「「────」」
少年──神薙ユウと視線を合わせたまま、互いに黙りこくる。
普段、どんな相手だろうと一応フランクな言葉をかけて会話に繋げる私だが、流石にこの相手には黙らざるをえなかった。
なにせだって原作主人公本人。
緊張しないハズがない。シオ様もいるけど、謎の緊張感が場を支配していた。
やがて、少年の方から話し出す気配があった。
「あ──あのっ。僕、サカキ博士に神機の強化について話を伺いにきて……そうしたら奥の部屋からこの子が……あ、リンドウさんから話は聞いています。アラガミ、なんですよね?」
「お、おう。まあな。第一部隊だけの秘密っ子だ。誰にも言ってくれるなよ。特に支部長とかには」
「りょ、了解です。えーとえーと、それで、幻代アキ中尉……ですよね! 伝説の」
ハイ、と一つ頷く。
……なんだろうな、この……なんだ! 距離感が微妙に掴めないぞ……!
「お話は本当に、あちこちから聞いています。バレットの始祖、アラガミ研究を大躍進させた功労者、連続出撃の殲滅機構、MIA絶対生還者、アラガミの騎士、人間接触禁忌種、極東の悪魔──」
知らん内にすごい二つ名が増えてない?
「──帝王を蹂躙なさっていた時から決めていました。是非、弟子にしてくれませんか!?」
キリッとした表情で放たれたその言葉に一瞬、思考が停止する。流石に停止する。
なんか原作主人公に弟子入りされた。
いやいやいや、おかしくね? おかしいだろ。ていうか、私の噂を聞きつけた上で、更に帝王を蹂躙していた時から決めていただと? こいつ────
「──オッケー。いいぜ、大歓迎だ。神薙ユウ、この悪魔が、お前を極東最強にしてやろう」
伸びしろがあり過ぎるッッ!!!!
▼
私の返答にユウの顔がパァッと輝く。夢が叶った少年の顔をしている。
だが、と私は片手で制止した。
「弟子入りは許可しよう。だがなユウ、私たちは『策』を練らねばならない」
「……リンドウさんやソーマ、並びにアナグラのゴッドイーターたちですね」
神妙な面持ちで首肯する。
「やはりアナグラ全体が結託していたか……その通りだ。私たちは師と弟子という関係でありながら、周囲はどうやらそれを望んでいない。むしろこれが明るみになれば、今よりももっと激しい妨害が入ることだろう」
「そんな……じゃあどうすればッ……!」
「落ち着け。周りの連中が恐れているのは、要するに『私たちの周回に巻き込まれたくない』『被害を受けたくない』──そんなところだ。つまり私とお前の
「……!」
「しかし問題は……連絡手段だな。アナグラ、いや極東全土が敵となると、おそらくサカキ博士にターミナルの通信記録も監視されているだろう。どうするか……」
「──じゃあ、僕が貴方たちの橋渡しをしてもいいですよ?」
新たな声に私は顔を上げる。
ひょっこり顕現していたレン様が、楽しそうに手を挙げていた。
「……最適解と言わざるをえないな……ユウ、ちょっと試したいことがある。手を」
「え? は、はい」
彼と握手するように手を繋ぐ。
──瞬間。空間の色彩が反転し、頭に見知らぬ記憶が流れ込んでくる。
感応現象。
新型同士の接触でしか起きない現象だが──やはり、私の中にも潜在的に新型用の偏食因子が混ざっていたらしい。読み通りだ。
「──ッ!?」
感応現象が終わり、視界が元に戻る。
手を離すと、ユウはぎぎぎ、とレン君のいる方を見た。
「い、い、今……! 一瞬でしたけど、そこに黒髪の男の子が……!?」
「やはり見えたか。彼はレン。リンドウさんの神機に宿っている見えない相棒だ。故あって、私にだけ彼の姿が見えていてね。たった今、私と君の連絡係を申し出てくれたんだ」
「そうなんですか!? あ、ありがとうございます!」
「いえいえ、構いませんよ。これでまたリンドウの面白い顔が見られたら儲けものですから」
良い性格してるなぁ、レン様。
「シオもー。シオもてつだうぞ?」
「おっ、そうでしたねぇ……シオ様にもレン君が見えるんだ。時と場合によっては、レン君からシオ様に連絡がくるかもしれない。まぁ、ちょくちょくこの子に会いに来てくれよ」
「──了解しました! 極秘任務みたいですね……ちょっとワクワクします」
「ごくひ……! ナイショってことだな。シオ、がんばる!」
「ふふ、面白くなってきましたねぇ」
レン様くんの言葉に、こちらも口角が上がる。
──こうして、秘密裏に人外二人を交えた、原作主人公との共同戦線が始まった。
▼
「よーっす」
「あ、合流できましたね!」
善は急げ──っていうほどではないが、神薙ユウ君を弟子に迎えた数日後、私たちは荒野の戦場で無事合流した。
表向きには、私は「殲滅兵」の兵種の特別権限を用いた連続出撃中。
問題はユウ──厳密にはオペレーター・竹田ヒバリちゃんという逃れられない監視役だが、彼女の目を逃れる方法は一つだけある。
私の上官権限による特別極秘任務の発行。
支部長がやってる特務のようなものだ。私はそれを応用……職権乱用……し、ミッションリストに発行。参加希望者は匿名設定で、任務内容の全てを私が直轄管理することにより、神薙ユウ出撃──私との合同任務という事実を隠ぺいした。
任務内容は「特別周回。参加希望者、募集中!」とかいう馬鹿げた内容だ。無論、ユウ以外に申し込む者はおらず、こうして二人っきりの周回がこのたび実現した。
つまり、ヒバリちゃんはミッションの存在を知っていても、参加者までは知らないということになる。どうせお一人ですよね、などとカウンターで呆れているに違いない。腕輪のビーコンも、極秘任務なんだから、緊急時以外には確認されないだろうし。
私とユウは合流する時刻、帰投する時刻も別々だ。こっちは対リッカちゃん対策。アナグラに戻ったゴッドイーターは必ず神機保管庫に寄ることになるので、別々に戻ることで、まさか共同周回していたなんて思わせない。
こうしてアナグラの平穏は守られ! 私たちも存分に周回ができる!!
しかも極秘扱いとはいえ、ミッションシステムを経由した出撃である上、規則にも反してない!
これぞ合法無断周回!! 始末書も怒られる心配もない、というワケだ────!!
「フ……我ながら完璧な作戦すぎてビビるな……」
「まさか自分で任務を発行できるなんて……殲滅兵、凄いですね……」
「ま、『アラガミを殲滅するための兵種』だからね。普段からたくさんアラガミ狩ってる奴にしか与えられない権限だよ。つーか、異名ではメチャクチャ問題児扱いだけど、こうみえて命令違反は一度もしたことないんだぜ?」
「おお……特別待遇のためには、まず基本から……! なるほど、勉強になります」
「ルールを守ってこその組織だからなぁ」
そこは気を付けている。
合法。実に良い言葉だ。私のためにあるとしか思えない。
「さて、ユウ君。これから君を連れ出す周回対象はもう決まっている。というか、ここ数日の私のメインターゲットなんだけどね」
崖の淵へ歩き、そこから下にいる黒いアイツを見ると、横でユウが息を呑む。
「ディアウス・ピター……!」
「いや、アレもハズレだな……見えるか、背に赤い翼っぽいのが格納されてるだろ。あれは通常種だ。私が狙っているのは、あいつの近縁種の『翼がない帝王』だ」
「翼がない……? そんな特異個体、目撃情報も聞いたことありませんけど……」
「いや、いずれ出る。と私は確信している。絶対にいるハズなんだよ、あの有翼種どもの『元ネタ』──進化の過程のオリジンとした、始まりの帝王──“父祖”がな」
ゴクリ、とユウが唾を飲み込む音がした。
「父祖……それを討伐したら、どうなるんですか?」
「私の神機さんの強化が最終極限へと到達する。以上」
「なるほどッ! それは確かに倒さないとですね!!」
めちゃくちゃ理解の早い弟子で超助かる~
オリジンとかそれっぽいことを適当こいたけど、「まだ存在しない個体」の存在を確信して狩る異常者、転生者以外にいないよな…………
「今回の講義で、ユウ、お前には帝王の処理の仕方を叩き込む。こいつをマスターすれば単独でも二分以内に奴を調理できるようになるぜ」
「ッ!! よろしくお願いします、先生──いえ、師匠!!」
──そうして私たちの周回の日常は、人知れず幕を開けた。
▼
「全員そろったな? では、これより新型アラガミ『ハンニバル』の対策ブリーフィングを始める」
帝王狙いの共同周回を幾度かこなしていた間、アナグラではそんな会議が始まっていたりした。
極東支部、大会議室。
階段状になった席には、ズラーッとアナグラ中の神機使いたちが総集合。私も第一部隊の席で、ぼんやりと壇上で喋るツバキさんを眺めていた。
ちなみにもう六回ほど一緒に周回したが、未だに周囲が私たちの活動に気が付いた気配はない。
こちらの合流も段々と手慣れてきた。アナグラ内では、レン様くんが非常に協力的で、私が行く先にユウがいると事前に教えに来てくれたりする。シオ様もこの、「四人だけのひみつ」状態が楽しいのか、黙っていてくれているようだ。
「────以上が概要だ。弱点属性こそ判明しているものの、潜在的な脅威は未知数──」
極東。やはり極東。シナリオも無視してアラガミは生まれ続ける。
ハンニバルといったら、今やもう消滅してしまったリンドウさん救出編──バースト編で出てきた新種である。こいつはまぁ、従来のアラガミとは異なる非常にやっかいな性質を持っていて、
「──幻代アキ中尉。数多くのアラガミを屠ってきた貴官からみて、このハンニバルをどう思う」
と、ご指名がきたので意識を切り替えて立ち上がる。
そうですねぇ、と言葉を置き。
「えーと、出くわした討伐隊がコアを摘出しても起き上がってきた、って言ってましたよね」
「ああ」
「ソレ、普通に蘇生してきたんじゃないですか? 機能が停止すると同時に、代替のコアを急速再生させるとか。抗体になる偏食因子を開発するまでは、徹底的に細かくバラバラにするのがいいんじゃないっすかね」
ざわざわする会議室。
コアを抜いても起き上がってくるアラガミ──不死のアラガミ。
原作でもハンニバル君は、この特性でゴッドイーターたちを震え上がらせていた。そこで即、対応できる技術部はやっぱ凄いと思う。
「……結合崩壊を狙えそうな箇所に、見当はつくか?」
「んー、映像資料を見た感じだと……頭とか篭手とかを狙いたくなりますかね、自分は。後は背中の突起が気になりますね。なんか壊したら動き変わりそうな気配。ま、ホールド化させて叩くのが安定かなぁー、と。こんなもんですかね」
「……大変参考になった。戻っていいぞ」
許可が出たので席に座る。
ちなみに第一部隊で固まっている座席だが、当然のようにユウとは距離を離されており、間にアリサちゃんとコウタ君とソーマが挟まっている。中尉なのに一番端っことは、これいかに。
……いやー、しかし。
なんか久々に、真っ当に転生者っぽいことした気がする。
「ハイ、中尉!」
と──挙手の気配と声がある。ユウである。
第一部隊、というか会議室にいた全員がぎょっとした気配がするが、この際スルーだ。
「──このハンニバル、堕天種的なレパートリーがきたら、どんなのがあると思います!?」
顔が見えなくとも分かる。神薙ユウ、新たな脅威という名の獲物に、目がキラッキラである。
……何度か共に周回をしていて、一つ確信していることがあった。
奴は純粋な現地人であり、真性の周回廃人である。
「いや、おいユウ……そんな想像上の話されても、アキだって困るだろ……?」
隊長としてたしなめるリンドウさんの声が聞こえる。さぞや胃を痛めているに違いない。私とユウが会話するだけで精神ダメージを負うとは、この人も難儀だよなぁ。
主に私のせいだと思うが。
そしてリンドウさんの苦労を無視して私は応える。
「そうだねぇ、なんか動きが速いし、この二倍速ぐらいの奴とか出てきそうだよね。あと全体的に白いし、白バージョンがあるなら黒いのもいるんじゃない? 定番でしょ」
「おおー……!」
「お前が言うと現実になりそうだから本当にやめろ……」
隣でソーマがそんなことを言ってくる。いやいや、よく聞いておきたまえよキミィ、この先、鬼ハンニバルさんとか出てきた時、どうするんだい?
「あくまでも想像上の話だ。そう鵜呑みにするな、神薙──」
「──ブリーフィング中、すみません! ハンニバルに関する新たな情報です!!」
と、尋常じゃなく慌てた様子で入ってきたのは、竹田ヒバリちゃんだった。
手に持ったタブレットを手に、息を切らせたヒバリんは新情報を伝達してくれる。
「黒いハンニバルが出ました! し、しかも白い種よりもスピードが格段に速く、通常種の二倍速はあるかという話です! 幸い、人的被害はありませんでしたが、早急な対処をお願いします!」
「複合かぁ。極東くんも頑張ってるなー」
「うわぁ、凄い! どんな素材が落ちるのか楽しみですね!」
会議室の絶望した雰囲気に反した私とユウの声に、その場の誰もがうな垂れた。
アナグラの知らないところで始まっている恐怖の戦線。明るみになった時、果たしてアナグラの神機使いたちはどうなってしまうのか?
そんなことは知らんとばかりに侵喰神速種が爆誕! 極東くんもアラガミくんも必死だね。
そんな回。
ラスボス前の障害なんだ、これぐらいの配置はフツーフツー。
読者様がたの応援のおかげで最終章が見えてきました。本当にありがとうございます。