01 ウイニングラン
西暦2074年。
三年前の地球救済により、未だオラクル細胞の抵抗は若干残りつつも平穏度は上昇。
ここ極東では、現出したアラガミが“楽園化”の資源を喰って進化しようとしている動きが見られるが、終末捕食の起点ということもあり、不活性化デバフは世界一。どれだけ見た目強そうなアラガミだろうと、神機使いが駆けつければ即処理されるような日々である。
アラガミスレイヤーばっかり集結している極東でアラガミが天下を取り戻せるとでも思っているのだろうか。早く諦めて人型進化に移行してほしいものだ。
さて、そんな世界救済の立役者の私は、今日も今日とて朝から連日の研究室篭りで死んでいる伴侶に愛妻弁当を叩きつけることで脳を破壊しながら一日を始めていた。
「えー、今日の予定はっと」
アナグラの廊下を歩きながら頭の中でスケジュールを確認する。
そうだ、来客が多い日だ。
フライアから一人、親族から一人、ゲストが二人。全員面識はないが、知っているネームドたちである。そろそろ実際に目にして様子を見ておきたかったので、良い機会だろう。
「ユノだぁ────!」
と、エントランスの上階に行けば、早速そんな声が聞こえてきた。
下の階を見てみれば、ここ最近、よく情報番組でも見る超有名人の美少女が一人。
葦原ユノ。
世界的な歌手で、原作GE2ではシナリオの重要キーキャラクターとなっていた女の子だ。明るい茶髪のロングと、白いワンピースが可憐である。
「はいはーい、握手会はマネージャーを通してからにしてくださいねー」
その少女の隣にいるのは、ショートカットと眼鏡が特徴的な女性、高峰サツキさんだ。ユノのマネージャー兼、ジャーナリスト。決してカンジワルイオバサンなどと言ってはいけない。
「アキー! もどったー!」
「お。お帰りなさいシオ様」
後ろからシオ様が首に飛びついてくる。また支部内を探検でもしていたのだろう。
初のヒト型アラガミ──公になった時は、そりゃあ世間が注目したが、今や可愛さ余ってファンクラブまで出来ている始末だという。まぁ、存在公開時にPR動画として、彼女が歌を唄っている映像を流したのも大きい。
更に終末捕食──“楽園化”にも関わったアラガミだという捏造情報もでっち上げて公開したので、好感を抱く人類の方が多かろう。当事者だとこういう事ができるから非常に便利な立場だ。
「──あ、あのっ!」
おや? と声をかけられた方向を向くと、そこには上の階に駆け上がってきた美少女──ユノちゃんがいる。その目は私ではなく、どうやらシオ様に注目しているようだった。
「あの、その子、シオちゃん……ですよね!? あ、私、葦原ユノっていいます! シオちゃんのファンで……ぜひ会ってみたかったので、ええと……!」
ふぁん? とシオ様は私の背中で小首を傾げている。
類は友を呼ぶ──なるほど、歌手として、歌を唄う相手は気になるものか。
「よかったら、お、お友達になってくれませんか!」
「! ともだち……!」
あっ、シオ様の目が輝いた気配がする。ぴょんと私から離れると、友達希望者に、てくてく歩み寄っていく。
「シオだよ! よろしくな、ユノ!」
「~~っ、かわっ……いい……!!」
ユノちゃんが悶える。せやろ?
「は、はい! よろしくお願いします!」
周囲から拍手が起こる。場の雰囲気の影響か、おずおずとユノちゃんが手を差し出すと、笑顔でシオ様がそれを握り返し、ぶんぶんと振った。尊き友情が今、ここに築かれた。
「ちょっ……ちょ~っとユノ~。そういうのはもっと大々的にっていうか、こんなところでやらなくても……!」
とか言いつつ、追いついてきたマネージャーさんは友情成立の瞬間をきっちりカメラに収めている。明日にはこの友情譚が世界中に流布されるに違いない。
「お久しぶりですね、サツキさん?」
「ッ……! あ、あく──いや、アキさん! あはは、私たち、どこかで会いましたっけ?」
気配を消して近寄ると、ビクリとサツキさんの肩が揺れる。そんなに怖がる必要ないっていうのに。
「そりゃあ覚えていますよ。“悪魔の鉄槌事件”──最前線で信者どもに構わず、シャッターを切りまくっていた猛者なんて印象にしか残りません。その後、ご壮健で?」
「っっ……! いや、でもなんで私なんかのことを──」
「
サツキさんが額に手を当て、天井を仰いだ。話を聞いていたのは事実だが、貴方の名前はずっと前から知っていたのだけどね。
「……そういえばご夫婦でしたね……あの男、どうなんです? 夫として大丈夫なんですか?」
「嫌いになるところが無さすぎて逆に怖いって感じですかね」
「惚気か!」
そうだが、なにか?
「サツキー! ラウンジでシオちゃんとお話ししてきていいー!?」
「あああもう分かった分かった! 好きに話してきなさい! 三十分だけだからねー!」
「はーい!」
こちらに手を振るシオ様に手を振り返す。やがて美少女二人は、エントランスの西に増築されたラウンジの扉の向こうへと消えていった。
「平和ですねぇ」
「……おかげ様で」
ツン、とサツキさんがそっぽを向いた。
▼
──神機保管庫で神機さんに初恋ジュースを捧げてから、自販機で買ったもう一本の初恋ジュースを飲みつつ、訓練場へ向かう。
朝は中堅以上のゴッドイーターたちへの教練時間が入っている。今日はそう、例のブラッド隊だ。
といっても本日、「演習」するのは──
「ってワケで教官先生! 本日もよろしくお願いします!」
神機さんを手に、目の前の人物へ頭を下げる。
ええ、と相手から声がし、顔を上げればそこには十六歳ほどの少年の姿があった。
──神威ヒロ。もとい教官先生。
GE2公式主人公にして、「喚起」の“血の力”を持つトンデモ野郎である。
血の力とはッ! P66偏食因子を持つ「ブラッド隊」のみが持つ特殊能力! 感応現象の強化版で、これが戦闘中に発動すると神機内のオラクル量が上がり、攻撃強化がなされるぞ!
中でも彼の「喚起」はヤバイ。なにがヤバイっていったら汎用性がヤバイ。同じ偏食因子を持つブラッド隊のみならず、他の偏食因子を持つゴッドイーターにまで、《
あくまでも、“心を通わせた者”相手限定だが。
つまり何が重要かというとッ! 彼には私のキャラクターエピソードを攻略してもらわなければならないノダ──ッ!!
「えーと……いや、アキさんってもう『ブラッドアーツ』使えてるんじゃ……?」
「アレはただの疑似です」
「こわ……」
ドン引かれた。なんでさ。
「じゃあ……周回でも、行きます……?」
「十回ぐらい行ったけど、全然効果なさそうなんですが教官先生」
「ですよね……うーん……じゃ、何か困ってることとか無いですか?」
「ブラッドアーツが覚醒しないことですかね……」
「他! 他には!!」
……ちょっと真面目に考えてみる。
クエストになりえそうなもの……ネタ……何かないだろうか──
「──あっ、キグルミの中身──」
「いけません、アキさん」
ヒロくんの目には光がなかった。
「触れては、いけません」
「お、おう……」
……どうやらそちらのサブクエも完了していたらしい。私も怪異だとか都市伝説とか散々な言われようだったけど、キグルミが一番にして最大の謎だよな。
「もう、最終手段しかありませんね……アキさん、何かご自身の根幹に関わること……そう、秘密とか、あったりしませんか?」
「秘密……」
「いや、プライベートに関わることなので、無理にとは言いませんけど……それを知ることによって、よりアキさんへの理解度が深まるんじゃないかな、と!」
あっ、と一つ思いついて指をパチンと鳴らした。
「私、転生者なんだよね」
──瞬間、神機さんが光をまとって輝き始めた。
溢れるこのパワー!? 今ならイケるッ!!
高まった衝動に身を任せ、私は訓練場内にあったダミーアラガミへ攻撃を放った。
発生する
「これが……! これがブラッドアーツなんですね、教官先生!!」
「知らない! 知らない! なんで!? なにこれ!? なんで力が勝手に──!?」
そんな感じでブラッドアーツを習得した!
▼
「あ──あら。今、終わったところ?」
混乱するヒロくんにお礼を言って解放した後、訓練場には白衣の、赤髪をハーフアップにした女性が来訪してきていた。
──レア・クラウディウス。
あのラケル博士の姉にして、フライアの開発室長。でもってこの世界では、ブラッド隊の保護者のような立ち位置にいるお方である。今やP66偏食因子研究の第一者とされているが、まあ実際のところは亡き妹の研究を引き継いだという形だろう。
「はい、ちょうど。初めまして、レア博士」
「──……そう、ね。そうなるわよね。でも、父から貴方のことは聞いているわ……幻代アキ」
でしょうな。
彼女から見れば私は、実の妹を暗殺した仇敵である。そのように苦い顔をされるのも無理はない。
「……でも、恨んではいないの。私は……私はなにもできなかった。ただ言いなりになっているだけだった……そこで、ある日突然、解決してくれたのが貴方よ……」
「とは言っても複雑でしょ。無理に受け入れる必要なんかないんですよ」
「……いえ。それでも、私にはこう言う義務があるわ」
そこで改まったレア博士はお辞儀した。
「──ありがとう……貴方のおかげで、私は自分の道を見つけることができたわ」
思わず肩をすくめる。
「そ。じゃあ感謝の気持ちは受け取っておくよ」
「そうして頂戴。ブラッドの皆を、よろしくね」
これでこの話は終わり。
ユノ&サツキ、レア博士と続いて、来客三名の様子見は完了した。
会っておきたいのは、残りあと一人。
▼
──部屋にいったん戻って、軽く朝食をとり、また購入した初恋ジュースを飲んでいた。
さて、今日はこの後ちょっとだけ時間があるなあ、と思いながらエントランスの一階をぶらついていると、
「──もし。そちらはアキ様では?」
優男っぽい声に振り返ると、そこには長い金髪が特徴的な男性が立っていた。
ヨハネス支部長に似た顔立ち。ただしその衣服は余所行き用の黒いコートで、記憶にある彼のビジュアルとは随分と違う。
なにせ眼帯をつけていなければ、杖だってついていない。
彼こそは本日最後に会っておきたい人物ラストワン──ガーランド・シックザールだった。
「……左様ですが」
「やはり」
ガーランドが近づいてくると、懐からスッ……とそれを取り出した。
それは──どう見てもサイン色紙とペンだった。
「なんです??」
「ああ、すみません。お初にお目にかかります、ガーランド・シックザールと申します。フェンリル本部に属しながら教師もやっているのですが、今度極東に行くと口を滑らせたところ、貴方のサインをもらってきてほしいと教え子たちに頼まれてしまいましてね……」
「──、」
わぁ……! 綺麗なガーランドさんになってるぅ!
ガーランド・シックザール! 彼こそはあのヨハネスさんの弟にして、原作公式コミカライズ──あの“加賀美リョウ”が出ている漫画のラスボスだ! 作中では「以前は教師だったが、教え子をアラガミに皆殺しにされ、それから人が変わった」……とのことだったが、へー!
よかったじゃんかよ……
ていうかシックザール家、大切な相手を失ったら闇落ち率、高くない? ラスボスの家系なんですか? 絶対に死なないようにしよ……
とりあえず缶を適当な手すりに置き、サインを書いて突き出すと、ありがとうございます、と礼を言われる。
「式には行けませんでしたが、ご結婚おめでとうございます。といっても、兄や甥ともあまり関わりがないのですがね、私は。まぁ、それでも親族の末席ではありますから、こうしてご挨拶もかねて」
「いえいえ、こちらこそ……今まで挨拶もなく……」
わー、なんか凄い変な感じ。
一体いつこっちのシナリオがくるか!? と身構えていたが、どうやら杞憂だったらしい。
「──つきましては、本部への登用などのご将来は──」
「ないっす。一生隠居生活で充分です。もう色々人生でやり切りましたんで」
「それは残念です。では、お幸せに。私はこれで」
交流終わり。ガーランドさんは受付に行って手続きを済ませると、エレベーターに乗っていった。
ついでに実兄に顔を見せに行くのだろう。あの兄弟、どんな話するんだよ。詩で会話しそう。
「……今日のノルマ達成、と」
予想通りだったり、妥当だったり、予想外ではあったが。
総括。今日も世界は平穏だった。
▼
──その後は昼食を食べて初恋ジュース飲んで、適当にアラガミを狩りに行った。大幅に弱体化を喰らっているアラガミさんだが、たまーに強いのが出てくるので、定期的に狩っておくのが大事なのだ。
「シオ様はユノちゃんの部屋に泊まる、と」
そんな連絡メールに返信し、今日分の仕事も終わったので部屋に戻る。
夕飯はホワイトシチュー。正直、料理は旦那に作らせた方が美味しいのだが、こちらが作った分だけ作ってくれるという話なので作っている。交渉が上手い、ぐぬぬ。
「ただいま」
弁当箱と研究ファイルを手に、ソーマが帰ってくる。その恰好はクレイドルの白い制服だ。白衣のようになっていて実に良い。でもフードも偶には被ってもらいたいのがファン心であった。
「おかえりー!」
走り寄って抱き着くが反応はない。
動かない。まるで石像のようだ。
「……き、気絶してる……?」
「脳が一瞬シャットダウンしただけだ」
「結婚したのになんでそんな著しく耐性が下がってるのさ……?」
世界は救われた。というか救った。
このように物語のハッピーエンドの後には、幸せと日常だけが詰まった、なんでもない、かけがえのない日々が続くだけ。
──これはそんな日々の中で起きる、ちょっとした後日譚だ。
アキ・シックザール(24)
もう幻代姓ではない。ハピエン後をエンジョイしている。旦那の作るご飯が好き。
ソーマ・シックザール(20)
誕生日がきてないのでまだ二十歳。
嫁の作る飯が好き。料理スキルは嫁好みの味に特化させているだけ。
葦原ユノ(17)
GE2要素。公式の歌姫。シオ様の大ファン。
高峰サツキ(24)
GE2要素。ユノのマネージャー兼ジャーナリスト。“悪魔の鉄槌事件”を広めた張本人。
レア・クラウディウス(28)
GE2要素。フライアの開発室長でブラッド隊の保護者。慕われている。
ガーランド・シックザール(42)
年齢は本作の独自設定。世界の各支部に周回概念が成立した余波で、教え子たちが無事なので闇落ちしてない。綺麗なガーランドさんである。
後日譚、お待たせしました。GE2や漫画版のキャラをチラ見せしつつ、本編のその後の話など。
一次創作の方も更新再開したので是非~