転生神機使いは狩り続ける   作:時杜 境

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22 転生神喰らいは狩り続けた

三日かかった。

 

 ハロー、私、幻代アキ! 死んで神喰い世界に転生しちゃった元プレイヤーさ!

 ただの護衛任務のハズだったのに、巨体神速侵喰ハンニバルと化した、先輩転生者──加賀美リョウがアラガミ化した奴と、谷底で三日前から今日まで戦い続けていたんたぜ!!

 

 三日ってなんにち?

 

「こ、れ、で!! 最後、だぁ────ッッッッ!!」

 

 黒いハンニバルの──神機さんによってその四肢が食い千切られた、無惨な姿と化したハンニバルの、その胸のコアを貫き穿つ。

 

 ──捕食摘出、完了──

 

 神機さんを勢いよく引き抜くと、僅かに痙攣した後、強すぎた巨大アラガミ先輩野郎は、脱力して地響きを立てながら倒れ伏した。

 

「──────」

 

 死体は動かない。奇跡が起きて、何かを喋ろうとするような気配もない。

 当然だ。とっくの昔に「加賀美リョウ」という人間は死に、後はアラガミに変異した肉体が暴れていただけのことだったんだから。

 

「……む?」

 

 ペッ、とそこで神機さんが何かを吐き出した。

 ガラン、と重い金属音を立てて転がったソレは──赤い、ゴッドイーターが身に着けている腕輪だった。

 

 それを拾い上げる。随分な年季モノだ……加賀美先輩が、生前つけていたものだろう。

 

「……? 何か刻まれてる……?」

 

 手触りから、腕輪の外側に妙な傷があることに気が付いた。

 神機さんのコアの光に照らして見てみると、そこには。

 

 

────『GOD EATER最高!!』

 

 

 そんな。

 細かい傷がつきながらも……その文字だけは、そのプレイヤー馬鹿の文字列だけは、ハッキリと読み取れた。

 

「──ハ、」

 

 思わず笑ってしまう。失笑はやがて笑いに変わり、爆笑の声に変わっていく。

 馬鹿だ──馬鹿な奴が、いたものだ。

 

 私よりも先に、この神喰い世界を存分にエンジョイしたらしい先輩の顛末は、そんなところだった。

 

   ▼

 

「──いやにしてもマジでキツい。マジで無い。先輩ドン引きです」

 

 ドッッッと疲労がきて、その場に倒れ込む。

 ごろん、と空を見上げるように仰向けになり、ここ数日間の「地獄」を思い出す。

 

 一日目。まずは相手の速さの対応から始まった。ホントに二倍速か? 三倍速じゃない? みたいなワケわからんスピードに応じて、攻撃を叩き込むタイミング。主にこれを割り出して覚えるだけで一日が終わった。

 

 二日目。速度に対応し始める。で、なんか戦い過ぎたせいなのか、敵のオラクル攻撃──あの光剣の斬撃波を、斬り払えるようになっていた。回避と防御以外に手札が増えたのは僥倖だった。

 

 三日目。神機さんが変調を起こす。なんか、一定ダメージを与えた直後、一瞬だけ刃が凄く通りやすくなったりした。バレットも多く撃てるようになったりして、一気に終わりが見えた。神機さん、遂に本気を出し始めてくれたのかもしれない。

 

 そんな感じで半ば修行じみた三日間だった。

 

 私だってさっさと覚醒して熱い展開で殴り飛ばしたかったが、なんせ相手が強すぎた。タフすぎた。

 

 なので実力だけで殺ることになった。

 

 ずっと戦っているともはや作業じみてくる。相手の隙を作り、動きを読み、行動を制限させ、チクチク攻撃を入れ、二日かけて四肢を二本奪い、弱らせていき、じわじわと追い詰めて────やっと、だった。

 

「お前マジふざけるなよ…………」

 

 キツすぎるぜ馬鹿野郎!! 反省してください!!

 

 ちなみに戦闘中はなんかもう、神機さんに身体のあらゆる要素をバイタルやスタミナやオラクルに変換されていたのか、寝たいとかトイレ行きたいだのという生理的感覚は全然感じなかった。

 

 これで長期のマラソン周回ができるようになったかもだぞぉ。

 

 絶対嫌です。干からびて死ぬわ。

 

 神機さんの変調は、まあ、私のせいだと思う。加賀美リョウという転生者としての知識で、あの究極ハンニバルの誕生やゲームにない技を使う影響が出ていたのと同じだ。転生者である私に影響を受けて、神機さんもいつかブラッドレイジとか実装し始めるかもだ。

 

 実にロマンある話だが────正直、今はどうでもいい。疲れた。

 

 今の頭の中には若干二名の名前しか存在しない。この三日間の精神の支えだった名前だ。

 仮にここで私が退場したら──その二人が月と地球とで離れ離れになってしまう。

 

 それだけは嫌だった。それだけは、転生したと気付いた時から、ずっと塗り替えてやろうと思っていた結末だった。なので超頑張った。別に誰も褒めなくていいから、今すぐ私に水を持ってきてくれないか……?

 

「……ハァ……はぁ、なんだかんだで一番、崖登りがキツい……」

 

 疲労もあって、二時間ほどかかって私は谷底から地上に戻って来た。

 周囲に人影はない。戦ってる最中、三度ほど空が暗くなったので、三日は経っているハズだというのに、捜索班も、偵察班も、救護班も、援軍の気配も欠片もない。

 

 支部長の陰謀を感じる。

 

「ハッハッハァ──ざまぁ、クソざまぁ支部長! 今回も生き残ったぞ私はああぁぁあ──」

 

 とか、叫ぼうとするが、全然声が出ない。尻すぼみに声が小さくなる。

 いや……もう、だって……ワタクシ、疲れましたもん……なんだよ三日ってぇ……

 

 通常の討伐任務は四十分か三十分以内でやって! というのが基本だ。

 だのに三日。元加賀美センパイ・究極ハンニバル一体を片すのに、三日!!

 

 これ……単独で良かったかもしれんな……部隊で来てたら、数人は死んでたぜ……?

 

「うぐぉおおお……歩きたくねぇ、動きたくねぇ……でもはよアナグラ帰って寝たいねぇ……」

 

 鉛のような重みに感じる足を、もう帰巣本能という意地だけで動かし始める。

 ここから数キロも歩くってマジィ? 周囲にちょうどいい乗り物(オウガテイル)は──いないか。ま、あのハンニバルさんの気配があったら、そりゃー何も近寄らないわー。

 

「……ん?」

 

 ブロロロロ、と走行音がする。

 顔を上げて地平線の向こうをみると、よく見慣れたフェンリルマークの移送車が、こちらへ向かって走ってきているとこだった。

 

 

「──ししょーう! あ、生きてる!? 凄い、生きてる!! MIA絶対生還者の名は本当だったんだッ……!!」

 

「あまり大声で喋らんでくれ弟子よ。こっちマジで限界なんだ」

 

 車の運転席から降りてきたのは、原作主人公くんだった。

 他に乗り手はいない。いや、まあ、なんとなく彼一人だけが来た時点で、事情は察した。

 

「あ、すみません。えっと、神薙ユウ曹長、命令違反して幻代中尉をお迎えに上がりました!」

 

「そりゃあいい、命令違反は若い頃にジャンジャンやっとけ? 私は清く正しい軍属生活を送って来たが、今更になって『命令違反しなかったこと』をちょっとだけ悔やんでる。うん、だって勿体なかったよなぁ……ってな」

 

「ちょっと言語中枢が怪しいですね師匠! はい、荷台にお運びしますよー!」

 

 彼に肩を貸されつつ、移送車の荷台に乗り込む。そこに仰向けに寝そべり、神機さんも横に倒して置いておく。

 やがて車が崖からUターンし、アナグラへの道を戻り出した。

 

「……いやぁ、正直めっちゃ助かったわ。サンキューな。三日間どうだった? 他の皆はどうしてる? お得意のシリアスやってる?」

 

「やってますねぇー。お通夜ですよ、お通夜。もう息苦しくて……すぐに援軍に来れなくって、すみませんでした……」

 

「どーせ支部長の妨害でもあったんだろ。私の位置はどうやって掴んだんだ? サカッキーパパの超ハッキング?」

 

「その辺は全部ソーマがやってくれました」

 

 意外な名前に目を瞬く。

 

「キレすぎて一周回って冷静になったらしくて。いやぁ……おっかない圧でしたよ。本人には言えませんけど、あの時は支部長ばりのプレッシャーだったなぁ……無言でターミナルを操作し続けたり、よろず屋さんに声かけてたり、変な規則性で任務を受注したり……今思うとアレ、全部裏工作の一環でしたね」

 

「そ、ソーマくん……」

 

「あいつ、師匠の周回の付き合いでアナグラ中の物流もスケジュールも把握してたらしいですよ。三日かけて師匠、というかアラガミのオラクル反応の位置情報を掴んで、この移送車もスニーキングして盗んできたし」

 

「ソーマくん!?」

 

「あ、もちろん業務には何の支障も出てないですよ? ソーマは整合性をとるためにアナグラに残って、そんで僕がこうして派遣されたというわけです。今頃はバレて逃走劇してる最中かもしれませんけど」

 

「ソーマく──ん!!」

 

「まあ、捕まったとしても移送車借用の申請は通したって言ってましたし、表面上アナグラはド平穏なので、追及するための証拠がないんですよね」

 

「おおおぉぉぉい……」

 

 なんだね? なんか知らないところで覚醒イベントでも起きてたっていうのかね?

 主に誰のせいかって? まあね、うん、私だろうね。ルールの穴をつくやり方を一番間近で見てきたのはソーマですしね。はっはっは────いやぁ、弁明の余地もないっすわ。

 

「第一部隊、支部長から待機命令を下されたんですよ。アキ師匠を助けるな、って。師匠、支部長に殺されかかってません?」

 

「あの年頃の大人にはよくあることさ。……と言って誤魔化したいがね。弟子お前、隊長からなんか聞いてるな?」

 

「はい。アーク計画、ですよね」

 

 ──まあ、命令違反を押し切ってここまで来たなら、そういうことだろう。

 

「ぶっちゃけ僕は支部長にも一理あると思いますよ。人類全てが無くなってしまうより、少数を逃がした方が可能性はある……って。でもなぁ、その少数のためにシオちゃんが犠牲になるのは、なんか違いません?」

 

「ほう。というと?」

 

「あの子はアラガミですけど知性があります。心がある。つまり、僕らと同じです。──終末捕食なんて壮大なことが関わってるけど、誰かを犠牲にする時点で、そんなの馬鹿馬鹿しい。っていうか、あんな可愛い女の子を見捨てるなんて、地球の損失ですよ!」

 

「よく言った」

 

 拍手をしたいが、力が入らず両手が持ち上がらない。

 それを残念に思いつつも、この弟子の目覚ましい成長っぷりは、師として、プレイヤーとしても──嬉しかった。

 

「──ちなみにアーク計画についてはソーマも知ってますよ」

 

「え」

 

「っていうかリンドウさんを脅して吐かせたのがソーマですよ。あ、いや、暴力は使ってませんよ? あんなに感情の無い声で淡々と喋るソーマは初めて見ましたけどね。まぁ、計画について知ってるのはリンドウさんとソーマと、二人が話してる現場に出くわしてしまった僕だけです。それで強制的に共犯に認定されて、師匠救出計画が実行されたワケです。もちろん立案者もソーマです」

 

 ……いつの間にかシナリオの方も進んでいたか……

 まぁ……アーク計画真実判明でひと悶着あるのは、コウタ君ぐらいだったか。本当なら、サクヤさんとアリサちゃんが、MIAしたリンドウさんの意志を継ぐぞー! ってエイジスに乗り込んだりするイベントも並行していたのだが、今はそんなことないし。

 

 そうかァー……

 じゃあ、もう割と、シナリオも最終章ってところか……?

 

「……、弟子。支部長は帰ってきたか?」

 

「ああ、今週中には戻ってくるみたいですけど……ソーマが殴りにいかないか、心配ですよね」

 

「……」

 

 いやまぁ、あのバッドコミュニケーション親子のひと悶着も気にはなるが。

 

 ……まだ帰ってないのか……三日間、私という最大の障害を足止めしておきながら? さっさと帰ってきて、特異点探させたりなんなりして、黒幕としての仕事をしておく大チャンスだったのに?

 

 不気味だ。この三日間、あの黒いハンニバルが陰謀の一環だとしたら、支部長は何を狙っていたのか? 私の暗殺、私の足止め……他になんの目的があったんだ?

 

「ところでアキ師匠。その赤い腕輪はどうしたんですか?」

 

「これ? 倒したアラガミの元になった奴が生前着けてたものだよ……激ヤバ強かったわ、マジで……」

 

「ああ、ゆっくり休んでください。着いたら起こしますから!」

 

 アザァッス、ともう師匠としてのプライドもかき消えた返事をして、素直に目をつむる。

 

 ──そういやこいつ、アナグラに私を回収した連絡って入れたのかな? という些細な疑問を一瞬だけ思いながら。

 

   ▼

 

 その輸送車がアナグラから確認できた時、多くのゴッドイーターたちが外に飛び出してきていた。

 

 ──不安、焦燥、心配、憂鬱、生存への微かな期待。

 

 “極東の悪魔”が新型の特異種と谷底に落下して三日。普段、彼女という存在を揶揄するもの、尊敬するもの、羨望しているもの、敬遠しているもの──繋がりや想いに関わらず、手の空いていた者たちは、輸送車の帰りと、その報告結果を聞くために、現実を受け止めるために──外にやってきていた。

 

 そんな中、先頭に立つのは第一部隊隊長の雨宮リンドウ。

 彼は煙草を吹かしながら、神妙な面持ちでやってくる輸送車を見つめていた。

 

 そのやや後ろに立っているのは、ソーマ・シックザール。

 既に裏工作の諸々は明らかになっていたが、誰も彼を責める者はいなかった。その動機と目的を踏まえれば、文句を言う者もいない。更には証拠不十分として懲罰房を免れ、こうして堂々とその「帰り」を待っていた。

 

「……来たか」

 

 リンドウの呟きと同時に、輸送車が団体の前で停車する。

 運転席から降りてきた少年──普段、朗らかな印象で知られる神薙ユウは無表情だった。その時点で、多くは悪魔の末路を悟っていた。

 

 谷底のオラクル反応が消えて四時間弱。

 そこから分かったのは、三日間の死闘の後、見事に彼女が単独で「特異種」を討伐したこと。

 

 そして──その無茶な戦闘の後に訪れるだろう当然の結末は、誰もが想像し、覚悟していたことであった。

 

「……ユウお前、その、腕輪は……」

 

 リンドウの声には、まるで現実感が伴っていない。

 降りてきた少年の手には、一つの赤い腕輪。──もはやそれが答えだと示すばかりの、決して変えられない証拠だった。

 

「師匠は……その……」

 

 彼女を師と慕っていた弟子は俯きがちに、腕輪を差し出す。

 言い淀むのも無理はない──おそらく彼はその目で、師の死体を目撃したのだろうから。

 

「──────そう、か」

 

 静かな、喉から絞り出したような声はソーマのもの。血が滲みそうなほどに、強くその拳は握られており、まるで己の内で渦巻くやり切れない感情を、必死に抑え込んでいるようだった。

 

「ソーマ……ごめん」

 

「……謝るな。お前のせいじゃない」

 

「いや……止められなくてごめん。師匠はこの腕輪を僕に預けた後、『まだエリキシル錠Sが残っているから』ってそのまま周回に行っちゃって──」

 

「「────は???」」

 

 リンドウとソーマの声が重なる。暗澹としていた空気が一変する。

 困惑と動揺と混乱。それだけが場を満たし始める。

 

「いや、いやちょっと待て。じゃあその腕輪は!?」

 

「あ、コレは師匠が討伐したアラガミからドロップしたものらしいです。元は凄腕のゴッドイーターだったらしくて、師匠曰く『激ヤバ強かった』とか」

 

「……ッ!!」

 

 リンドウは顔を引きつらせたまま、そこで動きを止める。

 ズシャッ、とすぐ後ろで音がしたので振り返ると、ソーマが両膝をついて俯いていた。

 

「あいつ……あいつ、あいつはなんだ……! 俺は──俺はあいつの執念を舐めていたのか……なんなんだ、あいつは周回の神にでもなるつもりか……ッッ!?」

 

「気持ちは分かるけどなソーマ? ちょっと自分でもワケ分からんこと言ってないか??」

 

 流石のリンドウも返す言葉がなかった。

 ゆらり、とやがてソーマが立ち上がり、不穏な気配を察知する。

 

「神機を持ってくる……奴は殺してでも連れ戻すッ……!」

 

「ちょ、待てソーマ!?」

 

「止めるなリンドウ。俺には奴をあそこまでの周回モンスターにしちまった責任がある。ああ、出会った頃に殴り倒しておけばよかったって思う程度にはな……!」

 

 先ほどとは全く異なるやり切れない衝動のまま、そのまま神機保管庫の方へとソーマがその場から背を向けようとした時。

 

 ざりっ、と。

 車の荷台から新たに降りてきた、砂利の擦れる着地音が聞こえた。

 

「──あ──」

 

 その人影を目撃した瞬間、彼が止まる。

 刹那。無言のまま静かに素早く歩き寄って来た彼女は、がっしと青年の首に両腕を回すようにして抱き着いた。

 

「……ただいま……そして、さようなら……」

 

 ガクン。

 最後の電池が切れたようにそこで少女──幻代アキは気絶し、倒れ込みそうになるのを慌ててソーマが支える。

 

 ──状況を飲み込むまで二秒。

 直後、リンドウとソーマがユウの方へ視線を向けると──めちゃくちゃ良い笑顔でサムズアップを向けていた。

 

「おい……」

 

「ユウお前ぇ! お前ェ──!!」

 

「あーはははははッ!! すみません、すみませんってリンドウさん! いや、だってこんな面白いチャンスを黙って見逃せるほど僕人格できてないのでぇ! あはははははははッ!!」

 

 逃げ出そうとしたユウをリンドウが捕まえ、コブラツイストをかける。

 そんな同僚たちの馬鹿騒ぎをしばらく黙って眺めてから、溜息を吐いたソーマは手元の荷物を横抱きにして、さっさと医務室へと運び込んでいった。

 

   ▼

 

 ──二日後には医務室から退院した。

 

 P73偏食因子体質のこの身体は自己治癒能力に優れている。まあ、疲労が完全に抜けきるには時間がかかろうが、普通に任務復帰できる程度には回復していた。

 

 で、起きてからまず待っていたのは、葬式だった。

 

 加賀美リョウ。

 その伝説的ゴッドイーターの腕輪発見は、それなりに衝撃をもたらしたらしく、本日は全員喪服で、彼の死を極東支部で弔った。腕輪はいずれ記念館に展示されるとのことだ。

 

「腕輪にこんなことを刻むなんてなぁ……一度、会ってみたかったぜ」

 

「ハハッ、あいつらしい。最後の最後まで神喰い馬鹿だったな……」

 

 というのが、見かけたリンドウさんとゲンさんの会話である。

 うーむ、感慨深い。ちょっと嬉しい。同じ転生者がこうして作中の皆に讃えられてる場面からでしか摂取できない栄養素はある。

 

「成仏してくれるといいんだが」

 

「したさ」

 

 リンドウさんの言葉に即答する。

 というか、してくれ(懇願)。

 一戦につき三日かかる周回とか考えたくもない。頭長命種かよ。スーパー特異種、もう二度と出てこないでくれ。

 

「えーと……では、加賀美氏を介錯した幻代中尉、一言よろしくお願いします」

 

 喪服姿のヒバリんからマイクを受け取り、目の前のガラスケース内に収められた腕輪に向き直る。

 

「────二度と戦いたくねぇから二度と復活するなよ。来世はもっとマシな世界に転生できるよう祈ってるぜ、先輩」

 

 会場にささやかな笑いを起こしつつ、その挨拶だけ終えると、私はとっとと葬式会場を後にした。

 

   ▼

 

 そして今! 自室で喪服から着替えた私は、ラボラトリに足を運んでいた。

 シオ様直々のお呼び出しである。MIAになっていた三日間、とても心配をおかけしていたようで、その無事の確認と再会も兼ねている。

 

 入る前にちょっと髪を整えてから扉を開けると、そこには。

 

「あき────!! おかえりー!!」

 

「────」

 

 視界に入った瞬間、気絶しそうになった。

 三日──いや、実に五日……いや六日? 数日ぶりとなる再会に、脳がシャットダウンしかけてしまった。

 

 ────そこには天使がいた。大天使がいた。

 

 白亜の前下がりなショートヘアに金色の瞳、人間ならざる真っ白い肌を持つ少女。

 その衣装はウェディングドレスと花束をイメージさせるような、可憐な純白のドレス姿! 胸には白い花飾りがあり、下はショートパンツで、白い布地がパレオのようにひらめいている。活発なスポーティさと華やかさを融和させた至上の美だ。

 

 プレシャスソング──ゲーム内ではそういった名前の衣装で、いやもう、これを直に見れただけで転生した甲斐があったってものである。

 

「ただいまシオ様。心配かけちゃってごめんね。待っててくれてありがとう」

 

 ぎゅぅーっと抱き着いてきたシオ様を抱きしめ返す。嗚呼、今が我が今生、至上の春よ……

 このまま成仏できるレベルのお出迎えである。なるほど、楽園とはここと見たり。

 

「シオ、まってた! あのねあのね、みせたいもの、あるぞ!」

 

「光栄至極。拝見します」

 

 こっちこっちー、と手を引かれて奥部屋へと連れていかれる。

 うふふあはは。時よ止まれ、もうずっとこんな時間が続いてほしい。

 

   ▼

 

「──あ、やっぱり来たんだ」

 

「……お前もな」

 

 ラボラトリ区画には、ユウとソーマの姿があった。

 二人とも伝説のゴッドイーターの葬儀帰りだ。といっても途中から壇上にあがったサカキ博士による加賀美リョウの伝説譚講義が始まった辺りで退席し、こうして今日、シオがアキへサプライズプレゼントを贈る頃に、一応様子を見に来ていた。

 

「もう渡してるかなー。師匠、どんな反応するんだろ」

 

「軽率に死んでなきゃいいけどな」

 

 言葉を交わしつつ、ラボラトリの中へ入る。

 と、まさにその瞬間、奥の部屋の赤い扉から、シオが飛び出してきたところだった。

 

「たいへんたいへん! とまっちゃった、アキ、どうすればいい!?」

 

「「!?」」

 

 アラガミの少女は半泣きだった。

 事態にギクリとなった二人は、素早く現場へと急行する。

 

 そこに彼女はいた。

 片膝をつき、差し出した両手の上には“プレゼント”の髪飾りを乗せたポーズのまま。

 ユウは天から降り注ぐゴッドレイを幻視した。まるで教会。まるで殉教者。どこか色も真っ白で、尋常ではない。そこだけ完全に時間が停止していた。

 

「し……死んでる……!!」

 

「チッ──」

 

 状況の把握はソーマの方が早い。

 室内に駆け込むと、完全停止している馬鹿一名の肩を掴み──一切ためらわず腹パンした。

 

「ゲフッ!!!!」

 

「あっ復活した」

 

 倒れ込む死体予備軍。その間も両手に持った髪飾りを落とさないようにしている辺り、芸が細かいなぁ、とユウは感心する。

 

「シオを泣かすな」

 

「ァザッス……弁明の余地もなく……」

 

「アキおきたー!?」

 

 シオを目撃した瞬間、ぐらっと大きく重症患者の頭が揺れる。久々の過剰供給でついていけてないらしい。

 

「……ソーマ。あの、一応、好きな人……だよね?」

 

「文句ならあいつのふざけた生態に言ってくれ……俺だって殴りたいわけじゃない……」

 

「苦労してるね……」

 

「昔からだ」

 

 ようやく再起動を果たした悪魔が、よろよろと立ち上がってくる。

 その手にある髪飾りは美しい。天使の翼をモチーフに製作されたバレッタだ。このたった数日間でアクセサリーを作れるようになったシオの学習能力の高さには、ユウも仰天したものだった。

 

「ありがとう……シオ様……冥土の土産にいたします……」

 

「アキ? さぷらいず、ダゾ? ないてるの?」

 

「嬉し涙ってやつです……大切にします……」

 

「ツカッテほしいぞー? じゃあ、つぎはウタだな! きいてきいてー!」

 

 落ち着いたようなので、その辺りで見守っていた彼らは退散することにした。

 ──彼女らの穏やかな時間が、少しでも長く続くことを願いながら。

 




神薙ユウ
 師匠回収後、自室に戻ってから安心してちょっと泣いた。

ソーマ
 裏工作技能を習得している。主に悪魔の影響のせい。
 期待の後輩によるドッキリもあって情緒がグチャグチャ。悪魔が周回に旅立ってなかった辺りは超安心している。

シオ様
 あと一日再会するのが遅かったら壁を壊して飛び出していた。

雨宮リンドウ
 なんかすごく疲れた人。アーク計画を潰す作戦を立てている。

幻代アキ
 やはりMIAでは殺せない。シオ様の過剰摂取ではしぬ。


 これにてハンニバル/加賀美リョウ編、終幕。
 皆さまの応援のおかげで最終章まで辿り着けました。本当にありがとうございます。
 最後まで本作を見届けてくださると嬉しいです。


 支部長が帰ってくるぞー。

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