日頃の行いってやつだろう。
神機さんの進化を兼ねていたとはいえ、周回に本気で取り組みすぎたらしい。完全に誤算だった。
「オーケー、オーケー。この場で私がどういう風に見られてるのかはよく分かったわ……」
「いや……だってそうとしか考えられないじゃないですか!」
弟子──神薙ユウは通常運転だ。そのブレのなさ、やはり原作主人公様といったところだろう。
その後ろから遅れてやってきた第一部隊のメンバーも、私が元気そうだったことにやや安心したのか、そこまで緊迫した雰囲気ではない。──若干一名を除いて。
「そうか……じゃあよく聞いてくれ皆の衆。私は別に周回が好きってワケじゃなくて、アラガミ素材を集めて神機さんを強化するのが好きなんだ。周回は手段なんだ。別に趣味でも好きってわけでもないんだぜ実は」
「嘘でしょ……?」
「衝撃の事実……」
「だから真性の周回廃人はお前だけだって事だぜユウ」
コウタ君とサクヤさんがちょっとユウと距離をおいた。
主人公陣営? それでいいのか?
「ま、来るのはちょっとだけ遅かったけどな。しかしウロヴォロスなんてどうやって捕まえたんだ?」
「シオとサカキ博士の発明品を駆使して召喚したんだよ。シオが呼び出す偏食場を広げて、で、それを増幅させ伝播させる機械を組み合わせて……な」
リンドウさんの説明に成程、と頷く。おそらく愚者の空母で実行し、そこから飛んできたのだろう。アラガミ=乗り物概念、すっかり第一部隊にも浸透してきてしまったようだ。
責任を感じざるをえない。
「で……そこのクソ野郎が生きてるのはどういう理屈だ?」
「……」
ソーマの視線が、負傷しているヨハネスの方に殺意を伴って突き刺さる。支部長が居づらそうに目を逸らした。
仕方ないので肩をすくめつつ仲介してやる。
「そんなに詰めてやるなよソーマ。そこのヨハネスさん、本当にお労しいんだぜ? 私を特異点と勘違いして終末捕食を起動させようと思ったのに私に裏切られて裏でこっそり作ってた人工アラガミと融合して殺そうとしたら邪魔されて生き延びることになっちゃった挙句、正面からそのアラガミも討伐されちゃって人生を賭けた計画も努力も何もかも横取りされてここに立ってるんだからな」
ユウとアリサとコウタとサクヤさんが一斉に支部長へと銃口を向けてトリガーを引いた。
牽制だなぁ、とゴッドイーターなら分かるのだが、素人のヨハネスさんは弾丸を避けようとするも足をもつれさせて倒れこみ、ウロヴォロスの裏から歩いて来ていたサカキパパに蹴られる。
「ちょっ、ペイラー」
「人の養女を使ってなにを考えてたんだいヨハン。流石に友人としても人としてもドン引きだよ」
「諸々を爆破した私より人望ないのかよ支部長……」
ソーマの方を見てみると、ゴミを見るような視線を実父に向けていた。それからこっちの方を向き、気配からしてガチギレしているのが分かった。
──よし、来い。
殴られる覚悟はできている。というかもう私の勝利が確定しているので、ここでいくらでも殴られたって痛くも痒くも──いや、痛いわ。ソーマに殴られるのは結構メンタルに甚大なダメージを受ける自信があるわ。
無言で神機を床に突き刺して、すたすたと無表情のソーマが歩いてくる。
こわい。こわいっす。恐怖から思わず一歩退こうとした時、
「イデッ。ぐぇっ」
脳天に手刀一閃。それから思い切り抱きしめられる。
「……馬鹿野郎、無事でよかった……」
「お前……私に対して甘すぎないか……ぐぇぇ」
怒りのホールドに力がこもる。苦しい。二度と逃がさねぇからなの意志を感じる。体格差ヤバ。ちょっと足先が浮いてる。そろそろ恥ずかしくなってきたので肩を叩いて降参宣言。──やばい、全然離してくれない。
「師匠がゴールインしたのは弟子として喜ばしいんですけど……この様子から見て、もう終末捕食の危機は去った、ってことでいいんですか?」
「──いや? 終末捕食はこれから起こるよ? 劇的ワールドビフォーアフターのお時間だ」
『────は??』
は? とソーマも顔を上げ、ようやく拘束が緩んだ隙をついて素早く抜け出す。
はーやれやれ、と私はノヴァ手前にあるコンソールの椅子に腰を下ろした。
「終末捕食とはそもそも何か? 提唱者ファーザー、解説お願いしていい?」
「……終末捕食とは、アラガミによって引き起こされる地球再生のエコシステムだ。地球上全ての存在をアラガミが喰らい、一つにし、生命力を再分配する──……え? ほんとにこれから起こるのかい?」
「起こします。神機さんがね。まぁ、ちょっとばかり調整が加わった特異点さんなので、ファーザーが提唱する終末捕食とは、若干様子の違う終末捕食が起きるよ」
そこで全員が気が付いただろう──私の手に神機さんが無いことを。
そして今まさに、ノヴァの額にある水晶のような部位が、青く輝き始めていることを。
「……えっ、神機のコアを特異点にしたっていうのかい!? そんなことが──」
「ファーザー、私は今まであらゆるアラガミを周回してきたゴッドイーターだぞ?」
「すまない、愚問だったねぇ……」
「説得力の強さが段違いすぎる……!」
コウタ君が恐れおののく。そう、状況証拠は全て揃っているのである!
だがまだ状況に納得していないのか、ソーマに睨まれる。
「おい……」
「クレームは解説が終わってから、いくらでも聞くぜ? ──ところでみんなー、君たちが想像する『めっちゃ最高な理想の世界』ってなにかな?」
突然の問いかけに困惑の色が広がる。
だが弟子という関係の影響だろうか、すぐにハイ、とユウが挙手してくる。
「はい神薙くん」
「──めっちゃ毎日周回できて素材が採れる世界がいいです!」
「狂人の回答はノーカンで。じゃあコウタ君は?」
「えっ!? えーっと……皆が……なんか、幸せな世界、とか……?」
「具体性に欠けるなぁ……んじゃアリサちゃんは?」
少しのシンキングタイムの後、顔を上げたアリサちゃんが言った。
「……誰も傷つかない……そう、アラガミがいない世界……とか?」
「グッド。実にグッド! ま、及第点かな。だが残念ながら、アラガミはオラクル細胞がある限り、いくらでも蘇ってくる──これをどう解決すればいいかな? はいリンドウさん」
「俺ぇ!? えー……っと、そりゃあ、絶滅は無理なんだから、細胞だけどこかに隔離する……いっそ地球外……宇宙とか、月に飛ばすとか?」
「落第です。思考を逆行させてどうするんだ。宇宙には行きませんし関係もさせてきません。月なんて論外です。なんで間違えたか次までに考えておいてね」
「なんか凄く厳しいんだけど! 俺に!!」
まったくガッカリだぜリンドウさん! 宇宙なんて……そんな恐ろしいことを! いくらMIAを打ち砕くことに定評のある私でも、宇宙なんて真空世界に行ったら冗談抜きで死んじまうよ!
「んじゃサクヤさーん」
「……アラガミと……オラクル細胞と共生する? なるべく……平和に?」
「グッドグッド! じゃあこれらを踏まえてソーマくん! 共生可能なアラガミってなんでしょーか!」
「──シオ……」
「ヨンダカ!?」
ひょこ! っと待ってましたと言わんばかりに、博士の後ろでそわそわしていたシオ様が顔を出す。まだ倒れ込んだままファーザーに足蹴にされ続けているヨハネスさんは驚いたような顔をしている。おう、まだ寝てろよ。
「そう──究極的に言ってしまうと、
「じゃ──じゃあ、アキ師匠の終末捕食は、どんなものだって言うんですか?」
ユウの言葉を受けて、椅子から立ち上がる。
すゥ────……と息を吸ってから、私はその結論を口にした。
「
────────…………。
場が静まり返る。全員、目を見開き、言葉を失い、たった今放ったこちらの言葉を咀嚼し理解するための思考時間がそこに存在した。
それに構わず、私は大仰な動きで、まるで舞台上の演者が如く、台詞を続ける。
「アラガミだけを喰らい、そしてこれまでアラガミどもが喰らってきた資源を吐き出させ! 地球へと返還ッ! 半端なテラフォーミング止まりになるだろうが、確実に世界資源は回復し、多くのアラガミは地上から姿を消し、地球の一部となるだろう!」
これによって何が起きるのか──答えは明白。
「そう! つまり! ここにいる私たち全員は──失業する!!!!」
「しつぎょう」
ユウの繰り返した単語に、拳を握りつつ神妙に頷く。
「分かってる……仕事を失うことは辛いことだ……今の時代、再就職なんて考えたくもない倍率だからな……非常に酷な事を言っているのは分かっているつもりだ……ッ!」
「いや、あの、師匠、そうじゃなくてですね、え? アラガミ絶滅?」
「そうだ! 全員仕事を失う代わりにアラガミは絶滅する! 重い……重すぎる代償だが、どうかそこは堪えてほしい!!」
「待て待て待て」
顔を押さえているソーマくんの声に振り向く。なにかねッ!?
「アラガミっつったらシオも──」
「偏食傾向」
「!」
「同格にある『特異点』のシオ様は神機さんの
その言葉に、ソーマ──並びにリンドウさんやサクヤさん、コウタ君は思い出しただろう。
初めに彼女に出会った時、シオ様が神機さんの中から、
「シオ、やっぱりおいしくないのかー……でもじゃあ、もうゴハンもなくなっちゃう……?」
「シオ様? 貴方けっこう私のご飯つまみ食いしてたの知ってますからね?」
「ばれてた」
人間に近いシオ様の食糧問題も気にする必要はない。というか最近はアラガミ素材より、人間の料理の方をお気に召し始めている。昨日のパーティでも堂々とピザ食べてたしな……!
「新たに再構築された世界で、オラクル細胞はこう学習するんじゃないか? 『人型なら喰われないらしいぞ』、と。その結果、どんな種類の人型アラガミが生まれるかは分からんが、少なくとも今の世界みたいに、
「それは……つまり……!」
同じ未来図に辿りついたのだろうサカキ博士に頷く。
「そう──
▼
突飛な話だが、不可能な話ではない。
大体──通常の終末捕食の手順がなんかおかしい。なんでアラガミ同士が食い合って、世界を喰らい尽くして、世界再生? そんな食い合いなら永遠にお前らだけでやってろ、地球を巻き込むな、って話だ。
「ルールの変更。法則の書き換え。秩序の変革。──私が、神機さんが行うのは、そういう終末捕食だ」
だからオラクル細胞くんにはめでたく、地球の一部そのもの──地球再生システムそのものと化して、永遠に働いてもらうことになる。
アラガミとしての個体を生み出そうとも、終末捕食の主・ノヴァが喰い続けるのだから、捕食本能を持つアラガミ共に居場所はなくなる。
だから──いずれオラクル細胞からは捕食本能そのものが排除され、人を模した生命体が出てくるのでは────と。
ま、諸々の懸念事項を踏み倒して、希望論だけで語ればそんな感じの未来である。
「……つーか、これが一番コスパ良いと思うんだよなぁ。なんだよ地球全土を喰らうって。皿にのってる料理を全部食うとか、なんかメンドくさくないか? 同胞だけ喰って地球再生エネルギーに変換した方が、圧倒的にエコじゃね? なぁ?」
「「「……」」」
あ、なんかソーマとサカキ博士と、立ち上がったヨハネスさんが必死に考えている。
なにか粗がないかと、それはもう必死で考える研究者の顔をしている。その手があったか、マジでその手でいけるのか、それで本当にいけてしまうのか? ──そんなお顔をされている。
「…………確かに……アキ君の『神機さん』は、アキ君が現れるまで適合者こそ現れなかったものの……適合しなかった人間を喰らった記録はない、ね……」
「……アラガミしか喰らっていない……素材だけ吐き出すのは、神機開発の基本設計だ……つまり彼女の神機は、本気でアラガミしか食べてきていない……アラガミのみを喰らう偏食傾向……」
「持ち主の意志に合わせて、勝手に自己成長し自己進化する神機……CNSに『意志』というものが構築されているのなら……或いは…………」
「研究者気質の連中が全員黙っちまったなぁ……ていうか、お前はいいのか、アキ? アラガミが実質、絶滅ってーなると、お前も周回できなくなるぞ?」
リンドウさんのそんな言葉に、ウンウンとユウが強く頷いている。だからお前は狂人なんだよ。
「ふぅ──……リンドウさん、私、そろそろ本音を言ってもいいすか」
「お、おう」
「私はもう周回したくない」
「マジかよ……!」
「そんな、師匠!?」
「黙れ。私は必要な分の周回だけで充分なんだよ。いいか──
「うわぁ……そういうところはまともなのに、他の色んなところがまともじゃないから、すっごい違和感ある……」
コウタ君、それ正論っす。言い返せません。
「しかし……よくそんな事を実行しようと思えましたね。アキさんの神機は、なにか特別な素材で出来ているんですか?」
アリサちゃんの質問にああ、と声を上げる。
「そういや皆には説明してなかったっけ……私の神機さんは純粋な原種のオラクル細胞で出来たアラガミのコアをCNSにしてるんだよ。──
「は?」
突然、自分の名前が出てきたソーマ君が長考から復帰する。
いや、ほんと申し訳ないと思っている。せっかくの貴重なサンプルケースだったのになぁ、神機さん! また装備整えてキュウビ狩りに行かなきゃ……もう無理だろうけど。
「おっ……そろそろ起動準備、出来たかな?」
ヴォン、とノヴァの額のコアが震動する。
その髪のような触手は際限なく伸び続け、エイジスの外──地球全土へと広がり始めていく。
「『人が神になるか、神が人となるか』──違うな。
「「──、」」
サカキ博士とヨハネスさんから息を呑む気配がする。
ノヴァを背に、私は軽く首を傾げた。
「で、全員理解した? 説明は充分? それは結構。ここまでやってきた甲斐があったってものさ」
誰もが呆然としていた。夢物語を叩きつけられ、そしてそれが今まさに実行されようとしている局面に──反論する声は一人としていなかった。
だって誰も犠牲にならない。
誰も悲しまない。
なんか知らないが、コレ、まさかイケるんじゃないか?
──そんな、困惑と期待に満ちた空気を感じる。
「アキ、これでいっしょ、か?」
白い少女──シオ様も、やや期待を込めた表情で歩み寄ってくる。
その姿を。
第一部隊と彼女が共にそろっているその光景を、瞳に、記憶に、魂に焼き付ける。
────ああ、このためにやってきたんだよなあ。
だから返す言葉は決まっている。
「一緒だよ、これからも。月になんて行かなくていい、一人になんてならなくていい……まぁ、『離れてても一緒だから』って、貴方なら言うんだろうけどね」
「いうなー。いっちゃう、シオ! だって、みんなのこと、すきだから! でも……ちかくにいるって、いいな!」
周りを見回した金目の少女は、朗らかに笑う。
嬉しそうに、楽しそうに、──幸せそうに、笑う。
それに目を細めて、ああ、情けないことだが、ちょっと泣きそうだ。
「……その言葉を聞くためにやってきた。その一言を聞くための十年だったよ、シオ様。──ありがとう」
「シオ、わかるよ。アキ、シオのためにいっしょうけんめいだった。──どうして?」
涙腺キラーめ。そんなことを言われたら本当に泣いてしまうぞ。
だから必死に笑って、言った。
「──運命を変えられたからには運命を変えることで恩を返す。当然だろ?」
あの廃墟の街の中で。
彼女が初めに私を見つけてくれた。助けてくれた。
死という絶対の運命から、救われた。
理由なんて本当はそれだけ。
ここまで壮大な話になってしまったのは、単に、少女一人の運命を変えるには、世界の運命すら変える必要があった──それだけだ。
「……この日のために生きてきた。この日のためだけに生きてきた。世界を変えるための唯一の分岐点。月へ逃れた特異点を求め、地球は赤い雨を降らす。対話がそれを鎮め、終末捕食は長期的かつ緩やかな活動に変化する。だがラグナロクは失敗し、広がった灰域が世界を蝕み始める──」
ノヴァへ向き直り、誰に向けたものではない独り言を呟く。
エイジスを中心に、世界に揺れが起き始める。──終末が、すぐそこまで迫っている。
「どこまで行っても救いのない未来だ。希望だけがある未来だ。
ノヴァのコアの光が、強い輝きを放って、青く瞬く。
予感がした。期待は最高潮。こらえ切れず、叫んだ。
「さぁ────新世界を始めよう!!」
希望を言祝ぐように宣言する。
そうして私の視界は、世界は──閃光に吞み込まれていった。
史実の彼らが「神を喰らう者」なら、彼女は「神を堕とす者」だった。
それは都合の良すぎる未来図かもしれない。不可能に近しい理想かもしれない。
抗い、戦い続ける世界の否定になるかもしれない。
だが問答無用でハッピーエンドを叩きつけてこその転生者。なので救う。
こんな世界があったっていいはずさ。
次回、本編完結。