──爽やかな風。草の匂いがした。
目蓋を開ける。起き上がる。やや身体に怠さを感じるが、二度寝したいというほどではない。
「えー……と? そうだそうだ、終末捕食を起こしたんだよ……な?」
そこで辺りを見渡して、言葉を失う。
緑、そう──一面の草花の生えた地面に寝転んでいた、らしい。
空は青く快晴。そういえばエイジスに行ったのは早朝だった──太陽の位置的に、まだ昼頃だろうか?
いやそんなことより。
「……世界が再生してる……」
そう、草花。あの荒地とか土砂ばかりのGE世界の景色が、激変している。
というかエイジスにいたはずなのに、エイジスじゃない──軽く地形変動でも起きたんだろうか。まあ、エイジスが終末捕食の中心地だったんだから、多少は変わっていてもおかしくない。
「神機さん……やったんだなぁ……」
立ち上がり、周囲を見回す。第一部隊のメンバーは見当たらない──終末捕食の影響で、あちこちに飛ばされたんだろうか? 手でも繋いでおけばよかったか……
草原をしばらく歩くと、やがて大地の切れ目に辿り着く。高台だ。そこから下界を──遠くに極東支部らしきものが見える、その景色を見た。
「…………──世界、救ったぁ…………」
そこにあるのは、やはり緑。木々に溢れた自然風景。原初の地球。荒廃なんて単語とは程遠い、完全に救われた世界の景色がそこには広がっていた。
呆然と目の前の風景をまずは受け入れ、これが現実であることを直視し、それを成し遂げたのが自分であると──そして神機さんであることを、はっきりと思い出し、実感し。
「は、はは、ははははは──」
笑いが零れる。
「はーっはっはっは!! ハーハッハッハッハァ! 世界!! 救済!! 完了!! 私の!! 勝ちだぁぁぁ────!!!! はーははははははははははア──!!」
笑いが止まらない。
「これはもう控えめに言わなくても新世界の神だな! 私が新世界の神にして救世主!! なーははははぁ、ざまぁ、地球くんざまぁぁあ──! ポッと出の悪魔に救われちゃってマジざまぁ──!! これが押し付けがましいハッピーエンドだ、テメーの敗因はロマンと夢ェ! 二次元を見て学習しろよなぁ!! はーはっはっはっは! 今日から私が──私と神機さんが地球の恩人だからぁ!! 二度と!! 誰も!! 逆らうなよ!! 私が!! 最強だァ──!!!!」
テンションがぶっ壊れているのを感じる。
そうしてひたすらに一人で笑い、笑い、笑い続け──不意に、声が途切れる。
一気に、ドッと、およそ十年分の──疲労がのしかかって来た。
「──あー……」
熱が冷めていく。
全能感と高揚感が消えていき、正気に戻り、座り込んで、ぼうっとなる。
「…………ようやく、自分を認められた気がする……ここまでやったんだから、もう、この世界の住人だって思っても……いいよね……?」
それは転生者だと気付いてから抱いていた疎外感──自分の存在が異物であるという自己認識。
P73偏食因子だとか、周回狂とか、じゃない。もっと根本的なところ、自分の位置の持ち方。
最初の最初の、そんなところでずっと躓いていた。それがこの人間のつまらない本質だ。
だが世界を救済した今──ようやく、自分に胸を張れる気がする。
もう生きていることに後ろめたさを感じる必要はない。
もう本来はいないハズの自分の存在を、否定する必要はない。
もう、周りと一歩引かずに、自分の気持ちに素直になったっていい。
ようやく──この面白すぎて楽しすぎる世界に、自分の価値が、釣り合ったような気がするから。
少しくらい……少しくらい、大事な人と、好きな人とずっと一緒にいたいとかって、願っても、いいのかもしれない。
だって世界救ったんだぜ!?
すげー頑張ったの神機さんだけど。でも私が作戦立案者で神機さんの主なので! はい。
「……シオさまー……ソーマぁ……どこー……」
とりあえず立ち上がるが、疲労で声があまり上手く出てこない。さっき笑い過ぎて喉が枯れたかもしれない。そんなことあるかよ? 回復錠でも食うか。
「「──アキ!!」」
お、と聞きなれた声に振り返る。
そこにはこちらに全速力で駆けよってくる二人が──っぐはぁ。
シオ様のとても勢いのある突進にやられ、倒れかける。それを直前で後ろからソーマに支え──違う、がっ、なんか首、首しまってますけどソーマサ──ン!?
「お前、お前なッ……! またMIAになったかと思っただろ! なんで一人だけ別所に飛ばされてんだ馬鹿が!!」
「私のせいじゃねぇー……!」
「アキだけいなくなったかとおもったぁ……! こわいー!!」
それはどうもご心配をおかけしたようでッ!!
ぎゅうぎゅうとシオ様は胸に頭を押し付けてくるし、ソーマは首をぎりぎりしてくるし。
なんというか、心細くなっていたこっちとしては、最高の気分だったりした。
▼
西暦2074年、記。
[資料1:現象について]
極東地域・エイジス島にて発生した“終末捕食”の波は、およそ六時間程度で地球全土を覆い、世界中のアラガミを喰らい尽くした。
同時に、観測機器からの映像を参照すれば、喰らわれたアラガミは同時に地球の資源へと返還され、無害な草花や清潔な水分に生まれ変わった。──これを「楽園化現象」と呼ぶ。
“楽園化”は極東地域に端を発し、二十四時間後には、世界中で緑化が確認された。
それからおよそ七日間、世界中からアラガミの姿は消え去り、人類は安寧を得たものかと思ったが──八日目、北欧にて、ヴァジュラの姿を観測。しかし幻影のように、極めてオラクル細胞の結合が弱く、出くわした兵士が装備していた銃火器のみで対処を可能とした。
また、倒された“幻影ヴァジュラ”は、細胞霧散後、その場に芝生を発生させて完全に無害化が完了している。
この初めの観測例の後、再び世界中でアラガミの姿が目撃されるようになる。
しかし、オラクル細胞の結合は以前より遥かに弱く、人間が片腕を噛まれたところで噛み千切られもしない強度になっていた。討伐完了後、やはり死体のあった位置に、緑化を確認している。
──以上の結果から、“終末捕食”は現在もなお続行中と判断できる。
長期的かつ緩やかに。オラクル細胞群がアラガミを生成する毎にそれは局地的に発生し、緑化という形で現れる。
これにより、おそらく地球上に散らばるオラクル細胞は、“楽園化”発生以前よりも、大幅に不活性化したものと思われる。
ただし、地球上全てのオラクル細胞がそうなったわけではない。神機や装甲壁に練り込まれたオラクル細胞は、以前と同じように稼働している。
原理は不明だが、この“楽園化”を引き起こしている《意志》は、あくまでも「地球資源に返還可能な」アラガミを優先して捕食しているものと推測する。そこで装甲壁の一部を切り取り、小型種のコアを融合する実験を行ってみたところ、そこには極めて脆弱なオウガテイルが誕生し、これを神機使いが倒すと、半径十センチ範囲に、「緑化」「純粋な水分」が発生した。
以上の実験結果から、既に資源として回されているオラクル細胞群は、地球資源に返還できるだけの基準値に到達しないが故に、“楽園化”を免れている可能性が高いと判断できる。
また“楽園化”は、アラガミ化し変異した神機使いも対象となり、当人を無力化した場合、アラガミ化した部分のみが「喰われ」、体内の偏食因子が消え去り、緑化の代わりに、人間部分が完全再生し、生存することが確認されている。これを実質的なゴッドイーターの活動限界と見なし、以降、神機使いへの復帰は不可能だと判断する基準となった。
[資料2:人物について]
“終末捕食”の原因・ノヴァを開発、育成していたヨハネス・フォン・シックザールは、この功績により、半年間の停職処分を受けたものの、懲戒免職は免れた。彼の独断行動には、一部批判的な意見も見受けられるが、本部では、彼を次の総督に推す声も上がっている。
次に 幻代アキ中尉──“楽園化”を引き起こした特異点を人為的に作り出した人物について。
彼女には極東支部、並びに周辺地区を破壊した嫌疑がかかっていたが、“楽園化”により周辺環境は復元、再生。本部は、爆破したヘリ・機能不全に陥った通信機器等の損害賠償を極東支部から取り立てる程度で収め、彼女は即日、「世界救済」の立役者として本部から支払われた褒賞金でこれを完済した。
現在では《神堕とし》の異名でその偉業は知れ渡っており、北欧地域では伝説上の人物、現人神の一種だと推測する学会も現れている。
同年、本部は彼女に登用を申し出たが、当人はこれに「フェンリル本部の裏で行われた全実験記録の公表」を条件に出し、登用の話は白紙に戻された。
その後、彼女は支給されていた莫大な救世資金を、各地に点在するサテライト拠点へと匿名で寄付。
しかし一部民衆の間では、彼女を神格化する思想が高まりつつあり、翌2072年には人々が極東支部へ彼女に押しかける動きが活発化した。
これには彼女本人が対応し、どこで用意したのか不明な銃火器群をまき散らして一般民衆を無力化。死者は出なかったが怪我人を多数出す結果となり、以降、「幻代アキに会う時はアポイントの手続きを踏むこと」が世界の絶対の掟となった。これを“悪魔の鉄槌事件”と呼ぶ。
西暦2073年、極東支部内外からの圧力の影響か、ソーマ・シックザールと入籍。
彼女の周囲はその
────また、終末捕食の際、失われた彼女の神機は、未だ見つかっていない。
▼
西暦2074年。
私と神機さんによる終末捕食が発生してから三年が経過した。
「──♪」
一人、この世界の主題歌を鼻歌で歌いながら、ザクザクと、白い上着、黒いショートパンツという軽装で、「樹海」とも呼ぶべき緑溢れるフィールドを歩いている。
樹々の色は──白い。神聖さに満ちた森林だ。道は草だらけだが、この向こうにある気配からして、ここが一本道であると、私は確信していた。
終末捕食──現在は“楽園化”と呼ばれる現象が発生してから、私は完全に周回地獄から一抜けし、余生よろしく、のんびりライフを送っていた。
日常的に素材の確率が頭をチラつかない日々、サイコー!
超絶至高大天使様と、幼馴染研究者旦那との日常、ファビュラス!
支部長は私を見かけるたび片腕を押さえてビクッとなるし、サカキファーザーは税金を無駄遣いして嗜好品を開発しつつ、楽園化研究をソーマと共同で進めている。
この前、「感応現象……感応領域……」などと三人のいる研究室で呟いてみると、動きが止まったので、もしかするとそちら方面の研究も一足早く行われるかもしれない。
マ、これ以上ゴッドイーターの戦力向上させても意味ないと思うケド、どうせオラクル細胞の研究が続けられるのなら、信頼のおける方々に先駆者になって頂いた方が安全ってもんだ。また違法研究所なんか作られたら、たまったもんじゃねー。
ちなみに未来の情報に関しては、彼ら三人とシオ様以外には、「特異点に進化した神機さんから得た情報」として誤魔化している。元プレイヤーだとか突拍子もない話を明かしても、四人には逆に納得されるだけだった。これも日頃の行いのおかげかもしれない。
閑話休題。
「随分と待たせちゃったなぁ。けど、これでも急いだし、地形変動で行方不明になってたこの地点の特定も頑張ったんですよ? 主に皆がね」
独り言──ではない。この歩いた先の向こうにいる相手に向かって、そんなことを呟く。
今の私の手には、なんの武器も無い。
この三年、適合する神機がなかったというのもあるが、それ以上に第二の神機を作って……とかも正直しっくりこなかったのだ。
つーか、世界全体の殺伐度が凄まじく低下したため、もう私みたいな規格外戦力の出る幕はない。それでも未だに周回やってるユウの執念には敬服せざるを得ないが。
……そう、あの大幅弱体化を地球に食らったアラガミども、倒せば草木に生まれ変わるが、同時に低確率で素材を落とすとかいう、業の深いシステムに切り替わってしまったのだ。
最悪である。周回の敵である。我らが原作主人公をそろそろ周回から解放してやってほしい。アリサちゃんに未来を託すしかない。周回はどうして永遠に続くんですか? 本人がやりたがってる? そう……廃人かな? そうです。
「けど史実よりは圧倒的に人死には減りましたよね? 悲劇確率、大きくダウーン。世界を救うって、いいよなぁ。生きてるだけで金が貰えるし?」
ま、本部からのアレは、「金渡すからマジで黙っててほしい」という契約があるのだが。
世界の救世主。そんな立場を利用すれば、社会にどんな混乱をもたらせるか、その危険性を本部連中は恐れているのだ。だから定期的に金を使って、ひとまず懐柔できてることを、こっちも示している。
「サイッコーの日々っすよ本当に。シオ様は尊いし、ソーマはなんかデレ期だし。そうそう、あの『ブラッド隊』も発足したんですよ?」
シナリオを消し飛ばされたGE2の主役格たち。
アラガミの脅威も大きく減衰、オラクル細胞の不活性化が永続するこの環境でも、フェンリル本部はオラクル細胞研究を続けている。でもって、楽園化促進部隊──要はアラガミ討伐員──として発足された実験部隊が、彼ら「ブラッド」ということになる。
……まぁ隊長のジュリウスはともかく、今や入隊の際には当人の選択制になってるらしいんで、そこは口出しするつもりはない。世界の運命を変えようとも、こういう細かいところの流れは、もしかしたら本部の強行で実現してしまうのかもしれない。本人たちが楽しそうなのが幸いか。
「でもって、第一部隊の隊長はユウに引き継がれて、まだそのまんま。リンドウさん、サクヤさん、ソーマ、私みたいな古参兵は、アリサちゃんが新しく設立した『クレイドル』に入ることになったんですよー」
フェンリル極東支部独立支援部隊・クレイドル──意味はゆりかご。
その信念は原作から変わらず、人と人との繋がりを築き、育てること。
支部の居住区に入れなかった、外の集落に住まう人々のために活動する部隊である。
“楽園化”によって資源が復活した今、各地で問題になっているのはその資源の奪い合いだ。人間は潤沢になると争いを起こす。本当にままならない生態だ。
そこでクレイドルが介入し、サテライト拠点……独立居住区……の円滑な運営のため、周辺に出てくるアラガミ処理やら、資源分配やら、交渉役やら仲裁やら──とか、結構これが忙しい。
「私はご覧の通り戦力外だから、主に後方支援でねー。資金援助したり、アリサちゃんの手伝いしたり、野心溢れるおっかねー大人たちを黙らせるキラーカードとして活躍したり、だ。救世後も愉快に過ごせているよ──たった一つの心残りを除いて、な」
そこで森林の最深部に辿り着く。
楽園化の起点。エイジスだった場所。──ノヴァがいたのだろう、その座標。
そこに──青色のコアのはめ込まれた、
さながら選定の剣が如く。
ずっとここで三年間、担い手を待ち続けていた我が相棒。
「……やっぱり
終末捕食は稼働し続けている。だからここに在る神機さんは、いわば「端末」、元となった形の完全再現体といったところだろう。
「さて……歯ごたえのない敵ばっかりの世界になったけど、ゴッドイーターの仕事はまだまだ需要がありましてね。幸い誰も失業せずに済んでるんだ。ていうか、最近は『もっと資源増やせー』って、アラガミ倒して楽園化を進めるための人材を募集してるくらいだよ」
ほんっと、人の欲望には底がない。
……ま、循環のシステムが成り立った以上、どれだけ消費しようと、当面、それで人類も地球も滅ぶことは無いのだが。
「ってワケでね。他の連中がここを見つける前に、ちゃちゃっと迎えに来たのさ。──もう一度、私に付き合ってくれるかな、神機さん?」
神機さんは物言わず──ただ、ヴォン、とコアの光が強く輝いただけだった。
その意味を取り違えるほど、短い付き合いではない。
手を伸ばし、その柄を掴み取る。
腕輪から接続が再開する。異変はない。完全に適合している。当然だ。
軽く振り上げると、三年ぶりの重みに、しっくりくる。そうそう、これよこれ。
「……んッ!? この声……じ、神機サン!? 神機さんですか!? え、私以外には聞こえてない? え!?」
突如として頭の中に響き渡るイケオジボイス──ッ!!
マジで? これ台詞にも地の文にも反映されてないの!? 私にだけ聞こえる幻聴みたいじゃねーか! どんだけ高次元から語りかけてるの神機さん!!
……はいはい、なるほど。
えーと、「ここまでやったからには認めざるを得ない、だから担い手として言葉を交わす栄誉をやる」、だそうだ。恐れ入ります。
「ありがとうございます! んじゃッ──行きますかぁ!!」
来た道を振り返った私は、外の合流ポイントへと走り出した。
▼
黎明の亡都、廃墟街──
苔や木々を初め、緑化がやや進んでいるその街に、彼らはいた。
総勢七名の人影だ。その誰もが神機を持っており、持ち手の手首には黒い腕輪がつけられている。
「バレットです──バレットは全てを解決するのです」
「分かってる、シエル。分かってるから。でもそのメテオエディット、どう考えても今の時代にはオーバーパワーすぎるんだよ! アラガミごとその後に発生する資源まで消し飛ばしちゃうじゃん! 誰なんだよもう、こんな破壊兵器を作った人! ヒロもなんか言ってよ!」
「ロミオ先輩、謝っていいですか?」
「ヒロ……お前、が……?」
「効率の最適解ではある……だが素材が消えてしまうのは頂けないな。周回とは素材ありきで成り立つもの。もう少し威力を弱め、殲滅用に改良してみてはどうだろう。なぁギル?」
「周回用の神機でも開発しろってか。ジュリウスの不治の病、どうにかならねぇのか、ホント。隊長って人種は皆こうなのか……?」
「素材ガチャ……知っているぞ。ターミナルで見た。極東支部に所属するゴッドイーターたちは皆これを患っていると。というかゴッドイーターたちはいずれ罹患する危険性があるらしい。ナナは平気か?」
「私は大丈夫だけど、リヴィちゃん、おでんパンは美味しいだけでドロップ率には影響しないんだよ? 都市伝説だからね?」
ブラッド隊と呼ばれる彼らは、緑化促進、並びに資源回収の任でこのフィールドに来ていた。
傾いたビル群が立ち並ぶ旧時代の名残と、それに絡みつく樹木という世界変容の象徴。二つの時代が交差するエリアは、アラガミの出現率が比較的高く、良い狩場となっている。
『──総員、そこで止まってください。討伐部隊の周回ルートに入ります』
「!」
通信機からのオペレーターの声に、七人は足を止める。
──ドゴォォォン!! と直後、一帯に舞い上がる砂塵と響き渡る衝撃。彼らの前方左横のビル群の向こうから、背から双腕を生やした、黒豹のような大型アラガミが轟音と共に吹き飛ばされて来た。
「新種……!?」
ブラッド隊副隊長──神威ヒロの中に、その形態のアラガミのデータは無かった。
終末捕食発生地たる極東では、“楽園化”以前でも発生していなかったアラガミの姿が散見されている。それらは時に強力なオラクル細胞の結合で構成されており、旧時代のアラガミ最後の足掻きだとも揶揄されている。
そういった特異個体を狩るのも、精鋭たるブラッド隊の業務の内なのだが──
「クロムガウェイン……要は黒獣牙だ。火力に全振りした憐れな脳筋紙装甲だからサクッと狩ろう」
「ひさびさのゴハン……ダナ!」
アラガミが吹き飛んできた方角の高台。そこに彼らは人影を見た。
黒ずくめの自分たちとは対照的に、白いフェンリル制服を身にまとった神機使いたちを。
かつて激戦区だった極東で、戦い続けてきた古強者。
率いるように先頭に立つのは、黄金の刀身が目を引く神機を担いだ、生きる伝説。その傍らには、制服姿ではないが、白いドレスをまとう、白い神機を持った少女が立っている。
そんな彼女らの背後には、ブラッド隊もよく見知ったメンバーが勢ぞろいしていた。
「ビールでも持ってくるんだったな……やっぱアキがいると新種が新種じゃねぇよ。……オラクル細胞の天敵? 神機のお前にまでそう言われるのかぁ……」
「新素材……また、周回がッ……!!」
「ユウ、しっかり。初恋ジュースでも飲んで落ち着いて下さい」
「なんかこの感じ、懐かしいなぁ。良かったじゃんソーマ? また一緒に戦場に出られてさ──何してんの」
「貴重な現場資料の確認だが」
「被写体へのツッコミは野暮かな……野暮だよな、うん……」
煙草を吹かす雨宮リンドウ、胸を押さえて息切れする神薙ユウ、彼に缶ジュースを手渡すアリサ・イリーニチナ・アミエーラ、呆れ顔の藤木コウタ、デジカメのデータを凝視しているソーマ・シックザール──独立支援部隊クレイドルと、第一部隊の複合小隊。
ブラッド隊も、極東支部内で顔を合わせたことのある者たちばかりだが、こうして戦場で一堂に会している姿は壮観だった。
「遂に伝説が復活か……やはり幻代教官は戦場に生きる方なのだな」
「えっ、ジュリウスの教官ってあの人!? 道理で!」
ぐるん、とそこで幻代アキの視線がブラッド隊の方を向き、指をさす。
「おい聞こえてるからなそこのピクニック隊長とアラガミ特攻兵器! 人手不足だっていうから復帰しただけだ! 素材目的の周回なんてしないからな私は!!」
「そざい、おぼえてるのに?」
「それはトラウマだからです」
あらがみ特攻兵器ってなに? とロミオと呼ばれる少年が一人小首を傾げる中、ポン、と悪魔の肩をソーマが叩く。
「特攻兵器について詳しく」
「帰ったら自供しまーっす……じゃあな若者諸君! 周回は程々にな!!」
飛び出した彼女が、立ち上がりかけていたクロムガウェインに神機を一閃する。オラクル細胞の結合が断ち斬られ、アラガミの死体が緑化していく。
それに足を止める事なく幻代アキの後ろ姿は、廃墟街の向こうへ先行していき、その速さに置いていかれることなく、後ろのメンバーも各々ブラッド隊に手を振ったり頭を下げながら追いかけていった。
──それを見送ったブラッド隊、副隊長が呟く。
「……かっこいい」
「ロミオ、こいつを殴って記憶を消せ」
「ギル、もう手遅れだと思う」
「……? 皆さん、今、向こうになにか、別の人影らしきものが──」
▼
──荒廃した世界を駆け抜けていく。
──かつて画面の向こうから眺めていただけだった、その世界で生きていく。
荒ぶる神々が喰らい尽くす時代は終わった。
神は人へ堕とされ、世界は人類が主導する新世界へと生まれ変わった。
それがこの転生録の顛末。
とある転生者が辿り着き、手にした、たった一つの結末だ。
「シオ様! 帰ったら歌ってほしい曲があるんですけど!」
「リクエスト、だな! だいかんげい!」
「いつものだろ。録音の準備はいるか?」
「「いる!!」」
道中は騒がしく、けれども愉快に楽し気に。
やがて神への贖罪は終わる。
だから物語もここで打ち止め。
神々の細胞が諦めるまで狩りは続くだろう。
だが、終点はそう遠くない。
終わりのない戦いがないように、終わりのない狩りだって存在しないのだから。
今はその求める未来を目指して──ただ、前を見つめて走るだけだった。
スタッフロール ──キャスト紹介
幻代アキ(24)
本作の主人公にして転生者。お馴染み極東の悪魔。
ゲーマー脳のサガか、世界救済レベルを成し遂げないと恋愛を始めとしたイベントに進む権利がないと考えていた。そんなことあるかよお前? なお三年後には姓が変わってる。
神機さんがよく話しかけてきてくれるようになって嬉しい。だが毎朝と任務完了後、初恋ジュースを奉納するルーティーンが生まれてしまった。
世界の勝利者にして救世主。
完走した感想:「ゴッドイーター最高!!」
シオ様
幻代アキの命でありソーマの運命。
人型アラガミの存在が公に認められ、要観察対象とされながらも、幻代アキや支部長の計らいなどにより、割と楽しい毎日を極東支部で送っている。そのうち支部内にある学校に通学する予定。
初恋ジュースに飽きておでんパンがマイブームになりつつある。なお、お気に入りはアラガミ素材を交えたアキの特製手料理。
アキが転生者であることに早くから気が付いていた。でも一生懸命で、それに楽しそうだったので何も言わなかった。クレイドル、第一部隊の皆が大好き。
ソーマ・シックザール(21)
研究者の道に進んでいる。最近は実父に遠慮がなくなってきて、ガンガン教えを要求している。
嫁の狂行(誤字にあらず)が落ち着いてきて安心しているが、未来の情報をちゃんと話してほしい。入籍したのでもう逃がす気はない。
シオとは互いに大切な相手だと想っている。そして同時に悪魔を唯一止められる存在だと認め合っている。戦友にして相棒にして運命。彼ら二人が本気で動いた時、悪魔にはなす術がない。
神薙ユウ(20)
極東のエースとして活躍中。周回と素材が絡むと様子がおかしくなるが、それ以外は至って人格者。アリサの傍にいたいので、第一部隊副隊長のコウタにどうやって隊長職を投げようか考えている。
アリサ・イリーニチナ・アミエーラ(18)
出来る仕事人間に成長した。サカキ博士との協議の結果、クレイドルを設立、サテライト拠点などの支援に従事する傍ら、楽園化促進にも励んでいる。この間、故郷の親友や両親にユウを紹介した。周囲からは早く結婚しろと囁かれている。
藤木コウタ(18)
職場がカップルばっかり。でもお兄ちゃんは元気です。本人が気付いてないだけで、普通に裏ではモテている。
極東支部のあらゆる尖った人材たちを取りまとめられる戦力として、周囲からは尊敬の目を向けられている。新人の神機使いたちにとっては大黒柱みたいな存在。
雨宮リンドウ(29)
原作通り橘サクヤと結婚している。子持ち。
終末捕食の後、神機からレンの声が聞こえるようになった。偶に子供が浮いてるトランプで遊んでいるのでビビる。
クレイドルの一員として、主に戦場を舞台に活躍中。ブラッドアーツが気になっている。
神威ヒロ(16)
GE2での原作主人公。現地民で転生者じゃない。ブラッド隊の副隊長。
常識人だった。周回に付き合えるスペック持ちだが、別に周回好きじゃなかった。ブラッド隊隊長ジュリウスのストッパー役……だった。
ブラッドレイジが解禁されると覚醒する。なにに? 周回に。
「あとがき」
これにて本編完結となります。約一か月、お付き合いいただき、誠にありがとうございました!
最初はリザレクションを久々にやった時の熱に乗じて、過去エタったGE二次設定を引っ張り出し、リメイクし、見切り発車でリベンジ執筆したものでしたが、まさかここまで高評価を頂けるとは夢にも思っていませんでした。執筆のモチベは読者様がたの評価・感想・お気に入り・ここすき、全ての応援でした。ここまで人気になっちゃったら責任をとって完結はさせたかった!
一か月、とても学びになった時間でした。本当にありがとうございます。
ここから、ちょっと裏設定の話。
「幻代アキ」というネームは、有識者ならお察しの通り、公式女性主人公のデフォ名「霊代アキ」が元ネタです。「幻」に変わったのは、おそらく「現代→幻代」かと。
加賀美リョウが出てきたのは、エタった過去作では転生者として出していたので、その影響と名残り。
ちなみに第一話でのシオ様邂逅は、執筆当時は本当に思いつきで、まさかこんな風にまとまるとは思ってもみませんでした。
プロット段階では全体の流れだけさらーっと決まっていて、20話ちょっとで完結! とか思ってました。長いよ。まるで想定しきれていない……けれども本当に書いてて楽しかったです。
恋愛要素はね……趣味だよ!!!! 昔、「恋愛要素はあるけどに傾き過ぎてなくて、でもなんか幸せに殺伐にGE世界をエンジョイするSS」が読みたかった私にとって、本作はその当時の理想にかなり近づけた一編にできたんじゃないかなあ、と思います。これがワイの読みたかった話や!
あと本作の重要なポイントになった周回要素について。
あれね……なんで入ってきたんだろうね……たぶんBURST時代に帝王周回に苦しんだ記憶のせいだろうな……リザレクションは素材一個で許してもらえて本当に良かった……
帝王くん絶滅回の際、戦闘を書くために、実機プレイという名の取材で犠牲になった帝王くんは十体ほど。アルダノーヴァ戦では四、五体くらいでした。なんかもう帝王くんには友達みたいな親近感がありますね。おい、血石出せよ。
それと支部長は最初、生存ルートじゃなかったことくらい。でも小説版を読み返していたらね……「こいつ、死に逃げさせておいていいのか? いや、良くない」と思いましてね。ハイ、そういうわけで生存ルートに蹴り込まれた次第です。救われた世界で酷使されてほしい。
物語の第一目標としては、「シオ様救済」。
なんで3にもなって再会できてないんですかねぇ……という怒りはあったと思います。いや、本人はいいんだろうけど……でも! と。この切なさに耐え切れていたら本作は執筆してなかった。
そんな次第です。
ちなみに「本編完結」っていうのはね、あのね、番外編の構想もないわけではないから。まあ、気が向けば……書いて、投稿できたらなあ……みたいな……ぼんやりとした感じです。
万が一、書くことになった時用のために「最終回」ではなく、「本編完結」という言葉を用いらせていただきました。逃げ道ってやつですな。これで合法的に番外編をいつでも更新できるぜ。
でも放置してたファンタジー一次の方も書きたいなー、って思いもあるので、まだ未定。
真名明かしたので、ご興味あればぜひ、よろしくお願いします。
こんなところでしょうか。
「GOD EATER」という世界は、基本的に殺伐で辛くて、それでも前を向いて行こうぜ! というシリアスと不意打ちのネタと王道と一抹の切なさがベースの作品です。本作がコメディ寄りになったのも、その反動でしょう。
作者としては「愉快な転生録」というあらすじの文言を裏切らずに済んでよかったー、などと。
原作3の厄災とか、GE世界には色々と厄ネタが転がっていそうですが、少なくとも本作の世界線ではそう悪いことは起こりません。地球と人類は二人の転生者たちによって救われた。以上!
とまぁ、そんな感じで本人たちは、これからも楽しく生きていくでしょう。
ではそろそろこの辺で。本作が貴方を少しでも楽しませられたのなら幸いです。
またどこかでお会いしましょう! 本当にありがとうございました!!