転生神機使いは狩り続ける   作:時杜 境

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Episode

《▼彼女が帰ってきた極東 時系列:13-14話》

 

 ──極東に戻ってきてから、ただ一つだけ、納得いかないことがある──

 

「……ソーマ。なんでフード被ってないんだよ」

 

「は?」

 

 朝の食堂である。

 たまたま通路で出くわし、そのまま彼との相席中、不平を口にする。

 

 そう、フード!

 その要素がなんだというのか? 否、ソーマ・シックザールといえばフードはキャラデザに欠けてはいけない要素の一つッ! シオ様にも匹敵する重要なポイントである!!

 フードを被ってないソーマなど眼鏡をかけていない眼鏡キャラと同義。被らなくなるのは三年後であるハズだ。それなのになぜ! 被っていない!?

 

「いや別に……邪魔だろ」

 

「おっま……! それは絶対にお前が言っちゃいけないやつだろがぁ! もっと自分の需要を自覚しろよ! フード被ってないソーマなんてただのソーマだよ!」

 

「いや俺は俺だが」

 

「なんのためにフード付きコートを着てるんだよッ! フードさんが泣いてるよ! 被れよ! ホラ!」

 

 手を伸ばしてフードを被らせる。

 うむうむ、良し良し。これだよこれ! あー、しっくりくるわー。

 

「邪魔だ」

 

 ぺいっとフードを脱いでしまった。

 こいつ……! ゲーム内では絶対に脱げない鉄壁フードさんを、こいつ……!?

 

「もっと大事にしなさいよ……! 神機に次ぐ相棒だろ、ソーマのフードさんは!」

 

「知らんが」

 

「被れー! 被れよぉー!」

 

 

 ──そんな朝の騒ぎを、遠目に見る別のテーブル席が一つ。

 

「なぁユウ……俺らはなにを見せられてんの?」

 

「珍しいよねー。あのソーマが笑ってるよ」

 

「アレ、アキさんに被せてもらうために脱いでるよな、絶対」

 

「分かりやすい奴だよねぇ……」

 

 

 

《▼青年の憂鬱 時系列:16話》

 

 ──楽園はここにありき。

 

「ソーマ、ぎゅー!」

 

「引っ付くな、暑苦しい」

 

「でもアキがみたいっていってたぞ?」

 

「お前……!」

 

 シオ様の部屋にて。

 角隅で空気に徹している私の方をソーマが睨んでくる。あぁん? なんだよ、なんか文句でも?

 同じ部屋! 同じ空間! 同じ世界! 手の届く場所にいる、この奇跡の瞬間を! 最大限に活かす他に、何をしろというのだァアア──!?

 

「なんだソーマ。まさかシオ様が嫌、なんて言ったら許さねぇぞ……」

 

「だから、お前のその謎の執念は本当にどこから来てるんだよ……」

 

「シオ、アキのことも、ソーマのこともスキー! シオもアキとソーマがぎゅーしてるとこ、みたーい!」

 

 ……尊き恩人様からのリクエストとあらば、聞かないわけにはいかん。

 ……が。重要な問題がある。

 

「シオ様……それは無理です」

 

「!?*1

 

 ソーマがびっくりした顔をする。お前、まだそんな理性があったのか!? みたいな顔だ……ん、ちょっと違う? なんかショック受けてる? あ、「無理」って言ったのは普通に傷ついちゃったかな?

 

「なんでー?」

 

「世の中には条例というものがあるのです……あと世の中はセクハラとかパワハラには厳しいのです……ていうかそんなことしたら私が死にます……社会的に」

 

 未成年に手は出しません。え、なに? 成人年齢引き下げ? 知らんし。私の常識では十八歳はまだ未成年だぁ!! それに彼にハグは二度とやらないって自分に誓ってるんだよ! 口をきいてくれなくなるからね!

 

「えー。でもふたりとも、スキー! なら、おっけーだとおもうぞ? いやなの?」

 

「取り扱いが難しい問題なんですよねぇ……立場上は上司と部下、って関係だし。ラブコメディ的な緩い時空じゃないとなぁ」

 

「んー……でも、ユウとアリサはおさななじみで、くっついてるぞ! アキとソーマも、おさななじみ!」

 

「幼馴染の形も多種多様ですよ。くっつかずにバウムクーヘンエンドな男女だって珍しくないっす」

 

「ッ……!!*2

 

 なんかソーマが胸を押さえ始めている。どした? 発作?

 

「アキは……アキは……ソーマのこと、キライ?」

 

「嫌いじゃないですよ! 頼れる周回の仲間です。でもヒトの関係とは複雑なのです。仲が良いからこそ生じる問題、というやつですね」

 

「……こむずかしい」

 

 むう、シオ様が頬を膨らませる。かーわいい。

 ──一方でソーマくんは両手で頭を抱えて俯いている。本当にどうした、君?

 

「と、そろそろ周回の時間なんで行ってきますわ。ソーマ、後はよろしく」

 

「……待て。俺も……」

 

「今日のシオ様係はソーマ担当でしょー。すっぽかすなんて死罪だからな。マジで」

 

「……*3

 

 釘を刺すと、そこで諦めてくれたようだ。うむ、君がいると周回はやりやすいが、シオ様とのコミュ時間を削ってほしくはないのだよ! というわけで今日も、出撃だー!

 

 

 ──悪魔が去った白い部屋には、少女と青年だけが残される。

 

「……ソーマ、大変だね。アキは全力で捕まえないと逃げちゃうよ」

 

「お前こんな時だけ流暢に喋んな……!」

 

 

 

《▼初恋テロ 時系列:22-23話》

 

 ……遂にコレが爆誕してしまったか。

 

「ふっふっふ……遂に完成を迎えたよ。構想十年、究極の嗜好品、人類の夢! その名も『初恋ジュース』! さぁアキ君、第一の試飲者として、是非ともその感想を聞き──」

 

「よっし、んじゃちょっと他の皆も巻き込んできますね」

 

 ピンク色の缶ジュースを段ボールごと頂き、私はラボにサカキ博士を取り残してその場を後にした。

 さぁ──テロの時間だ!!

 

 

 ──エントランスに行くと、そこそこのメンバーが揃っていた。

 ユウ、コウタ君、リンドウさん、ソーマ、それにタツミである。

 防衛班班長、大森タツミ……アンタ、やっぱりこの洗礼を受ける運命にあるんだな……

 

 もはやテロを行えと天が言っているとしか思えない。ニヤつきそうになる顔を全力で堪えながら彼らに近づく。

 

「よ、暇人ども。周回の合間に一息どうよ?」

 

「アキさん? なんスかその箱」

 

 段ボールを床に降ろし、中から缶ジュースを──初恋ジュースを取り出す。

 まっピンクなその色合いに、うぉ、だか、うわぁ、だのと恐れおののく声多数。怯えるには早すぎるぞ。

 

「ウチのパッパが作った新製品だよ。あの博士が構想に十年もかけたっていう至高の一品さ。お一つどーぞ」

 

 手渡しでサクサクと配っていく。

 フ、原作ではコウタ君がソーマとタツミにテロを行っていたが、今回は彼も初見らしい。しかもリンドウさんがMIAしてないので順当に巻き込まれている。阿鼻叫喚、間違いなし……!

 

「……なに? 飲まないの?」

 

「……怪しい」

 

「……どう考えてもあやしい……」

 

 リンドウさんとユウの疑念の眼差し。コウタ君とタツミも顔を見合わせている。勘の良いヤツらめ……!

 

「……お前がまず飲んでみろ。そうしたら考えてやる」

 

「えー」

 

 ソーマから缶を押し付けられたので、仕方なく受け取る。

 しょーがないにゃー。ここは一つ、先輩として手本を見せてやります、か……

 

 缶を開け、ゴクリと一口。

 

 これは……これが……! かの噂の初恋ジュースの味、かッ……!!

 

「……どうだ?」

 

 おそるおそる、感想を聞いてくるソーマにサムズアップを向ける。

 

「────クッソ美味ぇ。こいつは絶品だな。アナグラ史に残る嗜好品だと言わざるをえない」

 

「なんだと……」

 

 スマイル100%でレビューしてやると、警戒一色だったその場の雰囲気もいくらか和らいだ。

 

「おぉ、じゃあいっちょ飲んでみるか……!」

 

「だ、大丈夫かなぁ……」

 

「じゃあ皆、せーのでいこうか」

 

 それぞれプルタブを空ける中、ソーマに缶を返すと、ユウが「せーの」と掛け声する。

 ぐびっ。

 全員同時に缶を傾け──直後、

 

『う゛ッッ!?!?』

 

「あ、美味しい」

 

 ユウを除いた四人が床に崩れ落ちる。

 マジかよ原作主人公!! やっぱ主人公だわ!! 神薙ユウ、すげー!!

 

「ぉ、おま、お前お前お前ぇ……ッ!!」

 

「クッソまず!! ぐえぇぇ……!」

 

「うえっぷ……こ、これは……」

 

「ッッ……! ……!!」

 

 リンドウさんは恨み言にもならない声を上げ、コウタ君はまずいまずいと嘆き、タツミはうめき声を上げ続け、ソーマは言葉もなくこっちを睨みつけてくる。

 

 ──それに対し、私はフッと一つ笑い──

 

「ぐっはははははははハハァ!! ゲホッ、ごほっ、ゲホゲホゲホァ! 引っかかったな、引っかかってやんのー! ぐははははは、ぐはっ、げほ、おえぇ、まっず、うぇぇぇ…………!」

 

「一番ダメージ受けてる!? 涼しい顔してたのに!?」

 

 コウタ君のツッコミを横に、私も勢いよくその場に倒れ込む。

 ふふははは、流石は原作公認の殺人ジュース……! 甘酸っぱさとほろ苦さを混ぜ込み、全てを阿鼻叫喚の渦に叩き込む、この世のカオス……! 一口飲んだだけでバイタルとスタミナが一気に持っていかれたぜ!

 

「誰かを騙すには……まず自分からッ……! 何事にも全力投球! それは周回だろうとテロだろうと変わらな……ぐぇぇぇぇ」

 

「お、お前、そこまで……」

 

 ソーマから戦慄する声が聞こえる。くくく、見たか、これが転生者魂……見えている運命(シナリオ)に立ち向かう我らが生き様……! うん、だいぶ適当なこと言ってるけど。

 

「え、そんなに変な味してます……?」

 

「マジかよユウ……お前、大丈夫なの……!?」

 

「いや正直、アリサの料理よりはマシ」

 

 納 得 。

 流石は主人公だったわ、ヒロインのメシマズで鍛えられてたんなら納得しかねぇ。でも初恋ジュースに対抗できる料理って、なに……?

 

「皆、大丈夫? はい回復柱」

 

 ユウがその場に回復柱を出し、それぞれゾンビのように這ってバイタルを復活させる。しゅわー。

 仕上げに携行していたレーションをかじって全快しておく。いやぁ、転生危機一髪!

 

「ビールだ、ビール。俺はビールで口直ししてくる……」

 

「カノンからお菓子もらってこよ……」

 

 そう言ってリンドウさんとタツミがその場を解散していく。よほどキマったようだ。私もまだ頭がグラグラする。なんだよこの謎の状態異常は。

 青ざめた顔になりつつソーマも起き上がってくる。

 

「うぅっ……まだ後味が残ってやがる……」

 

「アキさん、ちゅーで消毒してやったら?」

 

「プラマイゼロだと思うっス……」

 

 今やったら初恋ジュース味確定だろ。甘さも消し飛ぶ特攻兵器だろ。サカキ博士、アンタの恋愛遍歴になにがあったっていうんだ。第二弾の失恋フレーバー、お待ちしています。

 

 

 ──その後。

 

「……シコウノ……ゼッピン……!!」

 

「「……マジか」」

 

 面白半分でシオ様にも捧げたところ、とてもお気に召してしまった。

 にゅっ、と部屋の扉からサカキ博士が顔を出す。

 

「我が新製品は、どうやらアラガミに近ければ近いほど旨みを感じる面があるようだねぇ……これで逆説的に、身体がアラガミに近い君たちは、『人間側』であることが証明されたわけだ」

 

「もっと他になかったんか?」

 

「んな馬鹿な……」

 

「わぁ、すっごく美味しいですねこれ! 買い占めちゃおーっと」

 

 そう言ってレン様がソーマの横を通り過ぎて部屋から飛び出していく。

 初恋ジュースは人かそうじゃないかの境目を見分ける聖杯なのかもしれない。

 胡乱な仮説が成り立ったところで、今回のオチとしよう!

 

 

 

《▼それからの話 時系列:2071年》

 

「気になるあの子は救世主……」

 

「もうアラガミ化して素材にならないとフラグ立たないかもってマジ……?」

 

「殴り倒すぞ」

 

「やっぱツンデレの皮被ってるのがマズイんじゃないの? 僕はその辺、アリサに鍛えられてるからプロフェッショナルって自負はあるよ? うん。もっと分かりやすいデレを見せないと一生気付かれないんじゃない?」

 

「いや、な? ユウよ、こいつもこいつで苦労しまくってんだわ。てか、ストレートなアタックは裏で結構してるんだわ。で、その上であの悪魔はスルーかましてるんだわ。俺もこんな小っさい時からあいつらを見てるけど、延々と現状維持ってるんだわ。あの悪魔……距離感を保つのが異様に上手いんだよ。ボロを出させない限り、超激ムズ案件なんだよ」

 

「うわ、鬼畜無理ゲー。アラガミより強いじゃないですか。じゃあもう、ソーマ君には手立てがないっていうんですか、リンドウ先生!」

 

「そんな事はない! ……ハズだ。たぶん、きっと。ま、流石のアイツも世界救って気が抜けてるだろうし、その隙にズドンとカマすのがいいかもな! 或いは、もうなりふり構わず押し倒すとか」

 

「うーん。押し倒したところで、どうにかなる相手ですかねぇ」

 

「お前だってアラガミがダウンしたら畳みかけるだろ? それと一緒だよ。これはもう狩りなんだよ、狩り。つまり俺たちの得意とするところだ、そうだろ? 速戦即決でやるのがいつもの戦法だが、本当の狩りってのは、『待ち』が重要なんだ……な、ソーマ?」

 

「うるせぇ……っつか、お前らはさっさとレポートを提出しろ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そろそろ、ケリつけねぇとな……」

 

 

 

 

 

*1
※背後から頭をブン殴られた程度の精神ダメージ

*2
※血反吐が喉までくる程度の精神ダメージ

*3
※既に死にかけ




 次回、告白編。
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