転生神機使いは狩り続ける   作:時杜 境

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彼女と彼の災難 #2

「うわっ死神──ぎゃぁぁぁああああ!? 『悪魔』だ────ッ!?!?」

 

「うわあああああ!! 置いてくなよ──!!」

 

「あああああ! ああああああああ!! 死にたくねぇええ──!!」

 

 そう叫びながらモブ神機使いたちはその場から脱兎の如く逃げ出していった。

 よく見るいつもの光景だ。おもろ……

 

 プラン4! とかではない。廊下を歩いていたソーマくんを見つけて駆け寄ってみたところ、その近くに立っていた神機使いたちが私を見るや否や、今のリアクションを起こして去っていったのである。なんか前より悪化してね?

 

 呆れた目をしたソーマがこっちを振り向いてくる。

 

「……お前……あいつらに何をしたんだ……」

 

「いや、特に何も。ああ、ちょっと前に周回に誘って断られたぐらいかな。それだけだよ」

 

「……にしては凄まじい反応だったが」

 

「流行ってるんじゃない? 魔王になったみたいで楽しいよ」

 

 もうなんでもアリかよ、というソーマくんの小声が聞こえた。いや、本当に楽しいんだぜ? 歩くだけで誰かがビクッとなったり、にこっと笑えば涙目になられるし……うん? 同じ職場の仲間への反応じゃない気がするな……ま、ええやろ!!

 

「なんで放っておいてる? お前、面の皮だけは厚いだろ。適当に言いくるめればいいだろうが」

 

「そこまでやる必要あるかなぁ?」

 

「……『悪魔』とかって言われずに済むかもしれねぇだろうが」

 

 …………これは。

 ちょっと早めの……いや、不確定乱数から発生したレアデレ期……かッ!?

 

「そう? っていうか、ソーマこそ『死神』なんて間違いでしょ。『強襲衛生兵』の方がピッタリだよ」

 

「! ……兵種を混ぜんな」

 

「今からでも異名の変更って間に合うかな? 呼ばれるなら私、『漆黒の葬儀屋(アンダーテイカー)』とかが良いんだけど」

 

「『悪魔』より縁起悪くなってんじゃねぇか。格好つけすぎだろ……フッ」

 

 むっ、笑ったような気配。

 素早く彼の顔を覗き込もうとすると、そっぽを向かれた。

 

   ▼

 

 今日の周回も完了した。

 贖罪の街──なんかゲームOPで見たことあるような大通り跡地で、神機さんを担ぎつつ、ふう、と天を仰いでみるなどする。これも初代OP再現! やってみたかったんだよねコレ! まぁクセだと思われない程度に偶にやっているのだが。

 

「……ん? どうしたのソーマ」

 

「いや……」

 

 そして本日も周回協力者にソーマを連れ回すなどしていた。いや、本当にいてくれて助かる。後ろにいてくれると安心感が段違いすぎるんだわ。

 しかし当のソーマくんは、神機を持って周囲を見回しつつ、怪訝な表情をしていた。

 

 ……これは、もしや。

 

「何か……気配を感じたと思ったんだが、気のせいだろ。レーダーにも反応はないしな」

 

「──気配って、どの辺で?」

 

「は?」

 

 ずっ、と私はソーマに詰め寄った。

 気配──彼が言う「気配」とはッ! 高確率でシオ様である!! いるのか!? いたのか、この近くに!?

 

「どこで? いつ? どの方角に感じた?」

 

「な、なんだいきなり……周回はこれで終わりだろ」

 

「待て」

 

「ッ!?」

 

 神機さんを手放し、話を切り上げようとするソーマの両肩を掴む。シオ様の手がかりを失うわけにはいかぬっ……! せめてもう一度、もう一度だけでも拝謁賜りたいのだッ……!!

 

「頼む。感覚でもいい。どこで・なにを・どう・気配を感じたのか教えてください」

 

「っ……な、なにかに見下ろされてた気がしただけだ! 離れろ!」

 

「どこから?」

 

「知るかッ! 気がしただけっつってるだろ! 顔が近ぇ馬鹿!!」

 

「あ、失礼」

 

 彼を離すと、ズサッと後ろに大きく飛び退られる。

 そうか……残念ではあるが、貴重な情報だったのは確かだ。私では運命が足りていない。これからもしばらく、ソーマを周回に連れて行くこととしよう。

 

「なんなんだ……お前、なにか知ってんのか?」

 

 ……はぐらかすことはできるだろうけども。

 ソーマくん、ただでさえ周りに隠し事してる大人が多い中で、ここで黙っとくのは不誠実だよなぁ……情報もらっておいて、それはないよね。

 

「や……外にいた時、助けてくれた恩人がいてね。もしかしたらその人かなぁ、と思っただけだよ」

 

「……人間がこんなアラガミの生息域にいるわけねぇだろ」

 

 人間じゃないのがネックなんだよなぁ──……!

 

「ま……まぁ、そうだよね。ゴメン、ちょっと頭おかしくなってたわ」

 

「お前はいつもおかしいだろうが……ったく」

 

 帰投ポイントへ移動し始めたソーマの後を、神機さんを拾い上げて追いかける。

 

「じゃあソーマ、これからも周回の時はよろしく。なにか変な気配があったらすぐに言ってね」

 

「なんで俺が……」

 

「お願いだよ! ソーマにしか頼めないんだってぇ!」

 

 これは本気でマジで!! 私のこと嫌ってるのは分かってるけどさぁ! P73偏食因子持ちじゃないとシオ様と会えねぇのだよ! ってか彼女と運命的な繋がりを期待できるのもソーマくんだけなんだよ!!

 

「……他に、いねぇのか」

 

「アナグラでモーセ状態の私に友達がいるとでも?」

 

「クッ……! ははは!」

 

 あ、笑った。貴重だ。かわいいー。

 横から真顔でじっと見ていると、ハッと我に返ったソーマは顔を背けてしまう。

 

「……まぁ……考えておいてやる…………」

 

「うん。ありがとうね」

 

 本当にマジでよろしくお願いします!!

 

   ▼

 

「アキ……お前も罪な女だよな……」

 

「?」

 

 極東支部──廊下の一角。

 ベンチに座った私は、すぐ左横にいる人物を見上げる。そこには壁に寄りかかり、煙草の煙を吐いているリンドウさんがいた。フェンリル制服時代の二十歳である。お若いね。

 

「年の近い同僚ができて、はしゃいじまうのは分かるが、もうちっと加減してやったらどうだ? 純情な少年を弄んでると、将来になって痛い目にあうぞ」

 

「……え、そんな風に見えてるんですか」

 

「あのなアキ。女子には分からないかもしれないが、あの年頃の男子は難しいんだよ。その気もないのに勘違いさせたら、一生モノのトラウマになるんだぞ?」

 

 いやどーなんでしょーか、その辺り。

 なんでもかんでも恋愛に結び付けると、貴方でも恋愛脳ってバカにされますよリンドウさん。

 

「ソーマにはそういう気、絶対無いと思いますけど……」

 

「……」

 

「なんすかその顔」

 

 うわー、こいつマジィ? みたいな顔をされるリンドウさん。なんだね、その年上ムーヴ! ってか、冷静に考えなくても恋愛フラグはねぇだろ! ここ狩りゲーワールドだぜ!? ソーマくんには運命補正あるし、ロリ……いや、それこそ風評被害だとしても、年上には興味ないって!

 

「……こりゃ思った以上の長期戦になりそうだな……てかお前、好みのタイプとか、いるの?」

 

「……どうでしょうね。自分ではなんとも。まぁ……第一部隊はともかく、部隊外の奴らってなると、蜘蛛の子散らすように、ってのが現状だし……」

 

「あー……」

 

「入隊してしばらくの頃は、真っ当な対応してくれる人も多かったですけどね。まぁ、一部近づいてきた奴に襲われそうになった時から、外の奴は正直苦手──大丈夫ですか?」

 

 リンドウさんが思いっきり咳き込んでいた。煙草なんて吸うからそうなるんですよ。

 

「お、おそ……おまっ、それ初めて聞いたぞ!?」

 

「あぁ、流石に物理的処置で撃退した後、支部長に即訴訟したんで。次の日には左遷されてたし、別に報告するほどのものでもないかなと」

 

「言えよそういう時は!? ほ、他は? なんか裏で起きてねぇだろうな……!?」

 

「んー……ここ四年間では、素材さえ渡せば相手してくれると勘違いした野郎の物理調教が八件くらいと、外から来た研究者に縁談申し込まれたのが二件と、神機さんを盗まれかけたのが一件かな。全部サカキパパに対応してもらって、いずれも消息は分かりません」

 

「ヒェッ……」

 

 リンドウさんが震え上がっている。

 この極東支部において、絶対に敵に回しちゃいけないNo.1、ペイラー・榊。ぶっちゃけ黒幕適性はヨハネスさんを上回っているんじゃないかと私は思う。黒幕の座が空いてないから技術屋ヅラしているが、怒らせたら本気で何をされるか分からないのが怖いところだ。後見人になってくれて本当に良かったと思う。

 

「まぁ、だから『悪魔』呼びで多少距離取ってくれてる分には、こっちも安心できるかなって。流石にここ最近は、迫ってくる勇者もいないですし」

 

「……そ、そう……」

 

「なんで、無条件で背中を任せられるのは第一部隊だけですかねー。頼りにさせてもらいますよ!」

 

「ウン……絶対に頼れ……頼むから頼れ……マジで……」

 

 リンドウさん、またそんな胃を削られてるような顔を。

 こういう時はそっとしておくのが一番だ。そこで私は部屋に戻ることにした。

 

 

 

 ────リンドウの前を通っていった少女の姿が消え、気配がその場から去った後。

 

「……だってよ。あいつから目ぇ離すんじゃねぇぞ、ソーマ?」

 

 彼女が座っていたベンチ、その右側には自販機が設置されていた。その陰から、一人のハーフコートをまとった少年が姿を現す。

 

「……分かってる」

 

   ▼

 

 最近、ソーマくんとのエンカウント率が上がってきていて非常に嬉しい。

 

 なんか気付いたら後ろについていたりするのだ。け、気配を感じねぇ……NINJAの末裔? 傍目にはトコトコとついてくるカルガモ親子みたいな絵面になっていそうで和む。本人に言ったら怒られそうなので言わないが。

 

 ……もしや監視対象に認定されてしまっている? 要警戒対象だろうか。なんかこっちを見てくる目も鋭いし。“なんかやらかしたらコロス”、みたいな圧を感じるのは気のせいですよね?

 

「いやー、流石に今日は遠出しすぎたねぇ」

 

 本日、極東支部より遥か北方。私とソーマは「蒼氷の峡谷」というフィールドにやってきていた。

 

 でっかいダム跡地! 一面の青空! 寒冷化が進んで遠方に見える雪の山脈! GE2でお世話になるフィールドだが、なんと! 実際に来れてしまうのである! リアル環境だからね。一足早い聖地巡礼だ。

 

 ──が、現在、眩いばかりに広がるはずの青空には雲がかかっている。雨が降り出し、帰投のヘリがやってくるまで、私たちは近場の洞穴で雨宿りしていた。

 

「…………、」

 

 ソーマくんから返事はない。見れば、神機を抱えたまま座り、壁に寄りかかって眠ってらっしゃる。そんな隙を見せてもらっていいんですか!?

 

「……かわい……」

 

 思わず呟いてみるが反応はナシ。そろそろと足音と気配を消し、右隣に体育座りに腰を下ろして、寝顔を拝見させてもらう。くそ、カメラ持ってくればよかった。なぜ現実にはスクリーンショット機能がないのだ!?

 

「……っ」

 

 あ、なんか、うなされている。アレだね? さては悪夢の最中だね? 水中に沈んでいくイメージな感じの、プレイヤーにはお馴染みのムービーシーン中かな? 傍から見ていると心配になるな……

 

「ソーマ」

 

「ッ!」

 

 とん、と肩を指先で叩くと、ソーマが目を覚ました。息を整えるように一度呼吸をすると、こちらに顔を向けてくる。

 

「……お前か……」

 

「うなされてたよ。足りない素材でもあるの?」

 

「……だから、お前と一緒にするなと……」

 

 片手で顔を覆い、溜息を吐かれてしまう。だが、どうやらそれで落ち着いたらしい。

 

「迎えは……まだか」

 

「もうちょっとだってさ。それまでお姉さんと二人っきりでーす」

 

「ふざけんな。お前みたいな姉がいてたまるか」

 

「冗談だって! ソーマを弟だって思ったことないよ」

 

 今の彼は、成長後の姿を知っている分、その幼少期! って方のイメージが強すぎる。つーかこんなカッコイイ弟がいてたまるか。己の中のなにかが狂うわ。

 

「……、じゃあ、なんだと思ってるんだ?」

 

「そうだね……よくアラガミの注意を引いてくれるから戦いやすい。火力も高いし何よりタフだ。何も考えずにとりあえず出撃メンバーに入れておきたいタイプだね。こっちのバイタルがキツくなったら回復してくれるし、総合的に見ても強襲衛生兵って感じかな」

 

「………………いやだから兵種を混ぜんな」

 

「あと破砕系の攻撃をしてくれるから結合崩壊の範囲が広がっていいね。私は切断系だからそこんとこ助かってる。作戦支援でも結合崩壊報酬を増やしてくれるし、素材集めにはもってこいの人材だね」

 

「…………もっと真剣に答えやがれ」

 

 これ以上となく真剣だがッ!?

 

「えぇ……? あぁ、性能面的なのじゃなくて、人物的なほう? だったら率直に言って、頼れる周回のお供かな。とりあえずソーマが傍にいてくれると安心するね」

 

「──、」

 

「だから偶に一人で出撃しちゃってるのは寂しいなー。ほら、二人の方が効率は段違いだしさぁ。なにか思いつめてるなら相談しなー?」

 

「……お前に何が分かる」

 

「ん? あぁいや、私にじゃなくてリンドウさんとかツバキさんとか。私にできるのは、結局こうして周回に連れ回すことだけだし。参考にならないっしょ。てか参考にしちゃダメですよ? 別に人格者でもないし。だからソーマって良い奴だよ、こんな奴に付き合ってくれるんだからさー」

 

 さっすがこの世界の主要人物って感じだよなぁ! 第一部隊サイコー! 周回の心強い味方だ。仲間ってイイナァ!!

 

「物好きな奴だな……」

 

「あ、そうだ。ソーマくん、メールにそろそろ返信が欲しいです」

 

「……誰がするか」

 

「えー」

 

 そんなー! せっかく自分から送れる環境だというのにッ! ゲーム時代でも君ィ、極端に少なかったじゃんかよぉ! 本人からの直筆メールが欲しいぜ!

 

「──あ。雨あがった」

 

 雲が晴れ、青空が覗き始める。ほどなくしてヘリの羽音が聞こえ始めたので、立ち上がった私たちは神機を持って帰路についた。

 

 

 ──翌朝。

 ぶっちゃけその時の私は、昨日のメールうんぬんの事など起きた頃には忘れていて、ターミナルを覗いた時には度肝を抜かれた。

 

『ソーマ・シックザール

 件名:

 本文:おはよう』

 

「────はえ?」

 

 なんか……ソーマからメールがきてる……?

 ソーマカラメール……あ? まだ夢? 髪を引っ張る。数本抜けた。痛い。

 

「…………マジ?」

 

 四、五回とその短いメール文を読み返して、いったん画面をホームに戻し、再びメールを開いて、その実在を確認する。

 ……「存在()」る…………実在、している……ッッ!?!?

 

「あ、アア……ああああ……!!」

 

 即座に返信画面を出し、激情のままにメッセージを入力する……!

 

『幻代アキ

 件名:ああああああああああ

 本文:返信きたありがとう幻覚じゃないですか?! ありがとうソーマだいすきサンキュー!』

 

「ヤッタ──────!!!!」

 

 ターッン、と小気味よく返信ボタンを押して歓喜の拳を突き上げる!

 

 今! ここに全てのプランが報われたッ!! レア素材がドロップした時よりも嬉しいぞこれ! うおおー! ご本人からのメールだ! 記念に写真撮ろ撮ろ。現段階で出会える全主要人物からのメール、コンプリィ──ト!!

 

「──ん? もう返信?」

 

『ソーマ・シックザール

 件名:

 本文:ふざけんなおまえ』

 

「なんでぇ!?」

 

 歓喜のメールを送っただけなのに! あっ、ていうかこれでサラッと二通目ゲットじゃん! やったぜ!!

 

 




ソーマ・シックザール(12)
 最初のメール返信に悩んでたら朝になってた。
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