「完成したよ──いや、完成させちゃった、と言うべきかな。うん。えーと、ご注文通りにできちゃったけど、これで良かった……?」
IN神機保管庫。
後ろから若干不安げに訊いてくるのは、神機整備士のリッカちゃん。タンクトップにオーバーオールを着た、ゴーグルを頭にかけている灰色髪ガールだ。この数年ですっかり大きくなって、今や頼れる整備士の一人である。
そして私の目の前には──神機さんがあった。
刀身を、黄金のケーニヒスベルクに変えた、神機さんが。
「……お、お、おお……おおおおおおおおお……ッ!!」
「祈りのポーズ!?」
感極まり、両指を組み合わせて思わずその場にひざまずく。
キラッキラの黄金
「今、溜め込んでいた私のスキル合成が火を吹く時……! オラァ、補正値追加の時間だぁ──!!」
「うわあああ! なんか凄い勢いでターミナルを操作し始めたーッ!?」
ロング/
パチパチと、後ろでリッカちゃんと見守ってくれていたユウから拍手が送られる。
「おめでとうございます、師匠……! えーと、これ、簡単にいうと、どう凄いんです?」
「私というゴッドイーターが超満足する──以上だ」
「なるほど、武器への愛情は基本ですもんね」
「ま、まぁ、整備士として、私もそこは否定しないけど……」
リッカちゃんがなにか言いたげだ。
どうぞ、と話を促す。
「その……装甲なんだけどさ。神属性への防御しかないけど、あの、他の属性攻撃への防御は……」
「当たらなければ、どうということはないッ!」
「まあ師匠、そもそも被弾少ないですしね」
「整備士としては、いつ、何があるか分からないから心配なんだけどなぁ……」
ありがとうリッカちゃん。でもこれでいいんだ。最終決戦はこの最終装備以外にありえないと私のプレイヤーの本能が云っているのだ。だからこれでいい。いいのだ!
さっそく神機さんを手に取り、肩に担ぐ。
「よし──じゃあリッカちゃん。さっそくミッション、行ってくるわ……!」
「き、気を付けてね……神機さんに無理させちゃダメだよ?」
「了解了解! じゃあな弟子! お前もお前のリーサルウェポンを目指して頑張れよー!」
「はいっ! 行ってらっしゃい、師匠!!」
──この時の私はまだ知らなかった。
まさか任務先で、あんな事態に出くわすことになろうとは。
▼
今日のミッション内容は、資源輸送部隊の護衛だった。
なんでもそのルートの近場に新種のハンニバル君が出たという話で、それはもう内心ウッキウキで出撃した。
このスーパー進化を遂げた神機さんの初陣の相手には相応しい。
というワケで、金色キラッキラのケーニヒスベルクさんを担いで行ったのだが。
「ええ……しんでる……」
輸送ルートには、既に死した憐れなハンニバル君がいた。
身体を真っ二つに引き裂いており、新種の貫禄もなにもない。
アラガミ、まさか周回される前に自殺する戦法でも思いついたのだろうか。
それって戦法っていうかね? 素材は──あ、採れる。まあ、勝手に自殺して素材を捧げてくれるってんなら、全アラガミそうしてほしいところだけど、周回の意義が揺らぐ。ただの死体回収業じゃんかよ。
「流石は『極東の悪魔』……危険を察知したアラガミが、自ら命を絶つほどとは……」
「作業員くん? そんな冗談みたいなことは起きませんからね? 近場にコイツを始末した奴がいるからスピード上げて。追いつかれたら全滅エンドだよ」
こっちの指示に、即座に輸送車が加速する。
一面の荒野景色には、小型のアラガミ一匹の姿もない。青い空が不気味に広がっており、嵐の前の静けさを思う。
「──、」
感覚よりも先に、風の流れをキャッチする。
それから経験と直感から割り出して──あ、これもう来るな。
「停まらずに真っすぐ進め!! 私が引きつけておく!」
「!? 中尉、何を──」
瞬間、荷台から飛び出した。
空中に身をさらし、“ソレ”が来る方角に装甲を展開する。
「────ガルアァァァアアアアアアアア────ッッッ!!」
まるで巨大な黒い弾丸。
地平の彼方からカッ飛んできたその存在と激突し、発生した衝撃波が砂埃と轟音をまき散らす。
吹き飛ばされながら銃身に変形させ、トリガーを限界回数まで引ききる。バレットの直撃に、アラガミの意識が輸送車からこちらへ完全に向けられるのを感じ、大地に滑りながら着地して見上げた時、ようやくその姿を視認した。
「……な、に……?」
その姿──いや、その巨体に目を疑う。
そこにいたのはハンニバルだった。黒い──侵喰種ハンニバル。
しかも今のスピードからして、神速種との複合型。いつかの対策会議で報告のあった個体だろう。
だがそれよりも私が絶句したのは、
「
そう! 目撃して真っ先に分かるのはそのサイズ! その巨体!!
ハンニバル自体、大型種なのでそれなりに大きいは大きい、のだが。
目の前にいるコイツは、格が違った。
具体的に言うと! 原作バースト編終盤のストーリームービー上だけに出てくる、あのクソデカハンニバルくん!! ……よりもちょっとデカい? 全長二十メートルぐらい? 通常種の二倍くらいの大きさである!
ともあれ全プレイヤー待望の相手だ! ゲーム内で戦わせてほしかったやつ──!!
『中尉!』
「先に行けェ! こいつは私が狩らせてもらうぜ──ッ!!」
『ッ、ご武運を!!』
輸送部隊との通信はそこで終わる。
荒野には特異アラガミと我一人。
おいおい、見直したぜオラクル細胞くん。
こんなの……燃えざるを得ないだろうが……ッ!!
▼
「幻代アキ中尉がMIAになった」
ツバキの放った一声に、第一部隊の集められた作戦室には、うんざり気味な空気が漂い始めていた。
「本当に……よくMIAになる人なんだ……! 伝説は本当だった……!」
「こ、この短期間に二度も……? ビーコンは仕事を放棄したんですか?」
「し、師匠……今度は一体なんの素材を追いかけて……」
「静まれ。そして事をもっと重く捉えろ、新人ども。言っておくが、奴も好き好んでMIAになっているわけではない」
「……今度は何があったっていうんです?」
リンドウの問いに、ツバキは重く息を吐いてから答えた。
「──新型の黒いハンニバルだ。物資輸送部隊の護衛任務中、奴が現れ、中尉はこれと交戦を開始した。輸送部隊は無事に支部まで到着したが……中尉は、敵もろとも谷底へと落下した」
『……ッ!』
敵がはっきりと判明しているだけに、空気に緊張が走る。
黒いハンニバル──目撃情報からのデータからして、アレと一対一で戦うのは、いかなるベテランでも避けたい事態だ。最低でもチーム戦を挑まねば勝機は見えないだろう。
「強力なジャミングのせいで通信もとれない。落下の衝撃を受けたのか、ビーコンも機能しない。ただ──未だに谷底には、強力なアラガミのオラクル反応が存在している」
「……ってことは……」
「ああ、奴は今も戦っている。谷底からアラガミが這い上がってこないのはそういう事だ」
「なるほど、それじゃあ今から助けに──」
「いや」
ユウの言葉を、苦々しい表情でツバキは遮った。
「……上からの──出張中の支部長からの命令だ。『新型アラガミの掃討は殲滅兵の業務に含まれている。適正な人材が対応しているものとして、援軍は不要であるものとする』──第一部隊は、通常通りの任務遂行にあたれ」
▼
なんだこのハンニバル、クソチートすぎない?
とりあえず戦って分かったのはそういう事だった。コレ、“特異種だから”って理由一つでは片付かないほどの厄介個体であると、交戦開始一分でそう思った。
「グルオオオオォォォォ────ッ!!」
けたたましい大咆哮が地上を揺らす。
黒竜が、その手に光剣のようなものを編み上げる。
あの動きは────、と即座に回避行動をとろうした時、目を疑った。
次の瞬間、ハンニバルはその剣を
「なにィッ!?」
──全力で回避する。まっったく見覚えのないその動きにキレながら回避する。
背後で剣が炸裂する爆発音。なになにソレ、知らない知らない動きなんですがオイテメェエ────ッ!!
「やばッ」
尻尾の振り抜きがくる。跳躍でギリギリかわすと、こっちを向いたハンニバルが右ストレート(!?)を放ってくる。反射でそれを刀身で受け流し、くるっと身体をひねって篭手の部位に着地、そのまま勢い任せに腕を走って頭部に一撃を叩き込む。
その口の中で光が奔る。ブレスが来る。
「ッッ……!!」
捕食フォームに切り替え。跳ぶことで更に上へと逃れ、大気を、地上を燃やす高火力の炎から逃れていく。
──そして竜の背面に落ちた瞬間、音速の振り向きざまに左ストレートが襲い掛かってくるのを見た。
「ッざ──」
ざけんなテメ──! 熟練の人間のような動きをしてんじゃね──!!
そんな内心の叫びなど当然アテにもならず、咄嗟に装甲を展開、ジャストガードしたものの、衝撃など殺すこともできずに数十メートル果てへと吹っ飛ばされる。
「んぎぎぎぎ……!」
咄嗟に神機さんの刃を大地に突き立て、ブレーキをかける。
それでようやく吹き飛びは終わったが、見上げた先の黒竜は、再びその手に光剣を生成していた。
投擲──じゃない。
刹那、一際強くその剣が輝き──放たれたオラクルの斬撃が地上を切り裂いた。
「ゲームが違うじゃねぇかァ────ッ!!」
そんな馬鹿なマップ破壊兵器!?
一閃だったので回避はできたが、真横を通り抜けていく恐ろしさといったら!
ヤバイ。──ヤバイ。
こいつ、ただのアラガミじゃない。
「グルァァァアアアア!!」
あーッ! 移動速いーッ! 神速種ゥ──! もう目の前に来てらっしゃるの──!!
次はパンチ、じゃねぇ、尻尾攻撃! 振り上げ!! ちょっと対応が間に合わずに、ばこーん! 盾でガードしたけど打ち上がり! そして今度こそ襲い来る右ストレートォ!!
「ガハァッ!!」
人間アピールじゃないぜ!? 思いっきり喰らって吹き飛びだ!
……マジで痛いカスッ!! 回復錠Sを予め口に入れて回復してなかったらリンクエイド待ちだったぜ! でもそれで回復したハズのバイタルも吹っ飛んだ衝撃で一気に半分は削られてる気配ッ!!
「グォォォォ……!!」
「──っ」
立ち上がれば、頭上に落ちる影。
巨大竜人の手に握られた、光の剣が振り下ろされる。
遮蔽もなければ逃げ場もない。──いや。
「
後ろへ飛びさがるように、大地を蹴った。
背後に──足場はない。崖だ。底の見えない暗闇が広がっている。
そこへ、迷いなく後ろから飛び込んだ。
上から落ちてきた光剣が大地の亀裂に当たり、崩落を引き起こしていく。
その崩れた岩の破片を足場に、私は下へ──下へ、ひたすら下へと降りていく。
「グォォォォオオオオ────!!」
「来てくれると思ったよ……!」
ハンニバルも、私という獲物を追いかけるように谷を飛び降りてくる。
妙に賢しい人間っぽい戦い方だが、理性は消えているらしい。こいつは暴れ狂う戦闘狂だ。あんな何もねぇ地上で戦ってたら、いつか限界がくる。
だから──相手の巨体を、その行動範囲を制限できる谷底へと飛び降りた。
「……!」
そこで敵の姿を改めて見て、初めて気づいた。
ハンニバルの右手にある篭手。そこに巻き付けられている、見覚えのない、
……このアラガミに、原作でそんな装飾はなかったハズだ。
というか──この黒いハンニバル自体、
原作における黒いハンニバルは、雨宮リンドウがアラガミ化してから発生するもの。
それ以前から通常の白いハンニバルはいたらしいが、「蒼穹の月」でMIAになって放浪していたリンドウさんが、奴のコアを急速再生する偏食因子を求めてハンニバルを狩りまくった結果、生まれたのが神速種──だったはず。
そう、リンドウさんが無事な現状で、この個体は
いくら私が周回しすぎてたとしても、私はまだ一度だって通常のハンニバルすら狩ったことがないのだ。
オラクル細胞は情報を得て賢くなる。ゼロから侵喰かつ神速で出てくるのは、進化をスキップしすぎである。
となると、奴の発生経緯、その正体は絞られる。
黒いハンニバル。神速種のハンニバル。巨体のハンニバル。
この三つの要素を知る者など──
「──加賀美リョウ……」
思い当たる名を口にする。
死亡ではなく、失踪したとされる旧時代の英雄。
先達者にして同胞。その末路がおそらく、目の前にいるアラガミの正体だった。
「グォォオォアアアアアアア──ッ!!」
その人となりを知らない。
どんな生涯だったかを知らない。
それでも、何をすべきかは完全に理解した。
「……」
落ちる岩盤の上で、神機さんの刀身を構える。
ニヤリと、口角を吊り上げる。
ああ──こいつはますます、私が始末しなきゃならなくなった。
同じ転生者であり、
彼の活躍によって造られた神機を継いだ、
他ならぬこの私がだ。
「──いいだろう。未練があるってなら断ち斬ってやる──
落下しながらも、戦闘は続く。
自分の腕輪のビーコンが壊れていることにも気付かずに。谷底へ着いた後も。
──この敬愛なる好敵手と、
応援いつもありがとうございます!
なぁ、あのムービー限定ハンニバル……戦いたかったよな……
アナグラ
通夜状態。
現場の悪魔
超楽しんでる。攻撃属性は氷、雷、神。
現場の巨体神速侵喰ハンニバルくん
超暴れてる。弱点属性は氷、雷、神。
加賀美リョウ
旧時代に現れた伝説の英雄。転生者。
その生涯も、苦悩も、葛藤も、想いも、誰も知ることはない。
転生者の多くは自身がそうであることを明かさない。彼もまたその一人。
推しはかれるのは同胞たる彼女のみ。
彼自身の意志も意識もとうに尽きている。此処にあるのは骸だけ。
ならばもはや言葉は不要。──さぁ、存分に殺し合おうぜ?