転生神機使いは狩り続ける   作:時杜 境

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汝、愛すべし/西暦2071年

 ──西暦2071年。

 荒ぶる神々によって喰い荒らされていた時代は終わった。地球には緑が、水が、生命が満ち溢れ、資源が循環するシステムが構築された。

 

 そんな世界が始まって数か月が経過した、ある日。

 

「アキさん! おめでとうございます!」

 

「ぬ?」

 

 今日も今日とて仕事の予定が詰まっているので、足早にアナグラの廊下を歩いていると、アリサちゃんから謎のお祝いメッセージをいただいた。なにごと?

 

「いや~、遂にというか、長かったというか……」

 

 て、その横にはリッカちゃんまでいる。手に持っているのは冷やしカレードリンクだろうか。彼女もまた、何やら感慨深げな目でこっちを見ている。なにごと?

 

「もう、そんなキョトーンとしてるフリなんていいですから! やっと、ソーマと付き合うことになったんですよね?」

 

「……ォ」

 

 ────それで大体、事情を把握した。

 変な汗が出てくる。なに、この謎の緊張。主人公になってしまう気分ってこういうこと? ユウの奴も苦労してんだな。

 

「……あー、あの。ちなみに、どこからそういう話を……?」

 

「? どこから、と言われても。今朝からアナグラ中はこの話題で持ち切りですよ。『ソーマ先輩に彼女がいる』って。まぁ、私はコウタから聞いたんですけど」

 

「そのコウタ君も、噂を聞いたに過ぎないらしいけどね。なんでも昨日、ソーマ君に告白した後輩の子がフラれちゃって、その断られた理由に、『決めた奴がいるから』って言ってたからだとか。十中八九、というか確実にアキさんのことでしょ、これ?」

 

 ソウカナー。

 そういう真実だったとしても、嬉しいけどさー。

 メタ的に考えればそれ、百億パーの確度でシオ様のことだと思ウヨー。

 

「いやぁ、良かったねぇ……ソーマ君が」

 

「そうですね……主にソーマが」

 

 お二人とも、しみじみとここにいない人を思っているようですが。

 うん。私たち、告ってもなければ付き合ってもねーよ?

 

   ▼

 

「で、いつ告白なさるんです?」

 

 出たなレン様くん。

 君が顕現してくるということは、どうせ恋話しようってハラか。てか、人の部屋で、しかもこっちの仕事中に顕現なさらないでください。クッキーを勝手に食べるな。

 

「いえいえ、誤魔化さなくて結構ですよ? 仕事、全然進んでないじゃないですか。ソーマさんが告られたって聞いた動揺が隠せていませんよ。やっぱりアキさんも恋する乙女なんですねぇー」

 

 いや、モブっ子に告られたことは別にいいんだよ。解釈通りだし。

 むしろあんなイケメンで優しい奴がモテない方がおかしいって。

 

「? では何に動揺して……」

 

 ──……いや、ね。

 もう周りでは“付き合ってる”って認識になってるじゃん? その影響でさぁ……行く先々で生温かい目を向けられていてね……罪悪感がすんごいの。

 

「ははぁ。やってもいないことを褒められるのはむず痒いことですよね。じゃ、さっさと実行に移して、噂を本当にすればいいじゃないですか。『嘘から出た真』、ですよ」

 

「いや、これは罠だ」

 

「罠!?」

 

 よく考えろ……この噂の出所がハッキリしないって時点で怪しい。コウタ君が発生源じゃないってところが余計に怪しい。つまり彼は協力者、共犯だ。噂は「外堀を埋める」手段に過ぎない、つまりこの噂の黒幕は──

 

「……そ、ソーマさん自身があえて流した噂だとでもいうんですか。周囲にそう認識させることによって、事実をでっち上げようとでも!?」

 

「いや……おそらくここまでの波及効果は奴も予想外だっただろうさ。自分たちがくっつくことで喜ぶ連中が多すぎた。今頃は向こうもラボで頭を抱えているかもな」

 

 読みの浅さは実にソーマらしい。研究者はともかく、黒幕は向いてないって。

 というか、「告白を断った」ってだけの噂で「付き合ってる」なんて結果まで引き寄せてるのは完全に噂の尾ひれというやつだ。ちょっと私を動揺させるだけのつもりのはずが、場をコントロールできずに死んでいる可能性が高い。

 

「あの、ちなみにメールの方はなんと?」

 

「…………メー…………ル……?」

 

「嘘でしょ!?」

 

 レン君に言われて初めて気付く。

 ……メール。アレ? メール……そういやしばらく、書類とばっか向き合っててターミナルを触ってなかったな……ちょっと確認するか……

 

『ソーマ・シックザール

 件名:時間とれるか?

 本文:少し話したいことがある』

 

『ソーマ・シックザール

 件名:

 本文:忙しいのか?』

 

『ソーマ・シックザール

 件名:

 本文:そんなに急ぐ話じゃないから気にしなくていい』

 

『ソーマ・シックザール

 件名:

 本文:ちゃんと外に出てるか?』

 

『ソーマ・シックザール

 件名:噂のこと

 本文:断っておくが「決めた奴」はシオのことじゃないからな』

 

 ……以上、直近五日分のメール。てか最後のは一時間前にきてた。

 …………レン君と共にターミナルのメール画面を前に、言葉が出なくなる。

 真顔になった人外の少年がこっちを見てくる。

 

「アキさん、貴方は有罪(ギルティ)です」

 

「深読みしたのは謝るけどさぁ──!!」

 

 こんな確定演出しらねぇ! なんだよ、本当に告られてたのかよアイツ! 色男! でもいちいちそこに限定して注意してこなくたってさぁ! で、何!? 話!? もうコレ、ほぼ言ってるようなもんだろ内容をよ!!

 

「こんなッ……こんな引っ張らなくてもいいのに……! 私の攻略ルートなんて三秒クオリティだぞお前……!!」

 

「いや、五、六年引きずってる人に対してその認識を期待するのは無理でしょう……」

 

「告れ告れって言われる方の身にもなれよそんなに言われたらもうどうやって告ればいいか分かんねぇよぉ────……」

 

「えっ、初心!? ここにきて!? 百戦錬磨の余裕あるお姉さんの面の皮はどうしたんですか、アキさん!」

 

「恋愛にそんなものは通じねぇよぉ! ソーマもソーマで私を過大評価してるんだよ! 刷り込みってやつか!? そういう印象が強すぎて難攻不落、ってイメージになっちゃってるかもだけど、リアルな恋愛はガチの初心者だぜこっち!?!?」

 

 私の攻略なんてなぁ、「お嫁になってー」「いいよー、おっけー」、の秒殺ルートなんだよ! こんなに引き延ばすようなものじゃないの! おまけゲームでサクッと終わるようなものなの!

 

「じゃ、とっとと話に応じてあげればいいじゃないですか。なんにせよ、ソーマさんが現在進行形で胃痛に倒れてるのは間違いなさそうですよ?」

 

「それこそトラップだろうがぁ! 部屋に行った瞬間に終わりだよ!!」

 

「お、終わり……? 両想いでハッピーエンド、じゃないんですか?」

 

「浅い! そこで起きる展開は三パターン考えられる。『一、告るまで出られない部屋』、『二、落とされるまで出られない部屋』、『三、既成事実』! どうだ、おっかないだろう!!」

 

「薄い本のネタかなんかですか?」

 

 これは大真面目な恋愛考察なんだ、一刀両断しないでくれ。

 

「つまり……これは恋愛頭脳戦、というわけですか。あー、なんかそういうアニメ、ターミナルのアーカイブにあったなぁ……」

 

「……これで分かっただろレン君。今の私の現状が」

 

「というと?」

 

もう詰んでるんだよこれ!!!!

 

 わっっ!! と両手で顔を覆う!

 

 恋愛頭脳戦……頭脳戦だぁ!? そんなん仕掛けられた時点で詰みだわ! 頭の良さでソーマに私が勝てるわけね──だろ!! こちとら今まで出し抜けてこれていたのは原作知識ありてのこと! 地頭だけで勝負しろだなんて、木の棒で魔王に挑めと言われるようなもんですよ!?

 

「このままメールを無視しようと、時間取れないと返しても詰み! いつかあいつはここに乗り込んでくる……! この部屋の防御機構を見ろ! 扉一枚しかないんだぞ! 蹴破られたらそこで試合終了だよ!」

 

「えぇ……いや、それなら尚更アキさんから告ればいいじゃないですか」

 

「……それはできない」

 

「なんでですか?」

 

「…………ソーマが、シオ様以外とくっつくのは……解釈違いッ…………!!」

 

「面倒な人だコレ──!?」

 

 というか、そのためだけに世界を救ったと言っても過言ではない。

 “私を攻略してる”って現状そのものが、最大のイレギュラーなんだよ! これ!!

 

   ▼

 

 かつて未来の誤射姫は言った。「喰われる前に撃て」、だと。

 

『幻代アキ

 件名:ソーマおひさー

 本文:さっきメールの存在を思い出したわ。ちょっとその辺までデートしようぜ』

 

 このようなメールを送ってみたところ、五分でソーマが部屋にやってきた。早すぎぃ! ま、一時間前に身支度を終えていた私に死角はないが。

 

 噂の影響か、外出はスムーズだった。お、デートですな、という視線を浴びつつ、やや居たたまれない心地になりながら車で向かった先は──贖罪の街だった。

 

 出撃で通い慣れていたそこも、もはや元の荒れ果てた面影はない。緑一色。草木が入り乱れ、現代終末のジャングルじみていた。

 

「ソーマは最近なにしてたー?」

 

「……勉強だ。親父の野郎、自分だけ博士と一緒にフィールドワークに行くくせに、俺には見習い呼ばわりで知識ばっかり詰め込ませやがる……」

 

「フィールドワークて」

 

「“楽園化”の現地調査だ、主にな……あのおっさん二人、いい年して子供みたいな目でピクニック三昧してるぞ。仕事は若いのに押し付けまくってな。正直気色悪い」

 

 ピクニックだぁ……!? そいつは周回の別名だろうがぁ! 本来の意味のピクニックでピクニックを使う奴がこの世にいてたまるかぁッ!? あ、あの野郎、生き残ったからって自由かよ……!

 

「アレ、復讐には何が一番効くと思う?」

 

「普通に親孝行するだけで脳破壊できると思うよ。食事にでも誘って息子っぽい言葉並べて泣かせたら?」

 

「ふむ……アリだな……」

 

 ヨハネス処刑確定。生存ルートに入った代償だろうか。同情はしない。

 歩いていくと、やがて見覚えのある廃墟を発見した。教会だ! おお、聖地よ! いつ見てもこのステンドグラスの内装はテンションが上がる。

 

「ま、何事も焦ることはないよ。ソーマも無理しないようにね」

 

「……アラガミと()り合ってた頃よりはマシだ」

 

「比べるもんじゃないでしょー、それはー」

 

「早くお前に見合う奴になりたいからな」

 

 後ろから聞こえた声に固まってしまう。

 

「救世主に釣り合うのは、骨が折れそうだが」

 

 …………完全にこっちが黙る番だった。

 君、いやお前、一体どこでそんなイケメン台詞を覚えて──

 

 

「好き……」

 

 

 ──静寂。

 あれ? 今なんか、誰か言いましたか?

 

「お前、今」

 

 振り向くと、目を見開いたままソーマが固まっていた。

 そこで私も、あ、と声を漏らす。

 

やば、言っちゃった……あー、ちがくて! ちが……違うんです!!」

 

 このバカ!! このトンチキ野郎!! 恋愛才能死滅生物が──!!

 

 だって無理じゃん! 自覚してからずっと言わないって……無理じゃん! 無理だろ! 推しを前にしたら「すき……」としか言えなくなっちゃう現象とかあるだろ! それだよ!! ああああクソバカ失言製造機、周回者が恋愛なんてやるもんじゃね──ッ!! 畑違いだよ!! 土に還って寝てろッ!!

 

「アキ、」

 

「待って待って待って違うじゃないですか。違うんですよ! えーあのー。特に他意はなくって!?」

 

 いや無い方がダメなのか!? どうなんだこれ!?

 

「百歩譲って聞かなかったことにしようぜ!?」

 

「嫌だ」

 

 わ──! ハグってこないで! 力、つよっ! あーあーあーあーあー! 好きになっちゃう! 好きだけど!! くっ、ころしてくれ! 誰かころせ! 私をころしてくれ! 転生する覚悟はできてる……!

 

「ぁ────……………………長、かった…………」

 

「そこまでッ……!?」

 

 溜息から万感の思いを感じる! すると、なんか冷静な顔になったソーマがこっちを覗き込んでくる。……な、なんです?

 

「……俺は、好きだの愛するだの、正直、よく分からない」

 

「……ん」

 

「だが、お前の……アキのいるところが、好きだ」

 

 ……それが彼なりの、最大限の告白か。

 けれども充分だ。飛び上がりたくなるぐらい、嬉し──

 

「なんて言うとでも思ったか」

 

 え。

 一転、イラついた顔になったソーマは、次に凄いこと言った。

 

好きだ。愛してる。アキがいないと無理だ。離れるな。喰わせろ。お前と一生、生きさせろ

 

 、?

 真っ白になる。なにを言われたか、一瞬理解が追いつかない。

 

「……なにを驚いてる。そんなに意外か? 俺はとっくに、お前が思っている以上に、面倒に拗らせてるぞ」

 

「え。え、いやあの、」

 

 ……ば、ば、馬鹿な……! いつもの熱血クールのツラはどこにいったんだ! 死んだか!? か、か、完全に捕食者の眼をしていらっしゃいませんか! ソーマさァん!?

 

「ちょ、ソーマらしく、ない……」

 

「じゃあお前の知ってる『俺らしさ』ってなんだ? クールで不器用で優しいって男か? 出自や境遇でそういうのは分からないって奴か? ──まあそうだろうな、そう()()()()だろうな。お前の前では、そういう風に振舞っていたんだから」

 

 振舞っていた……振舞っていた……?

 なにそれなにそれ、意味が分からない。なにそれなにそれ、超面白そう。なんだそれ、なんだそれ、ナンダソレ──!?

 

「お前が安心して懐くような外面を取り繕うのにどれだけ苦労したと思う? お前の理想通りの『俺』を壊さないよう、どれだけ気を付けていたと思う。お前が出張先で、誰も選ばずに帰ってきて、将来の相手が『俺一択』だって言いやがった時、どれだけ嬉しかったと思う」

 

「そ、そ、そーま」

 

「俺なんかを、同胞も、偏食因子も関係なく、受け入れてるって知った時、どれだけ救われたと思ってる……!」

 

 抱き締められる。強く、強く、強すぎるくらい。

 でも苦しいだけで、痛くはない。

 ──なにも。返す言葉なんて、思いつかなかった。

 

「……『神堕とし』なんて、よく言ったもんだ。おかげでこっちもこのザマだ、どうしようもない」

 

 微かに笑ったような柔らかい響き。……こんなに優しい声を出せるようになってたのか、君。

 頬に手の平が添えられる。再び此方を見つめてきた瞳には、隠しようもない熱が篭っていた。

 

……愛してる。ずっと、お前と一緒がいい

 

 それはまるで、溺れるような。

 熱烈で、必死で、絶大な、──愛の告白だった……

 

 ひぇぇぇぇ。

 ひゃぁああ。

 やばい、脳が処理落ちしている。なにこれ。しらないしらない。お、お、お、乙女になってしまうんですが──!?!?

 

……もうちょっと加減して……

 

「ハ、聞こえねぇな」

 

 嘘つけよお前!! どこで! 一体どこでそんな高等教育を受けてきたんだよ! 少女漫画か、乙女ゲーか!? おいどういう教育してるんだよフェンリルゥ!!

 

「俺で、いいか」

 

 ……その聞き方はズルすぎる。

 そんな真っすぐに言われたら、目が逸らせない。

 

「……うん。ソーマがいい……だいすき」

 

「……ん、よく言った」

 

 距離が近づき、髪が重なり、唇が触れ合う。

 ためらいがちに、慎重に、何度かそれを繰り返して、やがて左手に指を絡められる。静かに見つめ合ってるだけで、胸が満たされていく。

 

「で、他になにか言うことは?」

 

「……そんなに想ってくれて嬉しい。結婚を前提にお付き合いしてください!」

 

「もう結婚させろ、馬鹿」

 

「こ、恋人からでお願いします……」

 

「しょうがねぇな」

 

 お互い笑みを零して、また、どちらからともなく口づけを交わす。

 なに、時間はある。愛も幸せも──今は目の前の恋人だけに捧ぐこととしよう。

 

 

 

▼汝、愛すべし

Fin

 




アキ
 責任をとる以外の道がない。お前が始めた攻略だろ。

ソーマ
 六年の拗らせ。もちろん手遅れである。
 報復開始。多感な時期にあれだけ狂わされたらそりゃ狂うって話。


 これは告白編だからウェディング編は別にあるという。
 恋愛話を書く時の笑いと甘さの比率って難しいですね、ほんと。これでもかなり削ったんすよ。あ、重要な部分は反転で一つ。

 いやぁ長かったな…………
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