転生神機使いは狩り続ける   作:時杜 境

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04 陽だまりの日常

「………………!!!!」

 

 がばっ! と飛び起きた。

 息が切れる。肩で大きく呼吸していると、徐々に、現実を認識する。

 ……自分の両手を見る。……キグルミではない。ちゃんとした人間の手だ。

 

「……よかった……よかっ……た……」

 

 ぼすん、と後ろからベッドに倒れ込む。

 なにか、凄い夢を見た気がする。

 

 それはキグルミのような……

 修羅先輩の後日譚のような……

 極東という犠牲者が生まれるような……

 

 カオスの序章じみた、ナニカを。

 

「ん……? どうかしたのか……?」

 

「いや……なにか、胡乱な悪夢を見た気がする……」

 

 こわい。

 恐怖から伴侶の懐へと潜る。寝起きでぼんやりしている何も知らない旦那様は嬉しそうに此方を抱き込んだ。あっためてくれ、頼む。なぜか寒気が止まらないんだッ……!!

 

   ▼

 

 欠伸に口を手で覆いながらアナグラの廊下を歩いていく。

 今日の教練はツバキさん担当なのでナシ。午前八時過ぎのいつもよりややルーズな時間帯、神機保管庫にやってくると、すでに整備士たちがちらほらと往来している光景が目に入る。

 

 神機が並んでセットされている列の中、とてもよく目を引く黄金の刀身を見つけ出す。

 

 そこへ初恋ジュースを投擲する。瞬間、勝手に捕食フォームが起動し、ピンク色の缶がばくっと食べられていく。ムシャムシャと缶がひしゃげる音の後、ペッとゴミと捻じれた空き缶が飛び出して神機さんが元に戻る。吐き出されたゴミは、空間隅に設置されている分別ゴミ箱へと落ちていき、ホールインワン。

 

 いつもの光景だ。

 

「相変わらず自由だよね、アキさんの神機は」

 

 やってきたのはリッカちゃんだった。極東が誇るバグ人材。今やあのサカキ博士と並ぶ、技術開発の特異点である。《ブラッドレイジ》はやりすぎですよ!

 

「めちゃくちゃ自我があるからねー。そういや『リンクサポートデバイス』の方はどうなったん?」

 

 神機に装置を装着することで、遠隔に出撃中の仲間へ、神機からの特殊支援を発動させることができる技術──リンクサポートデバイス。GE2では出撃時に選択することになっていたアレだ。体感としては《ブラッドアーツ》よりお世話になっていた気がする。

 

「ブラッド隊の副隊長を被験者に、データ収集中だよ。アキさんの神機さんの効果は面白くてね、聞きたい?」

 

「まさか……オートバトル!?」

 

「あっはは、ありそうだけど違うよ。正解は『フルバースト 0~20』と『報酬レア率上昇』! 一気に二つの効果が望めるなんて、流石はレトロオラクル細胞製だね」

 

 なにそれ欲しい。ていうか私が使いたい。

 ミッション開始直後から20分までバーストレベルマックスの前者はともかく、報酬レア率って……神機さん? そんな恩恵、今までに受けたことありましたっけ、私??

 

「まぁ、デメリットとしては、これ一つでコストが一杯になっちゃうんだよね。周回を強要する効果って、なにかの呪いなの?」

 

「知らないっす。私ワルクナイ!」

 

 コスト低減への改良進化、お願いしますよ神機さん!!

 

   ▼

 

 本日は、なぜかノー業務デー。交渉も討伐も会議もなく、ただしラウンジへの立ち入りだけは厳しく禁じられていたので、私はエントランスでターミナルに向かい合っていた。

 

「……ん? アキ、何してんだ?」

 

 背後からリンドウさんのお声。

 それに私は振り返らないまま言葉を返す。

 

「三年前の最高効率周回ルートの確認」

 

「なんで……?」

 

「……精神安定剤、的な?」

 

「お前っ……! まだ周回に囚われてッ……!!」

 

 涙声で同情される。

 さもありなん、とっくに私のノルマは達成されているのだから。

 しかしなんだろう……この懐かしい感覚……使命感……周回をしなければならない、という漠然とした胸騒ぎは、一体どこから……

 

「アキー! おしごとー?」

 

「いま全ての用事が無くなりました」

 

 ターミナルとのアクセスを切って、くるりと振り返る。

 シオ様シオ様! シオ様からのお声がけは上官命令よりも優先される!

 すると、近くに来たシオ様がこちらの手を取り、ラウンジの方へ引っ張り始める。

 

「? 今日はそっち、立ち入り禁止なのでは?」

 

「じゅんび、おわった! きてきてー」

 

 準備? なんの?

 そう思っている間に、開いたラウンジの扉を潜り。

 

 ──瞬間、ぱんぱぱーんっ、と一斉にクラッカーの音が鳴り響いた。

 

 空中に舞い上がっていく色とりどりの紙吹雪。

 目を丸くする中、感知するのは室内に漂う「おめでた」の空気感。

 

 そこには見知った顔が集結していた。第一部隊、クレイドル、ブラッド、オペレーター、古参、新人、とにかく一度は会話したことのある面子が、そこにはそろっていた。

 

「……、……??」

 

『サプラーイズ!』

 

 何何何何???

 いやサプライズは予想通りとしても、なんだ……? なんのイベントだこれ……? 誕生日? いや、私のは覚えやすい年始め……終末捕食の日……は、四月のことだからお祝いするにしても遅い。本当になんだ……?

 

 混乱のただ中にぶち込まれていると、シオ様が顔を覗き込んでくる。

 

「アキ、きょうがなんのひか、しってるー?」

 

「…………シオ様顕現記念日……?」

 

「ちがーう。()()()()()()()()()()()!」

 

 なん──だと?

 

「お前をリンドウが拾った日から逆算したんだ。8()()1()5()()。今日がそうらしい」

 

 ソーマの補足になるほど、と頷く。

 そうなんだ……そうだったんだ……当時、季節感覚なんて死んでたから、まるで知らなかった……

 

 運命が変わった日。

 物語が始まった日。

 全て──十三年前の今日だったのか。

 

「つ! ま! り! シオと少佐が出会わなかったら、今の世界は無かった、ってことでしょ? お祝いしなくてどうするのさ!」

 

 なるほど、ありがとうコウタ君。おかげで現状の全てを把握した。

 まさかそんな……そんな嬉しいサプライズがあったとは──!

 軽く気絶しそう。

 

「ねちゃダメだぞ? ユノとうた、うたうの! きいてほしいー!」

 

「我が全霊を賭して拝聴させていただきます」

 

「そ、そこまで畏まらなくても……!」

 

 ──やがてラウンジには、ユノちゃんのピアノの演奏に合わせて、シオ様とのデュエットライブが響き始める。歌唱が終わっても、わいわいとパーティは盛り上がり続ける。

 

 息の合いすぎているエリックとエミールの掛け合い、完全にツッコミ役のエリナちゃん、原作主人公たちの狂った会話に戦慄する周囲、昔の黒歴史を話題にされて悶絶する主要人物たち、私は昔から大して変わっていないというリンドウさんの証言に納得する周囲(なんで?)、今は絶滅した“帝王”の戦闘体験と絶滅過程、突如としてサカキ博士から投下された“支部長の絶対滑らない話”に全員ノックアウト。

 

 それから──

 

「アキのうた、ききたーい!」

 

「本職の方の前でですかッ!?」

 

「そんな、気にしないでください! 私も聞きたいです!」

 

 う、うお──! 敵前逃亡は銃殺刑! やるしかねぇ──!

 

 「Eternity Blue」────!

 

 という感じでピアノ弾きながらのカラオケライブをやることになる私。……ちなみに演奏技術は、ここ三年でシオ様の歌唱練習にお付き合いするため、ソーマ指導のもと猛特訓した結果、身に着いたものだったりする!

 

 

「──いやー、楽しかった」

 

 宴も徐々に落ち着いてきた頃、ラウンジの床には酒に潰れた者が転がっている光景などが広がっていた。

 視界の端では、ギルバートやリヴィがズルズルと寝入ったブラッド隊の面々を引きずって輸送している。保護者枠、あそこなのか。

 

 しかしクレイドルはまだ全員健在で、ユウ、ヒロ、ジュリウス、コウタ君たちは窓際席で周回談義を、真ん中のテーブルキッチンでは、アリサちゃんがサクヤさんと共におつまみを作っている。

 余裕ですね皆さん、流石は公式修羅。正直、主役だった私はもう疲れましたよ?

 

 あと空間の隅では、リンドウさん、ハルオミさん、ヨハネスさん、キグルミさんで麻雀卓を囲んでいる。ただしキグルミさん以外の三人が既に半裸で、それを肴に観客席では、一升瓶を抱えたサカキ博士がずっと笑っていた。なんだあの空間、こわっ。

 

「ソーマ、スヤスヤかー?」

 

「……ねてない」

 

 で、座っているソファの向かい側では、うつらうつらしているソーマの顔を、シオ様が覗き込んでいる理想郷があった。どうやら此方も潮時らしい。

 

「私たちも引き上げようか。お先、あがりまーす」

 

 ソーマに肩を貸し、ラウンジに一声かけつつ後にする。

 とたとた、とシオ様もついてきて、「コッチだぞ!」と先導してくれる。

 

「……お前……なんで平気なんだ……」

 

「飲み勝負に巻き込まれなかったからね。ツバキさん、強かったなー」

 

「くそったれ……」

 

 P73偏食因子持ちでも二日酔いは来るのだろうか。部屋に戻ったらまず、消化にいいものを作ってあげよう……

 

「きょうは『かわのじ』! いっしょにねよー! アキ! ソーマ!」

 

「お、天才的発想。素晴らしい提案ですね」

 

 でも個人的にはできることなら私一人がクローゼットの中に潜んで、外で寝ている君たちの寝息を聞きつつ眠り、

 

「声に出てるぞ」

 

「──失言」

 

 私も少し酔っているようだ。ははは、何もやましいことは考えていませんよ。

 

「ふふふ」

 

 天使の笑い声。

 視線を向けると、こっちを見つめていたシオ様はにこにこで、神々しく輝いているようだ。ああ、純白の羽がみえる……!

 

「こういうの、なんか……イイナ! みんなのかたち、だいすき!」

 

「……いきなり何を言ってんだ、お前は」

 

「えへへー」

 

 近距離で致死量のソマシオ。そろそろ慣れたい頃だったが、やはり私は彼らのやり取りに弱い。ソーマに肩を貸していなかったら倒れているところだった。

 

「……なにニヤついてやがる」

 

「いや別に──うわっ」

 

 瞬間、ソーマが立ち止まったかと思うと、こっちを抱え上げてきた。

 なんと。全然余裕そうに立てるじゃないか君。酔ってたのは演技か? ……いや、なんか子供っぽく拗ねてるように見えるから、フツーに酔ってるなこの人。

 

「わ! ズルイ! アキはシオがはこぶのー!」

 

「知ったことか。取ったモン勝ちだ」

 

「その辺にしようソーマ。君、なんかすごい事を口走りそうで怖いよ?」

 

 半端にアルコールが効いているせいで、ツンデレが本音ダダ洩れ状態になっている気がする。私としては大歓迎の限りだが、素に返った時のことを思うと居たたまれない……!

 

「シオのー! シオのー!」

 

「式場はエイジスでいいか」

 

「エイジスはもう無いぜソーマ君」

 

 すたすたすた、と早足でソーマが歩き始める。その後ろを、背中をぽかぽかしながらシオ様もついてくる。なんだこの空間、平和すぎる。

 

「なら新婚旅行だ。どこか希望はあるか」

 

「……えっ……ソーマって結婚……したの……?」

 

「!! アキ、よってる!? アキもよってたか!?」

 

 酔ってない。なんか頭がふわふわしているだけだ。

 

「ソーマ……遂に、月に行くんだね……」

 

「月か……遠いな……」

 

「ふたりともねてー! シオが看病するからー!」

 

 騒がしくも世は平穏なり。

 そこに響く、慌てた天使の悲鳴も心地よかった。




神機さん
 初恋ジュースのおかわりが欲しくなった時はレン君にお使いを頼んでいる。勝手に動いている部分に関しては、整備士たちももう誰もツッコんでいない。

Eternity Blue
 FGO1部EDより。

シックザール家
 この後めっちゃ川の字で寝た。
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