3月14日はホワイトデーである。
一月前の行動の結果が現れる日とされ、私の場合は──
「チョコの礼に来たぞ」
「いらっしゃい。何くれるの?」
「“俺を一日自由にしていい権利”」
「三倍返しどころじゃねぇえ──!?」
朝っぱらから部屋を訪れた恋人様にとんでもねぇ返礼を頂いていた。
▼
ソーマを一日自由にしていい権利。
……ソーマを一日自由にしていい権利…………!?
「もっと……もっと自分を大事にしなさいよッ……!!」
両肩を掴んでそう言い聞かせたが、彼は真顔だった。
「いや正直、お前の欲望を検証するためでもある」
「ハードルが高いよ! じゃあ今日は丸一日フード被って過ごしてね!」
あからさまに嫌そうな顔をされたが、それでも青いコートのフードを被ってくれた。ああ、懐かしや! 原作再現ソーマくんや! 本当になんでも言う事を聞いてくれるらしい……そんな薄い本みたいな展開あっていいのか……
「待てよ……待てよ……!? これは凄い権利なんじゃないのか……!? 本当にいいの、ソーマ!?」
「……ああ」
「っしゃぁ!! じゃあ今からイーブルワン持って訓練場に行こう!」
「なぜ……」
机の引き出しからカメラを引っ張り出す。
さぁ、準備完了だ! 撮影開始といこうじゃないか──!
「いいねいいねぇ! その角度! じゃあ次担いだポーズやってー!」
「あの……何してるんですか、アキ師匠……?」
訓練場は清掃中とのことで使えなかったので、撮影会は神機保管庫の片隅で行うことにした。
そこへ主人公力でイベントを察知したらしい、ユウがやってきた。
「GEオフショット……! 折角だしユウも神機持って並べよ」
「ええ……」
そういうわけで主人公とソーマのツーペア撮影が叶った。はー、いいわぁ! なんか雑誌の表紙に使えそう! ハッ! 待てよ……この二人がいるということは……!
「ヘイ、シチュエーションリクエスト! ユウ神機下ろして立って、自然体で! ソーマ、ユウに神機突きつけて台詞! 『お前はどんな覚悟を持って「ここ」に来た……?』、ゴー!」
「…………“お前は……どんな覚悟を持って『ここ』に来た……?”」
「ごめんソーマ、僕、覚悟できてなかった……! 心情、お察しするよ……!」
「いやー、いいねぇ!! サイッコォー!」
若干ソーマの目が死んでいる気がするがッ! 私に権利なんて渡すからこうなるのだ、諦めて最後まで付き合ってもらおう……!
「おー? みんなでなに、してるのー?」
「シオ様ァ!」
「?」
き、来た──! マスターピース確定! きょとんと小首を傾げている御姿をカメラに収める!
「おい……権利は俺に対してだけだぞ」
「シオ様ちょっと撮影協力お願いできませんか?」
「いいぞ?」
「……ッ!」
「ソーマ、ドンマイ」
ユウがソーマに肩ポンしているのを横目に、私たちは次の撮影スタジオへと向かった──……!
▼
──数十分後。
式場スタジオには、新郎の白いスーツを着たソーマと、ウェディングドレスを着たシオ様がいた。
「……」
「……」
──っっああああ!! 生きてるって最高ォォオ────!!
そんな胸の叫びを無言のガッツポーズで鎮める。なんか助手役についてきてくれたユウは、私の隣でやや青ざめている。くくく……お前もあまりの“良さ”に言葉もないかッ……!
「……ソーマ。アキになにしたの……?」
「……俺が知りたい……」
「師匠、気付いて! 新郎新婦役の空気間が最悪です!」
「なぁに、二人とも慣れない衣装で緊張しているだけさ……ふふふ、くくっ、はははは……!」
「アキ師匠が壊れてるぅ……」
ソマシオ疑似ウェディング……! まさかこれを……これを直に見れる日が来ようとは!!
転生万歳! 人生万歳!! もうここで成仏してもいいっ……!!
「ハイじゃあリクエストいくよぉー……ソーマ、シオ様を抱きかかえて。目線はシオ様ね。シオ様もソーマの方見て。そう……そんな感じ…………はぁっ……はぁ……」
「絵面がただの限界オタク」
カメラのシャッター音が雨のように鳴り響く! かーッ! 至上の一枚! 家宝にします! でも二人とも、もうちょっと笑顔笑顔! 幸せって感じでよろしく! ソーマくん顔引きつってるよ! シオ様も気持ち、もうちょい柔らかめな笑顔で!
「最高最高最高最高最高最高最高最高」
「アキのしゃしん、とらないのかー……?」
「私のは要りません」
そんなデータのゴミを生み出して世界になんの益があるというのか? そんなことよりソマシオだソマシオ! 後で背景加工して月面ウェディング風にしようかな……!
「……お前もドレス着ろよ」
「着ない」
時間と資源の無駄である。そんなものより君らの方が大事だ。はい次のポーズ! シオ様こっち向いてー! 大天使マイエンジェルゥ──!!
「本番の時は覚えてろよお前……」
「僕も協力するよソーマ。この人、しっかり逆襲しないと駄目なタイプだ」
「ちゃんときもち、つたえないとダメだぞー。いわないとアキ、かってにどこかいっちゃうー……」
「ああ……身を持って体感しているところだ……」
──撮影に夢中で、そんな周りの会話など私は聞いていなかった。
▼
疑似ウェディングを存分に楽しんだ後も撮影は続いた。
エントランスで見つけた第一部隊メンバーを全員並べてパシャリ。次にシオ様とレン様も交えてパシャリ。いやぁ……いいっすねぇ……レン様は写れてないけど……
「アキさんは入らないんですか……?」
「ああ、私のことはいないものと見ていいから」
「……」
「(……なぁユウ。アキさんってさぁ、こういうの積極的に入ってきそうなイメージだったけど……)」
「(うん……なんか、意外っていうか……闇を感じちゃうよね……)」
あと行く先々でフードを被ってるソーマがツッコまれてるのが面白かった。私が隣にいると、皆、「あぁ……」と何かを察したような顔でソーマに憐憫の目を向けていた気がするが。いや誤解だって皆さん、“好きにしろ”って先に言ったのはソーマくんなんですよ!
「ヨハネスしぶちょー! たぶん息子さんとツーショット撮れるの今日だけですよー!」
「おまっ……」
「早く撮るんだ少佐! 後で焼き増し頼む……!」
「必死か」
かくして無事に親子写真も撮影完了し!
本日のミッション、これにて終了────! いやぁ、実りの多い一日だった……!
「はー……やり切ったわ……欲しかったものが全部手に入った……」
自室に戻って撮影データを眺める作業にふける。
宝の山だ。一枚一枚、全てを世界遺産に認定するべきではないだろうか? 早急にバックアップをとって永久保存しないとな……!
「……気は済んだか?」
「うぉ、いたんだソーマ」
じろ、と睨まれた。
フード被ってる彼から睨まれると新鮮だ。思わずにやけてしまう。
「次はなにをさせるつもりだ?」
「次?」
「発端を忘れたのか……今日はホワイトデーだぞ」
「あ」
すっかり失念していた。そうだった。彼を自由にしていい権利は丸一日の効果があるのか。
何!? まだ要求してもいいんですか!?
「じゃあシオ様呼んで、もう少し撮影を……」
「シオはもう禁止だ」
「えー」
禁止されてしまった。そんな殺生な!
まぁ、確かにウェディングで撮りすぎたか。それはまたの機会にするとして……
「では、そのコートをちょっとこっちに」
「……?」
こちらの要求に眉をひそめつつも、青いコートを脱いで渡してきてくれる。持ってみるだけでも分かるサイズ感。その袖に腕を通し、着込むことでいったん落ち着く。
「うーん。“要求しろ”って命令もなかなか難しいところだねぇ……」
「お前……お前……」
当然ながら男物のコートなのでぶかぶかだ。裾は膝より下にあるし、腕は萌え袖状態。フードを被って腕を組みつつ、その場をくるくる回ると、コートがなびいてとても楽しい。そんなことをしていると、なんか、コートの主が堪えるような顔で此方を睨んでくる。なにか?
「ふざけるなよお前……」
「いや、一回着てみたかったんだって。なんちゃってコスプレさ」
が、これ以上は特に思いつかない。あとぱっと出せるアイデアなんて、それこそセクハラ紛いのことばっかですよ? それは流石にマズくない?
「うーん、後は……大体やり尽くした感ない?」
「……」
「凄い睨んでくるじゃん……」
不機嫌な雰囲気をひしひしと感じる。要求しないのになぜそんな反応を──ん? どうしたんだいソーマくん、私の横を通り過ぎて机に置いていたカメラをとって? あ!? レンズをこっちに向けてくるな!?
「ちょ、」
カシャッ、とシャッター音がする。
ああ! 完璧なアルバムにゴミを混ぜるんじゃあない! 取り戻そうとするが避けられる。
「散々人のことを撮ってくれたんだから当然の報いだろ」
「私の撮影会しても意味ないでしょーがぁ!」
足払いをかけようとするが回避される。その間にもシャッターが切られる。いや、今は好きなだけ撮らせればいい、データなんか後で消せばいいんだからな!
瞬間、戯れモードから戦闘モードに意識を切り替える。神速式瞬発力をもってすれば、カメラ一つの強奪など容易いこと──!
「取っ──ナヌゥッ!?」
「甘い」
まるで軌道を先読みされたかのような華麗な回避をッ!? すかっと手は宙を掴み、その間にも後ろでシャッターが切られる。キュッ、と床を鳴らしてターンすると、今度はオフにしていたはずのフラッシュがたかれて視界が白む。
キサマ、一体どこでそんな撮影スキルを! ……あっ、アラガミの戦闘資料とか、記録映像とか、昔から偶に博士に依頼されてたりしたもんね。それかぁー。ベテランなら誰でも身に着いてるスキルだねぇー……
「……悪くねぇな」
「!?」
視界が戻ると、撮影データをチェックしているソーマからなんか聞こえた。
やめてやめてヤメロォ! デリートデリート!! 私はなぁ、他人や風景はいいけど、自分は写真に入れたくないタイプなんだよ! 特にこの世界においてはな……!
「ソーマくん、君は包囲されている。そのカメラを早急に渡しなさい」
「断る」
「なんでも命令聞くって言ったのに!?」
「ホワイトデーは正午までだ」
「それはエイプリルフールだろうがぁ!」
「おい、動くな。写真がブレる」
なんでもうプロ意識に目覚めちゃってんだよ君は!?
「今日の撮影料とでも思っておけ。止めてほしいなら他の要求を言ってみるんだな」
……なんか、いつにも増して、むすーっとした顔になってないかね、ソーマくん?
写真撮影の何が気に入らなかったというのか……物凄く無難で健全な要求内容だったと思うんですけど……
「えー……? じゃあなんだろ……ハグとかキスとか添い寝とか? あとは【放送禁止用語】とか【規約違反】? 軽いものだったら【年齢指定】、【アカウントBAN】みたいな?」
さらっと欲望をカマしてみると、そこでソーマくんが完全に固まってしまった。
なにその顔? 表情筋を忘れたようだね。その間にそーっと近づいて彼の手からカメラを回収しておく。
「……、…………ッ、……っど、努力は……する…………」
褐色肌でも分かる赤面。どうやら知らない世界を教えてしまったらしい。
純情な戦場育ちには少し早すぎたか……ゴッドイーター(ゲーム)は15才以上対象だったからね……宇宙を見せてしまってごめんね?
「や、無理しなくていいので。はい、ぎゅー」
「う……」
ひとまず要求ついでに抱き着いておく。びっくりさせてごめんなさいね?
……あ、なにその目? キッス待ち? はいはい。……あうあうあう。そ、そんなにぎゅーっとしないで。コートとご本人様の匂いがぁぁぁ────
「……今日は疲れた。俺はもう寝る」
「お……? おお……お疲れ様でした。また明日──待て待て待て」
なんで私を抱えたまま当然のようにベッドの方へ向かっているんですかね? あ? カメラをサイドテーブルに置いて? ぎゃっ、コートを引っぺがされて!? いやマテ、靴ぐらい自分で脱げますから、おい!? そしてなぜか私が先に布団に押し込まれて!?
「オヤスミ」
「……」
……布団に入ってきて、こっちを抱きしめたまま寝息を立て始めた、だと。
そりゃ添い寝とは……言ったけどさ! ギリ健全だけども……さ!
「……蛇のなまごろし」
確実に報復を受けている、今ッ! 好きなひとが隣で無防備に寝ていてるのに、おとなしくしていろなどと────おとなしくしていますがね!! ああ! 大人ですからね!! チクショウ、寝顔でも顔がいいなコイツ!
「……、寝るか」
他に何をしろというのだ、と。
全てを諦めて降参し、私もそこで目を閉じた……
幻代アキ(22)
この後うっかり爆睡し、起きたソーマに寝顔を撮られる。写真を発見するのは結婚後。
今回の勝敗結果:敗北
ソーマくん(18)
彼女に自分の権利を渡したら写真撮影が始まった! 解せぬ。
彼女はぜんぜん写真に写りたがらない! こんなのってない。
彼女が自分のコートを着てくるくるしている! 効果は抜群だ!
彼女の欲望が想像よりすごかった。ばかな。
もう色々疲れたから寝る。
今回の勝敗結果:勝利
この後、アキが寝ている間に写真データをバックアップして持ち去る。