた私は幸せ者だと思う。

 

   ▼

 

「なるほど──つまりヤバイのはアキ君も変わりないが、それよりも神機のCNSに人格を構築させたリンドウ君もヤバイ、ということだね」

 

「博士、冷静に興奮してるのは分かりますが語彙が飛んでますよ」

 

「とんでるー」

 

 なるべく私の分析できる範囲で博士に説明してみたところ、博士はモニターに囲まれた特別席で指を組み、眼鏡を光らせ始めた。貴方がやると大分決まりますねそのポーズ。

 

 私が近くのソファに腰を下ろすと、床に座りこんだシオ様が両手を伸ばしてくる。ハイタッチの要領で手を合わせると、じゃれつくように指を組んで遊び始められた。恐縮だ。

 

「それでアキ君は五年前──リンドウ君の神機にあやまって接続してしまった時から、その精神体と交流していたと。本当になんでもありだねぇ、君は。いや、君の体質は」

 

「……博士。私が出張する前、『偏食因子を共生させる体質』だとかおっしゃってましたけど、私って体内にどれぐらい複数の偏食因子を取り込んでるんですか?」

 

「ああ、遂にそういう話をする時か。いや、前々からタイミングを伺ってたんだけど、機会を掴めなくってね。じゃあついでにバラしてしまおうか」

 

 ゴホン、と改まって咳払いをすると、意を決したような博士は次の言葉を放った。

 

「──聞いて驚いてくれアキ君。なんと君は、あの『P73偏食因子』の適合体なのだよ!」

 

「あ、知ってます」

 

「えっ」

 

「出張前に支部長からネタバレされてました」

 

「ヨハァ──ン!!」

 

 絶叫した博士が机に頭を叩きつける。

 ごめんな博士……たぶん後見人として私に長らく気を遣ってくれていたのだろうけど、ソレ、もう知ってる事実なんだわ……

 

 床のシオ様を抱き上げて膝に乗せつつ、私は博士の方を見る。

 

「P73って、要は『偏食因子を自己生成できる』偏食因子ですよね? まぁ、何回MIAになっても体調不良が起きなかったのは良かったですよ。体の治りも早いし、おかげで今でも回復錠を食糧として使えますし」

 

「それは絶対に使い方も認識も間違えていると思うんだけどねぇ……」

 

「で、『共生』ってのはどういうことなんです?」

 

 他の偏食因子が私の身体に混ざっているということは!

 将来的にはその──……ブラッドなんちゃらとか、ナントカレイジとか! 使えるようになったりするんスかねぇ!?

 

 全シリーズ主人公の能力全盛り。浪漫しかなくないか? 身体への負荷をガン無視すれば、夢しかないんですけどねぇ!

 

「ああ、君にはP73偏食因子の他に、通常のゴッドイーターたちも接種しているP53偏食因子を始めとした、未解明の偏食因子も織り交ざっていたことが確認されている」

 

「ほうほう」

 

「……がしかし、やはりP73偏食因子の作用が極めて強くてね。リンドウ君が拾ってきた当時ならともかく、現在の君の中にある偏食因子のほとんどは『食べ尽くされた』とみていい。潜在的には存在しているが、P73偏食因子が抑え込んでいるという感じかな」

 

「……そうっスかぁ……」

 

「なぜか残念そうな顔をしているけど、これは良い知らせなんだよ? 偏食因子同士が暴走し、内側から君という器を喰らい尽くす可能性だってあったんだ。安定している現状は、とても奇跡的といえるんだよ」

 

 ロマン性は一気にかき消えたが、まぁ健康第一ということか。

 そりゃそんな都合の良いことはありませんヨネ。P73偏食因子への適合、さらにあの神機さんのヤバチートがあるだけでも充分すぎか。

 

「……ま! 私としては、近年開発された『P66偏食因子』という新しい偏食因子を、今の君に投与したらどうなるのか気になるんだけど……第一人者である博士が、不幸な事故で逝去してしまったらしくてねぇ……」

 

 顔がひきつるのを黙ってこらえる。

 

「現在、適合者も少ない偏食因子だから、研究も遅延しているようなんだ。実用化にもまだ数年を要するだろう。ははは、これ以上強くなってしまったら、流石に本部も目をつけてくるだろうし、現段階では今の状態が一番安全ともいえるね」

 

「ソッスカァー」

 

 ぐああああああああこれだから功績のデカい黒幕存在はよォォォ────!!

 

 上からの命令でしたとはいえ! とはいえ……! クッ、なにか大切なものを守ったような気もするがッ! その分なにかに敗北した気分だ……!

 ラケル・クラウディウス。死後となっても敗北感を味わわせるとは、やはり第二のラスボス候補者は格が違ぇぜ……!!

 

「それで何の話だったかな──そうだそうだ、リンドウ君の神機がヤバイということだったね。ははぁ、アーティフィシャルCNSは人間が神機という人工アラガミを扱えるようにする人工コアだけど、そこに意志が宿るとはね……彼はまだそこにいるのかい?」

 

「今博士の後ろで初恋ジュースの設計資料をガン見していますよ」

 

「は!? それは構想十年、我が究極の嗜好品の極秘資料だよ! っていうかアキ君もなぜ知って!?」

 

「かなり昔に設計書を見かけたんで……ああ、知らないハズの商品名のことなら、レン君が呟いていたのを聞いただけです」

 

 その発言にサカキ博士が動きを止め、後ろにある資料の束を見る。

 

「本当に興味深い現象だね……他にも、その『レン君』が言っていたというだけで、君が感知していないハズの情報はあるのかい?」

 

 私はレン様くんの方を見る。彼は博士の背後に立ち、指を角に見立てて博士の頭に乗せて遊んでいた。心霊写真希望かな?

 

「そうですねぇ……最近ので面白かったことといえば、リンドウが自分のターミナルを見て発狂してたことくらいですかね。『やられた!!』って叫んでました。なんか裏でエイジスを機能停止にさせて、そのハッキングついでに内部情報をネット上に流すプログラムを作っていたみたいです。例のディアウス・ピター……でしたっけ? その戦闘の怪我で医務室にいた間に、支部長によって証拠資料もろとも全消しされてたみたいですよ」

 

「そりゃあ暗殺されかけるだろアンタ……!」

 

 原作よりやってることが悪質じゃねーか!!

 リンドウさん、常識人ぶってるクセして一番ヤバイ進化遂げてないか!? 支部長も全力で謀るわ! データ全消し程度で済んでよかったと思えよ!!

 

 ……って、じゃあ支部長の大本命はそのデータだったってことか。初めからリンドウさんの暗殺なんて副産物程度の認識だったのかもしれない。証拠も手段もブン取っておけば、後は飼い殺しておけばいいだけだもんな……

 

「ほほう、なんだい? アキ君、一体誰のどんな秘密を?」

 

「……なんかリンドウさんのやってた裏工作が支部長にバレて、情報全消しされてたみたいです。悲しい犠牲でしたね……」

 

「……」

 

 あっ、博士が目を逸らして眼鏡をかけ直している。そうだよな、アンタも全部知ってるんだよなぁ……観察者っていう立場を維持して、おそらく「支部長の計画を邪魔しない」という条件で見逃されてるっぽいけど。まぁ、その辺の詳しい事情はこっちの憶測だが。

 

「あー……アキ君。一つだけ。君は一体、どこまで事態を把握しているんだい?」

 

「ほぼ全て、といえるでしょうね。終末捕食の話は、違法研究所で聞いていたので……そこからは極東支部に拾われて、後は勝手に私が想像してるだけです」

 

 超便利、「理由:違法研究所で教えられた」。

 こいつ一つで原作知識という事実を隠し通せる。いえいえ、誰それから聞いたわけじゃありません。なんか幼少期に研究者の皆さんが勝手に言ってただけです。それだけです。

 

「いや……それだけで真相の把握まではいけないだろう。何か他に推測材料が──」

 

「──支部長みたいな人がトップだった時、どんなことを考えるか。私はそれを思考シミュレートしただけですよ。ああいう立場で、こういう知識があって、どういう条件が揃っているか。まぁ、最終的に考えることくらいはそれで概ね。具体的な手段は、ご覧の通り」

 

「?」

 

 シオ様がコテンと首を傾げる。頭を撫でると、むふー、とした顔をされるので大変こちらの健康によろしい。

 

「……なるほど。納得はできるね。筋も通っている。だが、それなら君は何を目指す? 何のためにその子を連れて来て、何をさせようとしているんだい?」

 

()()()? パッパ、ふざけないでくださいよ。私はこれでもシオ様に忠誠を誓っているんですよ? 命令する立場でもないし、指図する権利もない。私はやりたいことや欲しい素材があれば自分で獲りにいきます。それだけですよ?」

 

「さらっとパッパ呼びを混ぜるねぇ……いやいや、真面目に答えてほしいな。じゃあ質問を変えようか。君は──シオ君を、一体『どうしたい』んだい?」

 

 サカキ博士の目を見据えて、私は即答する。

 

「────幸福とハッピーエンドを。夢と希望とご都合主義を集めた、至上の結末を捧げたいんですよ、私は」

 

「────、」

 

 そう。私の目的といえばそれだけだ。それに尽きる。

 故に周回だ。一心不乱の周回だ。早くリーサルウェポンを手に入れて、最後の障害に備えねばならないのだ……!

 

「フ……アキ君が言うと、どんな無茶でも叶えてしまいそうだね。そんなに真っ当そうな思考をしているなら、もう少し奇行も抑えたらどうなんだい? 父親の立場としては、嫁の貰い手に見当がつかなくて心配だよ」

 

「結婚するなら殺せる相手がいいっすね──アバドン先輩とか」

 

「うーん! もう君のそういう方向性の将来は諦めた方がいいのかなぁ!?」

 

「ケッコンってなんだー? たべられるのか?」

 

 無邪気に訊いてくるシオ様に、私は柔和な笑みを浮かべる。

 

「人間の人生の通過点だよ。終わりにして始まりさ。人によっては幸福とも不幸ともとれる……重大なイベントさ。結婚してからが本当のスタートらしいぜ。私はよく分からんけど」

 

「そこは現実的な知識を与えるんだねぇ!? 夢も希望もない!!」

 

 当たり前だろうが。シオ様は子供姿だが子供じゃないのだ。希望を半端に語ったところで看破される。教える側も本気でやらねば失礼だろうが。

 

「ケッコンは……ジンセイの、ツウカテン…………」

 

「ほらー! なんか良くない方向の学習を始めちゃってるよぉ! 君、大丈夫かい!? この二年間で、とんでもない教育をしていないだろうね!?」

 

「ハハハハ、そんなマサカ」

 

 まっさかぁー。

 別に、特に、何もしておりませんがー? ははははははは。

 

「──あ、そうだ。さっきのP73偏食因子だとか、神機の話を聞いてて、二つほど質問が」

 

 私はシオ様の顔を覗き込む。

 

「シオ様ー。ぶっちゃけ『私の中のアラガミ』ってどうなんです? いるんですか? お腹減ったってこと、ないんですけど」

 

「んー? アキのアラガミ、ジンキにたべられちゃってるぞー?」

 

「……、」

 

「……」

 

 言葉を理解した瞬間、ドッッと嫌な汗が滲む。

 しょ……衝撃の事実!?!? たべ、食べられたァ!? アラガミの捕食本能が!? 私がP73偏食因子に適合したっていうか、神機さんがなんか喰ってるのぉ!?

 

「博士ェ!? もう一つの質問に繋がるんですけど、私の神機さんってなんなんです!? めっちゃ便利に使わせてもらってますけど、流石におかしいってのは分かりますよ! アレ、前の持ち主とか、CNSの原材料とかなんなんです!?」

 

「ああ……流石の私も意識不明になりかけたよ、ははは。そうかァー……まぁ、君の言うあの『神機さん』、実はちょーっと、いわく付きでねぇ……」

 

 やはりあるのか、あったのか、そういう真実!

 今まで気にしないようにしていたが、そろそろ向き合うべき時かもしれない。さんざん酷使してきたが、あの異常性、ぶっ飛びチート性能に、一体どんなワケありが──!?

 

「僕、知ってますよ。アキさんの『神機さん』、結構な古参なので」

 

 と──口を挟む、神機のプロフェッショナルっていうか本人。というか本機。

 ラボの中央に立ったレン様くんは、今まさに説明の口を開こうとしているサカキ博士の言葉を遮って、続けた。

 

 

「前の持ち主……いえ、製作者の名を、『()()()()()()』。あの神機のコアの元になったキツネのアラガミを、ピストル時代の神機で単独討伐した、始まりにして伝説のゴッドイーターですよ」

 

 

 ──それは、色んな意味で絶対に聞き逃せない真実だった。

 

 




 主人公が普段、何気なく使っていたモノが前作主人公の遺物だった……みたいな展開って熱くない?

 いつも応援ありがとうございます!
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