────聞き覚えのない、銃声が響き渡る。
地面に倒れ込んだ瞬間、私の脳裏には、前世の最期の光景が蘇っていた。
▼
「なんか最近、お前ら随分と仲良くなったんじゃねーの?」
その日の話題の切り出しもリンドウさんからだった。
贖罪の街。障害物のない、広いフィールドには、霧散していくヴァジュラの死体群があちこちに転がっていた。
「そうなの?」
と、私はソーマの方へ目を向ける。私は彼と仲良くなりたいと思っているが、果たして向こうがそう思っているかは別の話だ。仲が良いです! と自信満々に言って否定されるのが辛いので、あえて尋ねる方向に舵を切った。
「……、」
あ、「なんで俺に聞くんだよ」、という抗議の視線だ! これは……なに? 肯定なの? 否定なの?
「違うのか? 俺なんか、ソーマが笑ってるところなんて初めて見たぞ」
……。
…………そういやソーマくん、笑ってることがやや多くなってきた……ような? アレ? 原作ではこんな……ではなかったよなぁ!? あぁ!? あれぇ!? もしかして私たち……仲良くなってるんですかァ!?
「……ソーマって実は、笑いの沸点が低かったりする……?」
「……知らん」
目を逸らされる! “知らん”じゃないよ、“知らん”じゃ! 流石に照れ隠しだって分かるわ!
「ま、いいんじゃねーの。青春青春、ってな。アキ、ソーマと話してて楽しいか?」
「人生エリクサーっすね。話さないとしぬ」
「どういうことだよ……」
思わず即答した。
楽しいかどうかって? そりゃ楽しいに決まっている。ソーマに限らず、リンドウさんやツバキさん、サカキ博士や支部長とだって話すことは楽しい! ネームドキャラと話せるなんて、最高の日々ですよこっちは!
「人生、か。なんだアキ、ソーマを娶る気でいたりすんのか?」
「……ソーマはお嫁さんだった……?」
「違うだろ」
「うーん、でもなあ。ソーマくんには運命がいるからなぁ」
シオ様のことを思い浮かべながら呟くと、ソーマが小首を傾げる。
そう……君はまだ知らない。いずれ相対すべき彼女という運命を知らないのだ……っクソ! 早く出会ってくれよ! 供給をくれ!! 君たちの組み合わせが大好きなんだぞ私は!!
「ほおん? もう決めた奴がいたのか、ソーマ」
「いねぇよ」
「なんてこと言うんだソーマくん。運命は大事にするんだよ。絶対に手を放しちゃダメだからね!」
「お前もお前でさっきから何を言ってんだ……?」
クゥッ……! 原作知識前提でつい喋ってしまうから、完全に狂人の言動になってる! くやしい! 歯がゆい……私の目が黒い内は、シオ様を頭から床に落とすなんてマネ、絶対に許しませんからねッッ!!
「アキがソーマの運命、って意味じゃねぇの?」
「──アァ?」
自分でも思った以上にひっくい声が出てしまった。ビクリと男性陣が震える。
「解釈違いです、リンドウさん。私に運命はいません。そんな資格はないのです。面白くない冗談は程々にしてくださいね。焼き討ちしますよ?」
「なにを? ってかお前、なににキレてんの!?」
「解釈です」
あーもー、リンドウさんが面白くないこと言うから! なんか悪口言っちゃいそうだから離れます! 先に帰投ポイント行ってますからね! 反省してください!
「……俺が嫌、って話なのか?」
──後ろからの聞き逃せない呟き。
それにバッと振り返り、神機さんをその場に突き刺してから一瞬でソーマに近づくと、その首に腕を回して思いっきり抱き締めた。
「──っ、ば、なぁ!?」
「そういう話はしてないじゃん!! ソーマくんはイケメンだよ! もっと自信持てよ馬鹿!!」
「っ、馬鹿はてめぇだろうが……!?」
「あーあーあーあーあー」
「ソーマを嫌なんて思ったことないし! 誰が敵だろうと味方になるに決まってるじゃん! 嫌いになんてならないからね!」
「ぁ、ぇ、な、なに言って……おまえ……!」
腕の中で身じろぎされるが、お構いなしにぎゅーっとする。
あー可愛い! あーあー可愛い! 完全に勢いでハグしちゃったけどとても良い抱き心地! こんなに可愛い息子がいてガンスルー決める父親がいるってマ!? ふざけんなよ! 私かシオ様にくれ!
「アキ、アキ……放してやれ。そいつもうギブ」
リンドウさんに肩を叩かれ、ハッとなって拘束を緩めると、見たことがないくらいに赤くなったソーマ少年が至近距離にいた。……やばっ、変質者になっちゃう! 慌てて腕を下ろして解放した。
「あ。ごめん、つい。でもソーマはホント、自分に自信持っていいと思うよ?」
「……知るか……この大馬鹿……」
「ご、ごめんってぇ……」
その日の帰り、もうソーマは口をきいてくれなかった。
ハグなんて二度とやらない!
▼
ところで、割と私は耳が良い。
具体的に言えば? 壁の向こうでちょっと大きい音があると、断片的にだが聞き取ってしまうくらいには、だ。
「…………。訓練、行くかぁ」
時刻は真夜中。明日の任務に備えてグッスリ眠りたいところなのだが、今日は隣室の物音が一段と盛り上がっており、気分が悪い。
ゴッドイーターの皆もこういう苦しみがあるんだろうか……だったらもう少し隣人さんも落ち着けよ……クソが……
いつもの服装に着替え、神機保管庫へ。
神機さんを引き出したら、次は訓練場へ。
だーれもいない、静まり返ったアナグラ内はどこか不気味だ。まるで世界に一人きりになったよう。神機さんが無ければ、自分への強烈な異物感に吐き気がしていただろう。
片手には部屋から持ち込んできたストップウォッチ。
訓練場の使用申請を出して、訓練モードを設定すれば、ダミーアラガミが現れる。
「目標は──とりあえず、3秒で」
そうしてヴァジュラを模したダミーを、小一時間ほど繰り返し出し続ける。
コア抜きの高速練習だ。一体当たりの討伐時間がそのまま周回タイムに影響するので、こういうのは身体にとにかく叩き込んだ方がいい。
「……4.3秒か……中々上手くいかないなぁ」
「──なにしてんだ」
おや、と振り返ると、そこには神機を携えたソーマくんがいるではないか!
んん? なぜ彼がここに? あっ、待てよ。支援エピソードで訓練場に行くやつあった気がする……!
「あれ、ソーマ? 何ってTAだよTA。タイムアタック。一戦ごとの時間がそのまま周回タイムに直結するからさ、訓練で予行練習してんの」
「こんな時間に……眠れないのか?」
「隣室。カップル。お察しくださーい……」
あぁ……とそれで察された顔をする。
ゴッドイーターは命を賭ける職業柄、娯楽も限られてくる。能力磨きにも娯楽にも飽きた方々は、必然“そういうもの”に行きつく。ただでさえ過酷な現場なんで、別に珍しいことじゃない。だからって私の部屋の隣でおっぱじめなくてもさァー!
「ソーマは? 遂に抑えきれぬ周回衝動が……!?」
「……夢見が悪かっただけだ」
夢見。あー、また例のトラウマ凝縮の悪夢ですか。
研究施設にいた頃のこととか、生まれる前の両親に関する記憶とか? 原作ではかなり苦しんでいた覚えがある。ま、過剰に反応しても怪しまれるだけなんで、追求は止めておくが。
「へえ。私も偶にだけど、そういう事あるよ」
「……お前、悪夢なんて見るのか」
「うん。トラックに
悪夢:前世の死因!
いやー……ほんっと稀に、ってレベルで見るやつだけど、アレはホントにきつい。テンプレかよとか言ってられない。本気できついのだ。初めて見た時は丸一日動けなかった。
はねられる、まではいい。
問題はその後。倒れ込んだまま、じわじわとやってくる死の感覚と体験。アレだけは、今でもはっきりと思い出せるので、本当に嫌だ。
「……アラガミじゃねぇのかよ……」
「ふっ、はは! 言われてみれば、そっちの方が自然だよねぇ!」
思わず吹き出してしまった。
そりゃ普通はそっちだろう。アラガミという絶対天敵がいる世界で、トラックに怯えるゴッドイーターってなんだろうな。転生者かな?
「……はねられたこと、あるのか?」
「むかーし昔に一度だけね。あ、ゴッドイーターになる前だよ」
「……よく生きてたな……」
「いやぁ、死んだよ」
つい、口を滑らせる。どうせ理解できないだろうし、いっかなー、なんて軽い気持ちだった。
は? と困惑の声が聞こえる中、
「──それで終わっちゃうくらい、つまんない人生だったみたいだからね」
投げやりに、そんなことを続けてしまった。
……本当に今夜は調子が悪いようだ。シリアスなんて私の芸風ではないってのに。
瞬間、復活したダミーアラガミが動き出す。ヴァジュラを模したそれは、収集された行動データを元に構築されたプログラム通り、こちらへ飛び掛かってくる。
その懐に一瞬で入り込む。捕食形態でヴァジュラの胴を食いちぎり、即殺で戦闘を終わらせる。
「3.8秒。良い感じー」
最高記録だ。目標の三秒台、ようやくきたれり!
「……お前、なんでそこまで必死なんだ」
ソーマからそんな質問が投げられてくる。彼らしくもない。どうやらお互い、気分が落ち込んでいるようだ。
「んー? だって人生、無駄な時間なんかないからね。私は私にできる最大限の最善を尽くしたいのさ。遠い将来のために、ね」
どこかで聞いたような、薄っぺらな教訓じみたことを織り交ぜつつ。
けれども嘘は決してなく、やや遠まわしな言い回しで、そんなことをのたまってみる。
「将来……? なんか夢でもあるのか」
「お!? 気になる? 気になっちゃう? 私に興味がありますか?」
「な、ちがっ……そういうんじゃねぇ! お前のことなんかどうでもいい!!」
調子に乗ってつついてみたが、失敗だったらしい。ほらなリンドウさん、やっぱアンタ恋愛脳だって。
肩をすくめて苦笑する。
「ですよね。分かってる分かってる。まぁ、ゆっくり知ってもらえれば、それでいいよ」
「ぁ……、……っ」
神機さんを肩に担ぎ直し、私は足を出口に向ける。
「さて! じゃ、私はお暇しようかな。他人がいると集中できないでしょ?」
ソーマの横を通り過ぎていく。そのまま扉の前まで行って、“じゃあまた明日ー”と頭に言葉を用意しつつ、開錠のスイッチを押そうと手を伸ばしたところで、
「待て」
彼の声が聞こえた。
「……まだ、時間はあるだろ。それにどうせまた、お前に付き合わせられるんだ。少し……手伝っていけ」
……。
…………。
………………なぬっ!?
「──ッ喜んで!! 恐悦至極光栄やぶさかでもなく!」
「ッ、な」
こっちを振り向いていたソーマに素早く近寄り、神機を持ってないその左手を掴んでぶんぶんと振りまわす。
うおおおぉぉ──! デレ期! デレ期キタコレッ! こんなチャンス、逃す馬鹿がいるものか! わーい、ソーマくんから訓練のお誘いされた! 夢が一つ叶った気分だぜ!!
「何する何する? ヴァジュラ百体殲滅特別プログラムコード、私知ってるよ! サカキパパに頼んで作ってもらったやつ!」
「か、勝手に盛り上がってんじゃねぇ……遊びじゃねぇだろ、訓練は……」
「もちろん真面目にやるよ! 大真面目にやるよ! 本気でやるよ!! ソーマと訓練! 念願だったよ! 嬉しいよ!!」
「ッ……!!」
あれあらら、ソーマ少年、顔が赤くなってきてません? そんなに喜ばれるの慣れてないの?
「おっまえ……なんなんだ! なんでそんなに俺に……余計に構ってきやがる!」
「誘ってくれたのソーマじゃあん!?」
「っるっせぇ!! 手ぇ放せッ!」
そこで力任せに手を振りほどかれてしまう。
すまない、勢いとはいえ握手はやりすぎだった。二度とやらないから許してくれって!!
▼
何事にも、順調に行っている時にこそ邪魔が入ったりするものだ。
その当事者に、そういう認識がなかったとしても。
「ソーマくんはどこかなー?」
その日、私は朝からソーマを探していた。
無論──周回のためである。部屋に行っても気配がなかったし、作戦室やエントランスを当たっても出てこない。オペレーターさんに確認すると、支部長に呼ばれているとのことだった。
「……嫌な予感」
役員区画に移動するエレベーターの中、ちょっと身震いする。
なんだろうな……この、この謎の嫌な信頼……また余計なこと言ってんじゃないだろうな、支部長……? 私たちはちゃんと健全に仲良いからね? マジで変に刺激するの、やめなよ……?
『あいつはそんなんじゃねぇ!!』
「──ぐはっ」
役員区画についてエレベーターから降りた瞬間、支部長室の扉の向こうから聞こえたソーマの声──もちろん壁の向こうなので一般人の耳には聞こえないだろう声──に、思わず廊下の真ん中で膝を折った。
──オーケー。支部長がまた余計なこと言った。
それを確信しつつ、こみ上げそうになる変な笑いをこらえて立ち上がる。やばい、なんか変なテンションになりそうだ。突入前から既に楽しいんですけど?
『そうか。だが、優秀とはいえ彼女は時限爆弾に等しい存在だ。……あれでもいつ、アラガミに侵蝕されるか分からない』
支部長に何を心配されてるんだ私? まさか周回行為を食べ放題扱いしてる狂人にでも見えてんの? 失敬な奴やなー。
『その時はお前が始末しろ。獣となって他者を食い千切るなど、彼女自身も望んではいないだろうからな』
『……言われなくとも、そんな事……』
『ためらうなよ、ソーマ。それがどれだけ忌まわしい悲劇になるかは、私たちが一番よく分かっているはずだ』
『……っ』
こ、コラ────ッ! やめなさいよ! なに真っ当に原作みたいなシリアスやってんのさ!? まだ原作前でしょうが! もー! これだから君たちシックザールは! このシリアス親子!! もう聞いてられねぇ! 突撃だー!
「別に変な覚悟決めなくていいよソーマ。そういう時はちゃんと自分でケリつけるから」
「──ッ!?」
ノックもなしに支部長室の扉を開ける。
支部長は例のカルネアデスの板の絵画の前に立っており、ソーマは支部長席の前で佇んでいた。予想だにしなかった私の乱入にソーマは振り向くや目を見開き、支部長は険しい顔でこちらを見る。
「盗み聞きとはいただけないな、曹長」
「すみません。ゴッドイーターになってからこっち、耳が良いもので。でも支部長こそ、私の知らないところで話を進めないでくださいよー」
「極東支部を預かる者として、適任な人材に命じていただけだ。だが気分を害したのなら謝罪しよう」
「まぁ、それはいいですよ。万一の時のことを考えるのも上のお仕事ですし? でも私に対してそんな深刻にならなくていいじゃないですか。周回してるってだけで、ただの一ゴッドイーターですよ?」
「……、」
「……?」
支部長が黙し、ソーマくんからはなにか困惑の気配がする。
? なにか変なこと言いましたかね、私?
「……曹長。君は、自分の中にある偏食因子がなんであるか、把握しているかね?」
「へ? あぁまぁ、サカキ博士からは研究所で色々バカスカ打ち込まれてる身体だって聞いてますけど。でも、ゴッドイーターになったからには、基本ベースは
「────」
「……
「う。はぁーい……」
なんだよぅ。こっちだって好きでMIAしてるわけじゃないんだよッ! 極東がおかしいんだろうがぁ! このアラガミ動物園!
「……お前。まさか……」
「ん? なに、ソーマ?」
ソーマくんが何かを言いかけたが、それ以上は口をつぐんでしまう。なに!? なんだいソーマくん! 気になるなぁ! 遠慮せずに言ってくれてもいいんだよ!?
「──『それ』は君にとって有用かね、幻代曹長」
息子を“それ”呼ばわりするなこのヨハネスゥ!
「いや、お世話になりっぱなしですよ。前にも言った通り、凄く頼りにさせてもらってます。もちろん、無理させない程度には……えと、大丈夫だよね、ソーマ……?」
「……あ。あぁ……」
ホ。ちょっと安心。いやぁここ最近、めちゃくちゃ連れ回していたからね。それで過労死です、なんて笑えない。原作前にレギュラーメンバーを過労死させるなんて、転生者の風上にも置いておけないだろう……!
「そう気遣う必要はない。君の使い道は正しい……それは人間ではなく、アラガミなのだから」
……うわぁ。
ちょっとすぐに言葉が出ないくらい、うわぁ。
実際にそういう台詞を聞いちゃうと反応に困るよ! あーほら! ソーマくんが俯いてハーフコートの裾をぎゅっとしてるし! もぉー! お前らは自動シリアス変換機かよ!? やめなよそういうの!
「貴方の奥さんもそういう人だったんですか? 『ソーマ』って名前をつけたのに?」
「──、」
あ。ヨハネスさん固まった。思いもよらない返しだったに違いない。私を若干キレさせたからだよ!
ちなみに“ソーマ”っていうのは、神話に出てくる人に活力を与えるっていう神の酒の名称だ。希望しか込められてねぇってのによぉー……お前のバッドコミュが全部台無しにしてるんだよぉー……!
「……君が、何を知っている?」
「支部長よりは、ソーマのこと知ってる自信がありますよ!」
そこでソーマ少年の右手をとって引っ張った。
「行こ、ソーマ。今日も周回の時間だよ!」
返事はない! なんかぽかーんとした顔でこっちを見ている! 可愛いね! じゃあな支部長! この可愛い息子さんは借りていくぜ!
引き留める声もなかったので、そのまま支部長室を後にする。廊下を歩く間も、ソーマくんからも何も言葉はなかった。
エレベーターに乗り込み、扉が閉まったところで、ようやく背後から彼の声が聞こえた。
「……余計なマネ、しやがって」
「ごめん」
そこは素直に謝罪する。うん、故人のこと引き合いに出すのは禁止カードだった。原作知識持ちだろうと、そこは彼ら親子にとって非常にプライベートな部分だ。でもさぁ、息子を化け物呼ばわりされる現状、アイーシャさんだって黙ってないと思いますよ!?
「……なんで、あんなこと言った。俺は……奴の言う通り、化け物だ。そんな奴に、なんでお前は……」
「君の在り方を決められるのは君だけだから、私はなにも言えないよ。でも、私はソーマが嫌ってるかもしれない力を、凄く頼りにしているのは事実だよ」
半人間にして半アラガミ。複雑な生い立ちは、部外者がどうこう定義できるものではない。今の彼は自分探しもできていない年頃なのだ。そこを導くのはシオ様の役目だろう。
「……なにが、言いたい」
「私はソーマの正体がなんであっても、周回に連れていくってことだよ!」
エレベーターがそこで止まる。ずっと握っていた彼の手をようやく放して、扉の開錠ボタンを押しながら、ちらっと後ろに顔を向ける。
「ていうか、もうソーマがいる前提じゃないと効率が悪いんだー……来てくれると助かるんだけど……、」
「……はぁ」
た、溜息! いい加減、周回に連れて行き過ぎたかなぁ!? だって貴方、幼少期時点でもう凄い有能なんだもの! 頼りがいがありすぎるんだよッ……!
「……世話が焼ける奴だな。仕方ない、やってやる」
「!」
ソーマがエレベーターから降りていく。すぐに私もその後を追った。
本当に……本当に良い奴だ……!!
▼
「っはぁ──……緊急任務、だるぅー……」
『アラガミ、殲滅を確認しました! お疲れ様です!』
翌日。
ツバキさん、リンドウさん、ソーマが別の任務に行っている間、私は緊急発令されたミッションに、一人駆り出されていた。
いやまぁ、任務自体はいいんですよ? アラガミ狩れるし。でも「緊急」ってのが良くねぇよなぁ? 今日予定していた周回スケジュールが崩壊だよ! 来るなら来るって事前に言っておいてよねっ! ちゃんと君たちのことも周回ルートに組み込んであげたのにさぁ!
「ヘリ、ヘリかもーん」
適当に言いつつ、帰投ポイントへと歩いていく。
場所は贖罪の街、郊外だ。あんまり来ないところなので、薄気味悪い。ゲームで慣れてないエリアだと、なんだか落ち着かないなぁー……
「────ん?」
違和感に気付いた時には、
「……あ?」
ドンッ、とすでに銃声が聞こえた瞬間で、左肩に一撃をもらっていた。
──え、銃声? 銃!?
「なん……、ッ!?」
気配がした方向を向いた瞬間、脇腹に衝撃が入る。
激痛に立っていられなくなり、うつ伏せに倒れ込んだ。
……体の中から、体温が、血が流れていく。
いたい。え、痛い。痛いっていうか──何事ッ!?!?
『アキさん!? 今の音は……!? 何があったんですか!? アキ──』
ガッ、と頭を蹴られ、通信機が外れていく。
上に目を向けると、そこには男が一人立っていた。……腕輪はない。武装した一般人? 難民? なにこれ、え? なんですかこのイベント──ッ!?
「……ようやくだ。ようやく見つけることができた……神を喰らいし罪深き者よ……我らが『神』の生贄になるがいいッ……!!」
「…………ぇぇ……」
すいません、この時世に宗教勧誘はちょっと。
恐怖と混乱よりも、呆れが勝ってしまう。……が、周囲に近づいてくる人の気配の多さに、自分が思っている以上にヤバげな状況に置かれてるらしいことに、実感が伴ってくる。
2066年、2月。
新年明けてから半年もしない内に──私のMIAカウントが、また一つ更新された。