「──えー、それでは! これより『エイジス計画とかアーク計画とか知らねぇけど終末捕食だけはぶっ飛ばさせてもらうぜ大作戦』──通称、『レーヴァテイン作戦』の打ち合わせを始める! カンパァイ!」
『カンパーイ』
リンドウさんがビール缶を手にそう宣言すると、第一部隊の面々もドリンクを手に乾杯する。
場の空気は会議なんて堅苦しいものではなく、パーティ会場そのものだ。テーブルには贅沢に料理が並び、今もオーブンでは次のピザを焼いている。
「……一ついい? なんで私の部屋なんです?」
「なんか安全そうだから……」
「どんな事故が起きても、アキ師匠の部屋だけは無事っぽそうだし……」
アーク計画、前日。その深夜帯。
昼間のアバドン事件やら夕方のアラガミ芸術の後、アナグラに戻ると、特務帰りのリンドウさんから、作戦の打ち合わせ会場にと、私の部屋を選ばれた。そんで現在、アナグラ内の誰もが寝静まった時間帯に、こうしてメンバーで集まり、夜更かしパーティってところである。
打ち合わせなのにパーティになってる辺り、実に幹事のリンドウさんとユウらしい。
「うおー、おおお~! ゴハンいっぱい、ゴウカ! まんかんぜんせき……ダナ!」
そしてシオ様もいるのだった。
部屋の四隅に偏食場探知ジャマーをつけ、特殊コンテナで運び入れ、搬入完了。
ソファに座って目をキラキラさせていらっしゃる。皿にアラガミ素材の載ったシオ様用のお食事も並べてあるので、ご満足いただけるだろう。
「なんつーか、割と普通なんですね、アキさんの部屋」
そう言いつつ室内を見回して物色するのはコウタ君。
置いてある棚には廃墟で拾った漫画本やCD、DVD。奥に置いてある、オークションで落札した小型テレビの前にはゲーム機器が並び、前世からよく知っているソフトが積んである。転生してなお名作に触れられるとは……しかしまさか、あのゲームの6が! 6が発売されていたとはな……!
「私も、もっとこう、アラガミの解体図や素材分布図が張ってあったり……を想像していました。中尉って人間だったんですね」
「そういうのはもう、ドロップ率から全部頭ん中に入ってるし……住居って基本、休むところだろ? そりゃあ代わり映えしないよ」
「お前ってこういうの聞くのか……」
料理も放っておいてメチャクチャCD群を物色するじゃんかソーマくん? そういえばお部屋に来たことなかったわね? CDラジカセでそこにある『怪物』でも流してやろうか? この世界のOPもあるぞ! 普通に露店にあってビックリしたけどな……
そこでサクヤさんの声が聞こえてくる。
「あの……中尉? 冷蔵庫に水と回復錠とレーションが入ってるんだけど、これは……」
「非常食です」
「ああ、なんか中尉って感じがするわ」
「食生活には人間らしさ残しておきましょうよ、師匠……」
「こっちは……ヒッ!? “覇王油”と“真竜神酒”が冷えてる……!」
「アラガミ素材は冷蔵庫に入れちゃダメでしょ中尉ィ!!」
「い、いや……レア素材を家庭用品の中に入れておくことで、精神の安寧をだな……」
「やっぱり末期だった」
なんだとテメー! この弟子! お前もいずれはこうなるんだよ! 周回の道を突き詰めていくならなぁ! これが貴様がいずれ辿る末路だ、よく見ておけよこの野郎!!
「ラジカセ借りていいか?」
完全に自由なソーマくんが、私の背後のカウンター上にあるラジカセを引きずり出して、CDを入れながらそんな事を言ってくる。現在進行形で許可を求めることに何の意味があるんだね?
「もう好きにしろよ……料理も食っとけ、ほい」
「ん」
串刺し肉を差し出すと、パクッと食ってそのままくわえていく。ワイルドっすね。
そこでガラガラとリンドウさんが部屋にホワイトボードを運んできた。一応、会議をやる気はあったらしい。
『Burst ver:Over the clouds』が部屋に流れ出す中、ゴホンとリンドウさんが咳払いをする。
「それでは作戦の概要を説明する! 主要敵はヨハネス・フォン・シックザール! 残念ながら俺たちの上司だ……つまりこれは第一部隊揃っての盛大な命令違反となる! が、作戦が失敗すれば人類もろとも世界が滅ぶので、これに関しちゃ問題はない。始末書か世界滅亡かってだけの話だからな」
「改めて聞くと壮大な話ですよね……」
「で、その『終末捕食』に必要なのがシオちゃんなんでしたっけ?」
「ンマイ……ゼッピン……」
コウタ君が右隣りのシオ様を見る。彼女は会議のことなんか眼中になく、目の前の料理に夢中だ。
そう──原作とは異なり、
「サカキファーザーによれば十中八九、な。スキャンしたところ、シオ様のコアは既存のアラガミとは一線を画す、超高密度な情報集積体になってるらしい。こいつがたぶん、支部長側で用意してる『なにか』と接触すると、終末捕食が起動する」
「なにかって……?」
「──ノヴァか」
ソーマくんはアイデアに成功したらしい。串刺し料理を手に、苦虫を嚙み潰したような表情になっておられる。
ノヴァ──星喰らいのアラガミ。終末捕食を引き起こす、高密度なオラクル細胞の塊。
ヨハネスは亡き妻、アイーシャさん……ソーマの母親のなれの果てをアラガミとして育成し、あのエイジス島内部に匿っている。そこまでにしておけよヨハネス。
「……色々と合点がいった。あの野郎……」
「あー、ソーマ。お前にはこの作戦、酷な話かもしれないが──」
「見くびるなよリンドウ。そもそもあいつを親父と思ったことはねぇ。この落とし前は俺がつける」
ソーマの決意も固いようだ。ほんと変なところで似てる親子である。
まぁ、これに関してはどうしようもない。説得の言葉も思いつかない。それもこれもぜーんぶ支部長のムーヴが悪い!!
マジであのバッドコミュニケーションファーザァー……
なんかこうして直に実態を見ると、ムカついてきたなぁ……?
「支部長は明日からエイジスの視察に向かう予定だ。奴の移動中から到着までは警備が固い。なんで、あえて初日は除外し、視察二日目に俺たちはエイジスに乗り込む。今日はもう日付が変わっちまったから……実質、明日ってところだな」
リンドウさんがペンでボードに日程図を書きながら言う。
──そうなると私にとっては、もう今日が決戦日、ということになる。
実に約十数時間後。そこで全てが決まるだろう。
「潜入の手順はこうだ。サカキ博士に偽装ミッションを作ってもらって、それを『殲滅兵』のアキが引き受け、対外的には周回に見せかける。で、神機を受けとった後、サカキ博士から緊急通信が入って、アナグラの地下の調査に向かわせる。そんで俺たちは、その地下道を通って、エイジスに潜入する」
「俺が見つけたやつっすねー」
地下からのエイジス侵入ルート──やはり原作通り、コウタ君が見つけていたらしい。
アナグラのプラントのリソースを、エイジス建設に用いる際に使う物資の輸送路だ。そこから行けばエイジスに直通である。
「で、潜入した後は、その『ノヴァ』を叩きに行く。支部長は最悪、放っておいたっていい。要は終末捕食を引き起こさせなければいいんだ──キーになるノヴァさえ倒しちまえば、あちらさんの計画はご破算だ」
「俺は一度野郎をぶん殴りたいところだがな」
「安心しろ、俺もだよ」
「私にも参加させてくれよ」
「この三人を敵に回してる支部長、マジ憐れだなぁ……」
暢気な弟子がなんか言っとるわ。アリサちゃんにあーんしてもらっているし。
「問題は……どういう妨害が入ってくるか、よね」
サクヤさんの確認にリンドウさんが頷き、仮想敵の名をボードに連ねる。
保安部、調査部、警備員、アラガミ──まっとうな想像だ。まさかヨハネスさんがアラガミと融合して襲い掛かってくるなど夢にも思ってないだろう。
「そこだ。正直、エイジス内部には『ノヴァ』がいるってこと以外は未知数だ。あの支部長のことだから、なんらかの警備兵にアラガミをけしかけてくるって可能性も考えられる。アキ、お前なんか知ってたりしないか?」
「ないっすよ。メチャクチャに警戒されているのか、招待されたことさえないです。まぁ……道中の警備員程度なら、この面子で強行突破できるだろうけど、あの加賀美式ハンニバル並のヤベー奴がいたら終わりですな」
「こわぁ……」
「……危険は承知の上だ。俺たち第一部隊以外に、動ける奴らはいない」
俺たちって言った! ソーマくんが言った!
──どうやらチームの信頼関係は充分のようだな……!
私を除いて。ふははははは。
黒幕側って結構これ楽しい。
「……と! 大雑把にはまぁ、こんなところか。もしも道中でイレギュラーが発生した場合はアキ、対処頼む。上手い言い訳、考えるの得意だろ?」
「遂に命令違反できるチャンス到来かぁー……あ、そういえばツバキさんには言ってるんです?」
「ああ、流石に俺じゃあ姉上の目は誤魔化せないからな……洗いざらい話した上で、裏で協力してもらってる。だから基本、内部からの妨害ってのは気にする必要はない。ちゃちゃっと神機をとって、地下を通って目的を達成する! これが『レーヴァテイン作戦』だ」
裏切りと破滅の杖、或いは勝利の剣ともいわれる神話の武器か……ある意味、神になろうとしているように見えるヨハネスさんの陰謀を食い止める作戦名として、確かに相応しい。
「じゃあ、シオ様には良い子で待っていてもらわないと、ですね。一応気付かれてはないんで、このまま隠し通したいところです」
そこでシオ様が食べる手を止める。
「……シオ、いけないのか!?」
「貴方が奪われると負け確定なのでぇ……」
「そこはしょうがないですよね……」
「シオー? ちゃーんとサカキ博士のいう事聞いて、おとなしくしてるんだぞー?」
「作戦にはそう時間はかからない。すぐ戻ってくる」
私、アリサちゃん、コウタ君、ソーマの言葉に、シオ様はしばらくうな垂れる。どうやら普通に参加する気満々だったらしい。いや、今回だけは本当、遠慮していただきたい。マジで。
「うー……わかった! アキ、やくそくやぶったことないし! ぜったい、ぜったい、かえってくる! だからシオ、まってる!」
尊すぎて胸が苦しい。思わずその頭を撫でる。
「ありがとう、シオ様。シオ様がいる限り、私はどこにいても戻ってきます」
「師匠、死亡フラグみたいですね」
「逆張りってあるだろー?」
その返しに、軽く会場に笑い声が響く。
穏やかで、優しく、まるで夢のような時間だ。
リンドウさんがビールを掲げる。
「んじゃっ、話もまとまったところで──」
「──パーティ再開! 打ち上げにしては早すぎますけどね!! かんぱーい!」
ユウの号令に合わせて、再び乾杯という声が部屋に響き渡る。
こうして夜は更けていく。
第一部隊の皆と過ごす、決戦前の最後の夜だった。
▼
──意識が浮上すると、腕に重みがあった。
目蓋を開ければ、視界に飛び込んでくる大天使の寝顔。一瞬本気で再び意識が飛びかけたところで舌を噛むことで耐え、ゆっくりと、起こさないよう気を付けながら起き上がる。
「朝じゃな……」
時刻は午前五時過ぎ。
パーティの後のことは覚えている──リンドウさんのように酒を飲まなかったので。お開きの時間になって、それぞれで片付けを終えた後、眠気が限界になったシオ様がソファで寝始めてしまい、私が一晩預かることになったのだ。
さっぱり綺麗にパーティの証拠は隠滅されている。途中からシオ様のキャンバスと化していたホワイトボードさえない。
コンコン、とそこで外からノックがある。
気配からしてソーマだ。ソファから立ち上がって扉へ向かう。
「はよっす。今起きたわ」
「シオの回収に来た。お前は顔洗ってこい」
ソーマの後ろには特殊コンテナがあった。助かるわ、と手を振って室内に招き入れ、その間にお言葉に甘えて洗面所へ向かう。
──顔を洗って戻ってくると、まだソファにはシオ様が横たわっていた。その傍ではソーマが膝をついて寝顔を観察している。わかる、わかるよ。このご尊顔を眺めない人類なんてこの世にはいないからね!
「呑気な奴だ……本当にこいつが特異点なのか?」
「データからしてほぼ確実に。今は落ち着いてるけど、ノヴァの方が活動し始めたらどうなるか分からない、ってファーザーが」
「…………、」
じっ、とソーマがこっちを見上げてくる。
なんだね?
「根拠はないが……
────ほう。ここでウルトラC?
「“ラプラスの悪魔”なんて異名もあるんだ。お前は本当になにかを知ってるんじゃないのか、アキ」
「仮に知っていたとして……そうだなぁ、それでも誰にも言わないのは、『信頼してるから言えない』ってやつだぜ、ソーマくん」
「──相変わらず嫌味になるほど返しが上手いな。そういうところは昔から腹が立つ」
チ、と軽く舌打ちしたソーマは、シオ様を抱えてコンテナの中へと運び入れる。
蓋が閉じられてもシオ様が起きる様子はなかった。随分と深く眠っているらしい。
「勝手に一人でどこかに行くなよ」
部屋の去り際、そんなことを言われた。
扉が閉じる間際──こんな言葉を続けて。
「今のお前は……どこか、昔の俺に似ている気配がするからな」
▼
──来客はいなくなった。
CDの入ったままのラジカセも、今は何も歌わない。
無音にして静寂。そこには残された住人が一人。
「──さて」
シャワー室に入って汗と汚れを流し、リビングに戻って髪を乾かす。
手に取る衣服はいつも着ている──ものではない。先日、開発部から送られてきた段ボール箱を開け、それを取り出す。
トップス用の白いシャツに黒いコート。スイーパーノワール。
ボトムス用の黒いスカートと黒タイツ。ナイトメアゴシック。
やっぱ自分が気合を入れるならこれだ。プレイヤー時代を思い出して笑みが零れる。
シャツの袖に腕を通してスカートを穿き、黒いコートを着込む。それから棚の引き出しを開け、そこに入っていた小箱から、一つの髪飾りを取り出す。
シオ様から下賜された至高の逸品。普段はアラガミの血を被らせたくないので、中々つけられずにいたが──
「決戦なのでね」
いつものようにハーフアップにしている留め具に、それを使う。
曲がってないことを軽く確認しつつ、携行品を準備し、必要な道具を持ち込み、アレコレやって、最後に自作の端末を取ってコートのポッケに入れ、部屋を後にした。
これまでの傾向から、今日のアナグラの大まかな動きは予測できている。
リンドウさんは自室かサクヤさんの部屋で寝ている。サクヤさんは無防備なリンドウさんからは基本離れない。アリサちゃんは規則正しい生活リズムだから六時まで起きない。コウタ君はブリーフィングには間に合うので七時まで無問題。ユウは起きているかもしれないが、どうせ周回計画か私の戦闘データに集中している。ソーマはとっくにラボラトリにシオ様を送り届けて部屋に戻ったらもう一眠りするだろう。
ツバキさんはまだ朝食の時間。サカキ博士はラボでどうせまた寝こけている。ヒバリちゃんの出勤時刻にはまだ早い。防衛班の面々は昨日から装甲車で出撃してて野営中。他の作業員たちはちらほら職場に出てくるだろうが、緊急事態が発生しなければ持ち場につくまでにまだ一時間はある。
だから──誰も邪魔をする者は現れない。
「悪いな、ソーマ」
次に会った時の反応が今から恐ろしいが、もう決めていたことなんだ。
▼
────CD借りるの忘れた。
ラボにアラガミの少女を送り届けてから、ソーマはそんなことを思い出した。
一度行ったのにもう一度行くのは手間だが、こと相手があの悪魔ならそこまで面倒には感じない。向こうも軽く笑って許してくれるだろう、と再び彼女の部屋に赴いたのだが──
「……アキ?」
部屋の扉をノックするが、返事はない。
というか、中から気配すら感じない。
鍵は──開いていた。不用心だが、まるでなにか意図したものをその時点でソーマは察知していた。
────嫌な予感がする。
部屋に踏み込むと、先ほどとは明らかに異なる点があった。
テーブルの上に、一枚のメモが置いてある。書き置きのようだ。手にとって読んでみれば、
────『Good bye! 新世界で会おう!!』
「……あ?」
予感が確信に変わっていく。
そこで彼女が何を考えているのか、その結論に辿り着こうとした時────
「────ッ!?」
──ドガァァァァンッッッ!!
アナグラを揺るがす大爆発の音が響き渡った。サイレンが鳴り響き、建物中がランプの光で真っ赤に染まる。
『緊急、緊急! ヘリのガレージから爆発! 近くにいる作業員は急いで退避を──』
「爆発……!?」
思わず部屋を飛び出す。足は自然とたった一つの方向──エイジス直通の地下へ繋がる、最下層に向かっていた。
──奴が行くならそこしかない。
半ば爆破の犯人を確信しながら、ソーマは非常階段を使って下層へと急ぐ。
『ヘリが……!』『誰だ!? アラガミの襲撃か!?』『ヘリが一機残らず爆破!? 何が起こっている!?』『通信機器、異常発生! 他の支部との連絡とれません!』『ターミナルにもアクセスできないぞ!』『アナグラ中のネットワークが破壊されている……!』『保管庫に閉じ込められてるんだ! 誰か助けてくれ!』『地下からも爆発音がしなかったか!?』『全員エントランスに集まれ! そこなら安全だ!』『テロ組織の仕業か……!?』『何が起こってるんだ!?』
道中、アナグラから聞こえてきた騒ぎの声に歯を食いしばる。
「──あの、野郎……!」
ここまでするか。
ここまでやるのか、あの女は。
もはや命令違反などという生ぬるいものではない。これはアナグラ、極東支部への裏切り行為だ。人的被害を出さない辺りの局地性、大混乱に陥れるだけのこの無駄のない手際、犯人はたった一人しか思い浮かばない──!
「アキ──!!」
最下層、地下輸送路へ続くエレベーターの大扉の前に辿り着く。
そこにはたった今、乗り込んでいく一人の人影があった。黄金の刀身をセットした神機使い──幻代アキだ。
「クソッ……!」
もうエレベーターの扉が閉まる。それでも走った。
ガン、と閉じた扉に拳を叩きつける。
『へえ、追いついたか。流石だな』
壁の向こうから声がした。いつもと全く調子の変わらない、よく聞き知った声だ。
「てめえ……一人で行くつもりか!」
『いいよなあ、主人公が一人で決戦に行くシチュエーションって』
「ふざけるな!!」
『いや、別に死ぬつもりないし……あ、ヘリの爆破はゴメンなー? これでエイジス行けなくなっちゃったなぁ! ごめんなー?』
「お前……お前は!!」
『そうシリアスに構えるなよ、温度差が辛い。ま、そっちもそっちで頑張れよ? あと、ここも爆破するから退避しとけよな』
届かない。
ここでいくら言葉を重ねようとも、彼女には届かない。
既に向こうは意志を決定した。ここまでの騒ぎを起こした奴が、簡単に行動を変えるとは思えない。
だから再び拳を叩きつけ、言葉を放った。
「──そんなに……頼りねぇのか、俺は!!」
『
「──ッ!?」
明確な。
はっきりとした回答に、ソーマは目を見開く。
『それはダメだ。それはいけない。それは最悪の結末だ。──私にとってはな。だから連れて行かない、頼らない、私が一人で行く。分かってくれなんて言わないぜ、これは完全に私のエゴだからな』
……言葉の意味は分からない。
だが、彼女に言葉は届いている。想いも全て理解している。
覚悟を決めているというのなら──
「……待っていろ。絶対に追いついてやるからな」
『期待しないで待ってるよ。ま、頑張って』
ガコン、とそこでエレベーターの動く音がした。
声もそこで完全に途切れる。会話は終了する。
しばらくその場に立ち尽くしたソーマは、やがて下から聞こえた導火線の音に、ゴッドイーターとしての危機察知から素早く退避した。
──エレベーターが爆発によって破壊されていく。
やがて地下からも爆音が轟き、完全にエイジスへの道は閉ざされた。
▼
「いやー、びっくりした」
まさか追いついてこられるとは思ってもみなかった。ソーマってすげー!
しかしドキドキだったぜ……あいつ、話してる間もすごいガンガン叩いてきてたからな。エレベーター、ぶっ壊れるんじゃないかと冷や冷やした。ホラーだよホラー。
地下へのエレベーターの解除キーは、あらかじめコピーしておいたものだった。そんでその後は、リニア輸送列車に乗って、いざエイジスへ!
三十分もすれば到着し、侵入完了。
そんで輸送路は撒いてきた時限爆弾にスイッチを入れて全爆破! 破壊完了。
エイジス内部に人影はいない。それもそうだ、終末捕食のために支部長が退かせておいたのだろう。そもそも彼はソーマに殺されるのが目的だ。余計な邪魔は入れたくないはずである。
──アーク計画。ヨハネスの掲げるソレは、「地球が終末捕食でテラフォーミングしている間に、選ばれた千人を宇宙へと逃がし、資源の再分配によって世界が再生された後、新しい文明を築く」──というものだ。
現行人類の多くを切り捨て、優れた少数を次代に残す。
まったく──スケールの大きい企画だよ。
「……ほーう」
エレベーターを見つけて乗り込み、遂にそのエリアへと辿り着いた。
原作のゲーム画面で幾度となく見たフィールド──エイジス中枢。
円形型のステージの天井からは、巨大な女性のような存在が逆さ吊りになっている。
終末の獣──ノヴァだ。実際に見ると壮観である。
そして地上からおよそ二十メートル。ノヴァの額部分の脇に伸びているクレーンの上に、ヨハネスさんは立っていた。
エレベーターと繋がる高台から飛び降り、近くへ歩み寄っていく。そこでヨハネスが振り返り──同時に拳銃を発砲してきた。
「なんです、おっかない」
嫌な弾丸の気配を感じてあっさり避けると、支部長から舌打ちの音がした。その冷徹な目には明確な敵意がある。
「──支部での騒ぎは聞いている。私を裏切るつもりだろう、中尉? 仲間を残して一人で来た時点で気付いていたよ。君は自分一人でこの件に片をつけようとしている」
「──なんと。そんなポジティブ解釈で見破られるとは思ってもみなかった」
「なに……? ──ッ!?」
神機さんを銃身形態にしてトリガーを引く。瞬間、支部長の持っていた拳銃だけを撃ち飛ばし、遠くに転がっていくのを横目で確認する。
あの拳銃……おそらく弾丸の中身はP73偏食因子の抗体だろう。撃ち抜かれれば普通に致命傷だ。マジでそのまま特異点にされかねなかった。研究の第一人者、おっかねー。
「ま、聞いてくれよ支部長。いやヨハネス。私のことがおっかない気持ちは分かるが、しかし私は一時の情や仲間意識に同調して、人殺しをしようとは思わない」
「仲間意識……第一部隊のメンバーとしてここに来たわけではないのか?」
「私は第一部隊のこともアンタのことも裏切ったのさ。明日の夜なんて嘘。明後日の襲撃なんて嘘。全部嘘でーす。誰が大事な時に他人の設定したスケジューリング通りに動くか、っての。両陣営の日程が分かったなら、そいつらよりも前に動いて
地下の輸送路はエレベーターを含めて時限爆弾で爆破させた。
ヘリはガレージに仕込んでおいたオラクル爆弾でまとめて爆破した。
これによって第一部隊がエイジス島に来るための手段は無くなった。
通信機器はネット経由でウイルスプログラムを仕込んでそれを発動させて破壊した。
神機保管庫はターミナル経由でウイルスを叩き込んでロックしたので武器すら持ち出せない。
これによってアナグラの機能、並びにゴッドイーターたちの活動は停止するが、サカキ博士が起きれば小一時間とかからずにこっちは復帰するだろう。
──一時間。たったの一時間。それだけの時間さえあれば充分だ。
ちなみにアラガミの襲撃に関しては一ミリも心配していない──出撃中の防衛班が
「立場もなにもかもブン投げたテロは楽しかったよ。今まで優等生やってきた甲斐があったわ、大混乱にするときはやっぱ同時に色々やるのが一番だ。良かったねぇヨハネス・フォン・シックザール、ここで私を捕まえれば英雄だ。今からでも全部放り出して元の支部長の座に戻ることを勧めるよ」
「貴様の目的はなんだ」
「
発した言葉に支部長が瞠目する。
「──待、て。君は……私の終末捕食を止めにきたわけではないのか……?」
「いや、その認識でおおむね正解だ。アンタを倒した後、
「……なるほど──計画の横取りとは。まさに悪魔の所業だな」
「なんとでも言ってくれよ。まぁ、ここで降参してくれたって構わないんだぜ? 今すぐ私の案を聞き入れ、今までやってきた苦労を手放せる潔さがアンタにあるならな」
「愚問だな」
「ま、アンタはそうだよな──あ、あと私が勝ったら息子さんをお嫁さんにください」
「……狂人としか言いようがないな……いや、私が言うのもなんだが……」
ヨハネスはかなり正気に戻ってきているらしい。自分よりヤベーのが目の前にいると人は冷静になるって本当だったんだね!
「──君の本質を見誤ったのが私の敗因か。ならば力ずくで排除させてもらう……!」
そんなことを言っている間に、クレーンの近くの鉄の床が開き始め、そこから巨大なオレンジ色の球体がせり上がって来た。卵のようなそれが花びらのように開くと、中からは一体のアラガミの姿が現れる。
ショッキングピンクの肌色をした、白い装束に身を包んだ女神。
その背後に漂うのは、白い剛腕を生やし、胴体部の中心に光の炉心を持つ男神。
──アルダノーヴァ。
ヨハネスの人型神機。人造のアラガミ。
雌雄一対のラストボス──それが私にとっての最後の障害だった。
極東の悪魔
暴れる時は必要な範囲内で本気で暴れる。この度ラスボスにエントリーした。
応援感謝!
ぜんぜん言うことを聞いてくれない主人公にソーマくんはキレていいしキレてる。