──2074年の極東支部は、基本的に平和だが、騒がしい時は本当に騒がしい。
『全部隊に緊急通達──! キュウビ! キュウビのオラクル反応が出現しました! 出撃する各部隊長は速やかに部隊を編成し、対処に当たってください!』
「狐狩りだぁぁああああ!!」
「待っていたぜこの時ヲよォ!!」
「火力耐久テストさせろァァァ──!!」
春風のように穏やかだったエントランスが一瞬で獄卒の溜まり場のようになる。
神機使いどころか研究者までも目の色を変え、機材や神機を持って出撃ゲートに押しかけていく様を、うわー、と私は二階のソファに座り、シオ様を膝に乗せたまま眺めていた。
「盛況だなぁ。意気込みだけで倒せる相手じゃないぞー?」
「オペレーターッ! 在庫は!!」
「贖罪の街付近に二体です!」
「在庫て」
「おー。大盛りアガリ、ダナ!」
キュウビ。レトロオラクル細胞で構成された、通称「純血のアラガミ」。
神機さんとノヴァによる永久終末捕食は、全てのアラガミを喰らい、資源に強制リサイクルするシステムだが、たまーにそれを逃れたオラクル細胞は、強力なアラガミを発生させる。
その中でもレア中のレア、キュウビの出現だ。──原作時空よりも、周回によって遥かに火力も練度も叩き上げられた極東の神機使いなら、第一部隊やクレイドル、ブラッド隊以外でも、四、五人集まれば対処できる相手である。うん、みんな、強くなりすぎじゃない……?
「こういう時ばかりは三年前ばりの士気の高さだなぁ……よっ、アキは行かないのか」
そう片手を挙げつつやってきたのはリンドウさんだった。当然ながら、別に右腕がアラガミ化なんてしていない。
「しばらくは神機さんのリンクサポートデバイスの性能データを取りたい、ってリッカちゃんに言われてるので。ソーマは?」
「ああ、さっきユウとヒロとジュリウスとロミオを捕まえて、この間、支部長を脅して作らせたっていう裏口から大はしゃぎで出撃していったぞ。顔だけはクールだったけど」
「レトロオラクル細胞ガチ勢……!」
メンバーも手筈も格が違った。おい、アラガミスレイヤー勢揃いはいっそズルだろ! ロミオ君まで連れてくガチっぷりは戦慄モノだよ!
「ユウとヒロとジュリウスはまだ分かるんだが……ロミオって、どういう血の力だったっけ?」
「《対話》っすよ。歩くオラクル停止存在。いざとなったら力づくで討伐できるぶっ壊れ野郎です」
ブラッド隊所属、ロミオ・レオーニ。
地球さん最大の天敵はコイツだと私は思っている。
オラクルの循環システムが成立したこの世界においては、彼もまた「オラクルを不活性化させる」独立終末捕食的存在だ。別に彼はアラガミを捕食するわけではないが、本気で力を発動させると、その場所では
「ロミオ、いいやつだぞー! ほわほわ~って、する!」
「彼の力、オラクル細胞とまでコミュれる、陽キャの最高峰って感じだからねぇ……」
「人類の最終兵器だなぁ」
などと平穏な会話で時間を潰しつつ、狐狩りに飛び出していった勇者たちの帰還を待ち続けた──
▼
「大収穫だ」
「ん、おかえりー。大丈夫だった?」
「ああ、なんか相手が黒かっただけだ」
「マガツキュウビじゃあん!!」
うおおおおい!? ピクニック感覚でなんてモンと遭遇して帰ってきてんだ!!
しかし流石はソーマ、大きな外傷はなさそうだ。そうひとまずホッとしていると──頭を掴まれた。
「マガツキュウビとは」
「ハッ……いや、別に、その」
「シオ」
「アキとたびしてたころ、シオおいて、ひとりでたたかったやつダナ。シオ、さびしかった……」
「いやだってアレ超強くて! 移動しながら尽きた閃光弾を合成しながら戦うってレベルのやつで!!」
「お前……あといくつ俺たちに黙って変なアラガミを狩っていやがった……」
いや別にその。
む、昔のことだから怒らんといてー……
「と、というかブラッド隊は? 連れてったんじゃないの?」
「……副隊長が四連続でブラッドレイジを使ってな。お陰で助かったが、やりすぎだとジュリウスとロミオに引きずられていったぞ」
うわぁ楽しそう。
ブラッドレイジ終了直前にメテオ使って、次のブラッドレイジ宣誓に利用して連続発動──みたいなコトでもやったんだろうか? あとソーマ、そろそろ頭を放してもらっても?
「アキも、おせっきょうタイムだなー」
「時効を主張する──!」
「ねぇよそんなの」
▼
まぁ説教といっても、二人の場合、そこまで厳しいものではないのだが。
「結果論を盾に詭弁を弄するのはやめろ。問題なのは、当時お前が一人で新種に無断で挑んだという事実だ」
「ハイ……」
「他に余罪は?」
「まいにちソーマにあいたいってゆってた」
「ほう」
「シオ様やめましょうこんなこと。公開処刑ってコトバ知ってます?」
「しらなーい!」
そっか~じゃあしょうがないか~~
しょうがないので私は部屋のソファに座ったまま顔を両手で覆うことしかできない。左にはシオ様、右側にはソーマという配置だ。我が家式の裁判方式である。たすけないでくれ。
「もういいってぇ……単騎挑戦とかいう無茶はもうしないって……」
「当たり前だ。そうさせないようにしてるからな」
「……? というと?」
「今日はリッカとリンドウとシオがいただろ」
……。
……アレ仕込みだったんですかッ!?
「ユウとブラッド隊のメンツはいつでも招集できるように手配してあるしな。お前より先に出撃して倒してしまえば、お前の出番は必然的に潰せるというわけだ」
「対策がガチすぎない!?」
あといくつ私の知らない包囲網が展開されてるんだよ!? 最近、出撃しても弱いアラガミや相性のいい相手ばっかだったのも、そういうコトか!?
「アキのこと、ニガサナイ……」
「シオ様? 私は別に逃げませんよ?」
「それだけ用心してるってことだ。籍まで入れたのに慢心一つで消えられたら堪ったものじゃない」
「私は希少種かなんかか?」
すると、じっ……と無言でソーマが見つめてくる。
思わずシオ様の方を見れば、そっちもジィ……っと眼差しを向けてきていた。
逃げ場のないプレッシャー。うーん、過去にやらかしすぎた自業自得だね!
「わ、分かったよ……無理はしないし無茶もしないよ……そんなに信用ない?」
「「ない」」
「ハハハハ、いいだろう降参だ。好きにしなさいよ、もー!」
「それに付随してなんだが」
「まだあるの……」
いいでしょう、この際とことん聞いてやりますよ。
そう半ば投げやりな覚悟を決めたところで。
「──アキ。神機使いを辞めろ」
こちらが本題だと言いたげに、そんな事を切り出された。
▼
「ゴッドイーターを辞めろ、アキ」
「まさかの引退勧告」
繰り返された言葉にゴクリと唾を呑み込む。
なんですってユー? ゲームは一日一時間とかそういう? あ、そうじゃなさそうっすね。
「いやその……流石に辞めるのは、まだ早すぎるんじゃ……」
「お前が見たという悪夢の件について、サカキのおっさんに見解を訊いてきた」
「えっ」
なんですってユー!? 若干、私は夢だと流していたコトを、いきなりこの世界の名探偵に教えちゃったんです!?
ミステリーを三行と保たせない男、ペイラー・榊! この世界では、とりあえずサカキ博士を巻き込めば話が一気に進むと相場が決まっている。極東の頭脳というか、GE世界の頭脳である!
「結論から言うと。それがただの悪夢じゃない場合、面倒な事態に巻き込まれている可能性が高い」
「どういうこと……?」
「お前は終末捕食……つまり『ノヴァ』となった神機の適合者だろ。全くの別世界──並行世界かは知らんが、
──感応現象、という単語が頭をよぎる。
「なんで、そのせかいなのー?」
「さぁな……条件があるとすれば、加賀美リョウか。そいつとお前との因縁か……同胞繋がりかもしれないな」
「同胞……因縁……」
っていうほど、ギスってるワケでもないんですが。
むしろ前回は協力したような気もする。
まぁ、夢に関して私が思い出せるのは、キグルミになってて、リョウ先輩っぽいのがいて、ラケル博士っぽいのもいて、昔っぽくて……というぐらいだ。あちこち曖昧だし、全てを覚えているわけではない。
「要は、お前の神機のせい、とも言える。だからお前が神機を手放して、ゴッドイーターとしてもう戦わなければ……そんな夢は、見なくなるかもしれない」
「……神機さんが遺憾の意を表明してるんだけど」
「なら神機の意志は介在していない、ということか」
「……」
思わずソーマの方をじーっと見つめてしまう。
「……なんだ」
「いや! 愛されてるなぁ、と思って──ちょっ」
腹いせみたいな力強さで口を塞がれた。怒りに任せてそういうことするのはどうかと! っていうかシオ様の前でするのはどうかとッ!!
「シオ、みえてないぞー」
見てる。めっちゃ見てる。顔を手の平で覆った指の隙間からばっちり見ているッ! 振り向けないけどそんな気がする! 不意打ちのディープって心臓に悪いですね! 怒りのちゅー、こえー!
「……分かったか?」
「っ……わかったよ! 充分にわかったよ!」
「ジンキツカイ、やめるのかー?」
「……うーん」
退職、か。
確かにブラッド隊がいる以上、火力面ではもう不要かもしれない。や、まだブラッドは本部所属だから、そうも言ってられないか? けどレア博士のことだし、後々、極東支部に預ける……とかはあるかもだ。
神機さんも、自己進化するという点で、持ち主がいなくても非常に有用だし。
てかリンクサポートデバイスで大活躍できるし。
「もう戦わなくていい」
ソーマの声に、顔を上げた。
「家で待ってろ。戦うのも、守るのも、俺だけでいい。……その方が、こっちとしても安心できるからな」
「く、苦労をかけてきたようだね……」
「シオとみんなが、はなれなくていいように。アキが、がんばってくれたんだよー。いんたい、さんせーい」
「……これって今、決めるべき?」
「俺たちとしては、その方が有難いんだがな」
まだ言わないか? と頭を撫でられる。シオ様も寝転がって、ぎゅーっと腰に抱きついてくる。
甘やかされているようで、その実、二人の圧は強い。言わなきゃ解放されなさそうである。
一つ、息を吐き出す。
「……前向きに検討しておくよ。ひとまず、しばらく出撃は控えるかな」
「ま……いいだろう。そうしろ」
「だきょう……ダナ」
なんかまだ、愛しい二人からの視線が痛いが。
──そんな、未来にまつわる一幕だった。
あけおめ!
1月1日、作中においては結婚記念日ですな。アキさんの設定誕生日でもある。本来の誕生日ではないかもしれないけど、とっくに幻代アキとしての誕生日にはなっているでしょうなぁ。
あ、旦那のガチっぷりは攻略過程の功罪ってことで。当然なんだよな。