転生神機使いは狩り続ける   作:時杜 境

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悪魔の鉄槌事件/西暦2072年

 ──西暦2072年。

 原作シナリオから一年後となるこの年、特にこれというイベントはない。

 

 私による華麗なる原作破壊救世事件において発生した被害も、“楽園化”によってほとんどが帳消しとなり、一応は科せられた賠償金なんかも去年の内に完済して、フェンリル本部くんもグヌヌヌ顔である。

 

 やあ本部くん! 私を登用したいという話だったね。ならちょっと君んちでやってる実験記録、ぜーんぶ公表してみないかい? え、ダメ? そっかー。じゃあこの話はなかったってことで。

 ──ところで君んちの地下にある決戦兵器さぁ、浪漫性は評価するけど妙な改修をする前に、とっとと解体しときなさいね?

 

 なんてやり取りをメールでしてたら、「救世資金」という名の口止め料が振り込まれてきたので、有効活用させてもらっている。主にサテライト拠点なんかへの寄付金だ。ヨハネス支部長に言って、先んじて葦原技術者にお金と仕事を渡して、「女神の森(ネモス・ディアナ)」との協力を締結させたりもした。こいつをやっとけば、後々クレイドルの役に立ってくれるだろう。

 

 とか、まあ。

 

 2074年に繋がりそうな出来事といえば、これくらい。後は──

 

「キュルキュル」

 

「アキー。ひろっちゃった」

 

「ひろっちゃったかぁー」

 

 お外を散歩していたシオ様が、小さいカピバラを拾ってきた、ってことぐらいか。

 

   ▼

 

 シプレ、シルブプレ?

 ノーメルシー。プルガトリオへ還れ。

 

 というバーチャルなアイドルが登場するCMが流れることもなく、神機兵の研究なんかは、今のところ楽園化を推し進める作業機械になりそうだ、というのがヨハネスさんからの報告だ。

 

 悪いねクラウディウスパパ。あと全世界のアラガミ対抗兵器を必死に造っていた方々。たぶん今回の件で一番失業の危機に陥ったの、対アラガミに関して真面目に向き合っていた人たちだと思う。恨むならノヴァとかいうのを育成していたヨハネス君を恨んでくれ!

 

「キュルル」

 

「まだ小さい……まだ小さい……」

 

 アナグラのエントランス上階片隅には、飼育籠に入ったカピバラが一匹。

 シオ様が責任をもって面倒を見る、ということらしい。天国のグレードにまだ上があったのか。

 

 ラウンジはいつ出来るんだろーか。エリック辺りを巻き込んで、さっさと増築させようかな。あいつ財閥の跡取り息子だし。神機使い以外の仕事を投げても、割と有能にこなしてくれるだろう。

 

 ──さて。平和の象徴が増えたのはいいが、やるべき事は割と山積みである。

 

「民間人へのカバーストーリーの流布……各サテライト拠点への資金の根回しと人材補充……本部との交渉……リンクサポートデバイス用資金の確保……外部居住区の増築計画……アラガミ装甲壁の転用案……行政支援……福利厚生……暴徒鎮圧……」

 

 初恋ジュースをぐびっと一飲みする。……クッ、キく味だ……頭が冴えてきたような気がするぜ。

 

 「救世主」になってからというもの、回される案件が増えに増えた。計画をブッ潰されたヨハネスさんからの復讐のようだが、この立ち位置にいる私でないと円滑に解決できない問題も多いのだ。

 

 まだクレイドルも設立されていないが、最近アリサちゃんが独立拠点に関して勉強しているので、今からそちらに力を入れておいて損はないハズだ……問題は……

 

「救世主様ーッ! どうかお目通り願います──!」

 

 声が聞こえた瞬間、近くにいたゴッドイーターたちが駆けだしていくのが見える。民間人を装ってやってきた信者がまた紛れ込んでいたらしい。完全に無視して、私はエレベーターに乗り込んだ。

 

 そう、コレである。救世主信仰。まじで勘弁してほしい。

 

 連中のおかげで最近はロクに外出できやしない。美しい外の風景を散歩でもしたいのに、見つかると教祖になってくれだの、導いてくれだのと言ってくる。ホント勘弁しろ。

 

 仕事が忙しいのもさることながら、最近は──そう、全然ソーマと話せていない。っていうか、原作主要人物たちと、顔すら合わせられていない。シオ様は毎日部屋に来たり、お泊りしていってくれて、その瞬間だけが癒しだ。エンジェルセラピーである。

 

 エレベーターが止まり、扉が開く音と共に歩き出す。ジュースを持っていない方の手には今日の分の書類がある。それを眺めながら、どうやっつけるかを頭の中で構築していく。

 

「一番上は葦原さんを通して……そうなると、ついでに向こうの物流状況を確認したいな……」

 

「……おい」

 

「後は資金の根回し案件で……ヨハネスさんに投げて……いや技術者も必要か……」

 

「おい」

 

「うっ!?」

 

 よけて通り過ぎようとした人影に腕を掴まれる。振り返ると──あ、ソーマだ。

 

 ソーマだ!!?!?

 供給過多に意識を失いかける。

 

「なんだその顔は……お前、ちゃんと寝てるんだろうな……?」

 

「ちゃんと一日三時間寝てるよソーマかっこいい」

 

 あ、なんか可哀想なものを見る目になっている。素材ドロップで嘆いてた時にも同じような目を向けられたことがある。周回、嗚呼、周回。なんて懐かしい概念だろうか。もう二度としなくていいと思うと、気持ちも頭も軽くなるってもんだ。この天国にはシオ様とカピバラがいるんだ。もうなにも怖くない。とりあえず端末をポッケから取り出し、目の前の人物をパシャリとする。

 

「なんだいきなり」

 

「かっこいいをちょっと貰うわ……拝謁賜りありがとうございました……じゃ」

 

「待てって」

 

 そうだった腕掴まれてたんだった。普通に動けずその場に留まる。

 なんだい……? これ以上何をくれるっていうんだい……? 貰えるものなら、貰っておきますけども……

 

「今週の日曜、時間をくれ。研究材料を集めに行きたい」

 

「にちよう……」

 

「……無理なら、仕方ないが……」

 

 日曜。日曜。そうだ、今月の休みだ。この日だけは休日にと取っておいてもらったのだ……なんでだっけ? ああそうだ、久々に第一部隊も集まれそうだから、夜に皆でパーティしようっていう約束があったっけ──

 

「命を賭けてでも……行きます……」

 

「……そう気負うな」

 

「だって皆もいるんでしょ……?」

 

「デートに決まってるだろ」

 

「で……」

 

 じゃあな、とそこで腕を放され、ソーマがエレベーターの向こうへ消えていく。

 

 ……で?

 デート──……だと──……?

 

   ▼

 

 これが終わったらデートこれが終わったらデートこれが終わったらデートこれが終わったらデートこれが終わったらデートこれが終わったらデート……!!!!

 

 人生を賭けてでも……それこそ、この世界の結末(エンディング)を塗り替えようとしていた時と同じくらいの使命感を覚える。今回は転生者としてではなく──主人公ッ! として!!

 

 やぁってやる……! デート計画、やぁってやる……! このエクストラエピソード、乗り遅れるなんて失態は犯さないッ! 死体になってでも、這いずってでも行ってやる! この机にすら乗り切らなくなった、膨大な書類仕事を殲滅してなぁ──!!!!

 

「ちょこー。ゴハンだぞー!」

 

 そうこうしている間に、シオ様はカピバラのことを「チョコ」と呼ぶようになっていた。色から連想して付けたんだろうか。可愛いね……

 なお、適量の餌をやっているからなのか、未だにカピバラは変に巨大化したりはしていない。溺愛しすぎるツインテガールが来るまではこのままだろう。

 

「チョコっていうの、この子? 安直すぎない?」

 

 そしてシオ様の隣で飼育籠を覗き込んでいるのは、銀髪に薄緑がかかった裕福そうな少女だった。

 

 エリナ・デア=フォーゲルヴァイデ。エリックの妹ちゃんである。

 前はハジけた兄を心配するように……見守るように……いや、陰から応援するファンの如く……遠くでその後についていたが、最近はちょくちょく一人でアナグラにいる姿を見かける。というか、普通にシオ様と仲良しになったようだ。

 

「もっと可愛いのにしたら? エリザベスとか……」

 

「んーん、なまえ、シオがかってによんでるだけー。みんな、いろいろよんでるー」

 

「決まってないんだ……まぁ、いざ決めるとなると、ちょっと迷うかも……」

 

「コウタは『ノラミ』ってよんでた」

 

「それはない」

 

 平和である。なんだあのロリ空間。通りがかる連中、ほっこりした顔になってるよ。微笑ましい。

 と、そこでふとエリナちゃんがこっちを見た。

 

「あ、アキ教官!」

 

 てててー、とエリナちゃんが此方に駆け寄ってくる。あらかわいい。とりあえず頭を撫でる。

 

「よっす。今日も仲良しだねー」

 

「ふふん、シオのお世話は任せてください。ねぇ教官、お兄ちゃんを絶体絶命のピンチから救ったっていう必殺技、見せてください!」

 

 おいエリックお前どんなことを妹ちゃんに吹き込んでいるんだよ。

 

「いやぁ、手元に神機さんが無いのでちょっと。ははは……」

 

「そっか……あ、もしかしてオウガテイルを一撃で百匹葬り去ったっていう、“ブラックスマッシュ”も、神機さんがあれば……!?」

 

「お、おう。いや、そういうのは無我夢中で放ったやつだから、再現できるかは分からないけどね?」

 

「神機さん……早く見つかるといいですね。もうアラガミも少なくなったし、きっといつか戻ってきますよ!」

 

「そ、そうだねー」

 

 見つけたら架空の必殺技を披露しなくてはならないのだろうか。どうかその前に、ブラッドアーツに覚醒できることを願う。いざとなればバレットで誤魔化そう、そうしよう。

 

「……あっ、私そろそろ帰らなきゃ。じゃあね、シオ! また明日ね!」

 

「おー、またアシター!」

 

 互いに手を振って、そこでエリナちゃんは走り去っていった。

 ……エリナちゃん、神機使いになったりするんだろうか……? まだまだ将来の予測が立たない子だ。

 

「……むー」

 

 と、正面からシオ様に抱き着かれた。おや、珍しく不機嫌?

 

「……妬きました?」

 

「んー……さみしい?」

 

「情緒育ったなぁ」

 

 腕を背に回してぎゅーっとする。マイエンジェルは貴方だけですよ、シオ様!

 

   ▼

 

 ──かくしてシオ様セラピーを受けながら仕事を片付けつつ、日曜に辿り着いたわけだが。

 

「……『タイ』でいくか……」

 

 デート衣装はお前に決めたよ、フィーリングタイ。ゴシック系の白い上下の服である。うるせぇ、デートやぞデート! 私の思いつく最高火力はこれだ! 戦闘配備、完了!

 

「おや、アキさん。お出かけですか? でも、今は外出するの、やめた方が……」

 

 な、なんだいレン君。部屋を出て早々、自販機の横からそんな注意をしてくるなんて。っていうか、衣装についてはガンスルーなのかい。そういやアンタ神機でしたね。

 

 だ、だがしかしっ! 今日は決戦……そう、決戦なのだ! 恋人とのデートなの! すっぽかしたくはないのだよ!!

 

「うーん、心配だなぁ。しょうがない、途中までついていってあげますよ。何か力になれるかもしれませんからね?」

 

「?」

 

 この時ばかりは首を傾げた私だったが──エントランスまで来ると、レン様くんの言っていたことがはっきりと分かった。

 

 

「救世主サマ──ッ!」

「我々に導きを! 聖なる天啓ヲッ!」

「我らが新たなる神よ! どうかそのお姿を!」

 

「……────」

 

 ドン引きだった。その、一応安全圏であるエントランスにいても聞こえる外界の信者たちの呼び声に、ドン引きだった。なにこれ地獄かね?

 

「──あ! 少佐、今は出てこないでください! すぐに追い払いますから……!」

 

 ヒバリん、それは無理な相談なんだ。私は外に用があるんだ。……仕方ない、少々服は汚れるかもしれないが、別口から支部を出るか……

 

「ただ今、アナグラの全入口を封鎖しています! ゴッドイーターは速やかに民間人の退去作業に──」

 

 ……ほーん。

 つまり何かね? 私はまともにデ────トにも行けないっていうのかね? カス信者どもが集まっているせいで? ふーん。そんなことがあっていいんだ? ほーう? こちとら救世主やぞ。

 

「──レン」

 

「なんでしょう」

 

「……ちょっと頼みたいことがあるんだけど……いいかね?」

 

   ▼

 

 数十分後──アナグラ内に複数の爆音が響き渡った。

 

 炸裂するは手榴弾! ターミナルから引っ張ってきたオラクル装飾爆弾! きらきらと輝きながら信者たちの近くに発生する装飾レーザー! 響き渡る信者の悲鳴! 哄笑する白い衣装をまとった悪魔! その手にはハンドガンとピストル型神機! 混乱と狂気のただなかに陥る人類最後の砦! 全ての者を蹴散らし──銃を捨てた悪魔は、外部居住区の奥へと消えていった!

 

 なんてことはない。

 装備の諸々をレン様に持ってきてもらっただけだ。いやいや精神体が物を運べるのかよって? 初恋ジュースガブ飲みしてる時点でそのツッコミはノーだぜエブリイワン。あ、ピストル型神機はアレ本物じゃなくてハッタリのモデルガンな! あと装飾レーザーの演出はレン様です。

 

「──よお。待たせたな、ソーマ……」

 

「…………あ、あぁ……」

 

 後にソーマは語った。

 待ち合わせに来た時の私は、まるで周回帰りさながらだったという……

 

 

 

▼悪魔の鉄槌事件

Fin

 




幻代アキ(22)
 この後めっちゃデートした。

ソーマ(19)
 なにがあったかは後で聞くことにした。

シオ
 事件発生当時はカピバラの散歩に行っていた。

レン様
 久々に暴れられて楽しかった。

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