転生神機使いは狩り続ける   作:時杜 境

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06 平和を奏でる

 2074年!

 ……なんでだろう、この年代の数字に凄く安心感を覚えている自分がいる。最近見ている、変な悪夢のせいかな……

 

「先日、遂に実用化に至りましたよ《ブラッドレイジ》。アレすっごい。クセになる。なんか発動したら聞き取れないカッコイイ音楽が脳内に流れてくるぐらいには」

 

 ラボラトリ──元シオ様の部屋にて。

 本日、ここには私、ユウ、ヒロ、キグルミさんが集まっていた。

 

「僕もやりたいッ……! P66偏食因子、打ち込まなきゃ……!」

 

「アリサちゃんがお揃いじゃなくなって泣いちゃうかもだから止めとけ」

 

 ユウが席に座った。

 

「やめとこ」

 

「ユウ先輩、アリサさんが絡むと途端にきっぱり決断しますよね……」

 

 そらぁ君、ヒロインだもの。しかも幼馴染だもの。

 そこで視線をブラッド副隊長へと向ける。

 

「ぶっちゃけどんな感じよ、レイジ」

 

 ブラッドレイジ──神威ヒロの《喚起》能力によって開発に踏み切られた、人類の可能性。

 

 要は一時的な覚醒状態。

 喚起率を上げて、神機の本来の力を100%解放するというものだ。

 

 通常、そんなことをしたら暴走した神機に捕食されてしまうリスクがあるが、《喚起》の血の力によって神機と対話し、思考を同期することにより、可能になった新技術である。

 

「グアアー! ってくる感じですね。全能感ヤバい。や、正直今のアラガミに対しては過剰戦力って感じですけど、たまーに出てくる強めの個体にはぶっ刺さりまくりますね。でもすぐ死んじゃうので結合崩壊の誓いはムズメって感じです」

 

 でしょうなあ。現環境、アラガミ弱体化環境だかんね。結合崩壊すら難しい、って意味が、かつてとは真逆になっている。弱すぎて結合崩壊ムズイ、っていう人類強者側の視点だ。神を喰らう者たちの世界か……これが……!

 

「……!」

 

「おっと──そうだった。そろそろ本題に入らないとなぁ」

 

 キグルミに、「まだ?」という仕草をされたので、私は懐から一枚のCDを取り出した。

 

「野郎ども──」

 

 そう口を開きながら、それを机上に提出する。

 

「演奏曲が決まったぞォォ──!!」

 

「「うおおおお──!!」」

 

 歓喜の声を上げる神薙&神威の主人公組。その横でぶんぶんと腕を振り回すキグルミさん。それ、喜びの表現なの?

 視聴スイッチオン。持ち込んだCDラジカセに音源をインして、再生ボタンを押す。

 ギターの音から始まったその一曲を、約四分間、聞き入るように集中する三人。やがて──

 

「…………めっっっちゃ良くない?」

 

「……!!!!」

 

「燃えるな……これは燃える!」

 

「アキ師匠、一体どこからこんな良曲を……」

 

「いや、実はキグルミさん発案」

 

 なるほど、と何か納得したように首肯する二大主人公。釣られて私も頷いた。

 

「ってか三人とも、本当に大丈夫? ユウはクレイドル、ヒロ君はブラッド、キグルミさんはエリックの出場チームでも兼任するんでしょ?」

 

「こっちが先約でしたし。ブラッドの方も上手くやりますよ! というか俺のスケジュールが密なのは今に始まったことじゃないです」

 

「アキ師匠こそ、いきなり僕らの目の前で倒れないでくださいね? 限界状態になったソーマ、前に見たことありましたけど、あの時はシオを見かけたら一回抱えてメンタルリセットとかしてましたから」

 

「なにそれ超見たいんだけど!!」

 

「写真ありますよ」

 

 ナイス弟子!! さっそく写真を送ってもらう。あぁ~、精神に効く。ソマシオ、やはりソマシオしか勝たない。シオ様が宇宙猫状態で抱えられているのもミソだ。こんな宗教画があっていいのか……!?

 

「カワイイ……がわいい……可愛い……うぅうぅぅぅ」

 

「なんか既に色々限界っぽい……」

 

「あの二人の事に関してはこの人はいつも大体こうだよ」

 

「……!」

 

 キグルミさんが身振り手振りで何かを伝えようとしてくる。

 ……んー。うーん。えーと……分からんっ!

 

「なんか対抗心を燃やしているみたいですね」

 

「分かるのかヒロ君」

 

「まぁ、大体」

 

 これがGE2主人公のチカラかッ! キャラクターエピソード全踏破者の名は伊達じゃねぇ! お前がGE世界式のギャルゲー主人公と言ってもいいんじゃないか!?

 

「では話を戻して──コホンッ。楽器はサカキパパのコレクションから借り受けた。他の部隊での演奏でも、全然使ってくれて構わない。楽譜もここに用意した。それでは本日、夕方からこの部屋で! 秘密の特訓開始だオラ──!!」

 

「「おおお──!」」

 

「……!!」

 

 こうしてFSDへ向けた猛特訓が開始した!

 

   ▼

 

 今日の分の練習を切り上げ、自分の部屋に帰ってくると、ギターの音が響いていた。

 ……ソファに座った旦那が、物凄く真剣な顔で練習している……彼のチームも、もう曲が決まったのか。

 

「ソーマ博士がギター弾いてる……」

 

「……ギターじゃねぇ。ベースだ」

 

 そんなことを言いつつ、本日は研究書ではなく、楽譜とにらめっこし始める学者先生だった。なんか、こういう彼の姿は見ていてとても微笑ましい。平和サイコー。

 

 ところで同居するにあたって、主に使われているのは私の部屋である。ソーマの部屋はほとんど研究室みたいな様相で、本の密林みたいな場所と化しつつある。そういうわけで二人そろって寝泊まりするのはこっちの部屋になっている。

 

「結局お前も出るのか」

 

「……なんのことカナ」

 

「サカキのおっさんから聞いたぞ」

 

 サカキパパァ! 詰められた光景がよく想像できる! そんなに私とバンド組みたかったのかい、ソーマァ!

 

「俺以外の奴とバンドを組むとはな……」

 

「……」

 

 黙秘権を行使する。サプライズ出演なのでね。

 でもちょっと申し訳ない気持ちはあるので、そーっと左横に座った。

 

「無理はするなよ」

 

「……ん」

 

 肩口にぐりぐりと頭を押し付けながら小さく返事する。

 ちらっとそこで楽譜を覗き見ると、おや、この曲は──「Over the clouds」じゃないですか!

 第一部隊とシオ様が奏でるオープニングだと……完璧か!?

 

「……なにニヤニヤしてんだ。なんか言いたい事でもあるのか?」

 

「いや特に別に何も? おほほ?」

 

 この曲のCDを持っているのは私とソーマだけのハズで? すなわち発案者といったら音楽にうるさそーな誰かさんしかいなさそうなわけで?

 

「ちっ……」

 

「舌打ちがなってないぞ博士。さぁさ、存分に練習したまえよ? 私は隣で聞いているからさ!」

 

「博士はやめろ。というかお前が傍にいて集中できるか」

 

 強引な理屈を並べて、立ち上がった演奏者はベースギターを片付けに行ってしまう。

 あらら残念、と思って見ていると、ドアにノックがあった。誰だろう?

 

「キャッ──あ、き、キグルミさん」

 

「……?」

 

 ビビッて変な声を上げてしまった。キャッて。

 いやドア開けたら、ずもーっと兎の顔面あったら誰でもびっくりするって!

 

「えーと、ご用件は……」

 

「……!」

 

 バンド関係のことだろうか? と思っていると、スッとそこで一冊の冊子を手渡されてくる。

 ……「犬猫の気持ち」……ああ、彼/彼女のキャラエピに出てきてた雑誌だ……えーと、これは?

 

「……!!」

 

 おすすめだよ! 的な動作をされて、キグルミは踵を返し、去っていった。

 ……。

 ……なんなんだよ……分からないよ……! バンド関係のことでもなかったのかよ……!

 

「『キャッ』……」

 

「忘れろください」

 

 ドアを閉めて部屋に戻ると、真顔のソーマがソファに座り直して待っていた。

 とりあえずもらった雑誌を開いてみるが、特に怪しいところは見られない。普通の雑誌である。

 な、なんだろう、この行動の意図は……提案した楽曲を採用してくれた事への感謝……? だろうか……?

 

「……ソーマ。キグルミさんについて何か知ってる……?」

 

「知らん。ターミナルになにかないのか? というか、お前が知らないのか?」

 

 前世知識のことを指して言っているのだろう──だが、それに私は緩く首を横に振ることしかできない。

 分からない……分からないんだよ、ソーマ。あのキグルミに関してだけはッ……!

 

「まぁ、神機使いの一人なんだ。どうせ親父に訊けば──」

 

「ソーマ」

 

 そっと私は雑誌をテーブルに置き、彼の両肩を掴んだ。

 

「止めておけ……『奴』への詮索だけは……止めておけッ……!!」

 

「お前から訊いたんだろうが……?」

 

「そうだけどダメだよ! あれは……なんか、触れちゃいけない類の存在なんだよ……! 実現してしまったスタッフの遊び心というか……? 接触禁忌ならぬ詮索禁忌……!」

 

 あー怖い怖い! キグルミさんに罪はないけどアレ、存在が怖いよ!

 ひとまず恐怖のどさくさに紛れて旦那の膝に座って落ち着く。我が安寧と安心、ここにあり。

 

「……最近さぁ……なんかキグルミになってる夢? 見てる気がするんだよ……別に着たい、って思ってるわけじゃないんだけどさぁ……」

 

「なんだその悪夢は……」

 

「そんでもって、昔の……三年前の、『史実』に近いソーマたちとかも見かけたんだよ」

 

「──ほお。浮気か? 若いのが好みなのか?」

 

「判定厳しくないですかッ!?!?」

 

 スーンとした目を向けられてくる! 冷たくされるよりもツライ! おかしな事は何もしてないハズデスヨッ!?!?

 

「いや……三年前といったら俺もまだまだガキか。お前に落ちたところで、口説き落とす度胸もないな。昔から訓練されていたわけでもなし。特に問題ないか」

 

「ゆるされた? 浮気にならない?」

 

「簡単に触らせるなよ」

 

「……自分に対してものすっごくソーマは厳しいんだなぁ、ってことは分かったよ……」

 

 なんか許されてないっぽいし。許容範囲外のようだ。独占欲を隠しもしねぇ。というか向こうで私はキグルミなんだから、恋に落ちる要素は絶無でしょうよ!

 

「……もし『向こう』の俺がお前になにかしたら、すぐ報告しろ」

 

「えっ」

 

「お前を傷つけるような事があれば、埋め合わせになんでもする」

 

「なんでも!?」

 

 凄い約束を取り付けられた! なんかデジャヴ! 向こうの十八歳ソーマくんにかかるプレッシャー! そんな補償システムを成立させていいんですか!?

 

「なんでも……それはまさか、『毎日ハグしてほしい』とか、そういう事もアリなんですか!?」

 

 ──すると、なんかソーマが凄まじく深い深い溜息を吐き出した。

 

「そういう事は普段から言え…………その十段階くらい上のこととか、何かないのか……」

 

「十!? ……け、結婚してください、とか……!?」

 

「もうしてるだろ」

 

「そうだった。じゃあ『ようこそクソッタレな職場へ』って言って」

 

「お前本当に他になにかねぇのか……?」

 

 なにおう!? プレイヤー全員の夢だろぉ!? この台詞を聞くには誰か一人が犠牲にならなきゃならんのだぞ! 最上位の願いに入れておいて何がおかしいッ!?

 

「……“ようこそクソッタレな職場へ”……?」

 

「そんな甘いボイスで耳元で言う台詞じゃなーい!!」

 

 両手で顔を覆う! 悪かったよ! お願いするタイミングが悪かったよ! そういうのは戦場でクールに言ってほしいやつなんだよ! シチュエーションって大事なんだなぁ!!

 

「なんなんだ。注文が多いな」

 

「……ソーマ……ソーマさん……貴方ちょっと、私を甘やかす頻度が高くない……? デレ期どころじゃないよ、甘々期なの……?」

 

「ああ。お前は徹底的に甘やかさないと、何をしでかすか分からないからな。さっさと落ちて楽になれ。誰の嫁になったのか自覚しろ。そんなだから変な夢を見るんだろ」

 

「知らないってぇ……」

 

 ……か、勝てん。敵う道筋が見当たらない。なんかいつも王手かけられてます? あー、結婚した時のことを思い出すわー。あの時も気が付いたら外堀埋まってて、まったく逃げ場がなかったよなぁぁ──……

 

「もう私のことはいいからベースの練習しなよー……ご飯作るからー……」

 

「夕飯にはまだ早いだろ」

 

「……さてはソーマ、上機嫌だな!? そういう時はなんか意地が悪い! って、これめちゃくちゃ動けないんですけど!? ちょっと!」

 

 拘束者は軽く笑い声を上げて頭を撫でてくるだけだ。なんでそんな機嫌いいの!? ぎゅっと左手の指を絡めてくるし!?

 

「せいぜい自分が夕飯になる前に作れるといいな?」

 

「こんなゴッドイーターがいてたまるか──!」

 




デレ期の嫁
 糖分過多。たすけて。

甘々期の旦那
 嫁が自分から膝に座ってきてくれてテンション上がった。
 なお嫁が同じ期に入ると致命傷を負う。
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