「なんか欲しいものはあるか?」
西暦2072年12月。
ソーマの部屋でソファに座り、本の整理をしていたところ、不意にそんな質問が投げかけられた。
「え? なんで?」
「……来月、誕生日だろ」
ああ、とそこで思い出す。
そうだったわ、1月1日。本来の誕生日は分からないので、覚えやすい日に設定したのだ。なのに毎年忘れている。意味ねー。
「欲しいものねぇ……しいて言うなら、ソーマとシオ様の幸せと、第一部隊メンバーが健やかでありますように、みたいな? ま、別にいつも通りなんでもいいよー」
ソーマからくれるものなら何だって嬉しいしな! というか、祝ってくれるだけで有難いものだ。プレゼントまで皆くれるんだから、本当、最高の職場だね!
「……、そう言われる方が一番困るんだがな」
「えー? そんな改まらなくても。第一、私のバースデーなんて仮のものだし。あってもなくてもいいようなものだよ」
「──よくねぇよ」
珍しく。
いや、本当に珍しく──怒気のこもった声だった。
読んでいた本から顔を上げると、既にソーマは席から立ち上がり、こちらとの距離を詰めていた。その右手がこちらのソファの背もたれに置かれ、壁ドンならぬ椅子ドンのような状況になる。
「仮だろうと関係あるか。俺の大事な奴の誕生日をそんな風に言うな……」
「……す、すみません……」
気圧されて、思わず謝ってしまう。うん、怒られてはいるんだろうけど、コレ告られてるようにしか聞こえないなぁ! 照れるー。
「……お前って異様に“自分への執着”がないよな」
横髪をすくい上げながら彼が言う。なんか恋人っぽいなー。恋人だけどー。な思考が頭をよぎっていく。
「そりゃ、根底には“私のいないこの世界”があるからね。実際、私が持つ『自分への異物感』はそういう類のものだし……」
「お前の『それ』はどうしたら治るんだ」
「どうと言われても……視点の問題だからなぁ……折り合いつけてやってくしかないと思うよ。ま、世界を救うまでしたんだし、自分のことはもう認められてるよ? 日々、自己肯定感が高まる一方だとも」
「ならいいんだがな……しかし……」
「?」
未来のソーマ博士は難しそうな顔をしている。
言葉を待っていると、なぁ、と声がかかってくる。
「お前って俺のこと愛してるか?」
「……なに? 心理テスト!?」
「いいから答えろ」
「…………アイラブユー」
「考えたな」
目を逸らすと、ほーう? と感心するような声が頭上から。いや感心っつか、“貴様よくも逃げたな?”と責める意味合いの強いお声だ……! こういう時のソーマが一番怖い。
「報復カウント追加だな……」
「待ってほしい、なにそのシステム。穏やかじゃない響きなんですけど。主に私に対して」
「責任を取るってこういう事だろ。青少年の情緒その他をテロした罪の重さを味わえ」
「…………ハイ」
俯くと頭をナデナデされる。むむむ、この気持ちよさ、抗えない。
フッ、と笑い声がした。
「前よりは幾分か素直になってきたな」
「そりゃ…………まぁ……ソーマからの報復は、ちょっとだけ楽しみだし?」
「カウント追加」
「なんでだよぉ!?」
ガバガバシステムかよ! メンテしろ!
「で……さっきの、どういう意図の質問だったの?」
「……お前に、この世が実感の伴っているものかどうかはともかく。俺に、『
「……あ」
それは確かに。……劇薬にも程がある、かも?
「──?」
ひょいっ、とそこで背中と足裏に腕が回ってきて、そのまま身体を持ち上げられた。ていうか、抱きかかえられた。なんて安心感のある浮遊感。見上げると、据わった目でソーマが此方を見下ろしていた。
……あ、あの。
「報復が早すぎませんかねぇ!!」
「逃亡前に追撃する。基本だろ」
「それは周回の話であって!」
「逃がさねぇぞ」
「……破壊力ゥ……」
反論も反抗も封じられた獲物の末路は、語るまでもない。
▼
淡々と日は過ぎていった。
十二月もどんどん使い切ってしまって、世はクリスマス! そういや昔からクリスマス文化だけは極東にあったよなぁ。まぁターミナルに「サンタ服」なんてあれば、この時期に着るゴッドイーターもいるだろう。コスプレへの並々ならぬ執着、開発部はやはり変態的に素晴らしいと言わざるをえないだろう。
で。
イブの翌朝とかは、な~んか雰囲気が変な男女が出現していたりする。特にこのアナグラ、住居が複合しているのだ、こんな狭い拠点を歩いていたら誰だって察するわ。
「……アリサちゃんは?」
「……ちょっと仕事の過労で」
もうええって主人公くん。私、さっきコウタ君が絶望というか裏切りの眼差しをお前に向けて、廊下を走り去っていったのを見ちゃったから。
ま、なんせ主人公とヒロインだ。避けては通れぬ道。同期はともかくとして、普通に祝ってやるべきだろう。永久に爆発していろ、とな。
「──いや、本当に過労ですって! 誓って何もありませんよ!? 僕らキス止まりですし……コウタはなんか勘違いしちゃったけど!」
うーん、青春だった。若者やってんねぇ。でもキス情報はいらなかった。
「っていうか、そっちこそお相手がいるじゃないですか!」
「手を出すとでも? この私が?」
「何……だと……?」
聖夜だからって全ての恋人がいちゃつくとは限らない。昨晩は本当に何も無かった。というか互いに仕事で顔すら合わせていない。
「っつーか……仕事人間に休日はねぇっ!! 連勤戦士にイベントがあると思ってんのか! クリスマスは締切の別名だッ! マジ許さねぇ、ヨハネス……!!」
「ワァ……舅と嫁との仁義なき戦い……」
「いや、あの人に別に他意はなくって。本気でダメなのは本部」
「世界の功労者ほど苦労してるって、大変ですねぇ……」
「大変だぜお前。『恋人がいる』って公表してんのに、縁談とか送り付けてくるからな向こう。ほーら見てこれ、朝届いた書類に混ざってた見合いの手紙」
「ヒェッ……!!??」
ゾゾゾゾゾゾ、と弟子の肌色が青白くなる。はっはっは、純愛に流し込むNTR要素に背筋が凍ったらしい。
しかもこれ、私という母体が欲しいってだけのカス思想極まるアレが中心だ。結婚したら身の安全とか保障するから研究材料になってくれない? という申し出が縁談の形ですげーくるようになっていたのだ。主にフェンリル本部から。体裁って大事だね。笑うどころかドン引きである。貴様ら正気か? 死ぬ?
「そ、そ、それ……大丈夫なんですか。なにか、強引な方法とか、」
「ああ、流石に強硬手段は来ないよ。“鉄槌事件”のおかげでな」
「あー……」
この世界では武力をある程度、示しておいた方が自衛になる。今となっては、広めてくれたジャーナリストさんに感謝したいものだ。
「………………、あの。それって……ソーマには……?」
「隠してるに決まってるだろ。あの熱血天才ブレイン、お前以上の主役級の活躍で本部に何するか分からんしな。ああ、もしもお前から漏らしたら命の保証はできないんで」
「じゃあなんで喋ったんですかァ!?」
まぁ、縁談自体は珍しいことじゃあない。数だけでいえば、私よりもソーマの方が上だろう。世界で初めてかつ唯一、半アラガミ半人間としての特性を備えた人材など、本部こそ黙っちゃいない。ヨハネスさん、その辺はしーっかりと父親やって守ってたんだろうなぁ、と思う。
単に父親コミュニケーション能力が死んでるだけで。ほんと。
家族の問題が関わらない範囲ではまともなのだ。支部長やってるし技術者としても一流だし。
「ていうか……師匠とソーマって、幼馴染ですよね? 出張期間が長かったとはいえ……お互い、鋼すぎませんか、色々と」
「アラガミぶっ殺してた期間の方が圧倒的に長いからにゃー。恋愛道に関しちゃ周回遅れよ、こっち。なんならシオ様の方が人との距離感は分かってるしなぁ」
そういうもんですかね、とユウは一応の納得を見せる。純真なヤツめ。
別に手を出されてないとは言ってないのだが?
「……ちゃんと結婚はするんですよね?」
「そりゃあ…………、たぶん?」
「いや多分って」
これからの関係。これからの
……どうなのだろうな。ちょっと、想像が追いつかない。イメージがわかない。
もう充分に幸せだ。望んでいた光景はとうに手に入れた。
……これ以上の幸せに、私はちゃんと喜べるのだろうか?
それだけが、ちょっとだけ、不安だった。
▼
「おやアキさん。いつになったらご結婚なさるんです?」
「……レン様。言っておきますけど、何もありませんでしたからね?」
「なんと。貞淑ですね」
自販機近くのベンチに行くと、高確率でレン様と会える。医務室に次ぐ、第二の拠点にでもしているのだろうか? 当然のように今日も初恋ジュースを持っているし。
「あっはっはっは、すみません。そんなに睨まないでくださいよ。僕が見えるのはアキさんくらいなので、見かけるとつい、からかいたくなってしまうんです」
……そういやレン様は多少は私の心を読めるんだったな。
じゃあこのままテレパシー会話、続けさせてもらお。誰が通りがかるか分からんし。
「別にいいですよ? 僕はいつだって暇人です。話題、カモンカモン、です。それでアキさん。結婚願望、ないんですか?」
……今のところは、なんとも。
けれども私としては、やっぱりシオ様と彼の組み合わせが大好きだけどね。
「ふむ、恋愛とは関係なく、貴方の嗜好というやつですか。けど彼女にそんな邪な感情は向けてないでしょう、彼。あれはもっと尊いものですよ。人間関係で発生する俗物的な感情と一緒にしないでください」
お前ソマシオ強火担当か!? いいぜ、その討論ノッてやろうかッ!? 元プレイヤーとしてのソマシオ理論、
「その熱意はどこから来てるんですかねぇ。アキさん、この際だからきちんと言っておきますけれど、自覚させるために明言しますけれども──彼らの『一番』は貴方ですよ? 気付いてます?」
……いや一番かどうかは限らんだろ。
仲間とか。絆とか。
「──それは貴方の知っている世界の彼らのことであって、貴方のいる世界の彼らのことではありませんよ」
むむ。
精神体のくせに、もっともなことを。
「それともアキさん、この期に及んで、まだつまらないことを考えてたりします?
「流石にそこまで極端な冷め方はしてないよ!」
思わず吹き出してしまう。そんなシリアス思考回路は搭載していません。これまで私が何度シリアスをブレイクしてきたと思っているんだ? ハッピーを望む気持ちくらいあるって。
「だったら言い換えましょうか。
「──む」
……見抜く能力は一流か。いくら精神体だからって、そこまで読み取れるものなのか。
「おや。僕ほど『傍観者』のプロは他にいませんよ? 僕やソーマさんのアラガミ然り、精神体は……通常、見ていることしかできませんから」
「……それは」
「おおっと、そこで罪悪感を覚えるのはナシで。いいですか、アキさん。人間、選べる可能性は一つだけなのです。そして正しい可能性などありません。どうか“間違っていた”と自分を卑下するのはお控えください」
……凄く丁寧に諭されてしまった。これが年季の差ってやつだろうか。
まぁ──違和感はあった。ずっと。
世界を救って、ドタバタと現状を把握するまでかかって、他にもこの結末に導くためにやった損害を償って、それから、この辿り着いたゴールが、本当の本当に、「生涯無事か」「ハッピーエンドか」を確認し終えるのに、一年もあれば充分だった。
そう。充分だった。
その結論があれば、もう良かった。充分に報われた。やり切った。やり遂げた。
世界に勝った。
ゲームクリア。
周回制もなく、これ以上、やり込む必要もない。
だから──違和感がある。
「観客病、とでもいうんですかね。アキさんの場合は」
本を読んだ読者は本を置いて次の物語へと進む。
演劇を見終わった観客は席を立って元の世界へと帰る。
それはまるで。
めくってはいけない本の最終ページを、勝手に延々とめくり続けているような。
幕の下りた舞台の片隅で、チケットも取らずに登場人物たちのプライべートな会話を盗み見ているような。
そういう、違和感。
もう役者でも何でもないのに、舞台に留まり続けているような、罪悪感。
或いはそう──満足感。
でもそれも、もう止め時ではないのか?
至上目的は達成した。幸せは確認された。嬉しいことに想いも通じ合った。
充分だ。充分すぎる。
後はだったら、もう──自分は、この舞台を後にするべきではないだろうか?
異分子が消えて初めて、物語は終わりを迎える。読者が読み終えて初めて物語が完成する、等と言われるように。
……というような。
これはそういった、どうしようもない人間の独白だ。
だが私にあるのは役者としての席だけで、観客席なんか無い。
舞台からは降りられない。
人生という舞台から降りることは可能だが、死ぬのは怖い──
「どうやら、僕の想定以上に拗らせてるみたいですねぇ。本当に困った人だ。当たり前のことすら、分からなくなっているなんて」
「当たり前のこと……?」
「貴方にはとっくに幸せになる義務があるんですよ、アキさん」
……義務。
「ハッピーエンド到達者として、当然のことでしょう。どうして物語が幸福で終わった主人公たちの多くが、『その後も幸せに暮らしました』で終わるか、考えたことはあります? そうでないと
「……責任をとれ、って話?」
「そうとも言います。だって満足したから終わります──なんて、それこそ人生の甲斐がない。失敗も成功も挫折も逆境も積み重ねるのが、人間の生存戦略なんでしょう?」
「……そうだね」
全くもってその通り。
幸せになるのが怖い、なんて、ここまで来て今さら言えないし。
「じゃあ、もしもソーマさんにプロポーズされなかったら、どうするんですか? 他の人からの縁談でも受けるつもりなんですか?」
お断りだよ。全却下だよ。ありえねぇって。
ま、その場合は普通に独身貫いて、この新世界の旅にでも出るかねぇー……
「……ふーん。つまり『ソーマさん以外とは結婚したくない』、と。一途というか面倒というか……重いですね」
そうかなァッ!?
「そうですよ。人生、もっと自由なんですから。失恋したらしたで、次の恋をしたたかに探せばいいんですよ。縁談だって沢山いただいているんですし、他の人との結婚も視野に入れていいのでは?」
「いやだから結婚はしないって……」
「──しないのか?」
「いやソーマとはしたいけ、ど…………」
………………。
本音を引きずり出されたな、と冷静に頭が判断する。
そこでレンが立ち上がり、ダッとこちらの横を通り抜けるように走り出す。
「レンお前ぇえ────!!」
「あーはははははは! お幸せにー!」
その後ろ姿を追いかけようとした瞬間、ガッと後ろから首根っこを掴まれた。捕まえられた。
そのまま首に右腕が回され、逃さないようロックされる。
「ほう……俺とは結婚したいのか」
──なんだ? この……背後から刃物を突きつけられているような緊張感はッ!? これが恋人との空気感なのか!? 馬鹿な……も、もっと甘々いやつじゃないのか!? なんだよこの背後からの圧は!?
「……き、聞き間違い……」
「俺がお前の声を聞き間違えるとでも?」
ひぃ。書類提出の期限を絶対に延ばさない時と同じ声をしている……!
「場所を変えるぞ」
「……ハイ」
降参宣言のようにそう言った。
▼
──正直なところ結婚計画については私なりに考えていたことがあったのだ。
2073年! ソーマの誕生日には覚悟を決めてプロポーズしてやるぞぉ、みたいな。
ちょうど因縁のある数字が重なっているし。73年。P73偏食因子。しかも誕生日。彼の人生最高の日を作るなら、そのタイミング一択だろう、と!
……なのに。
「少し早いが誕生日プレゼントだ」
そう言って彼の部屋で渡されたのは金環の指輪だった。シンプルな造りで──あ、なんか内側に名前が刻まれている……!?
「お前、そういうの好きそうだからな。金色にしたのもアキの神機にあやかった。予定通りとはいかなかったが……ま、いつものことだな」
お、おお。よく分かられてしまっている。
指輪の内側に謎のメッセージ! うん、浪漫あるよね。意外にも金色だったのはそういうコトかー。
「お前に言い寄ってくる輩にも、そろそろ現実ってやつを教えたかったところだしな」
……。
……あ、あのー。知ってたんですか、縁談のこと……
「親父から聞いた。さっさと孫の顔を見せろとかな。物凄い面の皮だ、相変わらず。ま、それもあって次の誕生日に計画してたんだけどな」
ヨハネス。やはりヨハネス。
生き残ってから息子に甘くなってないだろうか、あいつ。君たち親子に手を組まれたら、私でもどうしようもないんですけど。
「これで嫌でも覚えるだろ、誕生日?」
……あ。
「お前のことだから、どうせ俺の誕生日に何か考えてただろうけどな。こっちからすりゃ、そういうのはもう腹一杯だ。お前はもう少し、自分自身のことも考えろ。周りに尽くし過ぎて自分が分からなくなったんじゃ本末転倒だ」
……ぬぬぬ。
あ、頭の良さそうなことを……
私だってソーマにサプライズしたかったのになー!
「お前がいるだけで毎日サプライズだ。偶にはやり返させろ」
目がガチなんですけど。そんなに?
「……俺といてくれて、感謝してる」
……そ、その。なにかな。そんな、甘い表情をなさって。
貴方の顔でそれやられると、あの、ときめきが凄いことに!
「お前と生きたい。これからもずっと……いいか?」
…………。
……わたしでいいの、ほんとうに……?
よく考えなよ、世界を救ったなんて言われてる奴だよ? これから先、どんな事態に巻き込まれるか分からないよ? わたしを選んでくれたところで──貴方が幸せになれる気がしない。幸せにできる自信がない。
だって、やり過ぎた。世界を変えすぎた。
愛してくれたのは、本当に、ほんとうに嬉しいけど、
……本当に、切り捨てるべき時がきた時に、苦しませたくない……
「逃がさねぇ、と言っただろ」
ソーマ?
「ああ、言い方を間違えたな。『お前と生きたい』、じゃなかった……俺と生きろ、だ」
……!
「お前はちゃんと幸せになるべきだ。嫌がっても離せない。逃げたって、どこまでも追いかける。他の奴に目移りしたら──殺してやる」
あ……
「
……殺し文句だよ、それ……
まったく、敵う気がしない。
殺してやるだの、自分と生きろ、だのと。
そんな熱烈すぎるプロポーズ──受けないわけにはいかないじゃないか……!
「それで、返事は? 結婚するか?」
「する。します。させてください。百回でも千回でもしよう、ソーマ……!」
「ははっ、しすぎだろ──っと」
気が付けば、衝動のままに抱き着いていた。
目をつむった瞬間、示し合わせたように唇が重ねられる。甘い痺れが幸福感となって胸を満たしていく。吐息が触れて、角度を変えて、言葉じゃ伝えきれない分を、伝えていく。
やがて離れた後、真っすぐ見つめながら──ようやく、告げることができた。
「……愛してます。わたしの未来、受け取ってね!」
「……!」
もっと赤くなって青い目を見開いた彼の顔は、一生忘れられないものになるだろう。
▼
そこからは一気に色んなことが起こった。
あれだけ面倒だ面倒だとリンドウさんやサクヤさんからも聞いていた婚姻手続きは知らない内に終わっていたし、また知らん内にアナグラ内に式場スタジオが組み立てられ、知らん内にウェディングドレスが手配され、気付いた時には金環の指輪が左手薬指に嵌っていた。
は、早い……早すぎる……! ど、どういう事だこれは、いつの間にか外堀が完全に埋まっているッ!?
親子間の認める認めないの伝説の攻防はどこへッ!? え、私は既にヨハネスさんを物理的にノックアウトしてるし、サカキパパも異論ナシ? お幸せに? ツバキさんとリンドウさんも「ようやくか……」みたいな達観した目をしていらっしゃるし!!
「ソーマいいなー。シオもアキとけっこんしたーい」
「シオ様!?」
「駄目だ。渡さねぇからな」
「アキ、シオじゃ……だめ?」
「……ッッ、ガッ、グゥゥ、シオ様は……シオ様は伴侶というよりも我が天上に在られるお方なのでっ、結婚ではなく、主従関係ならッ!!」
「アキはシオのだいじなひとー! じょうげなしー! そんなのだめだぞー!」
「もうお前ら傍目から見れば充分ファミリー感あるんだし別にこだわらなくていいだろ……」
リンドウさんの呆れたようなツッコミでそのような一幕も決着し。
式場の隅で支部長はなんかずっと泣いてるし、その様子を見たサカキパパが横で爆笑しているし。
そんな騒がしくも楽しく、祝福に満ちた式も、やがては終息に向かっていく。
「まさか……誕生日が結婚記念日になるとは……!」
「お前も俺の誕生日に似たようなことしようとしてたんだろ」
「してたけどさぁ!」
見事に防がれてしまった。ぐぬぬぬ、これは今年の八月、とびっきりのものを用意しないといけないな……! されっぱなしは性に合わないのだ……!
「いやぁ長かった……本当に長かったなお前ら……」
「おめでとう、おめでとうソーマ……よく頑張ったね……」
「ようやく解放されるんだなぁ……」
「人の結婚でなんでこんなに安心してるんでしょう、私……」
……周囲のそんな祝福の声に、流石に己の罪の重さを実感する。
こいつはもう殺されても文句は言えないぜ! いやぁ、今後が怖いなぁ!
「ま……覚悟しておくことだな」
「……わたしはソーマが幸せなら、もうなんでもいいよ!」
抱きかかえられる。純白のドレスのフリルが揺れ、ひらひらした長い袖をまとった手を、彼の肩に置いて身体を支えた。
かくしてエンディングの先の顛末はこのように。
花嫁らしく、おとなしく幸せを享受して、結びとしよう──
アキ(性能解説)
ハッピーエンディング後、チャートも全部完了したので、自分を「お役目終了」と見なして燃え尽き症候群になる。ここで長期間放置するとランダムなタイミングで失踪! 完走した感想を述べ! 一人で爽やかに自決する! なお、結婚するとこのフラグは永久消滅する。
良い夫婦の日でした。
これにて番外編、完結となります。お付き合いいただきありがとうございました!
番外編が終わったらどうなる?
知らんのか。
後日譚が始まる。