入隊して三年が過ぎ去った。
レア素材は全然ドロップしなかった。
シオ様にもとんと会えていなかった。
神機さんは毎日絶好調で楽しい狩りの日々が続いた。
西暦2065年、11月。
リンドウさんとツバキさんがロシアに出張して戻ってきたら、新しいレギュラーメンバーを連れて帰って来た。
ソーマ・シックザール、お目見えである。
▼
「この一ページの上から下までダーッとください」
「はい、いつものですね」
私、幻代アキ! 15歳になったよ!
今日も今日とて任務の受注リストをいっぱい貰って弾丸のように戦場へ出撃するぞ!
アラガミ! アラガミ! アラガミ! 蹂躙たのしい! 素材おいしい! チッ、レアが出ねぇ! 魔女冠片よこせ! 未来でゲーム時代再現神機を作るために、少しでも素材を集めるんだよォー! そんな楽しいエブリデイ!
ちなみに特に火力とか最適解とかは知らん。
ゲーム時代に愛好していた武器を揃える……リアル環境に来たのなら一度はやってみたいことじゃないか。ディアウスさんまだかなー? ロシア行っちゃおーかなー! 原作破壊になるからダメです。ハイ。ごめんアリサ。君のところへ行くには運命が足りなかったです……
え? そんなにアラガミ狩って大丈夫かって?
大丈夫、たぶん。だって基本的には任務分しかこなしていないから。原作より私が仕事やる回数が増えてるだけだと思うから。アラガミ先輩たちも緩やかに進化を続けている。幸い今のところ強烈な特異個体は出現していない。
「ちょっと待て」
意気揚々と出撃ゲートへ向かおうとすると、ガッと首根っこを掴まれた。──ツバキさんである。
「一人で行くのはいい加減にやめろ。お前、入隊してから
「五回です」
それが何か? という声色で返すと、ツバキさんは額に手を当てて大きく溜息を吐いた。
西暦2063年に二回! 2064年に三回! うち三回はアラガミ先輩の放電とか謎ビームの余波でビーコン部分が破損、二回は極東支部のビーコン探知圏外に行ってしまったのが原因だ! ちなみに脱走とかじゃないぞ、アラガミさんの大群勢に流されて数キロ移動するはめになったり、うっかりウロヴォロス先輩に引っかかって旧北海道地域に飛びかけただけだからな!
ちなみに毎回自力でアナグラに戻って来た。
そういう前科があったので旧連合の掃討作戦には除外されてしまったのだ。支部長・黒幕・シックザールさん曰く、「大陸で行方不明になられたら捜索の手が届かなくなる」とのことだ。正論だなぁ!
「アキ、お前にはやはり身近で監督すべき相手が必要なようだな……」
「リンドウさんがいるじゃないですか」
「お前がMIA判定になるたび一番胃が削れてるのはアイツだ。そんな過酷なことを頼めるわけがないだろう」
「マジで全部不慮の事故なんですけどねー……」
こっちだって好きでMIAしてるわけじゃない。アレ始末書とかクソ面倒なんだぜ!
「というわけで──ソーマ」
ツバキさんの呼びかけた先には、今まさにエントランスから出て行こうとしていたっぽい、青いハーフコートの少年がいた。
主人公のフリしたNPCこと未来の強襲衛生兵、ソーマ君である。
ロシアから極東に来てからこっち、やっぱり生育環境やら親子関係でギスッていたのか、先輩である私もまったく声をかけられたことがない。ていうか関わんじゃねーオーラがハンパない。
一方私側から接触の機会はなかったのかというと、大体アラガミ周回のことしか頭になかったので話しかけるタイミングを完全に見失っていた。不覚。
「まだアキと組んだことはなかったな? いい機会だ、一緒に任務に行ってこい。これは命令だ」
「……そいつとは組みたくねぇ」
初対面から嫌われている。まだなにもしていないのに!
そんな酷いことしないよ! たかが十五連戦の素材周回じゃないか!
「命令だと言っている。そろそろ真の極東式を味わえ。アキは足が速いからな、置いていかれるなよ」
「おい──」
ぱっと、そこでようやく私は解放され、ツバキさんはさっさとエレベーターに乗っていってしまう。
残されたのは気まずい雰囲気の少年少女。合コンより酷い空気だぜ。したことないけど。
「クソが……」
ギッと睨まれる。敵意を感じる。
しかしやはり流石はレギュラーメンバーというか、彼の気配は独特だ。そんじょそこらの人たちとは全く異なる感じがする。
なんというか、他人の気がしないというか?
これもオリジナル・ゴッドイーターというソーマの特殊な出自が関係しているのだろうか……?
▼
移送車にガタゴト揺られながら戦場に向かっている。
長方形な積み荷の空間に、対角線上に座るチルドレン。
はー。やっぱイーブルワンすげー。ごつーい。アレが真っ白になるとかマジ? いやあれもキレイだけど過程がなぁ……
「何見てやがる」
「……やっぱ神機には銃がほしいよなぁ」
「は?」
銃形態──アレがもう恋しくて仕方がない。
実装の時のために専用バレットを毎夜編み出しているのだが使う機会がないのが本当に寂しい。
引き金だけ引いて終わりだぜぇ! に早くなりたい。実現すれば今の二、三倍の速度で周回が捗る。ブレードと捕食形態で引き千切り戦法も、そろそろ更新したいところだ……
「む」
「!」
その時、ソーマも同時に感じ取ったのだろう、アラガミの気配がした。
前方二百メートル先。小型種だ。味気ねぇー。
「おい、車を──」
「アキさん、前方にオウガテイルとザイゴートです。お願いします」
「うぃー」
「ッ、おい!?」
車は止まるどころかアクセル全開。この運転手さんともそこそこの付き合いだ、道中に見かけた不意のアラガミの対応はこっちに一任されている。
走行音に反応したオウガテイルとザイゴートがこちらに向かって突進してくる。
瞬間、車体は走りながら大きく横に倒れ、小物二体の隙間を通り抜け──すれ違う瞬間、神機さんでオウガテイルを捕食抹殺、そのままザイゴートを両断した。
ガタン、と車体が元に戻る。
「──」
「あ、シユウが見えますよアキさん。こっち向きました」
「銃がほしいよー。狙撃したいよー」
「アキさーん、飛んできてますよー」
「真っすぐ行っていいよー」
「グゥルルァァ!!」
「頭と両腕羽をむき出しで向かってくるとかバカなのかな?」
神機さん、横一閃。
上半身を結合崩壊させながらコアをぶち抜いて処理完了。血の雨が荷台を汚していくがいつもの事だ。
「レア素材出ましたか?」
「ダメだねぇ、全然ダメだねぇ。あんなの師匠なんて呼べねーよー」
がっかりだ! 臨時報酬なのにがっかりだ! なんで負けたか明日までに考えといてください! アラガミに明日なんてねぇけどなァ!
あーあ、と溜息を吐きながら元の位置に戻って座り込む。
と、視線を感じたのでソーマの方を見る。
「なにかね新人」
転生者ライフでやりたかった実績解除! 原作古株メンバーに向かって新人呼ばわり! 醍醐味だねぇ。
するとソーマはバツが悪そうな顔で返した。
「……いつもこうなのか?」
「移動中の三回に一回くらいはね。極東の運転手もベテランだから結構な曲芸習得してるよ」
「主にアキさんが原因で皆身についたようなものですけどね」
「それで生存率上がってるならいいじゃん」
「命がいくつあっても足りないですよ」
ぐうの音も出ない。極東くんっていつもそうだよね!
「……ロクでもない場所に来ちまったようだな……」
「そうだよ! 今日はザイゴートとオウガテイルとコクーンメイデンとコンゴウとグボロ三体とシユウとシユウ堕天とサリエルとサリエル堕天とクアドリガとボルグ・カムラン二種とヴァジュラを狩りに行くからね! 軽食程度の連戦だけど気張っていこう!」
「──────は?」
ソーマ君の目が丸くなる。
なんか既視感あるな。そうだ、リンドウさんに二十五連戦任務に付き合ってもらおうとした時の顔に似ているのだ。あの人は最終戦までいっても回復錠を食べるだけで平然としていた。流石だよ。
「ミッションの数がおかしいだろ……! 他の部隊にはどう認識されてるんだお前!」
「いや昔、一緒に行ってみようぜって誘ったんだけど、以来、『もう勘弁しろ』って言われてそれっきりだね」
「……!」
ややソーマ君の顔が青ざめたように見えた。
かくして今日も楽しい周回マラソンが始まる。
▼
ミッション一括引き受けにはちゃーんと支部長の特別許可をとっている。
「近い地域のトコは一気に掃討したいデス!」という目的・メリット・デメリット・長期的利益を超論理的に書類にまとめて提出したらなんか通ったのである。まぁエイジス計画の公表が近いからってのもあるだろう。原作メタはこうやって利用していくんだよ!
もう三年もこの調子でいると極東内部の視線も諦観的なアレになってきて、「ああ、またやってる……」みたいなものばっかりだ。
ちゃんと休みなさいと言ってくれるサカキパパ(仮)やリンドウさんは良い人だよ、まったく。
なおツバキさんの場合は上官命令で強制休暇行きとか偶にある。いや、本当に全然疲れてないんだけどな。これでも睡眠時間は八時間確保してるんですよ? 主に戦場に行く間の移動時間とかね。
まぁ、昨晩アナグラでぐっすり寝たので今日は不眠活動なのだが。
「はぁ……はぁ……はぁ…………ハァ…………」
「ミッション終了! 帰るまでが任務だぞぉ!」
陽は夕暮れ! フィールドはおなじみの愚者の空母!
始末したヴァジュラが霧散し、傍ではソーマが神機に寄りかかって息切れを起こしている。
大丈夫? レーション食う?
「……イカれてるのか、お前は……」
「いや、労働基準法には則ってるハズなんだけど」
無駄に狩らない! 追いかけない! 諦めません、素材が出るまでは。
毎日限られた任務回数でどれだけ質のいい素材が出るかが一番の勝負なのだ。無制限・無期限に出撃できたゲーム時代は本当に楽園だったなぁ。リアルだと連れていく
早く銃ほしー。
任務達成のクレジットは全部技術部に叩き込んでいるので、そろそろ新しいシステムを実装してほしいところだ。まずはスキルリビルドとかスキルインストールでいいからさ!
スキル系が実装されるとどうなる?
知らんのか。厳選が始まる。
素材だけじゃなくスキルドロップとかいう敵まで出てくるなんて、まったくゴッドイーター業は闇が深すぎるぜ……!
「……お前。お前は……どういう覚悟で『ここ』にいるんだ……?」
ムッ。なんか聞き覚えのある台詞。
今の疲れ果てている状態とゲームでは大分状況が違うと思うが。
はて、覚悟。覚悟とな。
そんなものはこの世界が「GOD EATER」だと知った時から決まっていることだし、理由は至極簡潔なものだ。
「決まってるだろ。この世界を『楽しむ』ためだよ」
「──、」
周りになんて言われようとプレイヤー時代の意識は抜けきらない。
無茶をするな馬鹿なことをするなMIAになるな(正論)と散々言われても、手に神機があって世界にアラガミがいるならやることはただ一つ!
──周回だ。一心不乱の周回だ。
素材とレアを求めて確率と戦い続けるッッ!! それがゴッドイーターの宿命ではないだろうかッ!?
あ、宿命を「末路」って読まないでね。絶対だぞ!
「……俺は、お前のようにはなれねぇ……」
「うん。なっちゃダメだよ?」
それだけは断言しよう。素材とドロップ率に取り憑かれるとロクなことにならないからな!
そこで帰投用のヘリが降りてくる。行きは車だったが、今日は疲弊者がいるので流石にヘリ帰宅だ。でも偶に装甲が効かないアラガミさんがぶつかってくるので気は抜けないぞ!
▼
「極東に来たのなら、『彼女』に会ってみるといい。アレがお前の目指すべき理想だ」
その名は、実父から聞き及んでいた。
幻代アキ。
P73偏食因子を後天的に投与された実験体──その完全理想形。
先天的に胎児の状態で因子を埋め込まれた己とは違う過程だが、その少女とは生物的に、唯一同胞に近しい関係である、とか。
(……アレで人間のつもりなのか?)
初めは冷めた目で彼女を見ていた。
その経緯も聞いている──拉致され実験され挙句にはクソ親父どもに見つかり、アラガミを狩る道具として扱われているという現状。
出撃の回数も他のゴッドイーターたちとは比にならず、毎日「懸命に」その突出しすぎた能力を使い、フェンリルに貢献する。
その理由にはなんとなく想像がついていた。他とは異なる特殊な経歴、特別な力。それを受容するために、憎きアラガミを狩ることで自分を人間だと証明し続ける──それは転じて、自分がいかに「異様」であるのかを思い知らされる矛盾した日々となる。
──と、思っていたのだが。
「ミッション終了! 帰るまでが任務だぞぉ!」
今日、分かった。任務に引きずり回され、この狂人のことがよく分かった。
イカれている。完全にヤバイ。
元実験体とかチャチなものじゃない、もっと恐ろしい何かを思い知らされた。
「……イカれてるのか、お前は……」
「いや、労働基準法には則ってるハズなんだけど」
そうじゃない。そういう事を訊いているのではない。
(
正気──そう、幻代アキはどこどこまで行っても、「真っ当」だった。
そのまま、何食わぬ顔でアラガミ掃討十五連戦……いや、日によってはより多くの出撃任務をこなしている。
それはいっそ狂気よりも狂っている。
あの厳格なツバキが、あの飄々としたリンドウが、彼女の話題になると目を逸らしたり居たたまれないような顔になる理由がようやく分かった。
「……お前。お前は……どういう覚悟で『ここ』にいるんだ……?」
意を決して、そう尋ねた。
目的が素材なのはまぁ、ゴッドイーターとしての任務の範囲内だからまだいい。
だがこのトチ狂った出撃スタイルは他にも「なにか」があるだろう、と踏んだ。
正気を保ったままで行われる狂気。この少女の本質は一体どこにあるというのか──?
「決まってるだろ。この世界を『楽しむ』ためだよ」
──。
……それは至極、当然のようで、凄まじく難しい回答だった。
楽しむ? この世界を?
先の見えないイカレた世界に抗うだの、憎いから戦うのではなく。
(──“楽しむ”──)
結論した。やはりこいつは狂っている。どうしようもないほどに。
……初めは自分よりも先に生まれていた「完成品」だと聞かされ、怒りすらあった。
こいつがいたのなら母親の犠牲はなんだったのか。自分の生まれた理由はなんだったのか。
奴がもう少し早く見つかっていれば、あんな事故も、自分がこんな体で世界に生まれることもなかったのではないか。
無論、勝手な八つ当たりだ。こいつの生きてきた境遇も楽で幸せなわけがない。
だが、その上でなお「楽しむのだ」と彼女は言い切るのか。
「……俺は、お前のようにはなれねぇ……」
そんな風に前を向くことなど、自分にはできない。
クソッタレな世界はどこまでもクソッタレだ。そこまで楽観的に見ることは────
「
────!!
その瞬間、思わず俯いていた顔を上げた。
夕日の逆光で少女の姿は暗い。だが、こちらを見るその目は、その瞳は、諦観に満ちていた。
(……こいつは……)
とんだ思い違いだ。
そう、幻代アキは正気だ。正気なのだ。自らの語る言葉が、どれだけ不可能に満ちているのか、誰よりも分かっている。
言外にそう語っていた。
お前はこうはなるな、と。
──そう、悲壮なまでの警告に思えた。
無論、そんなのはソーマ・シックザールの主観による話。
ヘリを待つ少女は、未来のマイウェポンに想いをはせるだけだった。
幻代アキ(15)
極東屈指のMIA芸人。周回狂。
たぶんデフォで「極東無敗」とか持ってる。
雨宮リンドウ(20)
連戦中は上官と男のプライドで余裕の顔を作っていた。なお回復錠を食べる目は死んでいた模様。
無茶ばかりする部下だが「生き延びる」という至上命令は遵守しているので強く言えない。なんでこうなった。
雨宮ツバキ(23)
アキは「そういうもの」だと割り切っている。扱いをよく分かっている。ただし弟の胃を優先してソーマにブン投げた。
ソーマ(12)
「自分より優れた同胞」として複雑な心情だったが、「アレより自分はマシ」と思い至った。
絶対にああはなりたくない。しかしこの後耐性がついてきて周回組に組み込まれる未来があることを知らない。
高評価・感想・お気に入り・ここすき、ランキング入りありがとうございます! なんかすげー!
(ここすきは好きな文章をダブルクリックor左右スワイプで気軽に入れられるので、どんな箇所が好きか教えてくれると助かります!)