転生神機使いは狩り続ける   作:時杜 境

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愛しい日/西暦2072年

 人間、「波」というものがある。

 体調の波。感情の波。気分の波。

 三百六十五日、毎日忙しく移り変わるこの「波」に、我々は翻弄されながら生きている。

 

 で、率直にいうと本日の私の気分の波はというと。

 

 いちゃつきたい!

 

 ──つまり今回は、そういう話になる。

 

   ▼

 

 別に私だって四六時中、銃器片手に暴れてる悪魔じゃねーのだ。

 いちゃつきたい時はいちゃつきたい! そう、充電が必要なのである! 健全にね! 手を繋ぐとか。ハグとか。くっついてゆっくりするとか。そんな感じで。ええ。

 

 休日!

 私の部屋のソファでは、ターゲットが本を広げて読書中だった。眼鏡かけてて超最高。

 

 普段なら、それを眺めているだけで満足できるのだが──今日は……構ってほしい気分なのでちょっかいをかけると決めている。

 それに今日は勝負服──というか、ちょっと可愛い部屋着に着替えていた。戦闘向けじゃない、長袖にロングスカートの落ち着いた印象の衣服である。ギャップで殺せ。これが基礎とよく聞く。

 

 ゆっくりと、自然体を意識しつつソファへ。その左隣にぴたりとくっつくように腰を下ろし、横から本の中身を覗き込む。やはりオラクル研究の本だ。

 

 パラリ、とページがめくられる。何秒ぐらいで読んでいるのだろう? 秒数を数えるだけでしばらく時間が経ち、頭の中でソーマの平均読破時間を導き出して遊んでいたところで、

 

「……着替えたのか?」

 

 そんな声が降ってくる。わぁい。

 

「見ての通り! 似合うー?」

 

「大分印象が変わるな。そうしているとまともな奴に見える」

 

「そうでしょう。私もそれを思って選びました。これは間違いなく非力でか弱い女子! そういう仮装で優勝しようというぐらいの気概です」

 

「いや、俺以外に見せるな。勘違いする輩が増えるだけだ」

 

 撃沈した。

 両手で顔を覆い、背を丸める。

 

 この人本当に最近はよく……よくもまぁ素面でそういう台詞が吐けるようになってきたよなぁ!? コウタ君にそういう教育でもされたんか!? 素直になっただけかね!? 素直になりすぎだろうがぁ! 致死性ってもんをもうちょい考えたまえよキミィ!?

 

「貴方は……なにかね……『可愛い』という言葉を使わないで褒める訓練でもしているの……?」

 

「正直な感想を言ったまでだが」

 

「ソーマ・シックザール、そんなこと言わないぃ……」

 

「言わせてんのはそっちだろうが」

 

 恥ずかしさと楽しさが五分です。口元の緩みが止まらない。

 知らない内にそんなに素直になってたのかい、ソーマくん! ツンデレ時代とは大違いだなぁ! でももうちょっとあの頃の君も堪能しておきたかった、って思いはあるよ! なんか付き合い出してから一気にデレ期一色でさぁ! 過剰供給ってものだよ……! でも今日は遠慮しないよ!?

 

「……触っていい?」

 

「好きにしろ」

 

 わーい、と許可が下りたので彼に手を伸ばす。

 さらさらの髪を梳かしたり、頬を撫でたり、横から軽く抱き着いたり──

 ……良い筋肉してんな、こいつ……

 思わず真顔になる。服の上からでも分かる。無駄というものがない洗練された体格だ。一種、芸術的なものさえある。生物としての敗北を感じる。なんなんだ、この男……

 

 やらしい意味はなく、ただただ感心するばかりだった。そらまあ、この人バスターブレード片手にアラガミ追いかけ回してたからね……今も研究サンプルを採取するために、神機持ってフィールドワークに行くこともあるし。

 

「……楽しいのか……?」

 

 困惑している良い声が聞こえる。あ、なんか鼓動の音も聞こえる。照れか? 頭を撫でる。目に見えて顔が赤くなってきている。可愛いって言っていい? 可愛い。

 

「楽しい可愛いソーマすき!」

 

「本音が漏れてるぞ」

 

 すべて本音ですが?

 ……あ、ソーマさん? なぜ本を閉じ……眼鏡を外して!? あらこっちを向いて? わぁ、持ち上げられた。膝に乗せられ、後ろからぎゅっとされる。

 

「サービス精神旺盛なことでぇー……」

 

「構われたかったんだろ。流石に気付く」

 

 このシックザールブレインめ。お見通しじゃないかぁ!

 ……あと耳元でその声で喋らんでいただけます? それねぇ、貴方自覚ないかもだけどねぇ、相当な火力なんデスヨッ!?

 

「こうしている間はとんでもなく静かだな。いつもの減らず口はどうした」

 

「……ソーマの感覚に集中したいんで……」

 

「……誘ってんのか」

 

「健全だよぉ……」

 

 まだ昼間ですよ博士! まぁ座り心地が良いのは否定しませんがねッ!

 

「アキ」

 

 呼ばれたので振り返る。横向きに体を傾け、斜めに向き合う姿勢になり、頭の後ろをソーマの手の平が撫でていく。それを合図に自然と目蓋を閉じると、唇を塞がれる。

 すっかり決まっている流れだった。薄く目を開けると、青い瞳がじっと見ている。なんでこの人はいつも目を開けてるんですかね。恥ずかしいんですけど?

 

「……ん…………はぁ、なんか、慣れてきたね……」

 

「……散々してるからな」

 

 そうですね。

 

「他には? 構われたかったんだろ、なにか要求があるんじゃないのか」

 

「ん? うーんとねー……」

 

 彼の胸板に寄りかかり、体温と鼓動を楽しみながら、少し考える。

 正直この状態だけでもう充分すぎる。これ以上の要求、リクエスト。うーむ、大したことではない、が…………

 

「……ソーマの声、もっと聴きたいなぁ……なんかしゃべってー……」

 

「無茶振り言いやがる」

 

 少し笑ったような声は、昔と比べてちょっとだけ高い。気楽で、重苦しいものがない、フランクな声だ。

 空いている彼の右手をいじりながら口を開く。

 

「じゃあお題出すよ。……そうだなぁ、今のソーマが昔の私に会ったら、とか?」

 

「……『周回なんか止めて俺にしろ』」

 

「ぶはっ」

 

 大真面目な声色に吹き出した。

 

「な……なんでいきなり口説くの……」

 

「待たされすぎたからな。とっとと落として欲しがらせる」

 

「ごめん、ごめんってぇー。じゃあ次、昔のソーマが今の私に会ったら、なんて言うと思う?」

 

「……『結婚したよな?』」

 

「切実な思いが垣間見えるねぇ……」

 

 めっちゃ根に持たれてるぅー……

 いけない、追及される前に次のお題を出さねば。

 

「じゃあじゃあ、次ツン期! 昔のもっと低めな声で、なにか!」

 

「低かったか……? よく分からんが」

 

「丸くなったんだよ、ソーマもー。さ、早く早く!」

 

「……『俺に近付くな』」

 

「ぁぁあ……好きぃ……」

 

 思い切り近づく、というか既に密着している。すり寄ると、抱き締める力が強められる。んん……! 恥ずかしいけどウレシイ! 悶絶したくなる……!

 

「変な奴だな、本当に」

 

「へへへえへへぇ……どの時期のソーマもすきー……あ! あとあれ! 『お前のことなんか嫌いだー』みたいなのも!」

 

「無理」

 

「え」

 

 頬を、厚い手の平がなぞる。

 

「お前以外、考えられないくらい愛してるから、無理」

 

「ぁ……うん……」

 

「顔赤いぞ」

 

「頭なでててください」

 

 俯いて注文を突っ込むと、すぐ実行される。

 随分とまぁ、最初の頃から上手くなりまして。もう三十点なんて言えない。百二十点億点。脳が痺れるような感覚がするほどには、気持ちが良い。

 

「ダメになる……ソーマがいるとダメになる……このままでは……」

 

「お前は多少はそうなった方がいい。安心しろ、世話はしてやる」

 

「ソーマすきー……」

 

 力が抜ける。ちょっと身体の表面が溶けてるような錯覚。それもこれも、この場所が安心すぎるせいだ。いちばん、ここが、おちつく。

 

「……妙な感じだ。昔は、こんな時間があるなんて思いもしなかった……」

 

「周回の日々だったからねぇー……」

 

 軽く、喉で笑う声がした。

 

「お前はそうだっただろうがな。俺は……兵器として望まれ、生まれてきたからな。そうやって生きていくものだとも思っていた。……アキが知ってる『他の俺』も、そうだったんだろ?」

 

「……ま、大方は」

 

「なら完全に人生を狂わされたな。いや、むしろよくここまでやってくれたな、と言うべきか。いっそ清々しいくらいだ。俺を堕とすのみならず、親父まで生かして、世界まで救いやがって」

 

「ハッピーエンドは徹底的に、がモットーなんで……いやでも、ソーマくんは運命がいたんだから、別に私にやられなくても良かったんじゃぁ……」

 

「それでも、先にお前と出会った。責任をとりやがれ」

 

「……はい」

 

 はい……

 返す言葉もない。……けれども、だ。

 

「……でも、ソーマ。いつでも……いつでも、手放していいからね。わたし、ちゃんと、ひとりで…………」

 

「なにを勝手に思い詰めてんだ馬鹿。そんな未来はねぇよ。手足を切り落としてでも一緒にいさせるからな」

 

「……ん。ごめん……はなさないでくれると、うれしい……とても……しあわせ……」

 

「……お前。さては寝かけてるな?」

 

 そんなことないよー。

 ちょっと思考がぼんやりしているだけでぇー。このまま意識を失いたいという欲求が強まってるだけでぇえ────……

 

「……なら今の内に訊いておくか。──おい、俺とシオ、どっちが好きだ?」

 

「どっちも……」

 

「片方だけだ」

 

 ええー。

 シオ様はシオ様で命の大恩人だし……大天使だしー……

 ソーマは……ホラ……ソーマだし……ソーマは……はい……

 

「……ぁ、あヴぁどん……」

 

「誤魔化すな。二択だ」

 

「………………そ、ソーマ…………の、あらがみ……」

 

 その返答にこちらを抱きしめていた腕が硬直した気がした。

 

「……何故」

 

「……ショタだから……?」

 

「いや知らないが。は? おいちょっと待て。『俺のアラガミ』まで知ってるのか、お前!? ビジュアルが……姿があるのか!? おい!!」

 

「んにゃ……とても可愛い……なでたい……かわいい……」

 

「っ……やめろ、なんだ、変な感覚になってきた……! ……なにをした! おい!」

 

「なにも……べつに……そーま、かお、あかい、よ……?」

 

 くらくらしてきた。

 あー……これ、分かる。知ってる。寝れるやつだ、これ……

 

「ちゃんと、すきだよ……? ソーマも、アラガミくんも……うん、かわいくて、とても、良い……」

 

「待……っ、馬鹿! 何を言ってる! 何を! ちがっ……クソ、今更なんで振り回されてる……! アキ……!」

 

「んんっ…………」

 

 なんかキスされてる感覚。うあぅ、気持ちがいい。寝れる。この安心感、寝れる。ちょっと舌が、あの、されてるけど、まあ、誤差の範囲で。

 

 ──ま、いちゃいちゃできたし、いっか。

 

 おやすみー……

 

 




 感想で「いちゃいちゃ欲しい」って意見が予想より多かったんで。
 一言でも叫びだけでもいいので感想くれると喜びます。
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