転生神機使いは狩り続ける   作:時杜 境

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02 バンド結成

「音楽祭?」

 

 朝。

 ラボラトリに呼び出されて行ってみれば、サカキ博士からそんな企画を聞かされた。

 

「今度のフレンドシップデーにね。サツキ君……というかユノ君とシオから提案されたことなんだけども」

 

 ──FSD。フレンドシップデー。

 年に一度、アナグラを民間人に開放するイベントである。これも“加賀美リョウ”が主人公の漫画に収録されている話に出てくるもので、実際にこの世界でも開催されていたのを、昔、何度か体験したことがある。

 

 懐かしい。もうそんな季節だったか。

 幼女時代にツバキさんやリンドウさんと出店を回ったことがあるが、出張時期が被ってソーマとは一度も参加したことなかったな。

 

「ここ三年は“楽園化”で各地ごたごたしていたから、FSDの開催も三年ぶりでね。祝・世界救済記念! ってことで、ユノ君とシオを代表に、『人とアラガミの共生時代開幕』を告げるイベントにしてしまおう……というのが目的だよ」

 

「彼女ら、デュエットでもするんですか?」

 

「察しがいいね。で、いっそのこと参加者を募って音楽フェスティバルにしちゃおう! って話が盛り上がちゃったんだ。彼女たち二人はやる気満々だし、君も是非どうかなって」

 

「拒否権ないでしょソレ。救世主なしで成立しないじゃないですか」

 

「はははは! まぁそういう事だね!」

 

 共生時代の開幕かー……

 確かに、そういう平和を象徴する一大イベントもそろそろ必要な時か。

 

「ちなみに君の出演はサプライズの大トリだ。この任務は極秘だよ?」

 

「ハードル上げるなぁ」

 

 というわけで、日常に組み込む予定が一つ増えてしまった。

 

   ▼

 

「ハイ! 『怪物』! 『怪物』! 『怪物』!」

 

「この前ターミナルで幼女が戦記やってるアニメ見たんですけど、その主題歌とかどうです?」

 

「特定人物の脳を破壊する方向か、私の世間一般イメージを悪化させる方向性かよ。本当に良い根性してるよな君たち」

 

 午後の出撃メンバーとして連れてきたのは、神薙ユウと神威ヒロの主人公格たちだ。

 緑の溢れ返った廃ビルのフィールドで、さっきからユウは「怪物」推しだし、ヒロはさっきから物騒な曲調のものしか提案しない。

 

「や、ていうか私は君らをバンドメンバーにスカウトしたんだけど。どれ選んでも自分で演奏することになるんだぞ?」

 

「俺は別に構いませんよ。バンドやるとモテそうだし」

 

 神威ヒロ、その参戦理由は絶対にブラッド隊には言うなよ。

 

「僕は単純にダチの情緒を突き落としたいので、いくらでも協力しますよ」

 

 神薙ユウ、お前はソーマをどうしたいんだ。

 本当に良い性格をしている神威教官と神薙弟子だった。これが原作主人公か……!?

 

「で……もしかしてバンドのもう一人って……」

 

 ヒロの視線が、私の後ろのやや遠くに向く。

 そこにも本日の出撃メンバー、しゃがみ込んで蟻の観察をしているらしい、最後の一人の姿がある。それはどう見ても神機使いだったが、どう見ても異様だった。

 

 ツギハギデザインが良く似合う、紫色のウサギを模したソレ。

 

 そのキャラを知っている。いや、()()()()と言った方が正しいだろう。

 

 ゴッドイータープレイヤー、その誰もが知らない──真なる謎そのもの。

 放置された特異点。誰も触れないミステリー。それ即ち、“禁忌”。

 経歴は? 名前は? 中身は? 正体は? フェンリルが誇る万象情報データベース、NORNでさえ匙を叩き折っている、その存在。

 

 “ゴッドイーターである”という事実以外が一切不明の、謎のNPC──!!

 

 ──KIGURUMI。

 

 もとい、キグルミさんである。

 

 あの、一言も喋らず、全てが謎に包まれている、あのキグルミさんである。

 

 こいつの正体にはプレイヤー間でも諸説ある。

 だが、そのいずれを辿ったとしても明確な正体には至らない。しかもこの世界、リンドウさんもユウもエリックも支部長もシオ様もレン様もいるし、ますます正体が分からないッッッ!!!!

 

 ツッコんだら負けってやつだ。考察殺し。それがキグルミなのである…………

 

「……キグルミ、さーん。バンドメンバー、まだ空いてるんだ。引き受けてくれ……ませんかね?」

 

「アキさんまで敬語になるんですか……」

 

「あのキグルミ、いいよね。僕はちょっと着てみたい」

 

「……!」

 

 パッ、とキグルミが素早く起立する。すたたた、とすぐに目の前まで来ると、握手を求めるように右手を差し出してくる。……合意した、ってことでいいのだろうか?

 

「さ、サンキュー。ありがとです。じゃあ、まずは担当決めようか」

 

「まずキグルミさんはドラムだよね? 俺、ベースやってみようかなぁ」

 

「なら僕とアキ師匠がギターですかね。あ、ボーカルは任せます。自信ないので」

 

「サプライズ出演も鑑みるとそれが妥当かぁ……えー、キグルミさん、それでいいですか?」

 

「……!! ……!」

 

 コクコクと勢いよく首肯される。凄まじいやる気を感じる。ドラム、後ろでこのキグルミが叩いている絵面は中々にパンチが強そうだ。

 

「じゃ、練習場所はラボ奥の、元シオ様の部屋で。もうシオ様は新しい部屋とか友達の部屋で寝泊まりして使ってないし、あそこなら防音完備だ。あと一応サプライズ出演なんで、このことは他言無用な」

 

「「了解!」」

 

「……!」

 

「練習スケジュールは追って連絡するよ。よろしく、三人とも!」

 

 夢の主人公軍団+aのバンド、ここに結成。

 曲決めはこれからだが、なんだか面白くなりそうだ……!

 

   ▼

 

「アキ、おかえりー!」

 

「かーわーいーいー」

 

 とたたたっ、と出迎えにエントランスを走ってきたシオ様を抱きとめる。きゃー、という嬉しそうな声が、ああもう可愛い。浄化される。ありとあらゆるものが。

 

「あまえたダナ! ぎゅーってするの、シオすきー!」

 

「天使天使大天使天使マイエンジェルエターナルラブユー」

 

 いやぁ、幸せだね! 一生続けこんな日々……! いや、続けるッ!

 

「仲良きことは美しき──だが、こっちの旦那にも構ってやれよー、アキ」

 

 リンドウさんの声に顔を上げると、そこにはソーマを始め、アリサちゃんやコウタ君といった主要メンバーが勢ぞろいしていた。

 ……三人はソファに座っているのに、ソーマだけは腕組みで佇んでいる。なんか言いたげですね。なにかな!?

 

「お帰り」

 

「た、ただいま……なんか、待ってた?」

 

「バンドっすよ、バンド!」

 

「バンド?」

 

 コウタ君の助け船に、白々しく「初耳です」のリアクションをしておく。

 そろそろアナグラ内にも、音楽祭の話が広まっているらしい。私たちがサプライズ出演ってことは、当然、他の部隊からもバンドチームが結成して参加するのである。

 

「次のフレンドシップデーで、音楽祭をやるそうなんです。シオちゃんとユノさんも出るんですよね?」

 

「やるぞ! ユノとデュエットー!」

 

 アリサちゃんに元気よく返事をするシオ様は可愛い。

 

「いつの間にそんな企画が……ビデオカメラ、足りるかな……」

 

「んで、一般参加以外でも、各部隊からも出展要請があるんすよ! なんか、エミールはエリックとエリナとも組むらしいし、俺らも元第一部隊メンバーとして参加、しませんか!?」

 

「音楽は遊びじゃねぇ。覚悟はできてるんだろうな?」

 

「目がガチってる……」

 

 原作漫画でも一番スパルタだったらしいからな、ソーマ……

 

「俺、ユウ、アリサ、リンドウさんはもう決まってて、ソーマも参加するなら、アキさんもどうすか?」

 

「んにゃー、仕事が結構あるから、私は練習する暇ないかなー」

 

「……しないのか?」

 

「……」

 

 寂しそうにしないでくれソーマ。ちょっと裾を引っ張るんじゃない。私はもうサプライズ出演が決まっているんだよ! 流石に私は兼任は無理だよぉ!!

 

「し、シオ様どうです? キーボードとか良さそうじゃないですか?」

 

「おー! いろんなおと、でるやつだな!? やりたーい!」

 

 ──ふ、計画通り。これってつまり第一部隊+シオ様の俺得バンド! ユウも私のチームと兼任することになるのだろう──実に大変そうだ。応援はする。

 

「いやー、残念だったなソーマ! 話聞いてからずっとそわそわして待ってたのに!」

 

「アレ絶対、頭ん中でアキさんに歌わせる曲を直前までリスト化してましたよねぇ。でも仕事の都合だからなぁ! 残念残念!」

 

「アキさん、私に手伝える仕事があったらやりますよ?」

 

「同僚たちの圧がすごい」

 

 いやいやいや。私は私で、第一部隊のバンドを観客席で拝みたいのだよ! 出演するっていっても、もう別チームで出るって決まってるし!? 物理的に仕事と練習のスケジュールが無茶なことになるよ!?

 

「……シオもアキとバンド、やりたいなー……?」

 

 ああっ! 抱き着いたままのシオ様までチラチラと見てくるぅ! くっ、代打で勧めたのがかえって仇になったか……!

 

「っ……」

 

 ──頭の中で現在の一日のスケジュールを洗い直す。

 起床、家事、朝食、教練、出撃、昼食、交渉、書類仕事、練習予定1、夕食、風呂、仕事……ここで練習2をねじ込み、睡眠! こ、これで何とか……!? いや無理だろッ! 無理でも無茶をやり通すのがゴッドイーターだけど、流石にキツイっすねぇ!

 

「安心しろ。プロデューサーとしてスケジュールは管理してやる」

 

「手を握るな!? まだやるとは言ってないよ!」

 

「そういやバンド名、どうすんだ?」

 

「『チーム・問題児』!」

 

「却下。ドン引きです」

 

「もう普通に『クレイドル』でいいんじゃねぇの……?」

 

 リンドウさんの代案に、「それじゃつまんないっすよー」とボヤくコウタ君。

 バンド名……私たちサプライズチームも、どういうのがいいだろうか……

 

   ▼

 

「……!」

 

「あれ、キグルミさん」

 

 いったん皆と解散して部屋の前まで来ると、そこにはキグルミさんが出没していた。

 こちらに気付いた彼、または彼女は、とことこ寄ってくると、一枚の音楽CDを渡してくる。

 ──あ、懐かしい曲名。てか前世で聞いたことあるやつだ。

 

「演奏曲の参考に……? かな?」

 

「……!!」

 

 コクコクッ、とヘッドバンキングしてくるキグルミ。頭、外れますよ?

 用事はそれだけだったのか、手を振って相手は去っていく。それを見届け、手元のCDを見下ろした。

 

「……『IMAGINARY LIKE THE JUSTICE』…………これは決まりかも」

 

 魂に火を点けるようなロックソング。

 この世界に叫び散らすには、もってこいのチョイスだ。

 

   ▼

 

 おやすみなさい、と今日も目を閉じる。

 ──眠りに落ちる前。ふと、もらったばかりのCDを想起した。

 

 青円の波形。そのイメージは徐々に広がって────

 

「…………?」

 

 気付くと、見知らぬ場所にいた。

 いや、見知らぬ、ではない。

 荒れ果てた廃墟街。土と砂が吹きすさぶ、スタート地点。

 

 ここは今や懐かしの──贖罪の街ッッッ!!

 

 リボーン?

 リスタート?

 リザレクション……?

 

 ホワイ? なぜッッッッ!?!?

 

「……!?」

 

 そして視界に違和感ッ! 自分の両手をみると、それは人のソレではなく。

 ──き。

 

 

 ……──キグルミに…………なっているっっっ…………!!!!

 

 

「!?!?!?!?」

 

 大混乱に叫んでも声は出ない。ただジタバタと腕が激しく動くだけである。

 なにこれ。なにこれ!?!? キグルミキャラクターエピソード特別DLCでも始まったのか!? そんなサブスクには入った覚えないんですけどッ!?

 

 いや、夢だ。これは流石に夢だ!! 明晰夢というやつだ! そうだろ!! なぁ!!

 

「……!」

 

 その時、教会のある方から戦闘音が聞こえてきた。今や懐かしい出撃地点から飛び降りると、そこで右手に、馴染みの感覚があることに気が付く。

 

 ……じ、神機さん……!

 

 そこには黄金ブレードの我が相棒! よかった、ついてきてくれたんだね! 夢とか回想とか不思議事象はオラクル細胞の十八番だからねぇ! 心強い!

 

「……っ」

 

 とりあえず歩き出す。状況把握のために歩き出す。

 これを夢だと心の底から願いながら──歩き出す。

 

 鳴き声からして敵はヴァジュラか。さーて、誰が戦ってるのかしらー、っと?

 

 

「──ッシャァ、周回おわりィ!! これにて準備万端ッ! アルダノーヴァTA、いっくぞぉー!」

 

 

 ……とてつもなく同胞っぽい気配が、した。

 ……若干一名の黒幕が聞いたら発狂しそうなことを叫んでいる人物を、見た。

 教会奥、その野郎はヴァジュラの死体の前で、テンションがキマッていた。

 

「ムッ──何奴ッ」

 

 そこで相手がこっちを振り返る。

 黒髪、黒目。迷彩服にボロいローブをまとった、十八歳程度に見える青年だった。少し焼けた肌色で、顔にも少し傷跡がある。

 

 そして立ち姿から直感する──こいつ、クソ強い、と。

 だがそれよりも前に、そのビジュアルを見た瞬間、ある解答が私の頭の中には導き出されていた。

 

 ──加賀美、リョウ……?

 

 あり得ない邂逅。

 夢でしかあり得ない状況。

 

 

 西暦2074年/西暦2071年。

 世界線を超えた後日譚は、このような形で開幕した。




アキ
 キグルミになる悪夢を見たので1D6のSAN値チェック。



 本作でいうDLC要素的な。
 とはいえ2074年の後日譚もちゃんと進めていくのでご安心をー。
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