人間、「波」というものがある。
体調の波。感情の波。気分の波。
三百六十五日、毎日忙しく移り変わるこの「波」に、我々は翻弄されながら生きている。
で、率直にいうと本日の私の気分の波はというと。
いちゃつきたい!
──つまり今回は、そういう話になる。
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別に私だって四六時中、銃器片手に暴れてる悪魔じゃねーのだ。
いちゃつきたい時はいちゃつきたい! そう、充電が必要なのである! 健全にね! 手を繋ぐとか。ハグとか。くっついてゆっくりするとか。そんな感じで。ええ。
休日!
私の部屋のソファでは、ターゲットが本を広げて読書中だった。眼鏡かけてて超最高。
普段なら、それを眺めているだけで満足できるのだが──今日は……構ってほしい気分なのでちょっかいをかけると決めている。
それに今日は勝負服──というか、ちょっと可愛い部屋着に着替えていた。戦闘向けじゃない、長袖にロングスカートの落ち着いた印象の衣服である。ギャップで殺せ。これが基礎とよく聞く。
ゆっくりと、自然体を意識しつつソファへ。その左隣にぴたりとくっつくように腰を下ろし、横から本の中身を覗き込む。やはりオラクル研究の本だ。
パラリ、とページがめくられる。何秒ぐらいで読んでいるのだろう? 秒数を数えるだけでしばらく時間が経ち、頭の中でソーマの平均読破時間を導き出して遊んでいたところで、
「……着替えたのか?」
そんな声が降ってくる。わぁい。
「見ての通り! 似合うー?」
「大分印象が変わるな。そうしているとまともな奴に見える」
「そうでしょう。私もそれを思って選びました。これは間違いなく非力でか弱い女子! そういう仮装で優勝しようというぐらいの気概です」
「いや、俺以外に見せるな。勘違いする輩が増えるだけだ」
撃沈した。
両手で顔を覆い、背を丸める。
この人本当に最近はよく……よくもまぁ素面でそういう台詞が吐けるようになってきたよなぁ!? コウタ君にそういう教育でもされたんか!? 素直になっただけかね!? 素直になりすぎだろうがぁ! 致死性ってもんをもうちょい考えたまえよキミィ!?
「貴方は……なにかね……『可愛い』という言葉を使わないで褒める訓練でもしているの……?」
「正直な感想を言ったまでだが」
「ソーマ・シックザール、そんなこと言わないぃ……」
「言わせてんのはそっちだろうが」
恥ずかしさと楽しさが五分です。口元の緩みが止まらない。
知らない内にそんなに素直になってたのかい、ソーマくん! ツンデレ時代とは大違いだなぁ! でももうちょっとあの頃の君も堪能しておきたかった、って思いはあるよ! なんか付き合い出してから一気にデレ期一色でさぁ! 過剰供給ってものだよ……! でも今日は遠慮しないよ!?
「……触っていい?」
「好きにしろ」
わーい、と許可が下りたので彼に手を伸ばす。
さらさらの髪を梳かしたり、頬を撫でたり、横から軽く抱き着いたり──
……良い筋肉してんな、こいつ……
思わず真顔になる。服の上からでも分かる。無駄というものがない洗練された体格だ。一種、芸術的なものさえある。生物としての敗北を感じる。なんなんだ、この男……
やらしい意味はなく、ただただ感心するばかりだった。そらまあ、この人バスターブレード片手にアラガミ追いかけ回してたからね……今も研究サンプルを採取するために、神機持ってフィールドワークに行くこともあるし。
「……楽しいのか……?」
困惑している良い声が聞こえる。あ、なんか鼓動の音も聞こえる。照れか? 頭を撫でる。目に見えて顔が赤くなってきている。可愛いって言っていい? 可愛い。
「楽しい可愛いソーマすき!」
「本音が漏れてるぞ」
すべて本音ですが?
……あ、ソーマさん? なぜ本を閉じ……眼鏡を外して!? あらこっちを向いて? わぁ、持ち上げられた。膝に乗せられ、後ろからぎゅっとされる。
「サービス精神旺盛なことでぇー……」
「構われたかったんだろ。流石に気付く」
このシックザールブレインめ。お見通しじゃないかぁ!
……あと耳元でその声で喋らんでいただけます? それねぇ、貴方自覚ないかもだけどねぇ、相当な火力なんデスヨッ!?
「こうしている間はとんでもなく静かだな。いつもの減らず口はどうした」
「……ソーマの感覚に集中したいんで……」
「……誘ってんのか」
「健全だよぉ……」
まだ昼間ですよ博士! まぁ座り心地が良いのは否定しませんがねッ!
「アキ」
呼ばれたので振り返る。横向きに体を傾け、斜めに向き合う姿勢になり、頭の後ろをソーマの手の平が撫でていく。それを合図に自然と目蓋を閉じると、唇を塞がれる。
すっかり決まっている流れだった。薄く目を開けると、青い瞳がじっと見ている。なんでこの人はいつも目を開けてるんですかね。恥ずかしいんですけど?
「……ん…………はぁ、なんか、慣れてきたね……」
「……散々してるからな」
そうですね。
「他には? 構われたかったんだろ、なにか要求があるんじゃないのか」
「ん? うーんとねー……」
彼の胸板に寄りかかり、体温と鼓動を楽しみながら、少し考える。
正直この状態だけでもう充分すぎる。これ以上の要求、リクエスト。うーむ、大したことではない、が…………
「……ソーマの声、もっと聴きたいなぁ……なんかしゃべってー……」
「無茶振り言いやがる」
少し笑ったような声は、昔と比べてちょっとだけ高い。気楽で、重苦しいものがない、フランクな声だ。
空いている彼の右手をいじりながら口を開く。
「じゃあお題出すよ。……そうだなぁ、今のソーマが昔の私に会ったら、とか?」
「……『周回なんか止めて俺にしろ』」
「ぶはっ」
大真面目な声色に吹き出した。
「な……なんでいきなり口説くの……」
「待たされすぎたからな。とっとと落として欲しがらせる」
「ごめん、ごめんってぇー。じゃあ次、昔のソーマが今の私に会ったら、なんて言うと思う?」
「……『結婚したよな?』」
「切実な思いが垣間見えるねぇ……」
めっちゃ根に持たれてるぅー……
いけない、追及される前に次のお題を出さねば。
「じゃあじゃあ、次ツン期! 昔のもっと低めな声で、なにか!」
「低かったか……? よく分からんが」
「丸くなったんだよ、ソーマもー。さ、早く早く!」
「……『俺に近付くな』」
「ぁぁあ……好きぃ……」
思い切り近づく、というか既に密着している。すり寄ると、抱き締める力が強められる。んん……! 恥ずかしいけどウレシイ! 悶絶したくなる……!
「変な奴だな、本当に」
「へへへえへへぇ……どの時期のソーマもすきー……あ! あとあれ! 『お前のことなんか嫌いだー』みたいなのも!」
「無理」
「え」
頬を、厚い手の平がなぞる。
「お前以外、考えられないくらい愛してるから、無理」
「ぁ……うん……」
「顔赤いぞ」
「頭なでててください」
俯いて注文を突っ込むと、すぐ実行される。
随分とまぁ、最初の頃から上手くなりまして。もう三十点なんて言えない。百二十点億点。脳が痺れるような感覚がするほどには、気持ちが良い。
「ダメになる……ソーマがいるとダメになる……このままでは……」
「お前は多少はそうなった方がいい。安心しろ、世話はしてやる」
「ソーマすきー……」
力が抜ける。ちょっと身体の表面が溶けてるような錯覚。それもこれも、この場所が安心すぎるせいだ。いちばん、ここが、おちつく。
「……妙な感じだ。昔は、こんな時間があるなんて思いもしなかった……」
「周回の日々だったからねぇー……」
軽く、喉で笑う声がした。
「お前はそうだっただろうがな。俺は……兵器として望まれ、生まれてきたからな。そうやって生きていくものだとも思っていた。……アキが知ってる『他の俺』も、そうだったんだろ?」
「……ま、大方は」
「なら完全に人生を狂わされたな。いや、むしろよくここまでやってくれたな、と言うべきか。いっそ清々しいくらいだ。俺を堕とすのみならず、親父まで生かして、世界まで救いやがって」
「ハッピーエンドは徹底的に、がモットーなんで……いやでも、ソーマくんは運命がいたんだから、別に私にやられなくても良かったんじゃぁ……」
「それでも、先にお前と出会った。責任をとりやがれ」
「……はい」
はい……
返す言葉もない。……けれども、だ。
「……でも、ソーマ。いつでも……いつでも、手放していいからね。わたし、ちゃんと、ひとりで…………」
「なにを勝手に思い詰めてんだ馬鹿。そんな未来はねぇよ。手足を切り落としてでも一緒にいさせるからな」
「……ん。ごめん……はなさないでくれると、うれしい……とても……しあわせ……」
「……お前。さては寝かけてるな?」
そんなことないよー。
ちょっと思考がぼんやりしているだけでぇー。このまま意識を失いたいという欲求が強まってるだけでぇえ────……
「……なら今の内に訊いておくか。──おい、俺とシオ、どっちが好きだ?」
「どっちも……」
「片方だけだ」
ええー。
シオ様はシオ様で命の大恩人だし……大天使だしー……
ソーマは……ホラ……ソーマだし……ソーマは……はい……
「……ぁ、あヴぁどん……」
「誤魔化すな。二択だ」
「………………そ、ソーマ…………の、あらがみ……」
その返答にこちらを抱きしめていた腕が硬直した気がした。
「……何故」
「……ショタだから……?」
「いや知らないが。は? おいちょっと待て。『俺のアラガミ』まで知ってるのか、お前!? ビジュアルが……姿があるのか!? おい!!」
「んにゃ……とても可愛い……なでたい……かわいい……」
「っ……やめろ、なんだ、変な感覚になってきた……! ……なにをした! おい!」
「なにも……べつに……そーま、かお、あかい、よ……?」
くらくらしてきた。
あー……これ、分かる。知ってる。寝れるやつだ、これ……
「ちゃんと、すきだよ……? ソーマも、アラガミくんも……うん、かわいくて、とても、良い……」
「待……っ、馬鹿! 何を言ってる! 何を! ちがっ……クソ、今更なんで振り回されてる……! アキ……!」
「んんっ…………」
なんかキスされてる感覚。うあぅ、気持ちがいい。寝れる。この安心感、寝れる。ちょっと舌が、あの、されてるけど、まあ、誤差の範囲で。
──ま、いちゃいちゃできたし、いっか。
おやすみー……
感想で「いちゃいちゃ欲しい」って意見が予想より多かったんで。
一言でも叫びだけでもいいので感想くれると喜びます。