転生神機使いは狩り続ける   作:時杜 境

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03 極東は幼女に夢を見るか

 鮮血と叫喚が戦場を満たしていた。

 

 アラガミの群れの中を、たった一人が駆けて行く。

 身の丈を大きく超えた兵器──神機を振り抜き、捕食形態で肉を食いちぎりながら、その少女は化物たちを蹂躙していた。

 

 ──それを二人は見ていた。

 雨宮ツバキ、雨宮リンドウ。

 戦場で挟み撃ちになっていた彼らは、上から投入された加勢者の暴れように、しばし言葉を失った。

 

 デタラメだ。まるでデタラメだ。

 一瞬でコアの位置を見抜き、一撃でコアを引き抜く。

 結合崩壊無視の即殺。

 熟練でも難しいことを、「新兵」とされたその少女は、当然のようにやってのけていた。

 

「……博士、彼女は……なんだ?」

 

 ツバキの通信越しに、彼は語った。

 

『幻代アキ。一年前、リンドウ君が贖罪の街で拾った子だよ。──彼女は非合法な研究所で育ったらしくてね、本人が言うには拉致されたらしいが。見ての通り、驚異的な身体能力だろう? 本来なら本部命令で殺処分のところを、こっちで捻じ曲げて神機使いにしたんだ』

 

「博士。それは──」

 

『──無論、本人の希望をとって、だ。彼女は自らアラガミと戦う力を欲したよ。安心したまえリンドウ君、私たちは彼女を「人」として扱うと決めている。それにまぁ、ここ極東は万年人手不足だ。一人でも使える戦力は歓迎するべきだろう?』

 

「…………」

 

 ドサッ、と最後のアラガミが沈黙する。

 ヴァジュラ。大型種を単独で討伐した少女は、その死体の上に立って、神機に捕食させながら、沈黙した戦場を見下ろしていた。

 

 無感情な瞳だった。

 研究され、保護された先でも戦場兵器として扱われる境遇を、彼女はどう思っているのか。

 

「本日付けで極東支部に配属になりました、幻代アキです。レアモノは出ませんでした。確率はカス。これからどうぞよろしくお願いします、先輩」

 

「……んっ?」

 

 血濡れの戦場に不似合いな発言が混じっていたような気がする。それにツバキは一瞬意味を理解できず、リンドウは聞き間違いかと疑問の声を漏らした。

 一方の少女はヴァジュラから飛び降り、てくてくこちらへやってくると、規律正しく礼をする。持っていた神機は、まだモゴモゴとアラガミの残骸を咀嚼するように蠢いていた。

 

『中々面白い子だろう? 彼女にとってアラガミは素材程度の価値しかないようだ。一体どこでそんな価値観が培われてしまったんだろうねぇ……』

 

「あー、博士って未婚ですよね?」

 

『研究職一筋だよ。それがなにか?』

 

 いやぁなんでもないっす、とリンドウは通信をそこまでにした。

 そこで少女が乗って来たヘリと、自分たちを回収する別のヘリが羽音を響かせて降下してくる。

 では、と再び少女は一礼し、ヘリへ乗り込んでいく。直前、リンドウは彼女の背を一瞥し。

 

「俺は別に、あいつを神機使いにするために保護したわけじゃないんだがなぁ……」

 

 そう、なんともやり切れない呟きは、誰に届くこともなかった。

 

   ▼

 

 パーフェクトクリアか!? パーフェクトクリアだな!? パフェっていえ! よし!!

 

 とゆーワケで初陣クリアー。

 ゲームとは違ってクエストは一回限りだからね! 慎重に、けれど大胆にね! イエェア!

 

 極東支部、通称“アナグラ”へ帰投し、日誌データを確認すると無言で歓喜の拳を突き上げる。

 埋め尽くしたい……これからのミッション成績、全てSSS+で埋め尽くしたい……密かな野望だ。

 

 しかしアラガミどもの歯ごたえがゲーム時代より無い。

 それも当然の話。まだまだ出現した()()()ともいえる今の年代のアラガミは細胞同士の結合が甘く、未来の本編軸よりも「脆く」「柔らかい」のだ。

 

 無双できてるのも今の内だと思っておいた方がいいだろう。

 まぁ、未来でもガンガンアラガミ先輩どもを滅ぼし尽くしていく目標は変わらないが。

 

「よう、さっきは助かったぜ」

 

 と──新人区画で不審な動きをしていた幼女に臆することなく話しかけてきた勇者は、さっき戦場でチラッと相まみえたリンドウ隊長(将来)だ。

 今は第一部隊の一般メンバーらしい。まだ十七歳くらいだろうか? 初々しー。

 

「俺は雨宮リンドウ、よろしくな。見つけた時は死にかけだったのに、随分元気になったな。まさかゴッドイーターになって再会するとは思わなかったが……」

 

 あ、そうだった。そういえば私、リンドウさんに助けられたのだったか。

 恩人じゃねーか。靴舐めた方がいいかな?

 ともあれ。

 

「アイアム幻代アキ。仮ファーザーは榊」

 

「サカキ博士が? 後見人ってやつか……まぁ、妥当っちゃ妥当な人選なのか? 子育ての経験あるのか……?」

 

 わかるぞリンドウさん、そのお気持ち。

 私だって流石にあの博士に一般的な父親像は当てはめていない。というか当てはめられない。似合わなすぎる。なんで、ひとまずあの人は私を隅から隅までデータ化してくれる観察マシーンと思う事にする。

 

 私も今の私の身体について気になるからね。実験の後遺症とか諸々。

 あの研究所のことだからP73偏食因子とか埋め込まれてたりしてな! ははは! だったら生きてねーよ!!

 

「……おい、聞いたか? 今朝前線入りした新人の話……」

 

「ああ……まだガキだろ? なのに中型種や大型種を一人で殲滅したって……化物だな……」

 

 ──と。

 アナグラ特有・ひそひそ噂話が聞こえた。

 なんてモブムーヴに忠実なモブなんだ……そうやってひそひそして私の名声を上げなくても……

 

「あいつら……、ん?」

 

 リンドウさんが何か言った気がしたが、私はその場をいったん離れ、モブ活動しているモブたちの間に気配を消して忍び寄った。

 

「うわっ!?」

 

「な、なんだお前!? いつの間に!?」

 

「──幼女を崇めよ」

 

 くっくっく、と私はニヤつきながら言い放った。

 ちなみに。

 今の私の服装はフードの被れる戦闘服で、てるてる坊主みたいなキュート幼女である。顔立ちも美少女、ならぬ美幼女。これはハートを撃ち抜くこと間違いなし!

 

「……、いや、なん……なに……?」

 

「ウィーアーブラザー。キュートこそジャスティイス……」

 

「ッ! こ、こいつ、噂の新人の……!?」

 

「はぁ!?」

 

「仲良くしようぜ先輩。一緒にアラガミを殺そう」

 

「ひっ、ひぃぃぃ──!」

 

 サムズアップと笑顔を向けて友好を示すと、モブ二名は畏れおののきながら走り去っていった。

 ……完全に化物を見る視線だった。幼女に向けていい顔じゃねぇだろ! そういうのはアラガミに向けるべきだろ。フレンドリーに話しかけたのになんて仕打ちだ。治安が終わってやがる……!

 

「見かけによらずしたたかだなぁ、お前……」

 

 内心しょんぼりしながらリンドウさんのところへ戻ると、苦笑いを浮かべられた。

 やはり終末世界。幼女にも厳しいようだ。

 

   ▼

 

 翌日。私は第一部隊に所属する運びとなった。

 

 いずれ主要人物たちがメンバー入りするグループだ! やはり転生者パワー! 夢の最前線! 毎日アラガミを殺し尽くそうぜ! 主に素材周回マラソンでな!!

 

 つらい……

 今から確率を思うと絶望できる……

 

「第一部隊隊長、雨宮ツバキだ。先日の加勢には助かった、感謝する」

 

 集合部屋に来ると、やっぱり若々しいツバキさんがいた。

 隊長……隊長なのか。まぁ本編軸では教官やってたし、そういう時代もあったのかもしれない。

 

「幻代アキです。超新兵です。ご指導よろしくお願いします、隊長」

 

「ほう……その年頃にしては礼儀がなっているじゃないか」

 

 セカンドライフだからね!

 上官に媚びを売っておくのは基本だろう。大体、ゴッドイーターってのは集団戦闘がデフォだ。対人関係の向上を今から図っておくのは大事なことではないだろうか?

 

「サカキ博士たっての推薦抜擢と聞いている。アラガミに関する知識はどこまである?」

 

「現時点で確認されているアラガミの生態と動きのほとんどは網羅している自負があります。基礎のオラクル細胞、偏食因子などに関する座学プログラムは履修済みです」

 

「……乱戦時の動きについては?」

 

「適宜対応しろとの仰せでした」

 

「……」

 

 ツバキさんの顔がなんとも言えないものになる。

 分かるよ。実質ただの新兵が初陣でパフェるなどやや常軌を逸している。原作知識と偏食因子様々って感じだ。傍から見ればアラガミ殺しの天才に見えるだろう。

 

 だが! この時代はまだイージーってだけだ。アラガミ先輩たちも生まれて十数年ばかりで学習が浅い。頼むから未来でもこうであってくれませんかね……ダメ?

 

「……よろしい。お前はなにかと特殊な出だ、なにか不調を感じたらすぐに報告するように。──リンドウ」

 

 ツバキさんの呼び声に、むくりと作戦室の席から起き上がる人影があった。

 

「後の世話は任せる。極東式を叩き込んでやれ。子供だからといって手を抜くなよ」

 

「了解です、姉上隊長」

 

「混ぜるな。“姉上”は次から外せ」

 

 と言って、ツバキさんは退室していった。

 隊長職ゆえに、他にも山のように業務があるらしい。過去でも忙しいお人である。

 

「っつーわけで」

 

 机を乗り越え、ひょいとリンドウさんがこちらへやってくる。

 

「しばらく俺がお前の教官になる。っつっても、覚えておくのは三つだけでいい」

 

 名台詞の気配をキャッチ。

 耳を澄ませ、集中する。

 指を立てつつ、リンドウさんはその言葉を放った。

 

「死ぬな。死にそうになったら逃げろ。で、隠れろ。運がよければ不意をついてぶっ殺せ! ……うん? これじゃ四つか? まぁとにかく生き延びろ、そうすりゃ万事、あとはどうにでもなる」

 

 とは言っても、

 

「お前の場合……こいつはアラガミ側にかけてやった方がいい台詞かもしれないけどな」

 

 なんて、面白い冗談をおっしゃった。

 




高評価、感想、ありがとうございます! モチベに繋がるので助かります。
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