転生神機使いは狩り続ける   作:時杜 境

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彼女と彼の災難 #終

 率直に言って、傷の具合はかなりヤバかったらしい。医務室で目が覚めたら、「どうして生きてるんだい君? 凄まじい治癒能力だ、実に興味深い」なんてサカキ博士に苦笑いされた程度には。

 

 回復錠……やはり回復錠は全てを解決する……ゴッドイーターはバイタルさえあれば何とかなる存在のようだ。

 

 あの後、カルト教団どもはフェンリルの人らに拘束、連行されたようだ。芋づる式に潜入工作員も大人たちの手で残らず摘発されたとか。なお、あの廃倉庫にいた難民たちの方については何も聞いていない。どうか無事であれ、と願うだけだ。

 

 私の傷は三日で完治した。ただし大事をとって、五日間の出撃禁止令が下されてしまった。

 ってわけでヒマなので、自販機前で発見したソーマにお礼を言いに行くなどする。

 

「回復錠ありがとねー」

 

「ぶっ」

 

 飲んでいた缶ジュースをソーマが吹き出した。大丈夫か、と背中をさする。

 しばらく咳き込んだ後、口元を拭いつつ、こっちを一向に見ないまま彼が言った。

 

「……お前、お、覚えて……」

 

「ああ……流石に一生覚えてられるぐらいのインパクトだったからね、あの登場の仕方は。やっぱゴッドイーターはヘリから飛び降りるものだよ。めちゃくちゃカッコよかった、まるで主人公みたいだったよ!」

 

「……仕事をしただけだ。お前こそ、次からはもっと周辺を警戒しろ……」

 

「反省してまーす……」

 

 それは痛感した。緊急だったとはいえ、単騎出撃のデメリットを。まさかこの身をもって、こんな形で味わわされるとは……!

 

「周回がしたいなら俺を連れていけ。背中ぐらいは守ってやる」

 

「……、もう嫌いじゃない?」

 

「──」

 

 グシャッ、とソーマが空き缶を握りつぶした。握りつぶした!? 地雷踏んだ!?

 

「き…………嫌い、ではない……お前の実力は……認めている。ただ、この前みたいな事があったら、面倒なだけだ」

 

「それもそっか。じゃあ、末永くよろしくお願いします」

 

「他にもっと言い方があるだろッ……!」

 

 なんかキレられたし。これから末永い周回を共にするんだぞ? これくらい丁寧に言わなくてどうするというのだ。

 

 しかし彼、本当に面倒見が良い性根をしている。とりあえず「背中を守る」発言が来たってことは、原作終わり直後……くらいには、好感度も上がってくれたのだろうか?

 

「っと、そうだ。ソーマ、音楽好きなんでしょ?」

 

「なんで知って……」

 

「この前、部屋に行ったときにCDとかコンポがあったから、そうかなと。それにヘリの中でも偶に曲、聞いてるじゃん?」

 

 証拠材料を挙げて不自然さを打ち消しながら、私は一枚のCDが入ったケースを手渡した。

 

 中身は「Over the clouds」! この間、怪しい露店で見つけたものだ。他にもこの世界にまつわるCDが売ってたので買ってしまった。以来、その露店は見てないので、もしかするとアレは転生者御用達の不思議店だったのかもしれない……

 

「これお礼にあげる。私のイチオシの一曲でございます。私はこのアレンジバージョンを持っているので、お気遣いなく」

 

「……お前、曲なんて聞くのか」

 

「それなりには。報告書作る時とか作業用BGMに流したりするし」

 

「ふうん……」

 

 そこでソーマがCDを受け取ってくれる。おお、なんか感動だ。

 

「まぁ……暇が出来た時にでも聞いてやる」

 

「あ、気に入らなかったら、返品はいつでも受け付けてるからね?」

 

「誰がするか」

 

「………………うん?」

 

「……あ」

 

 今の言葉の不可解さに唖然となっていると、ハッとしたソーマがフードを深く被り直しつつ、足早に目の前から歩き去っていった。

 

 か……可愛いじゃねぇかよ…………

 

   ▼

 

 ──やがて二月も終わり、春の季節になって、私の視界には新たな登場人物が出現するようになっていた。

 

「うーん、これも悪くないですけど、なんか物足りませんよねー。なんかパッとしない自販機です。もっとこう、飲む人にガツンと来るような、そんなスペシャルな商品が必要だと僕は思いますよ」

 

「安心しなよレン君、そのうちサカキパパが凄いのを作るから」

 

 私の言葉に、ほんとですか、と左横で目を輝かせる神機の精霊。否──

 リンドウさんの神機の精神体にして幻覚存在、レン君。

 

 ベテラン区画の自販機前だった。二人で休憩席に腰掛け、こうして空いた時間には彼と偶に話しているのが最近の日常だ。

 

「それは楽しみですね。待ち遠しいですよ」

 

「開発も発売もまだ先だと思うけどねー……」

 

「それでも将来に楽しみができたのは良いことです。アキさんは未来、楽しみにしていることはありますか?」

 

「色々あるね」

 

 原作とか原作とか神薙ユウとかケーニヒスベルクとか。

 それに──シオ様とか。

 

 蒼穹の月、アーク計画、バースト編、第二のノヴァ。

 控えているシナリオイベントは多い。だが私の作戦上、物語はアーク計画で止まるだろう。

 

 シオ様を月になんか行かせない。目指すは完全無欠のハッピーエンド。

 

 そのためには神機さんの協力が不可欠となる。原理も理由も不明だが、神機さんは進化し続けている。戦いを重ねるたび、徐々に前よりも自分の動きが向上しているのを感じるのだ。

 

 ──これはなにか裏で知らないスキルが追加されている。

 

 確信を得たのは、なんか装甲が勝手にオートガードし始めた時だ。あれ絶対に神機さんがなにかやっている。無意識に身体が動いたのかもと思ったが、「ガードしない」と思いながら被弾してみたら自動ガードされたので、これ絶対になにかが起きている……!

 

 なんだかよく分からないが、勝手に進化する神機。

 破壊してないハズなのに、偶に消えるアラガミのコア。

 

 ……これを使って仮に上手くいってしまえば、私が思っている以上の変化を世界にもたらすことができるだろう。

 

「なにか楽しそうなことを考えている顔ですね。なんですなんです?」

 

「秘密でーす」

 

 ええー、とレン君が残念がってくる。

 本当に大事な計画は紙にもデータにも残さないものだ。支部長だって資料データを残さずに削除しておけば、リンドウさんに勘付かれることはなかっただろうに。本当の極秘計画なら名前も付けちゃいけないんだよ。

 

 と──そこで通路の向こうに気配がした。ソーマだ。

 数秒もしないうちに、ひょっこりと廊下の角から姿を現してくる。

 

「──アキ。ここにいたか。……誰かと話してたか?」

 

「ああ、イマジナリーフレンド」

 

「お前……大丈夫か……」

 

 本気で心配する顔をされてしまった。いや、大体間違ってはないんだがね。私にしか見えないフレンドっていう意味では。

 

「何かご用? 緊急任務? 緊急周回? 素材があと一個足りなかった?」

 

「なんでお前は俺がいつも用向きがあると思ってるんだよ」

 

「?」

 

「少し話しに来ただけだ。悪いか」

 

 ああ。

 ──支援特殊イベントか。

 

「お邪魔しそうなので僕は退散しますねー」

 

 と、レン君が席を立ってその場を後にしていく。

 ……缶、持っていったけど……あれ周りにはどう見えてるんだろ。少なくともソーマには見えてなかったらしいが……

 

 ガコン、と自販機から二回ほど音がし、缶ジュースを引き出したソーマが、一本こっちに投げてくる。ブドウ味だ。そういや彼の好物なのだっけ? これは原作知識だけど。

 

「……お前、好物とかあったか?」

 

「ん? いや、特に何も。研究所の外のものは大体美味しいし」

 

 トウモロコシばっかのアナグラ食生活だが、それだって違法研究所で出されていたものに比べれば遥かにマシだ。なんの肉かも分からんものをお出しされる毎日、あれは最悪だった。

 

「……悪い」

 

「もうほとんど覚えてない時代のことだから平気だぜ? たぶんソーマほど、私は重く捉えられてないだろうしさ」

 

「…………」

 

 黙り込んでしまわれた。そのまま彼はレン君の座っていた左隣に腰を下ろし、缶を開けて飲み始める。せっかくなので私も頂くことにした。

 

「これソーマの好きな味?」

 

「……まあ」

 

「あ、前にあげたCD、どうだった?」

 

「……、お前の趣味ってのが意外だった。ああいうの、聞くんだな」

 

 どういう印象を持たれているんだ。いやまぁ、この世界じゃあの曲、ゲーム主題歌でもなんでもないらしいから、私のキャラ性とはちょっと違うのかもしれない。こっちは単に二次元好きな元プレイヤーってだけなのだが……、

 

「あの曲になにか思い入れでもあるのか?」

 

「んー、そうだね……」

 

 なんと言えばいいのだろうか。

 この世界(ゴッドイーター)の曲だから好きなだけなのだが、理由として挙げるにはぶっ飛びすぎている。う、迂闊。ダミーの理由を用意しておくべきだったか……! いや、待てよ。

 

「…………昔の、ことを思い出す、気がするから……気に入ってる……的な……?」

 

「クソ曖昧じゃねぇか」

 

 グヌゥ。だってそうとしか言い表しようがないじゃんよ──!

 前世の生涯は死因以外さっぱり覚えていないが、ゲームをプレイしていた時の思い出は残っているのだ。主題歌を聞けば、当時のことを思い出せるから好きって感じだ。これ以上なく正確に言語化できていると思うのだがッ!?

 

「それ、前に言ってたトラックの悪夢と、なにか関係があるのか?」

 

 だぁ────ッ! 鋭い質問だな! 流石は未来の研究者だよ! そうか、そこも辻褄合わせなきゃならんかッ! うっかり口を滑らせてしまったのが余の敗因よ──! いやまだ巻き返しのチャンスはあるッ!

 

「────さぁ? よく分かりませんね……」

 

 秘技・白を切る。黙秘権というやつだ。

 前世の死んだ記憶があるとか誰が信じるんだよ……

 

「……外でフェンリルのトラックが走れる範囲には限りがある。だがゴッドイーターになる前にそんな衝突事故に遭っていたら、まずお前は生きていない。つまり轢かれたとしたら、()()()()()

 

 淡々と考察を述べるソーマの声に顔が引きつる。

 

「お前が渡してきたCDの作曲年代はアラガミ発生以前だった。それで『昔を思い出す』ってことは、お前にはその時代で生きていた頃の──()()ってやつの記憶でもあるんじゃないのか?」

 

 …………返す言葉に完全に詰まる。

 あっぱれ、としか言いようがない。賞賛する他にない。マジかお前。

 

 舐めていた。どこかで舐めていたのかもしれない。そう、彼こそはソーマ・シックザール。あのヨハネス・フォン・シックザールの嫡子であり、将来は研究者になる未来が確約されている頭脳の持ち主──!

 

 スゲ────────!!!!

 こんな雑談の片手間でッ!? 僅かな私の証言と証拠を元に、真実の一端に辿り着いただと──ォ!?

 

「…………ソーマくんって、実はとても物凄く頭がよい……?」

 

「馬鹿にしてんのか?」

 

「いや、褒めてる。というか戦慄している。凄い、こんな大真面目な推測から理解してもらえるなんて、思ってもみなかった……」

 

 さ、流石に、元プレイヤーだとか原作知識だとか未来のことだとかは、言えないがッ。

 にしたって凄い。びっくりする。こんなに論理立てて思い至ってくれるとは…………

 

「お前の無茶苦茶加減は今に始まったことじゃねぇだろ。その程度ぶっ飛んだ事実があったとして、誰が驚くんだ?」

 

「マージでー……? そうなのー……?」

 

「少なくとも俺は疑問に思わない。むしろ納得するぐらいだな」

 

 力強い信頼だぁー……周回ってそんなに異常行動か? ちょっと人より素材に執心しているだけなのに……周回を終わらせるためなら、人生を賭けられる程度には頑張ることができるだけなのに……

 

「『前』のこと、よく覚えてるのか?」

 

「死に際だけはがっつりと……他は知らない……」

 

 プレイヤー時代のことを除けばな!

 

「……死んだ記憶があるのか」

 

「おかげで死ぬ事以外は大体スルーできるよ」

 

 その辺の感覚で助けられてきた自覚はある。一般人だった自分が、割とこんな殺伐世界で図太く生きられているクソ度胸は、間違いなく死の記憶があるからだろう。()()()()()()()を大前提とした違法研究所での生活も、それがあったから耐え抜けられたようなもの。

 

 おかげで一時期は自分が死者か生者か、分からなくなりかけたこともあったが、まあ、そこは昔の話だ。もう乗り越えている。生きていくと決めた以上は生者側だ。

 

「……それがこの前、潔く死にかけてた奴の台詞か?」

 

「うん、だからあの時ソーマが来てくれて助かったよ。呼びかけられてなかったら諦めてた」

 

 そこは本当に感謝しているのだ。来てくれたのが彼で本当に良かったと思う。

 今となっては周回数リセットが怖すぎるから絶対に死ねないし。

 

「……お前は、なんなんだ。なぜ必要以上に……俺に構う?」

 

 ……なぜってアンタ。

 そんなの……決まってるだろうがッ……!!

 

「私はソーマのファンだからね。こうして話せていること自体が嬉しいのさ」

 

「──は」

 

「おかげで毎日が楽しいし、飽きないし。私みたいなのに仲良くしてくれて、ありがとうね」

 

 まるで攻略用に用意していた台詞のようだが、全て本心だ。

 画面越しだった存在が目の前にいる現実からして、もう楽しすぎるのだが、更に会話できるなんて夢のようだ。これに感謝しなくて他にどうすればいいと言うのだ!?

 

「……本気、で言ってるのか。お前だって、俺の出自を知らないわけじゃないだろ……俺は……!」

 

 彼の出自──マーナガルム計画。

 オラクル細胞を人の遺伝子に組み込み、アラガミに対抗できる人間を創造しようとした計画だ。

 それは母体から胎児へ、P73偏食因子を間接投与することで行われ、結果──被験者である女性と十数名の医師、看護師、科学者が事故死した。

 

 生存者はサカキ博士から送られていた「お守り」を持っていたヨハネス支部長、そして彼とアイーシャ・ゴーシュの間に生まれたソーマのみ。

 

 故に彼は自らを呪っている。母親を、関係者たちを殺しながら生まれてきた自分を。

 しかも巡り合わせ悪く、常人離れしたソーマの能力に、周囲は「化物」だの「忌み子」だのと言う始末。そしてそのメンタルケアを一切放棄しているヨハネスパパァ! 実子にアラガミ呼ばわりはマズイですよ!

 

 ──そんな感じの環境で育ってきた彼にとって、私は異物だろう。

 謎の信頼! 謎の友好! まさに意味不明存在。ドン引かれても仕方ない。

 

「……まぁ、ターミナルで把握はしておりますが、」

 

 ビクリ、と彼の身体が揺れた気がした。

 

 いやホント、なんでターミナルに個人情報載ってるんだろうな? プライバシー君、息してる!? まぁ、現在のゴッドイーターの基礎となった彼関連の情報は、研究資料として一般公開されてるんだろうけどさぁー。マジで悪循環の一つになってると思うんデスヨネー。

 

「でもそれ、別に私がソーマと関わらない理由にはならなくね? 私自身がソーマを信用して、頼るのは私の自由の範疇でしょ?」

 

「……っ、」

 

「好きにやってるだけだよ、ホント。君の過去と私の意志、これは別々の話だ。異論ある?」

 

「なんッ……、っ、恨んでないってのか!? 大体、偏食因子なんか見つからなければ、お前が研究所に攫われることもなかったはずだろ……!」

 

 オァン?

 なーんか食い違うなぁ、と思っていたが、そこで葛藤されていたんですか。

 

「恨みがないわけではないよ? でもそれ、私がフェンリルの研究者や支部長や、サカキ博士に向けるのはお門違いでしょ。私の恨みの対象は、あの研究所で散々好き勝手やってくれたカス共にだけだよ。そいつらももう死んじゃったから、復讐のしようがないし……というか、そんな無駄なことに時間を使うくらいなら、周回することに使いたいよ」

 

「────、」

 

 席から立ち上がりかけていたソーマが、ストンと座り直す。缶ジュースを握り込み、俯き続けて、情報を飲み込んでいるようだった。ちゃんと伝わってくれていればいいのだが。

 

「……じゃあ……、なん、だ。お前……本当に何も考えずに、今までを過ごしてきたってわけか…………?」

 

「人を脳死廃人周回者のように言わないでくれるか? 心外だぞ」

 

「なんだその概念は……どこにキレてんだよ……」

 

 はあああぁぁぁぁ──、と深く──深く深く、ソーマが息を吐き出す。

 どうやら知らないところで凄い思い悩んでいてくれたらしい。やっぱ君、面倒見よすぎやって。色々と考えすぎやって。ひとまず空いていた左手を伸ばし、フード越しにその頭を撫でてみる。

 

「……何しやがる」

 

「色々と考えてくれていたらしいから、ありがとうなー、の意を込めて」

 

「………………」

 

 しばらくすると、ぱしっと手をはたかれる。ですよね、二度とやらない。

 なんて思っていると、おもむろに、おもむろに? 彼が被っていたフードを脱いだ。

 意図を理解しかねて停止していると、青い目がギロリと横目に睨んでくる。

 

 ……が、拒絶の眼差し、ではない、気がする。

 おそるおそる、もう一度その頭に手を触れて撫でてみると、視線を外される。えっ何、デレ期ですの!? でもここで調子に乗って撫で過ぎたら二度とさせてもらえない気がするので超超超自重しつつ慎重に、しっかりと、人生最後のチャンスと思いながら撫でさせて頂くッ……! わー! 髪サラサラー!

 

「……もういい。お前、撫で過ぎ」

 

「ハイ」

 

 素早く手を引っ込める。すると、なんか恨めし気に視線を向けられてしまった。すいませんすいません! 撫で過ぎてすいません!! でもありがとうございましたッ!! 転生した甲斐、有りッ! くっ……ソーマ・シックザール、私をショタコンにする気か……!?

 

 と、内心で打ち震えていると、髪先を弄られた感覚がした。

 ……ためらいがちに。人慣れしていない少年が。指先でこっちの髪をつついて、おられ、る。

 ──貴様本当にショタコン量産協会とかからの刺客なのかッ……!?

 

 見てられなかったので伸ばされていたその右手、腕輪の下辺りをがっと掴み取る。

 

「な、」

 

「違う。もっと大胆にやれ」

 

「!?」

 

 その時ソーマ少年は見ただろう。職人の目になっている異様な雰囲気の少女の様子を。

 ぐぐぐっ、と手を引っ込めようとする力を引っ張り返し、無理矢理に頭に乗せさせる。ガッと腕輪が側頭部に当たったが無視した。なにをどうしていいか分からないのか、少年の手は若干広げたまま固まっている。撫でられる、というより完全に撫でさせる状態で数回、手の平を頭に押し付けて往復させ、ぱっと解放した。髪がぐちゃぐちゃになったが、──この上なく満たされていた。

 

 はっはっはっは。

 めっちゃ恥ずかしいなコレ。死のうかな。

 

「……」

 

「……三十点」

 

「は!?」

 

 照れ隠しに正直な点数などを呟くと、ソーマ少年から愕然とした声がする。うるせぇ。こっち見んな!

 

「……お前、まさか、照れてんのか? 自分からやっといて……」

 

「撫でさせてくれた正当な報酬を支払っただけですがー。そっちこそもっと有難がれよー。金とるぞー」

 

「横暴すぎるだろ……底抜けの考えなしだからそうなるんだ」

 

 クッソ、一本とってやった、みたいなドヤ顔してきやがる! 可愛いね!! もっと撫でてくれない!? クッソォ! 本能が! 欲望が! 新たな扉がッ! 鎮まれッ……!!

 

「ま、まぁ、これで大体私についての理解は深まっただろ? 今度からはもっと気楽に関わってくれよな! 誰かを殴りたくなったら私を頼るといい、一緒に周回に行こう!」

 

「……そこは受け止めるとかじゃねぇのかよ……」

 

「君の拳は受け止めきれる自信がないので無理です。破壊衝動は素材のために尽くしましょう」

 

「どの口で自信がないとかほざきやがる……」

 

 はぁ、と疲れたように溜息を吐いたソーマは、缶ジュースをあおる。

 私も先ほどの出来事を若干記憶から抹消しつつ、少しずつジュースを飲み進める。うん、アナグラ産にしてはこれ、割といける。

 

「…………ついでに訊くんだが、お前……」

 

「んー?」

 

 しばらく迷うような沈黙と口にするのを葛藤するような無言の間があってから、ソーマは次にこんなことを言ってきた。

 

「……将来の、目標ってなんなんだ」

 

この周回を終わらせること

 

「ゴッドイーターとしての目標の方じゃねぇ。……お前の個人的な方の……」

 

「個人……?」

 

 個人的な目標??

 ……だったら、神機さんの最終強化とか、シナリオクリアとかって話になるだろうか。転生者として生まれた以上、私が示せる価値は終末捕食をどうにかすることくらいだし。

 

「……、………………気になる奴、とか、いないのか…………?」

 

「アバドン君」

 

「誰」

 

 即答した。速攻でツッコミが返ってくる。声の調子からして素のようだった。

 ふっ、と笑った私は、あの愛らしいフォルムを夢想しながら説明することにする。

 

「アラガミの一種だよ。都市伝説の個体でね、地面をぷかぷか浮いてて、そしてとにかく逃げる。人間に攻撃はしてこない妙な奴なんだけど、そいつを狩ると確定レアドロップするって話さ」

 

「…………いや、聞いたことないが……」

 

「まさにゴッドイーターたちの夢と浪漫と理想の詰まったアラガミだよ。早く会いたくて仕方がないんだ。なんか魚みたいな形の奴でね、ギャピギャピ鳴くんだってさ」

 

「本当に心当たりがないんだが」

 

「都市伝説だって言ってるんじゃん? でもアラガミってなんでも有りだからなぁ、割と本当かもよ?」

 

「………………、」

 

 あっ、ソーマが額に手を当てて頭痛をこらえる表情をしている! 信じていないなコイツ? 貴重な未来の情報やで! 今から注目しておくんだな!

 

……そうじゃない……つか、結局お前は俺のこと好きなのか違うのかどっちなんだ……

 

「…………」

 

 ざーっと脳裏に、攻略開始時からの彼との数週間の思い出が駆け巡る。

 

 出会えた時は舞い上がった。メールを初めて送る時は緊張した。一緒に出撃できて楽しかった。話しかけてきてくれて嬉しかった。周回に付き合ってもらって有難かった。起こしに行った時に拝見した寝顔のギャップにはやられた。笑った時の顔は可愛かった。メールをくれるようになったのは夢のようだと思った。訓練に誘ってくれた時は心が躍った。

 

 死にかけていたところを助けられて、元プレイヤーとして惚れ直した。

 前世の記憶なんて到底信じがたい事を考察で言い当てられて、怖かったけども、少し楽になった。

 

 

 ……普通に好きだが?

 

 

   ▼

 

 やがて、私の出張命令が下された。

 

 私ってP73偏食因子持ちだったんだって! ヘエー! 支部長から特務だよ! 欧州行ったら向こうで特異点探してね! 嫌ーッ! ロリッカちゃんだ! 可愛い! 時代を先取りしすぎた新型神機に神機さんがバージョンアップ! やったぜ! サカキパパサイコー! 兵種がなんか強襲兵から殲滅兵に変わってたけどこれなに!?

 

 ──とか、諸々そんな話があったけど、それはまた別の話。

 

 

「ソーマただいまー!」

 

「おかえり」

 

 五年後。

 久々の再会の直後、反則の合法無限周回ことMIA周回を断行するのが私だった。

 

 

 

▼彼女と彼の災難

Fin

 

 




ソーマ・シックザール(12)
 いちいち友好的だわ毎日メール送ってくるわ、なんか自分の陰口止めてくれてるわ、突き放すためにメール停止を頼んだものの周回に連れていかれ実父に目撃されて散々だわ、人として扱ってくるわ、距離感が偶にバグるわ、一緒にいて割と楽しいわ、そのくせ自分に無頓着すぎて目が離せないわ、いざ踏み込んでみたら思惑なんてゼロだし、メール一つ返すのに一晩かかるし、ハグで思考全部飛んだし、訓練一つで喜びすぎだし、同胞って知らずに関わってきてたらしいし、ちょっと目を離したらMIAになってるし、死にかけてるし、本気でマジでお前ふざけんなだし、CDなんか初めてもらったし、死んだ記憶があるなんて想像つかないし、ちゃんと頭撫でればよかっただし、もうめちゃくちゃ。

 なお報われるのは五年後(+二年)の模様。強く生きろ。

どんな番外編がいい?

  • ウェディングどこいった?
  • 番外スペクタクル!ウイニングランしようぜ
  • アンケートに全部がないから周回してくる
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